その12 ミサイル艇迎撃作戦
大連市内 沙河口駅前広場
中国軍の戦車は随伴歩兵を引き連れて、今まさに沙河口駅前の広場に突入しようとしていた。広場の前には海軍陸戦隊がバリケードを築いて、中国軍の侵入を防ごうとしていたが虚しい努力だった。
第60自動車化歩兵師団の先遣隊は59式戦車を先頭にした縦隊で市街地を南下して、チャン・ピンドゥー少将の武装警察隊を追い越した。ピンドゥーは正規軍のお手並み拝見とばかりに装甲車の陰から戦況を覗いていた。
先頭の59式戦車がバリケードに一撃、放つと、障害物代わりの駐車車両が簡単に吹き飛んだ。それに驚いたのか、海軍陸戦隊の兵士達が次々と逃げ出し防衛線は総崩れになった。
「日本の兵士も大したことありませんね」
ピンドゥーの横で彼の副官が囁いた。しかし、ピンドゥーには不思議だった。精強な海軍陸戦隊が戦車が現れたくらいで総崩れするものだろうか?対戦車火器くらいは持っている筈だが…
そんなことを考えているうちに正規軍の兵士達が駅前広場のロータリーに踏み込んだ。次の瞬間、大地がひっくり返ったような衝撃がピンドゥーを襲った。
駅前ロータリーを囲む生垣に身を隠して成り行きを見守っていた神楽少尉にもその衝撃は届いた。事前に予告されていたことではあるが、それでもショックは大きかった。
「105ミリでも、これだけ威力があるんだな。驚いた」
素直に感想を述べると、すぐ横で神楽と同じように伏せている矢吹が頷いた。
「まったくです」
2人とも砲兵隊の砲弾が着弾する様をこのような至近距離で見たのは始めてであった。
星ヶ浦公園に展開していた一個砲兵中隊、105ミリ榴弾砲5門の射撃である。砲弾はVT信管により中国軍徒歩歩兵隊のすぐ上で爆発し、強烈な鉄の雨を降らせたのである。それにより中国軍歩兵隊はたじたじになった。
しかし戦車隊の方はめげずに駅前ロータリーに突入してくる。神楽は立ち上がって身振り手振りを交えて分散する友軍の兵士に向けて合図した。
「対戦車弾、用意!」
ロータリー周辺の各所に配置された対戦車手が一斉に立ち上がって、AT-4無反動砲を構えた。戦車の出現を知った第2中隊長の嶋大尉は後退してきた神楽小隊こと第2小隊、そして沙河口駅前に陣地を築いていた第3小隊の対戦車手を集めてロータリーに即席の対戦車陣地を形成するように命じた。
第3小隊主力が敵前で囮を買って出てくれたお陰で、最大の脅威である中国軍の戦車を罠に引き込むことができたのだ。対戦車手にとって一番の脅威である随伴歩兵が砲兵射撃により戦車と分断されてしまった今、彼らの攻撃を防ぐ手立ては59式戦車にはなかった。
海軍陸戦隊の歩兵小隊には8基のAT-4が装備されている。第3小隊も含めて即席対戦車陣地には16基のAT-4が配置されている。敵が一個小隊4輌の戦車部隊と想定して、先頭の戦車には4基が一斉攻撃を仕掛ける手はずであった。
「後方安全確認!クリア!撃て!」
ほぼ同時に4発の対戦車弾が59式に殺到した。1発は一番装甲の厚い砲塔正面に当たり弾かれてしまったが、残りの3発が砲塔後部や機関部といった戦車の弱点を見事に貫いて、先頭の59式戦車が擱座した。
二台目の戦車は先頭車が撃破されたことで前を塞がれ、その場に立ち往生した。そこへ別の4人の対戦車手が迫る。中国軍の随伴歩兵達も砲撃の衝撃から回復して戦車を守ろうと動き出したが、神楽小隊長は見逃さなかった。
「援護射撃!」
自らも小銃を構えて3点バースト射撃で中国兵を撃った。小隊の小銃や機関銃が一斉に放たれ、中国兵の行く手を塞ぐ。その間に対戦車手達は射撃位置についた。先ほどと同じようにAT-4の4発同時射撃が59式戦車を襲った。
「敵戦車2輌撃破です!」
矢吹が報告した。中国側にはまだ2輌の戦車が残っていたが、味方がやられたのを見て後退しようとした。
その時、ヘリコプターのバタバタという羽音が聞こえてきた。後退する中国戦車隊の背後に海軍のコブラ攻撃ヘリコプターが迫ってきたのである。もはや戦車隊に逃れる術はなにもなかった。
2機のコブラがそれぞれ小さな翼に吊るされたTOWミサイルを1発ずつ、戦車に向けた発射した。至近距離なので外しようがなく、またその威力はAT-4よりも遥かに強力であった。文字通り砲塔が吹き飛んだのである。海軍陸戦隊の兵士達は拍手喝采して歓喜した。
しかし、彼らの喜びもそれまでであった。中国軍の兵士が物陰から筒状の物を上空のヘリに向けた。筒から一筋の光が飛び出し、そのままコブラに飛び込んだ。
「スティンガーだ!」
誰かが警告の声をあげた。正確にはソ連製の携帯式対空ミサイル9K32ストレラII―NATOコードネームSA-7グレイル―の中国版である紅櫻5なので、アメリカ製の携帯式対空ミサイルであるスティンガーとは別物であるが、それの意味するところは同じだった。
ミサイルは1機のコブラのエンジン排気口に突っ込んで、エンジンごとローターを吹き飛ばした。翼を失ったコブラは鉄道の線路上にそのまま突っ込んで爆発炎上した。その光景を見た陸戦隊員達は言葉を失った。
「空母航空隊の航空支援はないのか?」
墜落したコブラから立ち上る黒煙を見ながら神楽が呟いた。戦闘機である旋風ならもっと安全かつ強力な航空支援が行える筈だ。しかし専門の第271航空隊は空母の甲板で足止めを食らっていた。
空母<翔雀>飛行甲板
その頃、空母の甲板で待機していた第271航空隊に新たな命令が与えられていた。しかし、それは中国正規軍の攻撃に晒されていた海軍陸戦隊への支援ではなかった。その内容は“機動部隊への攻撃を図る中国高速艇部隊を撃滅せよ”である。
第271航空隊に配備されているのも日本軍主力戦闘機の旋風で、どの機体にも胴体下に赤外線センサーと一体化されたレーザー照射装置、翼の下にはレーザー誘導装置を取り付けた500ポンド爆弾が吊るされている。それで中国のミサイル艇を吹き飛ばせというわけだ。
16機の旋風が2機ごと順番に飛び立つ。飛び立った第271航空隊のパイロット達は空母から哨戒ヘリコプターの情報に基づいて誘導され、目標を目指して低空飛行を続けた。2機編隊のうち1機はレーダーを水上捜索モードにして海面を走査し、もう1機は機体下部に搭載されている赤外線監視装置でミサイル艇と思われる熱源を探すのである。
そして、各機が目標であるミサイル艇を発見し始めた。
「目標捕捉。攻撃準備!」
ある編隊では最初にレーダー照射機が目標を捉え、赤外線センサー機がそれに続いた。一度、目標の上と通り過ぎると上空で急旋回して、中国ミサイル艇への攻撃態勢をとった。
使用する武器はレーザー誘導爆弾である。対艦ミサイルを使わないのか?という意見もあるだろうが、ミサイル艇程度の大きなの目標の場合、ミサイルに搭載できる程度のレーダーシステムでは目標からのレーダー波の反射が海面からの反射に紛れて探知できない可能性がある。だからこの手の目標を攻撃する場合、レーザーや赤外線などを使う誘導システムを装備する爆弾やミサイルを使うのが確実なのである。
2機編隊でレーザー誘導爆弾攻撃を行う場合、1機が爆弾を投下してもう1機が誘導の為のレーザーを照射するのが通例である。ミサイル艇攻撃も同様に行われた。誘導機が超低空を飛び、爆弾投下機がその上空を飛ぶ。そしてミサイル艇をその視界に捉えた。
ミサイル艇は敵に発見されたのを気づいたのか一気に速力を上げたが、旋風戦闘機の前には僅か速力に過ぎない。投下機が1発、爆弾を空中に放った。しかし誘導機の方はなかなかレーザーを照射しない。早く照射し過ぎると、必要以上に安定翼を動かして針路修正をしてしまうから。翼を使えば抵抗が増してスピードを失い、敵に届かずに海面に落下することになってしまう。レーザー照射は命中の直前だけで十分なのだ。
爆弾が自由落下の最終段階に突入する頃になって照射機がレーザーをミサイル艇に放った。ミサイル艇から反射するレーザーの光を弾頭のセンサーが捉えた。次の瞬間、爆弾がミサイル艇に突っ込んだ。200キログラムを超える重さの爆薬が爆発して、ミサイルは瞬時に沈んだ。まさに轟沈であった。
1隻撃沈したこの編隊は勝利を喜ぶ暇もなく、次の目標を探しに向かった。
このように第271航空隊は次々とミサイル艇を狩っていったが、全てを撃滅できたわけではなかった。
太平洋 イール
イールは変温層の上から一気に安全深度ギリギリまで潜航していた。それから予想されるソ連艦の針路を塞ぐように船体の横っ腹を向けて、艦を側面のフランク・アレイ・ソナーをフルに活用して索敵に励んでいた。
フランク・アレイ・ソナーは船体に沿って並べられたパッシブソナーで大型で性能が高いので遠くの目標まで捉えられる上に、艦首側と艦尾側の末端のマイク同士の間隔を長くとれるのでそれぞれのマイクの捉えた目標の角度の違いから三角測量の原理を使って距離を測ることができる。
従来のソナーシステムでは、相手の発する音を捉えるだけのパッシブソナーでは相手の方向は分かっても距離までは分からず、また自ら音を発してその反射を捉えて精密な観測をするアクティブソナーは距離は分かるが同時に自艦の存在を知らせることになる諸刃の刃である。フランク・アレイ・ソナーはそうしたジレンマを解決した優れたソナーシステムなのだ。
早速、その優秀なソナーがツイン・スクリューの音を捉えた。
「目標を探知。オスカー級です」
「索敵を継続。奴の後ろにシエラが張りついている筈」
ソ連海軍のシエラ級は“オスカー級を追尾するアメリカ原潜”を警戒して後方に待機している筈だ。今の配置は彼らの意表を突けるはずである。
「新たな目標を探知。微弱ですが、シエラ級と思われます」
スクリューキャビテーションは水圧により押しつぶされており、シーウルフのソナーが感知したのは船体が水の中を掻き分けて進む際に生じる流水音である。しかし、敵を感知したのは間違いない。
「回頭、左90度!総員戦闘配備!」
リッコバー艦長の声が発令所に響いた。
改訂は第5部その6です。“小説家になろう”の二次創作作品とそれ以外の区別の厳密化を受けまして、ネタは控えようということにしまして、登場人物の名前を改名しました。また二部に分かれていたエピソードを1つにまとめてみました。
(2013/2/26)
後書き内容を改訂




