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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第9部 黄海海戦
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その7 飽和攻撃

黄海

 潜水艦部隊への命令発信後、海軍航空隊とミサイル艇隊が一斉に動き出した。

 さて、中国海軍はアメリカや日本の海軍部隊に対抗するためにソビエトと―そして、かつてアメリカを仮想敵国としていた日本海軍と―同様に強力な陸上航空隊を保有している。主力機は強撃5ファンタン、殲轟7フォーリー、轟炸6バジャーの3種である。

 強撃5は古めかしいミグ19戦闘機を攻撃機に改良したものである。数的には海軍航空隊の主力機であるが、搭載量が小さく後続距離が短い。対艦ミサイルを搭載することができないため、“補助的”な任務に参加することになった。

 というわけで日本海軍攻撃の主力は殲轟7と轟炸6の2機種ということになる。これらの機体は中国海軍の保有する各種対艦ミサイルを装備することができた。

 殲轟7は中国で開発された双発複座の戦闘爆撃機であり、機体規模はF-4ファントムIIに近い。この機体には鷹撃8対艦ミサイルを4発搭載することができる。まさに中国海軍の切り札的な存在であった。

 一方、轟炸6はソ連製のツポレフ16爆撃機を中国でライセンス生産したものである。既に戦略爆撃機としては時代遅れの代物になっていたが、鷹撃8対艦ミサイルを4発搭載できる積載量、そして長大な航続距離は中国軍にとって未だに魅力的であった。

 この3機種から成る編隊が次々と飛びたっていった。




山東半島沿岸部

 黄海沿岸部の各地に配置された地対艦ミサイル部隊が一斉に動き始めていた。日本軍の様々な監視システムから逃れるために施されていた偽装が外され、発射装置が海上に向けられる。

 配備されたミサイルは2種である。1つは海鷹2である。これはソ連の開発した対艦ミサイルP-15テルミート―NATOコードネームはSS-N-2スティックス―を中国で改良したもので、西側からはCSS-C-3シルクワームと呼ばれている。改良が順次行なわれているとはいえ所詮は最初期の対艦ミサイルの発展系に過ぎず、現在では時代遅れの装備と見られている。

 もう1つは航空部隊が搭載しているのと同じ鷹撃8だ。これは天安門事件以前に西側から技術を導入して開発したミサイルであり、フランスのエグゾセ対艦ミサイルに近い外観をしており、電波妨害に対する耐性や海上超低空飛行(シースキミング)など現代の対艦ミサイルに不可欠とされる機能を備えており、中国海軍の切り札として期待されていた。




黄海海上

 同時期、沿岸各地の基地から一斉に出撃する船の群れがあった。それは中国海軍沿岸防衛部隊の主力である021型ミサイル艇の戦隊であった。黄蜂(ホアンフェン)というNATOコードネームが与えられたこのミサイル艇は、ソ連のオーサ級の中国版であり40ノット近い高速航行能力と4発の対艦ミサイル積載能力を持つ。

 如何せん旧式化が激しく既に退役が始まっているが、依然として中国海軍の主力ミサイル艇であり、近海では侮りがたい作戦能力を維持していた。

 搭載するミサイルは地対艦ミサイル部隊と同様に海鷹2を搭載するものと鷹撃8を搭載するものに二分されていた。

 これらの艇隊は地上の司令部に誘導されて洋上の日本艦隊を目指して進んでいた。




黄海上空

 空母機動部隊を目指して飛ぶ強撃5の編隊に紛れて飛ぶ大型機があった。4発のターボプロップエンジンを装備する運輸8である。ソ連のアントノフ12輸送機の中国版で、本国ソ連での生産はとっくの昔に終わっているが、中国では生産が継続され、様々な派生型も開発されている。今、黄海を飛ぶのはまさにその派生型の一種である。

 洋上偵察型ASAはソ連製の対水上レーダーシステムを機首の巨大なレドームに収め、240キロ以内の敵水上部隊を捜索する能力を持っている。さらにデータリンク装備も充実していて、限定的ながら管制機能まで備えていた。運輸8ASAは他の運輸8派生型とともに日本艦隊捜索に参加していた。

 ただ運輸8の高度なレーダーシステムは日本海軍のイージスレーダーと同様に待機状態にあり、専ら捜索はESMによる電波傍受と遠距離監視カメラによる映像偵察に頼っていた。

「レーダー照射を確認。周波数はSバンドです」

「空母の航空管制レーダーじゃ?」

「波形が違います。SPYレーダーです」

 それまで沈黙を保っていたイージスレーダーの作動は日本海軍が日本海軍が隠密行動から正面切っての戦闘に方針を転換したことを意味する。さらにはこちらの攻撃を悟られたということでもある。

「こちらもレーダーを作動させますか?」

「第一次攻撃隊が攻撃開始するのを待て。今、作動させたら闇夜の中で提灯を照らすようなものだ」

 今、運輸8ASAが恙無く任務を遂行できるのは、日本海軍の防衛圏の外側で飛び回る様々な航空機の中に紛れているからだ。ここで対水上捜索レーダーなぞ作動させようものなら様々な航空機の中で目立ち、すぐに攻撃を受けてしまう。

 そんな運輸8を掠めるように強撃5の編隊が艦隊に向かって行った。

「大丈夫か?攻撃部隊は」

「捜索する手間が省けたと思えばいいさ」

 通報などで艦隊の概略位置は把握できたが、正確な位置を知るには自ら探すしかないのだ。

「それで輸送船団の正確な位置を特定できたか?」

「護衛艦の配置は逆探知でだいたい把握できたから類推できるが…」

 日本海軍は電波輻射統制を解除し、中国攻撃部隊迎撃のために対空レーダーを作動させたが、その為に中国は日本艦のレーダー発信を捉えることができた。複数の電子戦機でレーダー電波を捉え方位角を測り、そのデータを組み合わせれば三角測量の原理で位置を特定できる。

 だが輸送船は対空レーダーを装備せず、その電波を捉えることができないので、依然として正確な地点を把握できていなかった。

「位置を正確に知るにはやはりレーダー照射をするしかない」

「まもなく攻撃が始まる。日本軍がそれへの対処に忙殺されている間に」

「概算位置は分かる。照射は短時間で済む」

 運輸8ASAのオペレーターはレーダー照射の瞬間を待ちつつ、日本艦隊の動向を友軍部隊に通報した。



 強撃5の大編隊の出現は日本艦隊の防空担当者たちを緊張させた。彼らがまずしたことは2機の上空待機機を敵編隊に向かわせることであった。それに加え2隻の空母の甲板で出撃を待っている戦闘機も次々とカタパルトで射出されていった。

 強力な中国の攻撃部隊に対して日本海軍連合艦隊は黄海に持ち込んだ戦力の総力をもって迎えようとしていた。これほどの海上戦を日本海軍が経験するのは実に第二次世界大戦以来のことであった。

それ故であろうか。日本海軍の将兵たち、特にレーダー担当のオペレーターたちは重要なことを見逃していた。大編隊で迫る強撃5の部隊の背後に隠れ、超低空飛行で艦隊に迫る小規模な殲轟7編隊の存在に。




太平洋 K123

 K123がアメリカ海軍潜水艦と思わしきアンノウンと接触してから数時間が過ぎた。あれからソナー探知はしておらず、K123の突然の出現に驚いて退避したものと思われた。

 あれからコンタクトもなく平穏が続いていたが、コースチン艦長は警戒を緩めていなかった。執拗なアメリカ海軍の潜水艦が簡単に諦めるとは思えなかったのだ。

おまけに相手はK141の追尾目標であるアメリカ海軍空母と連携することができる。こちらの動きを読んで待ち伏せすることもできるのだ。


 K123は航跡の中を出てK141の前に出ていた。既にK123の存在はアメリカに知られているのだ。隠れる必要は無い。次は奇策に拠らない正面対決である。そうなれば機器の性能と兵員の質が全てを左右する。

「大丈夫だ。部下達を信用しろ」

 コースチンは自分に言い聞かせた。K123はソビエトの最新鋭の技術が投入された艦であるし、乗組員は精鋭揃いである。


 第2ラウンドのはじまる時がまさに迫っていた。

改訂は今回もなしです

なお文中では殲撃7のNATOコードネームをフォーリーとしていますが、史実ではフラウンダーです。ただ帝國世界ではSu-37(フランカーの改良型とは違う小型多目的戦闘機)の開発が継続されており、そちらに割り振られているので、殲轟7のコードネームが変わっています

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