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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第8部 連合軍北進
55/110

その2 航空殲滅戦

午前6時 空母<翔雀>

 作戦発動の時間を迎えて艦載機が次々と発進していった。先頭は部隊の目となる背部に背負ったドームが特徴的なホークアイ警戒機である。それに旋風隊が続く。天城由梨絵の乗る機もその中に混じっていて、彼女の機体の翼には見慣れぬ爆弾が吊り下げられていた。



 天城由梨絵らの編隊が<翔雀>を飛び立つと同じ頃、僚艦の<大鷲>や各地の空軍基地でも同じように様々な飛行機が飛び立っていた。それらは全て共通の目的を持っていた。つまり中国航空基地に対する攻撃である。



 

山東半島 中国海軍航空基地

 無論、中国側も日本軍の攻撃を黙ってまっているつもりなどまったく無かった。山東半島の航空基地の上空には常時、殲撃7型戦闘機が待機しているし、天安門時代の以前にフランスから導入したクロタル対空ミサイルやソ連製S-75-NATOコードネームはRSA-2ガイドライン―を改良したHQ-2型対空ミサイルを配置して日本軍を待ち構えていたのである。

 しかし6時を過ぎるとレーダーサイトやミサイルのレーダーシステムの画面が一斉に真っ白になった。それがなにを示すかは明らかであった。

「日本軍の電子妨害だ!来るぞ!」

 指揮官の号令とともにオペレーターたちは日本の電子妨害に対する対処行動を始めるとともに、各部隊に警戒を厳にせよという命令がとんだ。



 上空を飛ぶ4機の殲撃7型のパイロットたちは状況の有様に戸惑っていた。地上のレーダーシステムの援護が無くなってしまったので目隠しをされたも同然なのだ。無論、殲撃7型にも機上レーダーが搭載されているが、結果として自分の存在を敵に知らせて的になるだけの可能性もある。だがなにもしないわけにはいかなかった。

 4機のうち2機がレーダーを作動させて敵を捜索し、残りの2機が援護をすることにした。そしてレーダーを作動させたが、なにも捉えなかった。しかし警報アラームが鳴った。



 笠岡中佐はヘッドアップディスプレイ上に映るレーダーが捉えた敵機のシンボルと照準マーカーを重ねた。

「ターゲットロック。イーグル・ワン、フォックス1!」

 海軍航空隊第一編隊の護衛部隊を率いることになった笠岡信太郎はこの戦争における最初の撃墜を行なうチャンスを得ていた。

 ホークアイから誘導されて僚機とともに最適な攻撃位置につくことができた。低空を飛んでいるので機影は海面からのレーダー波反射に紛れて敵のレーダーには捉えられていない筈である。迷わず発射ボタンを押した。

 主翼のパイロンに吊るされている三軍共通誘導弾番号でAAM-3と呼ばれる―正式には三八式空対空誘導弾<桜花(おうか)>だが現場では専らAAM-3が使われる―空対空ミサイルが火薬の力で機体から強制的に切り離され、離れると同時にロケットモーターが点火されて殲撃7型戦闘機目掛けて進んでいった。アメリカのAIM-7スパロー空対空ミサイルを改良したAAM-3は旧式で命中するまで誘導を続けなくてはならないという欠点があるが、その分信頼性が高く命中精度も悪くない。

 2機の戦闘機が発射した2発のミサイルは2機の敵ミグ戦闘機に一直線に吸い込まれていった。空中に2つの閃光が見えた。

<2機撃墜!2機撃墜!>

 ホークアイ機はさらにもう2機が急旋回して逃れようとしている事を伝えた。だが別の旋風戦闘機が向かっているので逃げ切る事はできないであろう。

 笠岡は攻撃機部隊への通信回線を開いた。

「イーグルリーダーよりハスキーリーダーへ。空中の敵は片付けた。侵入せよ」

 271空から成るハスキー部隊のチームリーダーはコールボタンを二回押すだけで了解を伝えた。味気のない返答に苦笑しつつ笠岡は敵航空基地に突入する4機の戦闘機を見送った。



 4機の旋風戦闘機は赤外線照準装置を惑わせる囮熱源(フレア)をばら撒きながら突入した。随伴する電子戦型旋風がジャミングをかけているが、それだけでは光学照準で攻撃できるクロタルミサイルや高射砲を黙らせる事ができない。

 最初の2機が駐機場で待機しているミグ戦闘機の一群や飛行場の施設に向けてクラスター爆弾を投下した。小爆発が次々と起きたかと思うと今度は燃料や爆弾が誘爆して大爆発が起きた。

 さらに二四番(500ポンド)レーザー誘導爆弾を装備している別の2機が突入する。1機がレーザー誘導装置を作動させて目標を指示し、もう1機が爆弾を投下した。爆弾は正確に管制塔に突き刺さり、見事に粉砕した。

 その2機が飛び去ると、さきほどクラスター爆弾を投下した編隊がまた戻ってきた再度爆撃を行なった。この調子でなんどか襲撃を続けて、中国海軍の航空基地は滅茶苦茶になっていた。

 攻撃を終えたハスキーチームの旋風4機と護衛のイーグルチームの旋風4機はそのまま基地を背にして空母への帰投コースを飛んでいた。その頃にはようやく態勢を立て直したのか中国軍が高射砲が砲弾を撃ちはじめたが、掠りもしなかった。



 続いて別の4機編隊が突入した。既に基地の防空火器は目覚めているので、編隊はそれらが届かない比較的高い高度を飛んでいた。心配なのは長射程対空ミサイルであるが、それらはジャミングによって黙らされている。

 2機は護衛機で残りの爆装機を守っている。その1機のコクピットに由梨絵が居た。彼女と僚機の翼の下には特殊爆弾が搭載されていた。その名はBLU-107デュランダルという。帝國空海軍では二〇番特殊爆弾と呼称されるデュランダルは1960年代にフランスで開発されたもので、その用途は滑走路破壊である。

 由梨絵はFCSを対地攻撃モードにした。デュランダルは誘導装置のない無誘導爆弾なので命中させるには絶好のタイミングにうまく投下しなくてはならない。しかし近年に高度に発達したコンピューターシステムのお陰で、無誘導爆弾と言えどもかなり高い精度で投下することが可能になっている。

 由梨絵は痛みに耐えつつ、滑走路に沿って旋風を飛ばした。そして投下地点上空に達した。

「投下!」

 翼から切り離されたデュランダル爆弾は放物線を描きながら落下する。途中でパラシュートが開き、デュランダル爆弾は弾頭を真下に向けて最適の姿勢に整えられた。するとパラシュートが切り離されるとともにロケットが点火され、爆弾は加速しながら急降下して滑走路に突き刺さる。一気に5メートルの地下まで潜ったデュランダル爆弾はその炸薬を爆発させた。ジェットの排熱にも耐える特殊アスファルトが一瞬盛り上がったかと思うと、そのまま陥没してしまった。その陥没の大きさは直径が10メートルを超えている。

 デュランダル爆弾は何発か投下され、山東半島の海軍航空基地の滑走路は完全に使用不能の状態になった。



 攻撃を終えた編隊は母艦への帰還コースに針路を向けた。中国軍は対空砲やクロタルミサイルを撃ってきたが、高い高度を飛ぶ編隊までは届かなかった。

 護衛役を務める第603空副隊長の岡野は後ろでふらつきながら飛ぶ旋風を気にかけていた。由梨絵の機体である。由梨絵は生理痛に苦しみながらの出撃であった。耐えられるほどの激痛というわけではないが、うまく操縦に集中できていないようだ。痛み止めはあったが、服用すれば眠気に襲われるので使っていない。

「あのバカ野郎め」

 岡野はそこまでして攻撃部隊に参加しようとした由梨絵に怒っていた。内地の連中は武勇伝に仕立て上げるであろうが、現場指揮官としては万全の状態でないパイロットを飛ばすなど論外の話である。旋風戦闘機はパイロットの意地のために使い捨てられるほど安い機体ではないし、着艦などの時に事故を起こして誰かが巻き込まれるようなことになったらどうするというのか。




空母 <翔雀>

 4機の旋風戦闘機はつつがなく<翔雀>に降り立った。コクピットから降りた由梨絵は艦橋の壁にもたれて次の出撃の準備をする甲板の水兵たちを眺めている。滑走路と諸設備を破壊したものの、まだ掩体壕(バンカー)の中に格納された敵機が残っている。それを破壊するにはレーザー誘導装置を取り付けた九〇番(2000ポンド)爆弾が必要である。

 それを眺めている由梨絵は落ち着いている様子である。


 岡野も愛機を降りると、由梨絵のもとへ駆け寄った。

「問題はありません」

 由梨絵が岡野に顔を向けないまま答えた。

「耐えられない痛みではありません」

「そういう問題じゃない。お前のプライドのために艦隊を危険に晒すわけにはいかないんだ」

 岡野は由梨絵に背中を向けた。

「2時間後に第二次攻撃隊が出るが、滑走路を破壊した以上はお前が出る必要はない」

「命令ですか」

「当然だ」

 岡野は艦橋の中に消えた。




中国上空

 もっとも遠くまで遠征したのはハルピン郊外の航空基地を攻撃した日韓空軍合同のストライクパッケージであった。清津(チョンジン)基地を飛び立った編隊は九〇番(2000ポンド)レーザー誘導爆弾4発を搭載した夜鷹8機にデュランダル爆弾8発を搭載する夜鷹が2機、護衛の韓国空軍のF-16戦闘機8機とクラスター爆弾搭載のF-16が2機。さらに電子妨害を行なう電子戦型の夜鷹の2機、ワイルドウィーゼル仕様のファントムIIの2機から成っていた。さらに広域の電子妨害が可能な電子戦仕様に改造された大空輸送機が1機。合計25機の編隊である。

 低空侵入を武器とする夜鷹爆撃機であるが、事前に準備期間があったことから適切な電子妨害作戦が実行されたので、その必要はなかった。だから編隊は高射砲や赤外線追尾式ミサイルを避ける為に比較的航空を飛んでいる。

 援護のセントリーAWACSは中国の戦闘機が飛び立っていることを報告してきた。しかし敵は大空の広域ジャミングでレーダーを封じられ目が塞がれた状態である。韓国空軍のF-16戦闘機の敵ではない。

 AWACSから管制を行なう統制官は編隊を2つに分けるように指示を出した。


 まず攻撃を仕掛けたのは護衛のF-16うちの6機から成る小編隊で、基地上空の中国戦闘機をひきつける囮となるのが任務であった。勿論、韓国空軍のパイロットたちはただの囮に甘んじるつもりはさらさらなかった。6機のF-16は散開すると一斉にスパロー空対空ミサイルを発射した。

 中国空軍はこのとき、8機の殲撃7型戦闘機を基地上空に飛ばして警戒にあたらせていた。しかしレーダーがブラックアウトして盲目の状態で飛行を強いられていた中国空軍のパイロットたちは突然のミサイル警報に驚き、ミサイルを避けるべく四方にバラバラに飛んでいった。最初の一斉攻撃で3機の殲撃7型を撃墜すると、韓国空軍のF-16は逃亡した中国機を追っていく。韓国のパイロットたちはたちまち中国機の後ろをとり、サイドワインダー空対空ミサイルを発射して撃墜した。結局、上空の中国空軍機は2機がなんとか逃れることに成功しただけで全滅した。

 地上の空軍基地では空中戦の様子を見てただちに増援部隊を発進させようとしたが、できなかった。中国軍が空中戦に気をとられていて、背後から接近する爆撃部隊を発見できなかったからだ。

 第1撃は防空用のS-75ミサイルに向けられた。日韓軍の猛烈な電子妨害に屈せず、空中の敵を見つけだそうと奮闘していたレーダーにファントムIIが対レーダーミサイルを発射したからだ。2機のファントムIIが発射したアメリカ製のAGM-88HARMミサイルは次々と中国軍のレーダーを破壊した。

 それに続いてクラスター爆弾を搭載した韓国空軍のF-16が突入した。投下されたクラスター爆弾は子爆弾を発進シークエンス中の殲撃7型の上にばら撒き、これを破壊した。

 そして主役の夜鷹部隊が突入する。彼らの目標は滑走路とシェルターであった。

 反復攻撃を繰り返して編隊が爆弾を投下し終えた頃には、中国基地にはなにも残っていなかった。




 このような攻撃は各地の中国軍に対して実施された。後に大日本帝國大本営報道部は開戦から12時間以内に中国空軍機200機以上を破壊したと発表している。

 久々の投稿となりました。

 大幅加筆修正計画では第2部その2を改訂しました。ルビを一部変更した他、最後の注釈のウィーン条約をジュネーブ条約に変えました。無論、現実世界ではウィーン条約で正しいのですが、しかし後から考えてみますと帝國世界ではウィーンは思いっきりドイツ第三帝國領。んなところで国際条約の締結なんてするわきゃないだろ!ってことでジュネーブに変更しました。


 さて、話は変わりますが。先日、元財務大臣の中川昭一氏の訃報をお伝えしたばかりですが、悪い話は続くもので、10月10日に著名な軍事評論家であられた江畑謙介氏がお亡くなりになりました。氏は日本の軍事評論家の中では抜きん出た存在であり、私も氏の書物から執筆するうえでの多くのヒントを得ました。現在、日韓大戦に登場している対巡航ミサイル機XEP-1Cも氏の本の記述を参考に構想したものです。この場を借りて氏に哀悼の意を表させていただきます。

 そして江畑氏を追悼すると称して死人に対し誹謗中傷を行なった某民主党衆議院議員の存在を決して忘れはしません。

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