表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第10部 大連の戦い
86/110

その2 小艦艇の戦い

黄海

 中国海軍の21型ミサイル艇はいささか旧式だが、十分な戦闘能力を持っていた。満載排水量は200t強で、固定武装は69式30ミリ連装CIWSを1基。ミサイルは元々ソ連のP-15テルミナート―NATOコードネーム、SS-N-2スティックス―を装備していたが、近年の近代化改修で先の海戦でも使われた新型の鷹撃8型に換装している。

 そして彼らを迎え撃つ迎撃部隊と遂に接触した。




チャムスリ357号

「レーダーに感!前方に高速艦艇!」

 艇長はむき出しの戦闘指揮所に立ち、双眼鏡を構えた。暗かったが微かにミサイル艇の影が見えた。

「早く決着をつけないとな…」

 チャムスリ型に装備されている兵器はどれもレーダーと連動しておらず目視照準で射撃を行う。夜の闇に完全に包まれてしまったならばまともな戦闘は不可能である。

「総員戦闘配置!」

 艦長の命令と同時に水兵たちがそれぞれ担当の部署についていく。40ミリ機関砲に20ミリシーバルカン砲。どちらも一応は砲塔になってはいるが、装甲はついておらず無防備な状況だ。それでも水兵たちは臆することなく火砲を構えた。

「目標、先頭のミサイル艇。40ミリ砲、撃ち方用意、撃て!」

 357号艇の全部甲板に備えられたボフォース40ミリ機関砲が中国の高速艇に向けて放たれる。僚艇も357艇につづいて攻撃を始めるが、FCSのない人力照準ではなかなか命中弾は出ず、相手艦の周りに水柱を立たせるだけであった。

 それでも相手を怯ませる効果はあったようで、中国艇は散開して回避行動をとった。

「こちらも分散するぞ。各自目標を追跡せよ」

 韓国軍のチャムスリは3隻、中国のミサイル艇も3隻。つまり一対一に分かれての対決である。357艇長は1隻に狙いを絞った。

「あのミサイル艇を追跡しろ!射撃を続けるんだ!」

 艇長の指定した敵艦に針路を向け、40ミリ機関砲も射撃を続ける。2門の20ミリシーバルカンは今のところ発砲していない。艦橋の後ろにあるので、前方の敵を追撃している今は使いようがない。どだい仮に砲口を向けられたとしても射程が足りない。今は1門の40ミリ機関砲が唯一の頼りだった。

 勿論、中国側も黙っていない。ミサイル艇はチャムスリの針路を塞ぐように舵を切って側面を向け、艦首の30ミリCIWSを撃ってきた。チャムスリのそれとは違いレーダーや火器管制システムと連動した中国軍の30ミリ砲は一斉射目から命中弾を出した。

「被害を知らせ!」

 むき出しの戦闘指揮所に立つ艇長もすぐ近くを30ミリ砲が掠めた衝撃で床に倒れ、怪我を負っていた。だが、もっと深刻な被害を受けところもあった。

<兵員室に被弾。1名負傷、1名死亡!>

 チャムスリ357号は最初の戦死者を出してしまったのだ。

「戦闘は続行可能か?」

<はい。可能です>

「よし。射撃を続けろ!」

 ボフォース40ミリは仲間の仇を討つべく射撃を続けた。中国ミサイル艇は撃っては逃げ撃っては逃げを繰り返し、撃つたびに何発かを命中させる。一方、継続的に射撃を続けるチャムスリ側もようやく命中弾を得るようになった。

 艇長は中国ミサイル艇の船体に着弾を示す火花が散ったのを双眼鏡を使って見た。これで3度目だ。

「また命中だ!射撃を続け…待て!」

 ミサイル艇を観察しつづけていた艇長は後部甲板に搭載されたミサイルが海中に投棄されるのを見た。敵はチャムスリ357号艇の射撃が正確になりつつあるのを見て、誘爆を避けるためにミサイルを放棄したのである。これで敵は任務を達成するのが不可能になった。

「我々の勝利だ。離脱するぞ!」

 空がどんどん暗くなる今、撃ち合いでは目視照準に頼るチャムスリ357号艇が不利になる一方だ。これまでの中国艇の射撃による被害も無視できるものではないので、ここは逃げるのが得策である。

 しかし、この判断は逃げるものと追うものを逆転させることになった。

「艇長!敵が反転して、こちらに向かって来ます!」

 任務に失敗した敵も離脱するだろうと決め付けていた艇長はそれを聞いて驚愕した。相手は日本の揚陸艦部隊を仕留め損ねた代わりに、韓国軍の小型艇を沈めて少しでも戦果を稼ごうとしたのである。

「20ミリシーバルカン、射撃開始!」

 さきほど立場が逆転してしまったチャムスリ357号艇だが、後方にも2門の20ミリシーバルカン機関砲を装備しているので中国ミサイル艇と違い敵に背を向けたままでも反撃ができるという利点があった。しかし、それも気休め程度だ。

 傑作航空機関砲として名高い20ミリバルカン砲を艦載砲に転用したシーバルカンであるが、30ミリ機関砲に対して射程、威力とも劣る上に例によってレーダーや火器管制システムによる支援を欠いていた。中国は20ミリ砲の有効射程圏内に入らないように距離を保ちながら射撃を続けていた。

「後部シーバルカン、被弾!」

 一番後方にあるシーバルカン砲塔に30ミリ砲が命中した。雨風を凌ぐために設けられた防弾性のない砲塔にとってその一撃は致命的だった。

「砲手は!救出したのか!」

 艇長は意味のない質問をした。視界をよくするために半透明な砲塔に30ミリ砲を食らって、中の人間がまともな状態なわけがない。

「肉片しか見つからないそうです…」

 伝声管の前に立つ伝令が声を震わせながら報告した。

 シーバルカン砲だけではない。チャムスリ357号艇は多くの命中弾を受けてダメージを蓄積していた。スピードは落ち、負傷者は多数だ。そして死者も数人出ている。

「畜生!」

 艇長は思わず叫んだ。そして、それがこの世での最期の言葉になった。30ミリ砲が艦橋構造物に命中し、その吹き飛んだ破片の一部が艇長の身体を貫いたのだ。衝撃に打ちのめされ倒れこんだ艇長に水兵たちが駆け寄る。艇長は心配ないと口にしようとしたが、声が出なかった。もう終わりか…そんなことを思いながら艇長は意識を手放した。

 艇長に付き従おうとしているかのように屍の後ろでは火災が発生していた。



 中国ミサイル艇の乗員達は勝利を確信していた。多くの命中弾を出し、韓国の高速艇は遂に炎上し始めた。後は撃沈を確認するだけである。しかし、中国の軍人達は目の前の敵に注目しすぎ、別の敵の存在の可能性を考えることも、僚艦と密な連絡をとることもなかったのだ。

 速度が20ノット以下に落ち込んだチャムスリ357号艇に止めを刺そうと接近したとき、突如中国乗員の目の前で水柱が立った。機関砲によるものではない。艦砲射撃である。




砲艦<太魯閣(たろこ)

 台湾一の名所であり、世界遺産にも登録された太魯閣渓谷の名を頂く砲艦はレーダーと赤外線暗視装置で中国のミサイル艇を捉えており、しかもそれは艦首の76ミリ単装速射砲とも連動していた。

撃て(てっぇー)!」

 <太魯閣>の第二射は中国ミサイル艇の後部に並べられたミサイル発射筒に命中した。既に中身は投棄してあるので、誘爆して轟沈とはいかなかったが、76ミリ砲の直撃は排水量200t程度の小さな船体に相当のダメージを与えたようだ。

 黒煙を吹き上げながらミサイル艇はすぐにUターンをして逃げ去った。

「追撃しますか?」

 部下の問いに艦橋に立つ艦長は首を横に振った。

「今は救助作業が先決だ」

 <太魯閣>は船を止め、他の中国ミサイル艇を撃退した他のチャムスリ哨戒艇2隻と<太魯閣>の僚艦<阿里山>も駆けつけて救助作業が始まった。

 10名以上の負傷者と艇長を含めた6人の死者が確認された。船体の方の損傷も激しく、乗組員を他の艦艇に移してからチャムスリ357号艇は<太魯閣>に曳航して最寄の韓国海軍基地まで連れて行くことになったが、翌日未明に海中に没した。

 余談ながら後の調査で逃亡したミサイル艇が中国軍基地の手前で沈没していることが確認された。

 かくして日韓連合軍は犠牲を出しつつも海上の戦いを制していた。そして人々の注目は陸上の戦いに集まることになる。

 メリークリスマス!独楽犬は毎年恒例NORADサンタトラックスを見ていますが、なんか今年は不安定だorz

 今回、登場したチャムスリ型哨戒艇は韓国海軍に実在する艦艇で、よく北朝鮮の小型艇と交戦しています。砲塔なんか視界確保の為にガラス張りでワイパーとかついてます。あんなもんに乗り込んで砲撃戦を行うのだから恐ろしいものです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ