プロローグ
北海道時事社
戦争間近の報にメディアは色めき立っていた。それはこの北国の一地方新聞社も同じで、韓国に特派員を送り全国紙並の報道態勢を築いていた。なにぶん北海道は中国の背後にいるソ連の目と鼻の先。戦争の行方次第ではソ連が攻めてくるかもしれない。北海道の人々は戦争に大変注目をしていたのである。
20日午前零時。中国は日本の提案を一切も黙殺して、統合常設参謀部が戦時司令部である大本営に格上げされたこともあって開戦は確定的と見なされるようになった。
そして朝7時、戦争に備えて徹夜をしている中韓問題担当デスクの机の卓上電話が鳴った。
「俺だ」
<桂木です。始まったみたいです。爆音が聞こえます>
「よし。とことんやって来い。それで生きて帰ってこいよ」
電話が切れた。それと同時に備えられた机の上のパソコンからメールの着信音が聞こえた。確認すると発信者は日本最大の通信社である同盟通信社であった。
「こっちもきたか」
通信社は新聞社に代わってニュースを収集しそれを新聞社に提供することを仕事する報道機関である。北海道時事社は同盟通信社と契約を結んでいて、地方新聞の常として地元に関するニュース以外は主に同盟通信の配信するニュースで埋めていた。
デスクはすぐにメールを開いた。内容はデスクの予測どおりであった。
<同盟通信ニュース速報。中韓国境線で日韓連合軍が中国軍と交戦状態に突入したと思われる>
その後に現在分かっている情報が未確認のものも含めていくつか付け足されている。
内容を確認したデスクは立ち上がって周りの同僚達に向かって宣言した。
「お前ら戦争が始まったぞ。書き入れ時のはじまりだ!」
同僚達は足を止めてデスクの顔を見入った。その本気を感じ取った彼らは一斉にまた動き出した。
皇紀2660年3月20日午前6時。大日本帝國と大韓帝国は中華人民共和国と事実上の戦争状態に突入した。それは後に第三次世界大戦と呼ばれる戦争の序曲となることにまだ誰も気づいていなかった。