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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第8部 連合軍北進
60/110

その7 市街掌握

星ヶ浦公園

 機体の下に大砲を吊るした大型ヘリのスーパースタリオンが海星公園までやってきた。吊るされている105ミリ榴弾砲が着地すると、スーパースタリオンはそのままホバリングをして下の作業が終わるのを待った。スタリオンと榴弾砲を繋ぐ索が外されるとスーパースタリオンは母艦に向けて飛び去った。

 これから砲兵隊のための弾薬を待たなくてはならないが、とりあえず海軍陸戦隊1個大隊戦闘群、つまり1個歩兵大隊と1個砲兵中隊―105ミリ榴弾砲5門、その他支援部隊もろもろが大連に上陸を果たしたわけである。ただし車輌は大砲を牽引する分と1個小隊を輸送できる分しか陸揚げされなかったし、戦車に至っては1輌もない。

 だが、ともかく上陸部隊主力が到着するまでの時間を稼ぐ部隊は集結したわけだ。上陸した部隊は大隊長の名から坂田支隊と名付けられた。大隊長の坂田中佐は開設されたばかりの大隊本部テントの中で机の上に広げられた大連市街地地図を眺めていた。偵察隊として派遣した小隊はなんとか港に到達したが、重要な拠点である大広場はまだ確保されていない。早期に港の安全を確保しなくてはならない。

「嶋を呼べ」

 すぐに第一中隊長がやって来た。

「よし。ただちに行動を開始する。第一中隊は大連の要所を制圧せよ!」

「了解!」

 坂田は嶋に砲兵隊向けのものも含めた車輌を全て与えた。大連には今のところ敵は武装警察しか居なかったから、砲兵が機動をする必要はないという判断である。ともかく嶋は手元の2個小隊を運ぶのに十分な車輌を得たことになる。

 彼らが乗り込んだのは五三式中型自動貨車である。アメリカ軍のハンヴィーをモデルにしてトヨタ自動車が製造した四輪駆動車で、1個分隊の兵士を丸ごと乗せることができる。民生型がメガクルーザーとして知られている。

 中隊本部班と2個小隊は中型自動貨車に乗り込むと、市内に向けて出発した。




日本橋

 神楽小隊は待機を続けていた。そこへ中隊本部から通信が入った。

<中隊主力が市内の要所制圧に向かう。大広場を制圧できるか?>

 嶋の問いに神楽は迷うことなく答えた。

「やってみます」

 交信を終えて中隊無線の受話器を渡良瀬に返すと、身に付けている小隊無線のマイクを手にした。

「2-1。こちら1-6。大広場まで行けるか?」

<えぇ。道はしっかり検討しました。もう二度と迷いません>

 小田原分隊長は断言した。

「よし。作戦開始は0750だ」

 神楽は細かな指示を与えた。

「合図とともに突入しろ。交信終わり」

 神楽はついで北公園に待機している班を呼び出した。2個分隊4班を使って大広場を警備する武装警察を包囲する算段である。敵は1個小隊ほどで兵力において勝っているが、相手はあくまで警官であった軍人ではない。武装においても練度においても海軍陸戦隊が勝っている筈である。

「よし。行動開始だ」

 2つの班は左右に分かれた。




大広場

 大広場に面する大連警察署に警備本部が設けられ、そこを1個小隊の武装警察が守っていた。3輌の装甲車と4個の分隊を持つ武装警察小隊は暴徒が相手であれば十分に対処できたであろうが、相手が十分な訓練を受けた軍隊となれば話は別である。そして、その敵はすぐ近くまで迫っている。

 それは確実なことであった。民間人の通報や一般警察からの報告、どれもがそれを裏付けていた。しかし空港に配備された武装警察連隊はまだ動いていなかった。いまだに警察業務のルールは厳密に適用されていたのである。現地警備本部の指揮官は自分の出来る範囲で努力するしかなかった。6時間ずつ区切って1個分隊ずつ交代して警備を担当していたのを止めて、全分隊を警備に就かせた。それができる精一杯のことであった。

 指揮官は腕に嵌めた時計を見た。時刻は日本時間より1時間遅い中国時間で午前6時50分。もうすぐ人々が本格的に動き出す時間になる。


 

 神楽小隊長が直接率いることになった第3分隊第2班は日本橋を渡ってからすぐに右にまわり、大広場から大通りを西に進んで200メートルの西広場に待機した。

 第3分隊長の徳永一等兵曹が率いる第3分隊第1班は大広場北の奥町方面に待機して突入する瞬間を待っている筈である。小田原第2分隊長率いる第2分隊第1班は播磨町方面に待機し、大広場の南に伸びる通りから北上してくることになっている。同副分隊長の松雄悠山三等兵曹率いる第2班は春日町方面に待機して1つ東の通りから同じく北上してくる手筈である。

 神楽は多くのビルのために通信が利かず配下の部隊との連絡が途絶えていた。攻撃の合図は信号弾で行なう事になっているのが、時間までに全ての部隊が配置についていなければアウトである。そして神楽の腕に嵌めた時計の時刻は午前7時50分になろうとしていた。

「信号弾準備。1発だ」

 神楽が命じると渡良瀬が信号銃を上に向けた。信号弾1発が開始で、2発が中止の合図だ。

「撃て」

 渡良瀬が引き金を引くと信号弾が煙を引きながら打ちあげられた。一定の高度に達すると花火のように爆発して火花を散らした。

 それを合図に神楽と渡良瀬の周りに立つ5人の兵士が動き出した。先頭はカールグスタフ無反動砲を軽量化した使い捨て型のAT-4を構える小松一郎兵長であった。最大の脅威は装甲車であるから、それが最優先で破壊されることになった。そして最後に神楽と渡良瀬が続く。

 通りに飛び出すと小松兵長はもう1人の兵士とAT-4を構えて砲口を装甲車に向けた。軍からの払い下げらしい旧式の装甲車の上では武装警察がハッチから上半身を出し、こちらに機関銃を向けているが発砲しようとしない。なにやら喚いているところを見ると、陸戦隊に向けて“武器を捨てろ”などと警告を発しているようだ。勿論、小松兵長は無視してAT-4の引き金を引いた。対戦車榴弾はすぐに装甲車に命中して、ライセンス生産したメーカーの説明する通りに作動した。つまり爆発して装甲を突き破り、その中を焼いてしまったのだ。件の機関銃手は爆発によって外に吹き飛ばされ、路面に叩きつけられた。

「なんで撃たなかったんでしょうね?」

 神楽の隣に立っていた矢吹が尋ねた。

「優秀だったのさ」

 神楽はすぐに答えた。そして一言付け加えた。

「警官としてはな」

 すると、さらに爆発音が2つ続いた。他の班が別の装甲車を攻撃したようである。今のところは彼の小隊は計画通りに動いていた。

「前進用意、前へ!」

 神楽の号令の下、3分隊2班は大広場に突入した。武装警察隊は突然の爆発に混乱している状況であった。そこへいきなり四方から陸戦隊が突撃をかけてきたのであるから、まともに対応できるわけがなかった。冷静な者は陸戦隊に銃口を向けたが、陸戦隊の側は機敏に対処し、すぐに射倒されてしまった。武装警察隊は降伏するしかなかった。

 神楽たちは降伏した武装警察を警察署前に集めると次の行動に移った。

「第2分隊は大広場を守れ。第3分隊は警察署を制圧しろ。かかれ」

 陸戦隊は素早く命令通りに行動した。徳永分隊長を先頭に第三分隊が警察署に突入していく。神楽はそれを見届けると別の建物に向かった。

 神楽は矢吹を引き連れて警察署と同様に大広場に面する建物の門をくぐった。門には<在大連大日本帝國総領事館>という看板が掲げられていた。



 かつての大連市役所を流用した大連日本領事館では総領事が神楽らを待ち構えていた。

「遅かったじゃないか。昨日の本国からの開戦通告以来、ずっと生きた心地がしなかったんだぞ」

 総領事が笑顔を浮かべながら言った。

「失礼。なにか私が聞かなければならないことはありませんか?」

「本国からはなんの訓令はない。私には君に伝えることはなにもないよ」

 総領事は首を横に振った。




大連国際空港 中国武装警察前線司令部

 時刻は中国時間午前7時30分。大広場の大連警察署からの通信が途絶えてから30分経とうとした。そうこうしているうちに大連人民政府庁舎との通信も途絶えた。

 チャン・ピンドゥーは腕時計で現在時刻を確かめると、隣に立つ部下に目を合わせた。

「どう思う?」

「日本軍の襲撃を受けたのではないでしょうか?」

 それが一番妥当な結論だな、とピンドゥーは思った。

「よし。となれば警察本部も人民政府も機能不全に陥ったということになる。そうなれば大連における指揮権は誰が執るのかな?」

「将軍閣下でしょう」

「よろしい。では私が大連地区の行政府、警察の全てを臨時に統率する。それを地区内全域に通知せよ」

 それを聞いた部下はすぐに市内要所に繋がる電話機に向かって走り出した。それからピンドゥーは大連空港に配備されている武装警察連隊の指揮官に目を向けた。

「それでは市街に向かおうではないか。同志」




大広場

 神楽らが警戒を続けていると五三式中型自動貨車の車列がやってきた。車体を覆う幌の一部が開けられて、そこから兵士が1人立ち、銃架に備えられたミニミ機関銃を構えて周辺を警戒している。車輌の数から判断すると1個小隊プラスアルファを運んでいるようだ。そしてプラスアルファの部分は中隊本部であった。先頭の中型自動貨車が停車すると嶋大尉が降りて、神楽の前にやってきた。

「うまくやったようだな」

「はい。我が軍の状況はどうなっていますか?」

 神楽に尋ねられた嶋は地図を中型自動貨車のボンネットに広げた。そして先ほど神楽らが脇を通った聖徳公園を西に400メートルいったところにある大通りを指差した。

「この大正通りより東側を掌握した。これより大隊は持久体制に入る」

 神楽と嶋が会話を交わしているところに第2小隊長がやってきた。

「大尉、小隊集結を完了しました」

「よし。大広場を守れ」

 嶋は第2小隊長に指示を出すと神楽に視線を戻した。

「第1小隊は港を守れ。解散」

「了解。小隊本部は北公園に置きます」

 神楽は大広場を守っていた二個分隊を集めると日本橋に向かった。

 陸戦隊は大連市内を掌握しつつあったが、中国軍も不気味に動き出していた。時刻は日本時間で午前8時半を過ぎていた。

 大幅加筆修正計画は【第2部その4】を実施しました。設定がしょっちゅう変わるようで申し訳御座いません。本当は改変はしない予定でしたが、アメリカ陸軍のC4Iシステムが私の想像以上に進歩していたことが分かり、それを作品に反映することにしました。劇中に登場するのは史実のFCBC2に相当するもので、冷戦が終わっていないので頭のフォース21は除いています(笑)

(追加)

 昨日投稿した時に忘れていました、恒例の史実における現在の大連との地名比較です。

 大連警察署→対外貿易局

 日本総領事館→中国工商銀行大連支店

 西広場→友好広場

 大正通り→西安路

となります。

 ちなみに第3分隊第1班が待機していたのは民生街、第2分隊第1班が待機していたのは延安路、第2分隊第2班が待機していたのは解放街です。googleマップを参考に執筆しました。

 劇中に登場する五三式中型自動貨車は帝國版の高機動車です。

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