あの日から、ずっと ・2
本日、2話目の投稿です。
「やけに諦めんのが早ぇじゃねえか。そうそ、大人しくしてりゃ何もしねえよ。多分、な」
どうやらさっきの、ほんの微かなため息が聞こえたらしく私が諦めたものと勘違いしているらしい。
失礼な。
多少の運の無さを嘆きはしても、諦めた訳じゃないのに。
「そんな訳ないでしょう」
「何?」
「いえ、何も。申し訳ないけれど、これから行かなければいけない所があるので戻らせていただきますね。では、これで」
「なっ。こ、のガキ、バカにしてんのか、待ちやがれ!」
ぽつりと呟いた私に、怪訝な顔のゴロツキA(仮)が足を止める。
一応、身長は百六十センチはあるし、二十歳を超えた(形式上は)大人の私のことを"ガキ"だとか"高く売れそう"とか失礼極まりない事を発言してくれたような気がするけど、聞かなかったことにして穏便に挨拶をしてから背を向けて歩き始めれば、ゴロツキAの振りかぶる拳が私をめがけて降ろされようとしているのが見えた。
このまま避けなければ、私は殴られるだろう。
けれど。
ーーガァンッ
「なに!結界だとっ」
ゴロツキの拳は何もない空間に現れた透明な障壁によって防がれ、私に届くことはなかった。
それが何か分かったのか、余裕だったAの表情が変わっていく。
「舐めやがって、この!」
「まぁ、落ちつけ落ちつけ。結界を発動できるからといって所詮ガキの張るものだ。壊しちまえば問題ねぇ、よっ!!」
元々短気なのか、すぐに顔を真っ赤にして声を荒げるAに対して、BとCの二人はまだ余裕みたいだ。
それぞれが抜き出した、朝の光を映すその刃はとても鋭くて、当たったらタダではすまないというのは私でも分かる。……結界が壊されれば、の話ではあるけれど。
どうしようかな……そう思った瞬間、どこからともなく一陣の風が吹き抜けた。その時にほんの一瞬だけ見えた碧の髪と暁の空色の瞳に私は安堵する。彼が来てくれただけで、まだ何も変わっていないのにもう大丈夫だ、そう思えたのは風を纏った彼が簡単に負けることはないと分かっているから。
ただし、私を傷つけようとする者がいた場合、相手には容赦しないことも。
グイッと引き寄せるその腕の強さと暖かさに知らず笑みを零していた私は、直後に聞こえた悲鳴に目を見開く。
「うわぁっ、血、俺の腕から血が!」
「な、何だコイツいきなり……ぐあっ」
「痛ってぇ!!」
顔を向ければゴロツキBとCの腕が鋭く切り裂かれ、痛みに驚いたのかナイフを取り落としているところだった。横にいたAも吹き飛ばされて体をくの字に折って壁に激突する。三人はふらつきながら立ち上がるけど、それが限界みたいだった。
突然、不思議な風に翻弄され混乱しているゴロツキ達はもう動けないだろう。いつの間にか私を守るように前に立っていた彼に攻撃をやめるように伝える。
「フロウ、駄目だよ。それ以上は、ダメ」
「何故?」
「何故もなにも私は無事だよ、何ともない。だから、ね?」
右手を構えながら今にも風を放ちそうなその腕をそっと抑え、私より頭一つ分は高い彼の瞳を見て言えば少しの沈黙のあと、まぶたをゆっくりと閉じて腕を下ろそうとする。
納得してくれたのか、とほっとしたのも束の間のこと。
風の塊が再び三人を襲う。
「フロウ!!」
「気絶させただけだ。意識があるままでは兵団の詰め所まで連れて行くのも骨だろう」
私の抗議に淡々と返すと、彼はどこかから持ってきたロープで気絶した三人を次々に縛りあげていく。ついでにナイフも回収。
えっ、ちょっと……置いてけぼり?
流れるように作業を終え、ゴロツキを肩と両脇に抱えたフロウの「行くぞ、アマネ」という私を呼ぶ声に慌てて彼の背を追うのだった。