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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第9部 黄海海戦
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その3 市街地戦

大連市

 神楽小隊は武装警察出現の報告を受けて防衛線を援護すべく西にむかって駆けていた。周りには野次馬が集まり、写真を撮ったりしているが無視した。港湾管理事務所の前を通り過ぎたところで先頭を進む神楽少尉の肩を渡良瀬通信手が叩いた。

「少尉!中隊本部より通信です」

 神楽は受話器を受け取るが、雑音ばかりでなにも聞き取れない。市街地なので電波が建物に遮断されてしまっているようだ。

「どこで受信した?」

「あちらです」

 2人は開けた場所まで移動した。すると通信が通じた。

「6-0、こちら1-6。応答せよ」

<1-6、こちら6-0。敵は裏路地から防衛線を迂回する気だ。お前らの正面に…>

 まだ雑音が入って聞こえづらくなった。

「なんだって?」

 神楽がそう叫ぶと同時に連続する銃声と何かが空気を切り裂く音が聞こえた。2人に向けて放たれた銃弾がすぐ横を掠めたのである。神楽は咄嗟に渡良瀬を掴み、建物の影に引きずり込んだ。

 周りにいた野次馬たちは一斉に散らばった。逃げようとするが、運の悪い者もいて中国軍の火線に捕まり倒れてしまった。

「応戦しろ!」

 小隊の兵士たちが一斉に散開し、建物の影や自動車の背後にまわって身を守りつつ突然襲撃した敵兵に銃口を向けた。神楽も建物の影から銃口と顔を突き出して敵の姿を探った。彼らの前に現れたのは武装警察部隊であった。彼らは小銃や機関銃を乱射して神楽小隊を釘付けにしている。神楽小隊も対抗して射撃するが勢いは敵側にあった。

 神楽の隠れる建物の壁にも次々と弾が当って火花が散る。顔を引っ込めると通信機の受話器を掴み状況を報告しようとするが、また雑音しか聞こえなくなった。建物の陰に隠れたので、また電波が遮断されたようだ。

「渡良瀬!」

 隣に立つ渡良瀬を屈ませてアンテナだけを建物の陰から出した。神楽はその下に伏せて小銃を敵に向けつつ、再び発信ボタンを押した。

「6-0、こちら1-6。敵と接触した」

<1-6、こちら6-0。持ちこたえられそうか?>

 神楽は嶋中隊長の言葉を聞きつつ、近づいてくる敵兵に狙いを定めて引き金を引いた。

「膠着状態です。できれば支援が欲しい」

 狙った兵士が倒れた。しかしすぐに神楽のもとへと銃撃が集中し、再び建物の陰に引っ込まざるをえなくなった。

 その時、中国軍部隊の後方で指揮を執っていた将校が額を撃ちぬかれて倒れた。




 展望台の上で狙撃手の稲葉は九九式狙撃銃から空の薬莢を排出し、新たな弾丸を薬室に装填した。最優先目標は敵の指揮官で、それらしき将校を射殺したので、次は指揮系統の混乱を狙う。次の目標は通信手である。荒井観測手が既に捕捉していた。

「見つけた。前方320メートル、自販機の裏だ」

 稲葉は示された距離にあわせて若干スコープを調整すると、銃口を動かして目標を探した。

「見つけた」

 通信手は指揮官が狙撃されたのを見て慌てて姿を隠したようだが、自販機では彼の身体を完全に隠すことはできなかった。

「無風だ」

 荒井は下の路地にある店の暖簾や植物の葉、その他様々な物の動きを捉えて地上の様子を分析していた。

「捉えた」

 稲葉は一言そう言うと、引き金を引いた。自販機の陰に隠れていた中国軍通信兵は頭を撃ちぬかれて倒れた。そして、そのときには荒井が新たな標的を見つけていた。

「次は装甲車の上の機関銃手だ」




 下では狙撃隊の援護を受けて神楽小隊が態勢を整えなおしていた。中国軍の猛攻の前にバラバラに撃ちかえしていたが、次第に組織的に銃撃を行なうようになった。彼は次第に中国軍を圧倒しつつあった。

「隊長!側面に中国軍です」

 第一分隊の対戦車手である李献堂一等水兵が叫んだ。彼の指した方を見ると、確かに神楽小隊の正面に居るのとは別の一隊が小隊の背後にまわりこもうとしていた。

「応戦しろ!」

 神楽の命令を聞いて李一等水兵の横でミニミ機関銃を正面の中国部隊に乱射していた小田上等水兵が銃口を新たな敵に向けた。無防備な中国兵が道を横切っていた。しかし、その前を一般市民が渡っている。

「ちっ」

 小田が躊躇している間に中国兵は駐車している自動車の後ろに隠れて機関銃を構え銃撃してきた。咄嗟に李が小田の首根っこを掴み自販機の裏に引き込んだ。

「なんで撃たなかった!」

 李の詰問に小田は答えず、地面にミニミを置いて中国兵に応戦した。敵部隊は自動車裏の機関銃の援護を受けて次々と姿を現して神楽小隊を包囲しようとする。問題は機関銃であった。だが自動車の陰に隠れているので、射撃だけで対応は難しい。

「撃つか?」

 小銃を中国兵に向けて撃っている李が小田に尋ねた。彼は背中にAT-4対戦車無反動砲を背負っている。これを撃つか、と聞いているのだ。しかし小田はAT-4ではなく中国兵機関銃手の横に建つビルの窓ガラスを見ていた。

「いや」

 小田はミニミの銃口をビル3階の窓ガラスに向けた。短い連射がガラスを砕き、その破片が下に落ちた。その時になって小田は、もしかしたらガラスの向こうに人が居るかもしれない、という考えが浮かんだ。ガラス片は機関銃手の上に落ちて、それから機関銃の射撃が止んだ。




 その頃、大連の上空を1機のヘリコプターが飛んでいた。卵のような形の機種を持つ小型ヘリで、その機体には帝國海軍では独自にT2Beの記号を与えていたが、世界的にはOH-6カイユース観測ヘリコプターとして知られていた。

 その機体は海軍第510航空隊に所属し、海軍陸戦隊のために偵察飛行をすることが任務であった。敵のレーダー探知を避ける為に港沿いに低空を飛んで北上を続けたカイユースは金州を南下する軍用車輌の列を発見した。

 建物と建物の間を縫うように飛び、慎重に接近するカイユースのパイロットは車列の先頭を進む戦車の姿を認めた。中国軍の数的主力戦車である59式戦車である。

「こいつは武装警察じゃない。正規軍だ」

 それは中国陸軍第60自動車化歩兵師団の先遣隊であった。




太平洋 原子力潜水艦K123

 傍目にも政治将校が脅えているのが分かった。彼は艦の政治指導を統括する責任者として威厳を保とうとしていたが、その空しい努力はまったく実を結んでいなかった。

「危険すぎるんじゃないのか?」

 政治将校の質問にコースチン艦長は笑顔で答えた。

「問題ありません。これもアメリカ艦を奇襲するためです」

 K123は先行するK141との距離を次第に詰めていた。航跡の中に隠れているのだから、当然艦首ソナーは役に立たない。曳航ソナーでは航跡内のK123とK141との正確な距離を測ることはできない。操艦を誤れば、忽ちK141と衝突して海の藻屑となりかねないのだ。しかしK123の乗員は誰もそれを恐れていなかった。彼らは自分達の能力に絶対の自信を持っているのだ。

「同志副長。前回の受信からどれだけ時間が経った?」

 艦長の問いに腕時計と睨めっこしていたベールイ副長は、待ってましたとばかりに答えた。

「5時間です。同志艦長」

「よし。そろそろアメリカ艦が追尾をはじめている頃だろうな。ソナー」

 指名されたソナーマンであったが、その報告は満足できるものではなかった。

「探知ありません」

「うぅん。アメリカ艦はいないのか?」

 ベールイ副長はそう漏らしたが、コースチンはなにか確信したようであった。

「よし。曳航ソナー収納」

 曳航式ソナーは便利だが機動の邪魔になる。その命令はK123が新たな行動に移ることを意味するのだ。

「まて。まだ敵を感知してないのになにをするつもりだ?」

 政治将校が噛み付いた。

「いえ。敵はおそらく敵はすぐ傍にいますよ。近すぎるゆえに曳航ソナーでは捉えられないのです」

 曳航ソナーは遠距離にいる敵を感知するソナーだ。自艦のすぐ近くにいる敵ならば自らのスクリューキャビテーションの中に紛れて感知できない可能性がある。

「確証はあるのか?だいたいそんな近くに居ると本当に思うのか?そのような無謀な潜水艦乗りがそう居るとは…」

 まだ食い下がる政治将校であったが、コースチンは首を横に振って答えた。

「分かりますよ。私は潜水艦乗りですから。潜水艦乗りとは無謀なものなのです」

 それからコースチンは発令所の中で働く部下達を見渡し、それから正面を見据えた。

「よし燻り出すぞ」

 コースチンの言葉に乗組員達の動きが慌しくなった。そして運命の報告が入った。

「曳航ソナー、収納しました」

「潜航舵、下げ舵一杯!急速潜航!」

・大幅改訂計画、今回は【第4部その4】を修正。アルバニアの説明が長ったらしかったので短縮して次話の前半部分とドッキング。その他、若干の修正

・あらすじ部分も改訂。2011年になったので“21世紀になってから11年目”に

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