順応する、仮想の世界で
夕暮れ。
このゲームを始めて3日目が終わろうとしていた。
「シノの動きも大分スムースになってきましたねー」
「ぶっ通しで連戦してれば多少はね……」
なにせガブリンからのウサギモドキなモンスターにそれに寄ってきたまた別のモンスターにと、一時は休む暇もないぐらいに戦っていた記憶がある。おかげで銃を構えてるだけじゃどうにもならないような場面も出くわしたから全身使って飛んで跳ねて殴って蹴っての大立ち回りをしていたのだ。一番ヒヤッとしたのは飛び蹴りかましてゼロ距離射撃かましたシカ系モンスターが最後っ屁に繰り出してきた後ろ蹴りが頬を掠めた時でしたねえぇ。私覚えた、ああいう四足歩行の生物の前と後ろには位置取らない。
「必死になってて意識から外してたけど、途中から私の動き普通じゃなくなってなかった?」
「あ、気づきました? 途中2~3mぐらい跳躍してたの」
「突進してきた鱗びっしりのモンスターを避ける時にジャンプしたのは覚えてるけど……そんなに跳んでたのか……」
「それで、魔力の方はどうなりました? 結構撃ってたから少しは変わったのでは?」
「いやそれは――」
上空に向けて引き金を引いて。
「最初の印象とは変わらないかも」
「まぁそう簡単には結果の出るものじゃないですよねー」
「でもあんだけ休む暇なく動いてたのに疲労感が無いのって、アドレナリン的なのが出てるから?」
銃を撃った時の疲労感のようなものは変わらないけど、身体自体に疲労はない。あんだけ酷使した足だって太ももが突っ張った感じが無ければ膝は笑ってもいない。引き金引きすぎて指とか、ところどころの生傷が熱を持って痛いというよりも痒いな感じで違和感を覚えるてることぐらいだ。
ただその疑問はアリクイ的には違ったらしい。
「でもないです。明らかにシノの身体能力は上がってますよ。ゲーム的なステータスは見れないですけど、ゲーム的な短期間の成長はあるみたいです。世界に順応してるって言い換えた方がしっくりくるかも」
「じゃあアリクイがメチャクチャな動きしてるのも?」
「そうですねー。じゃなかったら一息にガブリン4体を同時に倒すなんてこと出来ませんでしょう?」
言われてみればそうだよなぁ。いつの間にか見慣れてたけど、思い返せば非現実的な動きをしていましたねアリクイさん。
「そういう意味じゃ、私達プレイヤーには成長要素があるってことでいいのかね?」
「規格外の生命体が跳梁跋扈する世界ですからねー。ゲームなんだからそれぐらいは無いと普通に困るんですけど」
成長性がないのにお外は危険な世界だったらそりゃ絶滅しておかしくないのに、人々は自分たちの領域を確保して生きてるし交流だってしてる。つまり人外魔境に対抗可能な何かが人間にはあることの証明がこれなのかもしれない。
「トレーニングしてもこういうのが身につくのか、こうして敵を倒すと経験値みたいのが溜まってって成長するのか……なんていうのは一々確かめてたらキリないか」
「気にしたところで確証を得られないんですからー」
適当な結論に至ったところでバッグに詰まった素材たちを抱え、私達は街に戻った。




