悪い人じゃないのは知っている。知っているが……
「時間切れ。惜しかったのう」
結論から述べるとダメでした。
「じ、実質相打ちのようなものだから……」
「まぁ確かに、最後の一発は狙撃手の眉間を逸れて銃を破損。互いに攻め手無く決着つかず。間違ってはいないな」
そう、最後の一発は創作物の中のようにお互いに撃った弾丸が交差して相手は死に、主人公はわずかにズレて当たらないなんてことは無く。私がいると分かっている筈なのにひたすら大通りの方に構えていた狙撃手への狙撃は相手の脳髄に穴開けること叶わず銃を粉砕し、手傷は負わせたものの死ななかったためにミッション失敗という形で幕を下ろした。
「いやそもそもお祖父ちゃん、最後の狙撃距離おかしいでしょ。何あれ見てみたら983.11mって、ほぼキロだったけど。逆に当てたことに驚いたわ」
「いずれは2000でも当てれるようにならんとな」
「聞いちゃいないなこの人……」
「お疲れ様でしたーセンパイ!」
「そしてどうしてここにいるんですか、部長?」
「最後は惜しかったですねー。あれ無風なら狙撃成功してたみたいですから、実質勝ちですよ」
「そしてどうやってリザルトを見たんですか?」
一応射撃練習におけるリザルトデータでも閲覧権限がある。とはいえ監視官であるお祖父ちゃんには閲覧義務があるが、それ以外は私が許可を出さないと身内以外に閲覧する権利すら無いんだけど。
「え? えー、だってそこにリザルト表示したままじゃないですかー。それじゃあ見てくれと言わんばりですよ」
「本来この場には私とお祖父ちゃんしかいないから他者がいることを想定しないんだよなぁ」
そもそもいつの間に入ってきたんだ、この人。それに私だってリザルトで確認したのは最後の弾道距離まで。弾道計算に関してはもう少し深く漁らないと出てこない情報なのに。
「ちなみにさっきの冗談です」
「は?」
「同じ学部に所属している部活の部長は部員の練習記録を閲覧する権限があるんですよ。その一つにリザルトも含まれてるので。あたしが来たのは本当に今ほどです」
「……そうですか」
「AR射撃は課題成功時の得点が難易度によって変動はしますがそれでも全体の1割得点になってます。今回のリザルトを鑑みるとセンパイはその1割を逃したことになりますが……やっぱりセンパイ、大会出てみません?」
「それは何度も断ってます」
「悪目立ちは嫌、と」
「………………」
立場上、この人――天理フレデリカという少女は私にとって二つ上の先輩であり、部長という2重の意味で目上の人にあたる。だがそれでも、実年齢は私の一つ下であり、頭脳明晰なのに相手の心境を慮る心得がないのかはたまたわざとなのか、彼女は平然として人の立ち入ってほしくないところに踏み入ってくることが多々ある。
口にこそ出さないが、私はそれが嫌いだ。
だから正直あまり接したくないのだけど……
「そうですね、部活動にはちゃんと出ていてくれますし、大会への出場は義務でも強制でもありません。それに天岩戸でどんなに好成績を出したところで所詮はアングラな情報です、それが表に出ることはありませんからね。技術を競うのが競技の本質なので大会は開催されますが、まーほとんど自分の成果を公式に残すのを手段としている生徒が多いのは否めませんので。何度も何度も意思確認をさせてしまってすいません、センパイ」
部長としての責務ですので、と言外に伝えられた気がした。
結局の所部活に出ていないとこの部長は相手に直接訪問してくるらしい。私はそれをされたことはないけれど、他の部員がぼやいているのを聞いており、そしてその情報が正しく部内全体に広まっていた。そしてそれを避けたい部員や関係ない部員は継続的に部活に参加し、できない部員は去っていく。それが今の部になっている。
私の場合、部活動に参加をすれば何故か毎度毎度絡まれるので、不参加で更に部長に絡まれるのだけは避けたいという気持ちが無いわけではないのが現状だ。あと出なければ出ないで段々お祖父ちゃんの肩が落ちていくのもあるけど……
「今日はもう上がりですか?」
「一通りの練習は終わったので上がります。このまま続けても練習が捗る感触もないですし」
言ってることに偽りはない。ただ身の入らない練習をするよりもゲームしたいなーとかそう思ってるだけです。
「わかりましたー。ゲーム楽しんできてくださいねー」
「ええはい」
そう言って部長は去っていった。
「…………あれ?」
狙撃は距離と環境でその難易度が大きく変化する。数十m先の的にだってブレは起こり、百発百中とはいかない。それが数百m先ともなればどれだけブレるかというのは想像するに難くないだろう。逆に百発百中できる居眠り得意で喧嘩クソ雑魚メガネ特技はあやとりと射撃とかいう小学生がヤバイ。
あとヒロインとか言いながらヒロインムーブしてないどころか主人公に嫌われてますが一応ヒロイン?です。彼女の主人公に対する好感度“は”高いんです……逆がマイナスなだけで……。ま詰まるところ主人公が攻略される側ってことですね……ヒロインじゃんヒロインなんだよ。