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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第9部 黄海海戦
68/110

その1 艦隊陣容

ミサイル駆逐艦<涼月>CIC―戦闘指揮所―

 照明を最低限に抑えた薄暗い部屋の中で各種モニターの放つ光がコンソールの前に座るオペレーターたちの顔を不気味に照らしている。

 そして実際に戦闘を指揮する面々、副長を兼ねる作戦運用長(注1)の海軍中佐の古瀬博也(ふるせ ひろや)―彼には、第三艦隊全体の対空戦闘を指揮する権限が与えられている―と古瀬を補佐して実質的に対空戦闘を管制する笹島タチアナ大尉、さらに<涼月>の実際の対空戦闘を実施する砲雷長である海軍中佐の中島(なかじま)譲ノ介(じょうのすけ)。この3人は部屋の前面に張られた巨大なスクリーンを見つめていた。そこには第三機動部隊を中心にした半径500キロ程度の戦域の情報が映し出されていた。それは主に他艦や哨戒機のレーダー情報に無線傍受、その他各種の手段で得られたものを合成したものである。ただし<涼月>のイージス戦闘システムの根幹とも言えるSPY-1Dの情報は含まれていなかった。<涼月>のSPY-1Dレーダーはスタンバイ状態にあった。

 情報によれば戦域内の中国空軍部隊は完全に沈黙している。ただし首都である北京周辺の空軍は盛んにスホイ27をはじめとする戦闘機を発進させ、空中哨戒を実施している。別に帝國空軍は彼らを撃ち漏らしたわけではない。意図的に攻撃目標から外したのである。これは中国政府を追い詰めすぎないようにするという配慮と中国への攻撃を国境線防衛のための限定的なものであるとアピールする目的がある。




 第三艦隊の先陣を進むのはヘリ強襲部隊を運ぶ第一機動部隊である。およそ100キロまで大連に接近したところでヘリボーン部隊を発進させた。現在では大連の50キロ沖合いを遊弋して、大連の陸戦隊に物資をヘリコプターで搬送するとともに、防空作戦を展開していた。

 一方、第三機動部隊は山東半島の威海の沖100キロ地点から中国北洋艦隊に打撃を与えていた。当初の作戦目標は達したので、第一機動部隊の物資運搬任務が一段落したら、交代して第三機動部隊が陸戦隊の防空と支援を担う事になる。それから第一機動部隊は黄海を南下して東シナ海との間の海で行動し中国沿岸にプレッシャーを与える任務につく。洋上を行動するだけで直接攻撃をする予定は無いが、中国軍は防衛のために部隊を沿岸部に分散配置し、大連の海軍陸戦隊や緑鴨江を渡河した陸軍への戦力集中を妨げられる事になる。



 陸戦隊主力を載せた第一両用戦部隊は第一機動部隊からさらに南50キロの地点を北上している。両用戦部隊には様々な艦船が配備されている。

 先頭は第一掃海群の各種掃海艦艇だ。彼らは揚陸部隊が直面するであろう機雷やその外の障害物、さらに海底に隠れている潜水艦などに備えるのが任務だ。

 それに巡洋艦2隻が続く。<阿蘇>と<妙高>は15センチ主砲を装備しているので、艦砲射撃で陸戦隊を支援することができる。

 その30キロ後に続いくのが揚陸部隊の前衛を努める第二海防隊―舞鶴鎮守府から連合艦隊に配属された部隊―が進む。海防艦は駆逐艦に比べると小型であるが、より浅海域に適したソナーシステムを搭載しているので浅い黄海での作戦にはもってこいである。彼らは揚陸部隊の前を進み中国海軍潜水艦の待ち伏せを警戒しているのだ。

 そして20キロ遅れて三隻の揚陸母艦を中心とする主力が続く。三隻の周りに直衛の第一二海防隊―こちらは高雄鎮守府の部隊―の4隻が続く。この4隻は第二海防隊に配属された海防艦の発展向上型であり、やはり浅海域における十分な探知能力を持ち、しかも沿岸部の作戦において大きな脅威となりうる高速ミサイル艇対策として40ミリ機関砲を装備している。肉薄してきたミサイル艇から揚陸艦を守る最後の砦となるのだ。

 しかし、4隻はあくまで最後の砦であって、その前には別の防衛線が展開されている。揚陸艦隊の左舷側、山東半島の正面にはまず第一砲艦隊の砲艦2隻がある。主兵装が76ミリ砲1門で満載排水量1500トンほどの小型艦であるが、小回りが利くので高速艇を相手にするには適する。

 さらに外側には韓国海軍から配属された部隊が配置された。小型高速艇には小型高速艇をということで韓国海軍のチャムスリ型高速艇が組み込まれたのである。ミサイルこそ装備していないが、高速艇との近接戦で威力を発揮する40ミリ機関砲と20ミリバルカン砲を装備しているので、期待が注がれていた。

 そして揚陸艦の後ろには海軍陸戦隊が港を制圧した後、様々な物資や貨物を陸揚げするための貨物船―海軍用語では運送艦―が進む。



 最後尾の3隻は南へと向かった。第八駆逐隊の駆逐艦3隻は朝鮮半島西海岸から突き出ている平安南道と山東半島の間の狭い海域の中へ入り、中国海軍が南から増援を送り込むことを阻止するのが任務である。


 しめて合計40隻以上の大艦隊が西朝鮮湾の小さな海域に集結した。これらの艦隊の防空を指揮統制するのが<涼月>の役割なのだ。<涼月>は第三機動部隊と第一両用戦部隊の間を航行していた。

 現在、空母の直衛グループ以外の艦艇はレーダーを切り、無線封鎖を行なっている。これは脆弱な揚陸艦や貨物船を中国に発見させないための措置である。レーダーを使えば、相手にこちらの位置を教えてやるようなものである。通信連絡は指向性の強い電波を利用し傍受され難い戦術データリンクシステムと衛星回線に限定している。

 そんな有様で護衛の意味があるのかとおっしゃる方もおられるだろう。ミサイル、砲填火器ともにレーダー連動の火器管制システムの使用を前提とする現在の海軍艦艇兵装のことを考えればレーダーを切るということは自殺行為に等しいことかもしれない。だが、かつてある海軍士官が指摘したようにレーダー電波を放出すれば“闇夜の提灯”も同然であり、こちらの位置などの様々な情報が相手に確実に知られることになる。敵に探知され情報を与える危険性と盲目の状態で戦う危険性。それは表裏一体のものであり、現在の電子戦が抱える重大なパラドックスであった。

 幸い通信技術の発達と様々な新しいテクノロジーの投入により、その弱点はいくらか克服されようとしていた。データリンクを通じて自らレーダーを使わなくとも外部から情報を得られるようになったのである。だから特定の艦や航空機のみがレーダーを使用して、他の艦はそれから情報を受け取ることができる。データリンクは極めて指向性の強く漏洩の少ない電波を利用しているので通信傍受の可能性も低い。

 そして何より重要なのは早期警戒機である。そこに航空母艦の意義がある、とタチアナは考えていた。一定の規模の空母は早期警戒機を運用することが可能である。機動力の高い航空機であれば艦隊の遥か遠方に哨戒線を張ることが出来るし、それを捉えただけで艦隊の正確な位置や陣形を知るのも難しい。艦隊が自らの艦載レーダーに頼る比重を減らし、電子戦において圧倒的な優位を生み出すことが出来る。

 計画では後3時間で第一両用戦部隊の先遣部隊である掃海隊が大連沖に到達し、掃海作業を実施する。夕方までには星ヶ浦にLCACで部隊を上陸させ、本日中に貨物船が大連港に入港する。今のところ、順調であった。



 一方、水中では日韓の潜水艦部隊が展開していた。潜水艦部隊は南浦から大連に伸びる水上艦部隊の進撃ルートを基準に、その山東半島側に3つ、朝鮮半島側に1つの哨戒区を設けて1隻ずつ潜水艦を配置した。つまり合計4隻の潜水艦が配置されたことになる。どれも小型の通常動力潜水艦であった。

 日本海軍からの参加は伊四四型潜水艦5番艦の伊号第四八潜水艦である。旧式ながら試験艦として最新の設備を有するために白羽の矢がたった。緒戦で大連上陸作戦支援のために特殊部隊を送り込んだ後、伊四八は山東半島側の一番北の哨区を担当することになる。

 残りの3つの哨区は韓国海軍の潜水艦が担当する。参加するのは張保皐(チャン・ボゴ)級潜水艦だ。同艦は日本海軍の伊五一型潜水艦を基に浅い黄海の特性にあわせて小型化した潜水艦である。

 この4隻は水上艦隊への潜水艦による襲撃を阻止するという任務を帯びているのだ。




太平洋 ソ連シエラIII級攻撃型原子力潜水艦K123

 その頃、太平洋ではソ連艦隊とアメリカ艦隊の鍔迫り合いが続いていた。水上艦隊や航空機が挑発行為を繰り返し、互いの戦力を誇示しようとしている。それは水中においても然りで、ソ連海軍は潜水艦隊の打撃力を見せつけるべく彼らの誇る空母キラーであるオスカー級巡航ミサイル原潜に護衛をつけて派遣していた。その護衛を任された1隻が極東に配置されたばかりのシエラ級攻撃型原潜K123であった。

「K141との距離は?」

 ミハイル・コースチン艦長が尋ねると航海長がすぐに答えた。

「1000を保っています」

「よろしい。数時間以内にアメリカ帝国主義海軍の潜水艦と接触する筈だ。緊張を解くなよ」

 K123は担当のオスカー級原潜K141の引く航跡の中に身を隠して、その状態で艦尾縦舵の上に取り付けられたポッドから曳航式ソナーを繰り出して近づいてくるであろう敵のスクリュー音に耳を済ませていた。

「しかし、アメリカ海軍は本当に我々を感知したとお思いなのかね?同志艦長」

 そのやりとりを見ていた政治将校が尋ねた。彼はアメリカ潜水艦との接触が確実なものとして行動する乗組員たちを心配のし過ぎだと思っていた。

「さっき、K141は衛星海洋監視(レゲンダ)システムからの情報受信のためにアンテナ深度まで浮上しました。その音を奴らは必ず捉えているはずです。奴らは優秀ですよ。同志政治将校」

 敵の海軍を褒め称える艦長の言動に政治将校は些か気分を害した。

「そんな優秀な連中に勝てるのかね?」

「勝てますよ。同志」

 コースチン艦長は先ほどアメリカの潜水艦を褒め称えるのと同じくらいに自信ありげに答えた。




注1―作戦運用長―

 作戦運用科の長であり、電探(レーダー)及び水測(ソナー)、通信によって得られる情報を統括し、艦の作戦指揮を補佐するのがその任務である。作戦運用科はかつての通信科が発展したものである。

 海上自衛隊の船務科、船務長が某本で“実態に即していない。もっともマシな名前に変えろ(意訳)”と批判されていたので、自分なりに考えてみました>作戦運用科、作戦運用長


(改訂 2012/3/22)

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