六日六時―悪漢退散今日は解散―
「なぁんだぁ~~てめぇ~?」
月光の下に、一人の影が差す。そのシルエットは女性であったが、いまの私にとってはそれが男性であろうと女性であろうと関係なかった。
男に掴まれていた手の捻れが緩み、押し付けられて苦しかった肺が空気を取り込もうと激しく動く。
その間にも多分助けに来てくれた誰かの声は続く。
「ふっ……通りすがりの正義のみか――」
「しゃらくせぇ!!」
ぱっと手首に掛かっていた力が消え、開放されたと同時に膝が崩れ落ちる。
「――たぁ!? ちょっとちょっと、人が前口上述べてる最中に攻撃するとかお約束違反でしょう!?」
「あ~~~? ねこもしゃくしもおためもごかしもあぶもはちも関係ねぇ~~んだよォ!!」
「うぉっとぉ、かぁーッこれだから酔っ払いってやつは嫌われるんですよ、女の子口説くんならもっとやり方ってもんがあるでしょうが! 酒に身を委ねた人間の末路は決まってるんですよ、覚悟の準備は出来てるんでしょうね!?」
どうやら二人は争っている。自分の体を掻き抱きながら声のする方向を見れば、入れ替わり立ち替わりを繰り返す二人の姿。
「覚悟っていうのは準備するもんじゃねぇ~! してるものなんだよぉ~!!」
「酔っぱらいの分際でよく言いました! 3/4殺しで手打ちにしてあげます!!」
「や~れるもんなら~、やってみろぉ~~~い!!!」
彼らが何を言っているのかほとんど理解できない中、腰が抜けて動けない私はただその光景を眺め、願わくば男じゃなくて助けに来てくれた人のほうが勝ってくれますようにと祈ることしかできなかった。
「あたしの勝ち!」
「や……やるじゃねぇか……」
そこには仁王立ちをして勝ち誇る女性と、仰向けに倒れ込む男の姿。
争いを制したのは彼女の方のようだ。
「体動かしてお酒も抜けたでしょー、反省しましたか?」
「そ、そりゃ……まぁ悪かったよ……」
「だったら……わかってますよね?」
「あー……。くそ。…………嬢ちゃん」
「うっ」
むくりと立ち上がった男が傍まで来て、私の目の前に座り込んだ。顔が影になって見えなくて、私はこの人に抵抗できないとわかっているから、反射的に身が竦んでしまう。
何をされるのかと、助けを乞う目を女性に向けるが、女性は何もせずただこちらを眺めているだけ。
でも、のされたこの男がゆっくりとここに来るまでに時間はあって、それを彼女が止めなかったってことは何か理由がある……筈?
「な、なんでしょうか?」
だから、出来る限りの勇気を掻き集めて言葉を絞り出す。
そうして目の前に座る男性は――
「すまんかった!!!」
「え?」
頭を大きく下げた。
あまりの出来事にどうしたらいいんだと、男と女性を交互に見てしまう。
「酒に酔っていたとはいえ、不快なことをしたのは確かだ。謝ったりどうこうじゃ償いにはならねぇかもしれないが……せめてもの詫びだ、受け取ってくれ」
男が懐から革袋を取り出し、それを私の傍に置く。金属同士がぶつかり合う音はそれなりに聞き慣れたもので、つまりそれがお金であろうことは想像に難くなかった。
「オレぁここで失礼する。あんましここにいると嬢ちゃんに悪い。本当に……悪かった」
そう言って、男は去っていってしまった。さっきまでとはぜんぜん違う雰囲気で、怯えていたことに拍子抜けして舞うぐらいには。
「大丈夫ですか?」
「あ……」
「いやー、良かったですね、こんな時にあたしがここにいて! 感謝してくれてもいいんですよ?」
「本当に……助かりました。あのままだったら、どうなってたか……」
「まぁ○されたんじゃないですかね?」
「あっさり言いますね……」
「純然たる事実を濁しても意味が無いですからね、それより立てます? 腰が抜けてるように見えましたけど?」
「もうちょっと掛かりそうです……」
「では手を差し伸べたよしみとして、立てるようになるまでは付き添いますよ。星見にはいい天気ですし、退屈はしないでしょう」
「ありがとうございます」
いえいえ、と述べた彼女は私の隣に座り込み、壁にもたれかかる。
「それで、どうしてこんな時間に武器も持たずふらふらしてたんです? ちょっと血臭いですけど、それってアバターが着ていた初期服でしょう。初日組でそんな格好で生き延びられる人がそうそういるとは考えられませんし、2日目勢ですよね?」
「はい。ってことは貴女も?」
冷静に考えてみれば、アバターとか初日組とか言ってるんだから、そうとしか考えられないんだけど、言質を取りたくなるのは人の性か。
夜の明かりでほとんど表情を読み取れなくても、その瞬間に彼女が満面の笑みを浮かべたのことはわかった。
「そうです! いやー、確認した限りだと街近くにスポーンしたプレイヤーはあたし含めて10名ぐらいいたんですけど、初日の6,6タイム逃した半分ぐらいの人たちが餓死で死んじゃったんですよねー! それで2、3の人は日銭稼ぎに森に行ったっきり帰ってきてないので、「獣かモンスターにでもヤラれたんじゃない?」っていう共通認識で仲間……といえるかわかんないですけどプレイヤー少なくなっちゃって寂しかったんですよー。でも良かったです、フェーズ1には後発組の人もいるっていうのがわかって。最初の時点で減るだけ減っちゃったらただの一人シミューレーションゲームになっちゃいますからねー」
なんか物騒な単語が混じっていた気もするけどスルーして。
「結局その6,6タイムっていうのは、本当にこのゲーム内で6日6時間過ごすってことなんですか?」
「ええそうです。あでも安心してください、ログアウト直前に眠くてもログアウトした時には眠気吹っ飛ぶんで、最終日は多少の無茶出来ますよ。まぁそうなると6時前までに起きてないと6時超えた時点で時間の流れが現実時間に戻されるんで、ログアウトのタイミングは気を付けたほうがいいかもですね」
「そういえば貴女……えっと……私、シノっていうんですけどアバターネームは……?」
「アリクイクイナイアです。アリクイでいいですよ、勢いでつけた名前なんで。敬称も入りませんからね、現実どうこうなんてここじゃ無意味なんですから」
「じゃあ遠慮なく。アリクイは初日組……ゲーム発売日に始めた人だとして、この世界だと1週間は過ごしてるんだよね? 服装……私の着ているものじゃないし、さっき日銭を稼ぐために森に行った人がいたって聞いたけど、アリクイはどうやってお金を?」
「良い質問ですね、ゲームだからと勘違いしがちなんですけど、この世界でお金を稼ぐ手段はモンスターの結晶や獣の素材を売る以外にも当然あります。わかりやすく言えばバイトですねバイト。飲食店でも何でも良いですけど、適当なお店で「仕事はないですかー?」って聞いたら即採用不採用されて適当に働いて俸給を戴くって感じです。同じ店でも貰える俸給が違う時があったので、もしかしたら貰える金額に条件があるかも、とは思ってますよ。あたしはそれで宿代とか服を買って余裕が出てきたら防具と武器を買いました。シノはこの街のお店は知ってるんですか? あ、宿とかちゃんととれてますか、ログアウト時にまともな個室でログアウトしないと魂抜けたみたいにぶっ倒れるらしいですから何されても文句は言えなくなっちゃいますよ?」
「街のお店に関してはいくつか知ってるから大丈夫だと思う。二日後には服が出来るらしくて、それを受け取ろうと思ってる。あと宿も泊まってて……実は夕食を食べた時にお酒飲んで、その、酔って眠っちゃって……気づいたらこんな時間に……」
どうしてこうなったのかということを思い出し、自分で言っていて恥ずかしくなってきた。うーんこの。
「あー、あたしはゲーム内で眠ったらどうなるんだろなーとか思って寝たらわかったことだったので、経緯は近し……くはないですけど結果は似たような感じでしたね。宿も確保できてて明後日には服が手に入るんでしたら、今日はどうするんですか? 怪我の功名であの酔っぱらいの人からお金は貰ってますから大分余裕はありそうですけど」
「それは……んー」
改めて考えると、このゲームって目的が無い。一応生きるというのが目的なところはあるけど、それは前提条件みたいなものだ。まず私がすべき事は生活の基盤を整えることだとは思うけど……
「でしたら! 今日のところはお互いに宿に戻って休みましょう。それで、明日一緒に行動しませんか? 場所は街の中央広場……ってわかりますか? そこに! 時間は……結構夜遅いですし、お昼頃にでも!」
「特になにかする訳でも無かったので、はい。お願いします」
「はい!」
そうして明日の予定が決まった頃には私の抜けていた腰も治っていて、私達はまた明日と言って分かれたのだった。
キャラ崩壊なんて知ったこっちゃねぇ! というか人間なんてブレブレのブレなんだから一人称なんて秒で変化するし人それぞれに対応は変わるんだからいいんだよ! って思い始めたらテンションが上がって文章量がかさ増しすしていく現象。最初は1000文字前後で進めようと思ってたんですがががが……




