あの日から、ずっと ・3
少し短いです。
朝市からやや離れた場所にある南方兵部詰所にゴロツキ達を放り込み、もとい引き渡しを終えてから。
「またお前らか」とばかりに達観した様子で見てくる周囲をよそに用は済ませたとばかりに背を向けて出てくるフロウを入り口で待っていた私はその後、仮住まいの家へ向けて歩いていた。
その道中。
「待ち合わせ場所にいないと思えば……身を守りながらでも俺を喚ぶことは出来ただろう。なぜ何もしない」
「朝ごはんのことで頭がいっぱ、ごめんなさい。何でもありません」
「アマネ」
「はぃぃ」
真顔なのに、気配が、冷たい。
私は何も言わなかった。うん。
冷や汗ダラダラの私を見ていたフロウは小さくため息をつく。
「間に合ったから良いが、もし次に同じようなことが起きたなら暫く一人での外出はなしにする」
「面目次第もございません」
「慣れたと思い始めた頃が一番危険だ、用心は怠るな」
あれからというもの。怪我はないか、酷い目に遭っていないか(むしろあの三人の方が酷い目に……)と上から下まで目視でじっくり確認されたあと、何故あの場に居たのかなど事に至るまでの経緯を洗いざらい話させられた私は、ひたすら平謝りしていた。少々過保護と思えなくはない言動だったけど、私が迂闊であるのも事実でフロウの言うとおりだった。
彼からすれば、私はまだ何も知らない子供と同じなのだから。
反省、迷子には気をつけます。
「そういえば、さ。そろそろ一年になるんだよね」
「?……ああ」
「そっか、そう。……もう、一年なんだ」
なんとなく。他に理由はない、多分。
少しの沈黙のあと、周りが樹木ばかりの道を歩きながら何でもいいから話をしていたくて口をついて出たのは脈絡もないこと。主語のない話、でも彼には言いたいことが何かわかっている様子だった。
けれど、私が黙ってしまったからそれもすぐに終わってしまう。
ある一点を見続けていた私の、ふいに何かが胸の奥を掠めていく。
私の様子が変なことを感じたのか、フロウが後ろからそっと抱きしめて見つめてくる。
大抵は落ち込んだり、悲しいことがあったり、苦しいことがあった時など。隠していてもどういうわけか彼には「なんとなく」分かってしまうらしく、私の中ではもはや恒例と化してしまっている。
少し、いやかなり恥ずかしいけれど、同時に嬉しくもあった。
最初は引き寄せられる度に驚いて顔を赤くしていたこれも、今では側にある温もりに安らぎを感じるようになっている。
ただ多少の免疫は付いたと思うけど、家族や友達でも誰かとこんな近くで触れ合うことはほとんど無かったからまだ照れくさい。恐らく、最後まで私が慣れる日はきっと来ないのだろうと思う。
強く、優しく包んでくれるフロウの手にそっと手を重ねて目を閉じながら思い出す。
今居るのは人里から離れた森の中。
私はここで一人、倒れているところをフロウに発見された。
彼とはそれ以来、ずっと行動を一緒にしている。
この日からちょうど、一年前の夜。
日本から遠く、遠く離れたこの異世界へ跳ばされたあの日のことは、今でも鮮明に残っていた。