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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第9部 黄海海戦
72/110

その5 韓国軍、上陸成功

東港(ドンガン)市中心部から東へ20キロの海岸

 人民解放軍第60師団が大連に向けて移動を開始した頃、その西にある緑鴨江河口の街である東港市の西端。その沖に韓国海軍艦隊が現れた。

 最初に現れたのは掃海部隊である。彼らの任務は上陸作戦の障害となる機雷を除去することだ。韓国との国境に近いこともあり機雷原はそれほど重厚なものではなく、掃海作業は比較的短時間で終了した。そして作業が終了すると、今度は揚陸艦隊がやってきた。

 韓国海軍の揚陸部隊の主力となるのは高峻峯(コージュンボン)級戦車揚陸艦4隻と雲峰(ウンボン)級戦車揚陸艦4隻の合計8隻である。これにより1個連隊強の部隊を輸送することができる。彼らが駆逐艦の艦砲射撃の援護を受けて上陸するのである。

 艦砲射撃を担当するのは第二次大戦中にアメリカが建造して戦後に韓国に貸与されたギアリング級の韓国バージョンである忠北級駆逐艦2隻、それに韓国の国産艦艇であるウルサン級3隻である。忠北級は127ミリ連装砲を2基備え、ウルサン級には76ミリ単装砲がやはり2基装備されている。かつてスエズやノルマンディー、インチョンといった歴史に残る上陸作戦時に多数の巡洋艦や戦艦が援護射撃に投入されたのを思えば、実に頼りない火力である。

 しかし上陸部隊を追払うべき部隊は既に大連に向かってしまった。もはや韓国海兵隊を止めるものは居なかったのである。

 最初に上陸したのは高峻峯級揚陸艦から発進したAAV-7水陸両用装甲車であった。高峻峯級はその船体ごと浜辺に乗り上げて、直接揚陸部隊を上陸させる典型的な戦車揚陸艦であるが、艦尾にAAV-7を洋上で発進させるためのランプがあり、今回の上陸作戦においてもそこからAAV-7が海上に出て先遣隊として上陸したのである。

 浜辺に揚がるとAAV-7に乗り込んだ兵士たちが車外に出た。歩兵と工兵の混成部隊である彼らは地雷を警戒しつつ浜辺を占領した。

 橋頭堡を確保すると高峻峯級が陸に向けて前進し艦首を浜辺に乗り上げた。そして艦首に備えられた観音扉が開きランプが下ろされて、地雷除去用ローラーを取り付けたK1戦車が出てきた。

 戦車隊と歩兵隊は上陸を終えると内陸に向けて進撃を開始した。橋頭堡が敵の主要な火砲の射程圏内に入らないように勢力圏を広げなくてはならない。その間に雲峰級戦車揚陸艦が浜辺に乗り上げ、補給用のトラックや砲兵部隊を上陸させるのである。

 韓国海兵隊は中国への上陸作戦を成功させ、橋頭堡を築いた。それから彼らは次の目標に向けて動き出したのである。すなわち師団主力を上陸させて、鴨緑江を渡河する陸軍主力の側面を守り、それから西へ進み遼東半島を占領することだ。




大連沖

 掃海母艦より掃海用の曳航具を吊るしたシードラゴン掃海ヘリコプターが飛び立った。彼らが掃海部隊の第一陣である。

 ある機体はカッターを水中に下ろしている。海面下ギリギリに浮いている触発機雷と海中に垂らした錘とを繋ぐワイヤーを切断するためである。錘から切断された触発機雷は海面上に浮き上がり簡単に処分できる。

 ある機体は音響掃海具を吊るしている。船のスクリューに似た音を発して、海底にある音響機雷を作動させるのである。

 ある機体は磁気掃海具を吊るしている。機雷の上を鉄製の船が通過した時の磁場の変化を再現して磁気機雷を爆破するのだ。

 海面に次々と爆発による水柱が生じ、海面には幾らかの触発機雷が浮かんでいる。



 航空掃海が一段落ついたところで、掃海艇隊が前進してきた。掃海艦である<納沙布>と<御前崎>、それに122号型掃海艇3隻である。彼らの最初の仕事は海面に浮かんでいる触発機雷を艦首の20ミリ機関砲で破壊することであった。続いて彼らは停船して、艦尾のクレーンで黄色い物体を海中に下ろした。

「掃海具、投下完了。作動状態にあります」

 艇のCICでオペレーターが艇長に報告した。黄色い物体は遠隔操作式の自走掃海具で、一種のロボットであった。湾岸戦争で自軍の掃海装備の旧式化を痛感した海軍が導入した最新の機器で、有線誘導により掃海艇から操作され、機雷探知用ソナーと暗視カメラを備えている。機雷を発見すれば爆発物を設置して破壊できる優れものである。

 掃海艇から離れた自走掃海具は海底に潜り、航空掃海チームが取り逃がした機雷を捜し求めて海底を舐めまわすように捜索をはじめた。




大連市内

 横道から敵の側面に展開した神楽小隊は攻撃を開始した。各分隊、班が相互に支援しながら前進し、武装警察隊に十字砲火を浴びせる。沙河口駅前で防衛線を張っていた部隊も神楽小隊の攻勢に呼応して攻撃を行なう。

 海軍陸戦隊の反撃はうまくいったように見えた。実際、武装警察隊に大打撃を与えた。だが、それはあくまで相手が警察組織に過ぎない武装警察であったからである。それ故の一方的な攻撃は終わりを告げようとしていた。

 その最初のシグナルは銃声に紛れて聞こえてきたキュラキュラという金属音であった。

「少尉!この音!」

 最初に気づいたのは第1分隊長の浦辺であった。台湾先住民高砂族の血を引く浦辺は小隊の中でも身体能力、感覚がずば抜けていた。

「なんだ?」

 だから神楽の返答がこうであったのも当然である。戦闘の中で銃声に紛れたキャタピラ音を聞き取るのは困難である。

「キャタピラです。装甲車とは違います!たぶん戦車です」

 食い下がる浦辺。神楽は耳を澄ましてみたが聞こえるのは銃声だけであった。しかし神楽は自分の耳より浦辺のそれを信用していた。味方の無線を受信できる位置で1人待機していた渡良瀬通信手のもとへ駆け寄ると神楽は受話器を手にした。

「6-0、こちら1-6。至急、至急!」

<1-6、こちら6-0。どうぞ>

「敵軍は戦車を投入した可能性あり。情報はなにかあるか?」

<こっちから連絡するところだった。航空隊の連中が正規軍部隊を確認した。戦車もいる。ただ艦隊司令官曰く“旧式だから大したことない”そうだ>

 交信をしている間にキャタピラの音が神楽にも聞こえるようになった。音のする方に目を向けると、小隊の前に59式戦車が現れ、兵士達は唖然として射撃が止んでいる。

「退避!退避!」

 神楽の命令を聞くと、一斉に兵士たちが動き出す。その背後で59式戦車の砲塔が動き100ミリ主砲の砲口が神楽小隊に向けられる。

「伏せろぉ!」

 59式戦車が発砲したのは、矢吹一等兵曹が叫ぶのとほぼ同時であった。砲弾は神楽小隊が展開する通りに面するビルに直撃した。爆発音とともにガラスが割れコンクリートが吹き飛ばされる。噴煙が広がり、神楽小隊を覆い隠した。

「退避しろ!退避だ!」

 神楽は煙の下にいる兵士達に叫び、それから再び無線の発信ボタンを押した。

「敵戦車と遭遇。これより後退する。艦隊司令官には“とっとと戦車を揚げろ”と伝えてくれ」

<1-6。了解。交信終わり>




太平洋 潜水艦K123

 K123はK141の航跡から出た後、面舵で右旋回をした。

「それは確かか?」

 コースチン艦長はソナールームで報告を受けていた。

「かすかですが、後方で軋むような音がしました。それからコンタクトはありません」

 ソナールームにはベールイ副官と政治将校が同席している。政治将校はソナーマンの報告することの意味を理解しかねていた。

「つまりどういうことなんだ?敵艦がいたのか?」

「敵はなかなか優秀だということですよ」

 ベールイが解説をした。

「衝突を避ける為に慌てて逆進をする愚を犯さなかった。おそらく我々と同様に浮上してK141の航跡に隠れたのです」

 それからベールイは視線を艦長に向けた。

「取り舵ですか?」

 通例ならば元のコースに戻るところであるが、今は通常の場合にはあたらないことをベールイは理解していた。

「いや。縦舵そのまま。潜航舵上げ。敵の上をとる」

 それを聞いたベールイはソナールーム内の艦内電話を手にして、艦長の命令をそのまま発令所に伝えた。それから電話の受話器をコースチンに手渡した。コースチンは受話器を受け取ると艦内スピーカーを通じて艦内の全乗組員に伝えた。

「諸君!我々はアメリカ帝国主義海軍の尻尾を捕まえたぞ!」

 乗組員たちは朗報を聞いて顔を綻ばせたが、歓声をあげる愚は犯さなかった。

 メッセージで【第9部その4】の手榴弾の描写の誤りについてご指摘を頂きましたので、修正しました。手榴弾の機構についてご指摘に基づきより詳細に描写しようともしましたが、間延びしてしまうので安全レバーの描写を削ることでお茶を濁しております

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