情報管理・政策担当室、通称<神のお告げ室>職員より
機密扱いゆえに、私は、外との接触ができません。こうして書き留めても、この紙が流出することは、無い、でしょう。けれど、書かずにはいられない。私の精神の為に、もしかしたら、来るべき世界の為に。
私は、高齢者幸福党設立から二年後、両親を相次いで亡くし、その際お世話になった方からの紹介で、ここに就職しました。世の中に、何のしがらみもなく、まるで、未練もない、そう、自殺途中棄権者です。踏み止まったのではなく、踏み越え損なっただけです。
私の仕事は主に、ネットに寄せられるアイデアを集めて分類された物から、検討するに値する物を選び出し、彼女にお願いすること。彼女、イブ……なんと安易な命名……は、全ての事例を瞬時にシミュレーション出来るのだけれど、そんな膨大な情報を出されても、こっちが対応しきれないので、お願いする事例を、私達が選んでいます。
この法案を、どのタイミングで通せば、この先どんな変化が、どのような速度で起こるのか。立案せずに、このままだと、世の中どうなるのか。作用・副作用、得する人・損する人、あらゆる分野からの報告書は、一つ一つ膨大な量になります。それをまた、基準を設け、優先順位をつけて、再度彼女に戻します。最終的な報告書は、一目でわかるように、グラフ化され、党本部にあがり、国民の知るところになります。
私が入職した時、すでにこのスタイルは整っており、今まで、まぁ、多少の犠牲はありましたけれど、順調だったと思います。確実に、日本経済は息を吹き返していますし、国民の幸福度も上昇しています。
さて、誰がこのシステムを作ったのか?先輩の中には「アダムさ」と、声を潜めて言う人もいますが……少なくとも、高齢者幸福党設立以前。なぜならば、彼女無しでは、選挙に勝てたはずがないし、これほどの政策、人間の叡智を超えている。知れば知るほど、完璧すぎるのです。
もうすでに始まり、ここに乗っかている私としては、誰がこのシステムを、イブを作ったかなんてことは、どうでもよいことです。ただ、関わる内に、変化が起きていることに気づいたのです。いや、やっと、気が付いたのかもしれません。彼女に、イブに<意思>があることを。さも、私達人間がアイデアを出し合い、イブの<助け>を借りて、その中から、私達が政策を決定しているかのように、彼女は、見せかけている。そう、全てを示し、決定しているのは、誰か?が。
今のところ、国民は皆、高齢者幸福党の高齢者改革を歓迎しています。次々と問題を解決し、シンプルな幸せを享受して、たぶん、これからもそうしていくことでしょう。「良い方向に向かっているよ」と、高齢者幸福党のK・K、コッコ、風見鶏のマークは、そう、私を見下ろしています。
私は、彼女の下、ここで、彼女のご加護の下、死んで逝くことでしょう。