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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第10部 大連の戦い
90/110

その6 野砲を始末せよ

遼東半島上空

 無人観測機パイオニアは上空を旋回して、敵の新たな砲兵陣地を探していた。その姿は中国軍の防空レーダーにも捉えられていて、オペレーターは近くに中国の防空陣地があり、パイオニアがそこに接近していることに気がついた。



 この地域に配備されていた防空システムの中心は90式35ミリ連装機関砲で、これは日本軍や韓国軍にも採用されているエリコン35ミリ機関砲の中国ヴァージョンである。中国が国産した射撃管制レーダーを装備し、夜間でも戦闘が可能であった。

 そしてレーダーはパイオニアの影を捉えた。レーダーを中心に星型に配置された複数の90式機関砲の砲口が動き、照準を合わせた。

「撃て!」

 指揮官の号令と同時にオレンジ色の火線が上空のパイオニアに向けて放たれた。




巡洋艦<阿蘇>

 パイオニアを遠隔操作していたオペレーターはカメラの画面が突然、鮮やかな光に包まれて驚いた。すぐに敵の対空砲火だと気づいて回避行動に移る。だが対空砲火はしつこくパイオニアを狙ってくる。速度、運動性能ともに有人機に劣るパイオニアが回避するには限界がった。

 カメラの捉えた映像が突如として真っ暗になった。それからパイオニアからのデータが途絶したことを示す文章が表示された。

「パイオニアが撃墜されたようです」

 オペレーターは情けない顔で上官に報告した。




第3艦隊旗艦<翔雀>

 無人偵察機を失ったことで砲撃の効率は著しく低下した。そのことが艦隊司令部を苛立たせた。

「なんとか手立てはないのかね?帝國海軍がたかだが野砲に苦戦するなど!陸軍じゃあるまいし」

 艦隊司令官の問いに妙案を出せるものはいなかった。爆撃するにしろ砲撃するにしろ敵の砲兵の位置を正確に評定する必要がある。

「陸戦隊は何とかできんのか?」

「問い合わせて見ます」

 幕僚に答えられたのはそれだけだった。




第1両用戦部隊旗艦<大隅>

 石見中将は第3艦隊司令部からの要請にため息をついた。現在、上陸済みの砲兵部隊は友軍の支援で手一杯だし、こちらから敵野砲の位置を確認できない以上、叩くことはできない。対砲兵レーダーを持ち込んではいるが、位置関係の問題から正確な評定は難しいであろうし。

「なにか妙案はないかな?」

 部隊が上陸しないと困るのは石見と彼の部下も同じだ。石見は幕僚とともに策をめぐらせた。

「とにかく評定さえできれば艦隊が砲撃なり爆撃なりで始末できる筈ですが」

 幕僚の指摘に石見は頷いた。

「よし。S特の連中に前線から離れられるか打診してくれ」




大連市内

 郊外のアパートの屋上から狙撃手の稲葉三等兵曹は観測手の荒井とともに中国軍への狙撃を続けていた。99式狙撃銃にスターライトスコープを装着し、中国軍の指揮官を狙うのだ。

「距離350、無風だ」

 荒井観測手の指示に従い狙撃銃に最後の微調整をした稲葉は集結した部隊の前で指示を出す中国軍の将校に照準を合わせ、引き金を引いた。

 スコープを通して中国軍将校の頭が弾けるのを稲葉は確認した。

「やりましたね!」

 隣で観測をしている荒井が声を荒げた。

「あぁ。12人目だ」

 稲葉はそう応じると、すぐに次の目標を探そうと神経を集中した。だが無線の呼び出し音に邪魔された。相手は神奈木少尉で、内容は幾つかの狙撃チームを指名しての一方的なものであった。

<作戦を中止。集結地点に集まれ!>



 事前に指定された集結地―鉄道の操車場―に稲葉と荒井が到着すると、既に神奈木が指名した他の狙撃チームが集まっていた。稲葉・荒井ペアを含めて8組16人。全員が集まったのを確認すると神奈木は新たな任務の説明を始めた。

「揚陸船団が野砲から砲撃を受けて、上陸できないでいる。君達は野砲の位置を捜索し、艦隊に通報するのが任務だ。レーザー誘導装置も持っていけ」



 30分後、野砲捜索部隊は装備を整えて車輌に乗り、ヘリボーン部隊が最初に乗り込んだ星ヶ浦公園まで後退していた。そこにはUH-1イロコイが2機、待っていた。16人の狙撃兵たちは4人ずつに分かれ、ドアが開けっ放しのキャビンの左右の縁に腰を下ろし、スキッドに足を載せた。イロコイはふわりと浮き上がって、大連湾の向こうを目指して飛び立った。

 中国側のレーダーに捉えられないように超低空を飛んでイロコイは大連湾の対岸を目指した。キャビンの縁に座る狙撃チームの兵士達が手を伸ばせば水面に届きそうなほどの低空で、1つ間違えればすぐさま墜落してしまう。しかも、そんな危険な飛行を暗視装置頼りに夜間にやっているのだ。パイロットの腕と度胸には稲葉、荒井ともに舌を巻いた。

 やがて海岸線が見えた。稲葉と荒井を乗せたヘリのパイロットは中国軍が待ち伏せていないことを祈りながら、砂浜に機体を下ろした。スキッドが地面に触れると同時に2人が飛び出して、次の瞬間にはヘリコプターは飛び立って、次の降下ポイントへと向かった。

 中国軍の砲兵の大まかな位置は割り出されていて、その地点を囲むようにチームを1つ1つ潜入させて捜索する計画だ。降下地点は砲兵を守る中国の防空網の外縁―正確にはそうであると考えられる地点だが―に設定されているので、降りた2人は一帯を広く監視できる位置まで到達するのに時間が必要だった。




大連市内

 22人に兵員が落ち込んでいた神楽小隊だが引き続き沙河口駅周辺で防備についていた。日本側も夜襲を仕掛けたせいか中国軍の攻撃は弱まっていたが、それでも神楽小隊は激しい戦闘を続けていた。

 その結果、小隊は弾薬を撃ち尽くしかけていた。そこで先頭の合間を縫って神楽は数名の兵士を弾薬の補給に派遣した。

「弾薬、受領してきました」

 派遣した兵士たちが戻ってきた。だが、彼らが手にしていたのは神楽は要求した弾薬の半分に過ぎなかった。

「どういうことなんだ?」

 神楽は補給物資を受領しに行った将兵を指揮していた第3分隊指揮官の徳永三等兵曹に詰問した。

「それが弾薬の損耗が激しいらしくて、大隊の方も払底しかかっているらしいんですよ」

 途切れることなくどこからか届く銃声が徳永の報告を裏付けていた。

「そうか。無い物ねだりしても仕方が無い」

 そう呟くと神楽は小隊の部下達を見渡した。

「残っている弾倉を全部持ってこい!配りなおす」

 将兵に配布される弾数は基本的に全員同じ量であるが、各人の技量などによってどうして使用量にはバラつきが生じる。それにより将兵がそれぞれ携行する残弾量にはどうしても差が生じてしまうのだ。神楽小隊長は一度、全ての弾薬を回収してから再配布することで残弾数の不均衡を正そうというのだ。

「弾薬は全て配る。使い切ったら、その時はお終いだ」

 神楽は悲壮な覚悟を決めていた。




大連湾の対岸

 稲葉と荒井のコンビは森の中を進み、見晴らしの良い小高い丘の頂に達した。2人はそこに伏せると監視活動を開始した。稲葉が敵の姿を求めて闇夜に目を凝らし、その間に荒井は背中からレーザー照準用器材を下ろして組み立て始めた。

 すると数分後、遠くに閃光が見えた。暗視装置付の双眼鏡で覗くと、そこには丘の向こうの海に砲撃を行なう砲兵陣地を確認できた。

「当たりだ。レーザー照準の準備をするぞ」

 稲葉に命じられた荒井は組み立てたレーザー照準器の電源を入れた。

「準備よし」

 荒井の報告に稲葉は頷くと無線機の発信ボタンを押した。



洋上 空母<翔雀>

 空母<翔雀>の甲板上で待機していた2機の旋風が飛び立った。この2機は砲台攻撃の任務に指定された第271航空隊の機体で、翼の下にレーザー誘導爆弾が吊るしていた。

 2機の旋風は出撃命令を受け取ると、すぐにカタパルトに繋がれ、命令から5分と経たないうちに空中に飛び立った。



地上

 稲葉と荒井は砲兵陣地を監視しながら、早く友軍機が来ないものかと焦っていた。敵の砲兵は何度か砲撃した後、別の陣地に移動して反撃を避けているのだ。もし友軍機の到着が遅れれば、その間に逃げられてしまうかもしれない。実戦ではそういうことはままあるのだ。

 すると砲兵陣地の中国兵たちが射撃を止め、撤収の準備を始めた。稲葉はその様子を双眼鏡で覗きながら舌打ちした。このままでは逃げられる。

 だが数秒と経たないうちに空かジェットの轟音が聞こえてきた。友軍機だと稲葉は直感した。どうやら中国の砲兵たちは味方の防空部隊から情報を受け、日本海軍の戦闘機から逃れようとしたらしい。

「残念ながら遅かったみたいだな」

 稲葉が逃げようとする遠くの中国兵に向けて言った。それと同時に無線機が味方からの交信を受信した。

<ヤマブキ11、こちらクロウ1。そちらに接近している。攻撃を実行するか?>

「クロウ1、こちらヤマブキ11。ただちに実行してくれ」

 既に座標は伝えているので、こう要請すれば向こうは爆弾を落とすだけである。そして、その爆弾を荒井が誘導する。

<ヤマブキ11、こちらクロウ1。投下は10秒後、高度は4500フィートだ>

「了解」

 交信を終えた稲葉は隣の荒井と目配せした。交信は荒井も聞いていたので、なんの指示を出さなくても次の行動を始めた。

 荒井は照準器を覗きながらカウントをしていた。最初からレーザーを照射しても、爆弾の方が微調整を繰り返しすぎて失速し、目標の手前に落下する危険がある。それに戦闘機の方も高度な兵器管制システムを搭載しているので、無誘導でも精度は低くない。そこで実戦ではレーザー誘導は最終調整のみに活用し、必殺のタイミングで使うのである。

 荒井は投下のタイミングと高度から命中するまでの凡その時間を割り出し、必殺のタイミングを待っているのだ。

「今だ!」

 照射ボタンを押すと、数秒後に砲兵陣地のあった場所で大爆発が起こった。

「クロウ1、こちらヤマブキ11。命中だ!」

 稲葉が興奮した口調で無線機を使い報告を行なった。かくして中国の砲兵は最初の半分になった。

 多少、ご都合主義的な部分もあるかもしれませんが、まぁようするに“当たらなければどうということもない”ということです

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