金を稼ぎたくば戦いに備えよ
魔結晶から抽出した魔力を銃弾にパッケージ。装填。撃鉄による衝撃で魔力の放出。放出された魔力が銃身に伝達。腔線に刻まれた魔術を起動。起動した魔術によって魔弾を発射。
中折れ式の単発銃。つまりトンプソン・コンテンダーのような銃。ただし試作品であるため銃身の取り換え機能が未熟。
魔結晶と抽出機、専用の弾丸さえあれば実質無限に撃てるが、魔力の抽出時間もあるので連射には向いていない。
翌日。
問題になっていた服装も好意によって解決し、本格的に行動ができるようになった。最後の問題としては、外のモンスターや獣に対抗するための武器だ。
武器を買うとなった時、さてどこに行こうかという話になったのでハンターさんに紹介されたスミスさんのところに決定した。唯一知っている武器を取り扱っていた人だし、なにより銃を取り扱っているというのが決め手だった。
「なんじゃガキ、ここは遊び場じゃないぞ。疾く去ね」
お店に入って第一声が罵倒で心が挫けそうになった。
「あの……武器が……欲しくてですね」
「あ? もう一度言ってみろ」
「武器……欲しいです」
「カッ。金もねぇガキが玩具買ってチャンバラでもしてぇならその辺の棒きれでも振ってろ」
「うぐぅ……」
「いらっしゃいませ~。あ、昨日ハンターさんと一緒にいたお客さんですね! 何か武器をお求めで?」
その時救いの女神が舞い降りた。
「金もっとらんヤツは客じゃない」
「もー、シショーはそう言うくせにお金に興味これっぽちもないじゃないですかー! 気に入らない客には売らないしふっかけるし、銃さえ作れればそれでいいとか常々言ってるじゃないですか! それでお客さん、どんな武器がいいですか? シショーは偏屈ですけど腕は誰にも負けませんよ!」
「ちっ」
完全に追い返される空気だったのに、彼女の鶴の一声によって状況は変転した。
ここで最低限何が欲しいのかを伝えなくば、チャンスは無い。
「じゅ、銃! ハンターさんが使ってたような銃が欲しいです!!」
真っ先に思いついたのは、私の命の恩人である彼が武装していたライフル銃だった。アプレンティスちゃんの話の中からスミスさんが銃に何か思い入れがありそうなのも、咄嗟に口から出た理由なのかもしれない。
彼の目が細く結ばれる。
…………ダメ、だろうか?
「貴様に売れる銃はない」
「シショー!」
「……はい」
やっぱりダメ――
「…………が」
「「え?」」
ごとりと重い音を立てて、カウンターに置かれたのは一挺の拳銃だった。自動拳銃にも回転式拳銃にも見えない。
無駄を削ぎ落としました、と囁きかけてきそうな銃身に弾倉の類は見当たらず。まるで弾丸は銃身に込めろとでもいいたげな銃である。
これは?
「試作品として作った銃が一挺ある。そいつの実地試験をハンターの若造にでもさせようと思っとったが、貴様やってみるか?」
「それは――」
「暴発する危険性はあるな、もしかしたら引き金を引いた瞬間指が吹っ飛ぶかもしれん、はたまた儂にも予期できぬ事故が起こる可能性もあるかもな。それでもやるというのなら、今持っとる有り金全部をここに置いていけ」
「シショー、いくらなんでもそれは酷い……!」
「黙っとれバカ弟子。どうじゃ?」
銃を見て、スミスさんを見る。出来ないだろうという挑戦的な目。
「――やりますッ!」
全財産入った革袋をカウンターへと置く。どうせこのまま持っていたところで明日の食事と寝床を確保して消費してしまうのだ、こんなリスクを負えないならこの街を出たとしてもいずれ何処かで野垂れ死にする未来が待っている。なにより……そうなにより出来ないだろうという目に負けたくなかった。
「…………ふん。いいじゃろう、そいつは魔法銃だ」
「魔法……銃?」
え、この世界って……魔法とかそういうのあるの? いやいや、でもモンスターとかいるんだから、あってもおかしくはないのか……あ、そういえば最初に倒したモンスターから手に入れたあの結晶の用途、売る以外知らないまま持ってる……
「当初は魔結晶を砕いて魔力を推進剤とした弾丸を作ってみたが、結晶それぞれで品質が変化することと一発打ち込んだ時点で余剰魔力が逆流して暴発した。で、アプローチを変えた試作品がこいつだ」
そういってスミスさんは銃を手に取ると、指を掛けるためのデザインが施されたトリガーガードを手前に引いた。すると銃身が中折れし、一発銃弾を取り出した。
「弾頭がない?」
いや弾頭がないというよりは、ショットシェルのような形状をしているというのが適当か? 9ミリパラベラム弾薬莢の。
「カカッ。そうじゃ、そもそも通常の弾薬同等に魔結晶を火薬として扱おうとしたのが間違いじゃった。魔結晶を撃鉄による衝撃で励起させ、発生した魔力に指向性を持たせて弾頭を飛ばすつもりじゃったが先も述べたように弾頭に衝突した際の余剰エネルギーが逆流して暴発することを避けれんかった。そこでこれじゃ。銃身の腔線に魔術を仕込み、魔結晶から抽出した魔力を銃弾に封緘する。あとは撃鉄の衝撃で銃弾内の魔力を励起させ腔線に伝達、魔術の発動によって魔弾を撃つ。というのがコイツじゃ」
「なるほど……」
わから……なくはなかった。ホントダヨ。
先程までとは打って変わって、スミスさんが嬉々として喋ってくれるのは良いのだけれど、魔法とか魔術とか突然ぶっ込まれた情報を知ってる前提で話してくる。とりあえず、銃自体が弾を生み出し、銃弾は魔弾を生み出すための燃料、というのを覚えておけば大丈夫そう……だよね?
「こいつは魔結晶から魔力を抽出する道具、そしてこいつが抽出した魔力を銃弾に封緘する道具、そしてこいつが弾だ。抽出する際に使う魔結晶は一つずつだ。弾に魔力が十分溜まれば漏れた魔力が発光するからそれを目安にしろ。発射できるのは一発限りだから充填しろ」
「わかりました」
魔法銃を使うために必要なセットと、ついでのようにヒップホルスターと弾帯を渡された。
「ある程度使ったら報告にこい。無論、粗末な報告しか出来ないなら来るなよ」
「善処します……」
全財産を叩き、私は武器を入手(仮)した。
今じゃロマンを銃に!




