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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第8部 連合軍北進
56/110

その3 ヘリボーン

午前6時30分 大連 星ヶ浦

 それは典型的な強襲上陸作戦であった。まず嶋率いる中隊が先遣隊として空中強襲作戦で空挺堡を確保、そこへ空母からヘリコプターで大隊主力を送り込み防御態勢をとる。そして特別陸戦隊主力が揚陸艦から上陸をしてくるのを待つ。それが作戦の計画である。これらの計画は開戦から24時間以内に全て実施される予定であった。

 かくして嶋中隊を乗せた10機のイロコイヘリコプターは陸戦隊の第一陣として空母<大鷲>を飛びたったのである。目標は大連、その南東側にあり黄海に面する星ヶ浦公園及び広場である。一帯は大連でも有数の海水浴場となっており、上陸作戦には最適な地勢となっている。

 現時時間ではまだ朝の5時30分。空は明るくなりつつあるとはいえ、まだ暗い海上をヘリコプターのパイロットは暗視装置を駆使して飛んでいる。中国軍のレーダーによる探知を避けるためにかなり低空を飛んでいて、しかも暗いので水面との距離がつかみ難い。多くを目視に頼るヘリコプター操縦においてかなり難しい飛行であり、パイロットの緊張感はかなりのものであろう。

 やがて水平線上に陸地が見えた。

「着陸1分前!」

 パイロットがその機に乗る陸戦隊を指揮する者に伝える。1番機なら嶋大尉。2番機なら神楽少尉だ。指揮官たちもまたキャビンに乗って降りる時を待っている兵士たちに伝える。

「1分前!」

 ローターやエンジンの音に負けないよう大声で、指を一本立てて手振りも交えて着陸が近いことが伝えられる。それを聞いた兵士たちは銃を握る手に力を込めた。キャビンの脇に外に向けて載せられている二二式重機関銃の銃座についているヘリの機付長もだ。

 着陸地点には第101特別陸戦隊の侵入チームが安全を確保して待っている筈であるが、現地からの情報はなにもない。侵入チームからの発信は緊急時以外には避けるようにしているので、“便りのないのは元気な証拠”というものだが、実際に現地に向かう兵士たちにとってはそれで満足できるものではない。もし敵が待ち伏せをしていたら、そんな考えがどうしてもよぎるのである。

 砂浜のすぐ上まで遂に達した。機付長が機関銃を向けて周囲を警戒する。そしてパイロットは着陸地点を探す。そして暗視装置を通して広場の真ん中で赤外線ライトを振り回す男を見つけた。

「見つけた。これより着陸する」

 護衛の2機のコブラ攻撃ヘリが上空で旋回する下で、第一派の4機が一直線に広場に降下してゆく。

「地上まで10メートル、5メートル、2メートル…」

 地面がぐんぐん近づいてくる。

「1メートル…着地!着地!」

 小さな衝撃とともにイロコイのスキッドが地面に触れた。それとともにキャビンの兵士たちが地上に向けて飛び出す。足を地面につけると息つく暇もなく駆け足でヘリから離れて散らばっていく。

 兵士を降ろすとヘリはすぐに飛び立った。そしてまたすぐに別の3機が降りて同じように兵士たちを降ろす。そしてすぐに飛び立ち、また新たな3機が降下する。かくして10機のイロコイヘリコプターにより1個中隊の兵力が大連に降り立ったのである。

 ヘリコプターが全て飛び去ると散らばっていた兵士たちが小隊ごとに集まり、小隊長が集結を確認する。そして3人の小隊長が嶋大尉のもとに集まった。

「第1小隊、全員揃いました」

 神楽が報告する。二人の小隊長がそれに続く。

「よし」

 嶋は隣に立つ中隊付無線士の背負う無線機の受話器をとった。

「アラタマバシ、こちらアカネ6。アシガラに日は昇った。送れ」

 受領の返事を待って受話器を戻すと、嶋は赤外線ライトをまわしていた男を見つめた。嶋らと似たような野戦服を身につけていたが、彼は独特のオーラを発していた。

「第一特陸、嶋信之助大尉だ」

「S特です」

 少尉の階級章をつけたS特―第101特別陸戦隊の男は名を名乗らなかった。

「周辺に敵軍は居ません。ですが通行人はいます。すぐに警察が来ますよ」

「よし。大隊主力が到着するまでに態勢を整えよう。円陣防御を敷く。君たちが案内してやってくれ」

「了解」

 S特の少尉は頷いた。それを確認すると嶋は再び小隊長たちと向き合った。

「聞いての通りだ。第1小隊は北、第2小隊は西、第3小隊は東。分かったな」




第一両用戦部隊 旗艦/揚陸母艦<大隈> CIC

「アカネ6、アラタマバシ。受領した。交信終わり」

 通信士の1人が先遣中隊指揮官との通信を終えた。

「司令、先遣隊が現地に展開を完了しました」

 上陸作戦の洋上司令部として機能すべく他の水上戦闘艦艇と比べても充実したCICには連合海軍陸戦隊総司令官である石見中将を筆頭に陸戦隊の首脳陣が集まっていた。

「中国軍の動きは?」

 石見の問いに幕僚の1人が答えた。

荘河(ショワンホー)に1個師団が待機中です。動きはありません」

「それでは大連に敵の野戦部隊はいないんだな?」

 石見の問いに幕僚は頷いた。

「はい。人民武装警察の2個連隊が展開のみが確認されています」

 中国軍といえども市街地戦を避けたかったのだろう。それに荘河なら必要に応じて国境にも大連にも増強として向かう事ができる。

 この時、彼らには後続部隊である大隊主力を送り込む手段として2つの選択があった。

 第一に先遣中隊と同じようにイロコイヘリコプターを使う方法である。イロコイヘリコプターは小回りが利き強襲作戦に投入するのに優れている。しかし積載能力という点で劣る。

 第二にスーパースタリオンヘリコプターを使う方法である。アメリカ軍ではCH-53Eの形式番号が与えられて使われているスーパースタリオンは西側最大のヘリコプターで、一度に55人もの兵士を運ぶことができるし、重量物を輸送することもできる。しかし、大型な分、敵の攻撃にあえば逃げるのは難しいだろう。

「だったら輸送ヘリで一気に部隊を運び、空挺堡を一気に押し広げるべきだ。スーパースタリオンを飛ばすぞ」

 石見の一言で方針が決まった。




大連 星ヶ浦

 神楽少尉が左手にはめた腕時計を見ると、時刻は午前6時40分であった。現時時刻は午前5時40分。朝早くの公園にだってジョギングやら太極拳やらやりにくる一般市民も居るだろうから、部隊の存在を知られるのは時間の問題である。神楽の小隊は道路に面する木々の影に隠れて見張りをしているが、そこからも何両かの車が目の前を通り過ぎるのが見えた。その度に緊張が高まる。できる限り、相手が情報を掴んでいない間にことを進めたい。部隊全員の共通の思いである。

 すると無線手が神楽の肩を叩いた。神楽が振り向くと無線手は受話器を手渡した。

<アカネ1、こちらアカネ6。状況を報告せよ。送れ>

 嶋中隊長の声である。

「車が何両か目の前を通った。時々、人も通る。まだ気づかれてはいないが、時間の問題でしょう。送れ」

<了解、よし。小隊を率いて大連大広場に前線観測拠点を設け、大連港を偵察せよ。主力を迎えるには港を確保しなくちゃならん。送れ>

「了解、送れ」

<交信終わり>

 無線が切れると、神楽は3人の分隊長を集めて任務を説明した。4人でしゃがんで輪になり、中心には大連の地図が広げられた。

「第1目標は大連大広場。ここに拠点を設けて港を偵察する。直線距離は8kmだ。一時間半で目標に達する」

 神楽の指示を聞いた分隊長たちはそれぞれの分隊に戻っていった。そして部下達にこれからの行動を伝える。

「小隊前進用意!前へ!」

 1個小隊30人を超える兵士たちが一斉に道路に飛び出した。2個分隊が周辺を警戒し、1個分隊が100メートルほど前進する。すると前進していた分隊が立ち止まって、道の両側に分かれて周辺を警戒する。そして後方で警戒していた分隊の1個が前進して、最初に進んだ分隊を通り過ぎてさらに100メートルほど前進する。このように3つの分隊が交互に前進していく。典型的な相互躍進である。

 朝早いとは言え、大都市である大連にはそれなりに通行人が居るので、神楽小隊の面々は否応なく大連市民の目に触れる事となった。その反応は様々で、驚くもの者あれば、映画の撮影とでも思ったのか無視して通り過ぎる者もいる。カメラを向ける者もいる。しかし陸戦隊の兵士たちにはそうした人々は一切無視して、ひたすら前進した。

 するとパトカーがやってきた。日本の内地のものと同じ白黒カラーの車は日本の治世下に導入されたもののようであった。それが小隊の先頭の前に停車して、中から2人の警官が出てきた。最初は中国語でなにかを怒鳴り散らしたが、相手が日本兵だと分かると日本語に切り替えた。

「止まれ!どういうことだ!これはなんの騒ぎだ!説明をしろ!」

 そこへ神楽少尉が駆けつけた。なにかを言おうとした警官を手で制して、一方的に宣言した。

「我々は日本海軍陸戦隊だ。現在、作戦行動中である。以上」

 それだけ言うと神楽は分隊長に前進を続けるように指示した。2人の警官は完全武装した兵隊を相手に実力行使をできるわけもなく呆然としていた。

「いやぁ、しかし、なにかほっとしますなぁ」

 神楽に付き従っている矢吹兵曹が大連公安のパトカーを見て呟いた。

「確かにな」

 神楽は同意した。大連はほんの3年前まで日本の一部であったのだ。パトカーも日本で見かけるものとほぼ同一であるし、街の雰囲気もどことなく日本と似ている。日本語の看板も多い。

 戦場であるが、随所に見られる日本の面影を感じると一種の安心感を得られる。

「だが、日本の空気を感じるのは内地に帰ってからにしようや」

「それもそうですね」

 神楽小隊は大連港を目指して北上を続けた。

 劇中に登場する星ヶ浦公園は現在の星海公園です。また大連大広場は現在の中山広場を指します。

 大幅加筆修正計画では第二部その3を改訂しました。作中の海軍観を統一するために“どいつもこいつも日本陸軍をボロクソ言うんだから、1人くらい海軍をボロクソに言ってもいいんだろ”の精神で相変わらず海軍をボロクソ言っていますw


(2012/5/25)

 内容を一部修正

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