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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第7部 最後通牒
51/110

その13 宣戦布告

3月20日

午前0時 首相官邸 閣議室

 時計の3つの針が12を指して重なり、そして秒針がすぐに離れていった。

「総理、期限を過ぎました」

 閣議室に集まり運命の時を待っていた閣僚達の間の空気は園部のその言葉によって重くなった。

「中国からはなんの通告もないのかね?」

 宮川首相の問いに蛭田外相は首を横に振った。

「大使館に何の動きもありませんし、電話会談の申し込みもありません」

「となると中国は我が国の提案を拒絶したと受けとらざるえないな。吉野君。軍の様子はどうなのだね?」

 宮川はたった今、統合常設参謀部から昇格した大本営の総長となった陸軍大将を指名した。

「帝國軍ならびに同盟国の韓国軍とも戦闘準備を出来ています。命令があり次第、現地司令部に作戦発動を命じます。それにより日本時間で午前6時から攻撃が開始されます。それと1つ朗報が」

 その顔は朗報という割には嬉しそうではなかった。

「最新の情報によりますと、今のところは中国軍の第二砲兵部隊に動きはありません。海軍の(シア)級原潜も胡芦島(フールータオ)の基地に引篭もったままです」

 第二砲兵とは中国人民解放軍の各種弾道ミサイルを管轄する部隊であり、海軍の夏級戦略ミサイル原潜とともに核抑止力の担い手となっている。

「我々がこれから行動を起こす事は当然予期しているでしょうから、それらの部隊を動かさないということは核攻撃をしないという意思表示と見ていいでしょう」

 吉野の声はどこか自信なさげであった。

「まぁ信用するしかないか」

 宮川も同様である。

「よし韓国首相に最終確認をする」

 宮川は韓国の青瓦台との直通回線に繋げられた電話機の受話器を取った。

「首相。期限を過ぎました。事前の決定通り、貴国と協同で中国に対して武力行使を行なうということになりますが、よろしいですかな?」

<我が方には何の問題もありません。我々大韓帝國は日本とともに戦う覚悟を決めております>

 韓国国務総理のイ・ホニョンの声は宮川首相よりも元気そうであった。

「これが戦争を避ける最後のチャンスになりますが、構わないのですね」

<えぇ。やり遂げましょう>

「ありがとうございます」

 宮川は受話器を戻した。

「吉野大将。軍に対して乱号作戦の発動を命じる」




午前0時半 ソウル 大日本帝國陸軍朝鮮軍司令部

 1台の公用車がソウル龍山地区の日本帝國軍駐屯地正門の前に停まった。中から出てきたのは佐々勝太郎であった。彼は門を潜ると、司令部に直行した。

 司令部には飯田正巳陸軍大将を中心に参謀や司令部要員たちが集結して、その時を待っている。そこへ佐々が入ってきた。佐々はその緊張感漂う状態に驚いた。

「君かね?内地から派遣される連絡将校というのは」

 飯田が尋ねると佐々は敬礼をしつつ笑って答えた。

「えぇ。そうです。いやぁ参りましたよ。いきなり“行ってこい”でしたから。で状況に進展は?聞くまでもなさそうですが」

 既に時刻は0時を過ぎている。内地からの何らかの指令が届いているはずである。もし戦争を回避したのであればこの緊張感は無かったであろう。

「乱号作戦発動だ。開戦だよ」




午前1時 黄海 潜水艦伊48

 伊48潜水艦は深度20メートルの潜望鏡深度でシュノーケルと通信用アンテナを水面上に上げてディーゼル推進により航行していた。

 通常動力型潜水艦でディーゼルエンジンと電気モーターを使って航行する。水上航行時ないし浅瀬でシュノーケルを使って航行する時にはディーゼルエンジンで船体を動かしつつ蓄電池の充電を行い、海面上から完全に遮断された状態で航行する時には充電された蓄電池の電気でモーターを動かして航行するのである。

 伊48の場合は昨日に作戦海域に到着してからはずっと着底していてほとんど電池の消耗はなかったので、シュノーケルを上げてディーゼル機関を動かしているのは充電目的ではなく艦内に外部から空気を取り入れること、そして同時にアンテナを上げて司令部からの命令を受信することを目的としていた。

「艦長。第六艦隊司令部より暗号電文を受信しました」

 通信士官が艦長に報告すると艦長はシュノーケルとアンテナを格納するように命じた。推進機関はディーゼルからモーターに切り替わり、艦内が静かになった。艦長は通信士官からテレタイプが打ち出した通信文を受けとった。

「艦長。内容は?」

 副長である先任将校が艦長に尋ねた。

「開戦だそうだ。総員配置だ。戦闘配備」

 それを聞いた先任将校はすぐに艦内放送のマイクを手にした。

「第一種戦闘配備。総員、配置につけ。これは訓練ではない」

 艦内の照明が赤い戦闘ランプに切り替わり、乗組員の動きが慌しくなる中、艦長は自分の艦が無事に帰れることを祈った。

 その時、ソナー室に詰めて水中の音に耳を澄ましていた水測員が発令所に繋がる艦内マイクに向かって叫んだ。

<着水音。何かが海面に落下。爆雷ないし魚雷の可能性あり!>

「急速潜航。潜航角最大、深度50!最大戦速!」

 艦長は反射的に命じていた。船体が急速に傾き、海図台の上に載せられていたコーヒーカップやら文房具やらが床に落ちた。

面舵(おもかじ)一杯!」

 艦長が更なる命令を発した。操舵手が飛行機の操縦桿にも似た舵輪を動かして艦首を右に向けた。モーターを目一杯回している状態で艦を急速に回頭させたので、それによって海水が激しく動き水流が生じた。この水流はアクティブソナーを反射するので、魚雷のセンサーを混乱させることができる。ナックルと呼ばれる古典的な魚雷回避法である。

「モーター停止、スクリュー止めろ。デゴイ射出」

 最後に敵魚雷が伊48のスクリューキャビテーションを追跡するのを防ぐためにスクリューを停止させた。さらに偽のスクリュー音を出して魚雷を惹きつける(デゴイ)が、75ミリ信号発射菅―ちなみにこの装置は海中の水温を計るセンサーや射出の一定時間後に暗号電文を送信する特殊な通信ブイを射出することにも使用される―より海中に放たれる。

 推進力を失った伊48の船体は慣性により自然に沈んでいく。あとは運だけが頼りである。すると水測員が今度は落ち着いた声で報告した。

<スクリュー音なし。魚雷ではありません。物体から何かが分離。分離した物体が海面に到達。音が途絶えました。動きが止まったようです。あっ、さらに着水音…>

 さらに水測員の報告は続いたが、艦長はもう緊急性はないと判断した。

「機雷か…」

 この時、中国海軍は航空隊の爆撃機と潜水艦を動員して、遼東半島と山東半島の沿岸に機雷を敷設していた。

「潜望鏡深度まで浮上。通信準備!」

 これは艦隊に報告をしなくてはならない。




午前3時 空母<翔鷲> ブリーフィングルーム

 第三機動部隊の司令である八角提督がパイロットたちの前に立っていた。そのパイロットたちの中には由梨絵も居た。

「あと3時間で作戦が発動する。我が機動部隊の最初の目標は山東半島の中国海軍航空基地である。この一帯の基地には中国海軍航空隊が1個師団前後、配備されていると見られている。この作戦はそれを襲い海軍航空隊の作戦能力を奪うのが目的である」

 続いて隣に立つ情報参謀が最新情報の報告を始めた。

「最新の情報によると目標となる基地に配備されているのは強撃5型と殲撃7型であるようだ。長距離飛行が可能な機体は内陸部の基地で待機している。我々にとって最大の脅威となるのは北京郊外の基地に配備されている空軍のスホイ27であることは間違いないが、首都防衛の要であるこの部隊が山東半島まで出てくる可能性は低い」

 説明を続ける情報参謀であるが、笠岡隊長はほとんど聞き流していた。彼の意識は由梨絵に向けられていた。彼女はなんと作戦に志願したのである。



 ブリーフィングが終わりパイロットたちは解散していった。笠岡はその中で由梨絵を呼び止めた。

「天城大尉。どういうつもりだ?自分の身体の状態は分かっているだろう」

 由梨絵は体調不良に悩まされているのはみんなが知っている事実である。

「大丈夫ですよ。それにアレを使う訓練を受けているパイロットは限られていますから。私が出撃しないと、他の人が大変でしょう」

 そのように笑って答える由梨絵であるが、痛みをガマンして無理に笑っているのがすぐに分かった。

「岡野の言葉に意地を張っているなら、やめるんだ。俺には部隊の安全を守る義務がある」

「違いますよ。私はそのための訓練を受けたプロです。プロとしてやるべきことをやる。それだけです」

 由梨絵はそれだけ言うと笠岡に背中を向けた。




午前4時 新義州

 地上戦において日本軍の主力となる第三軍を構成する3個師団は新義州郊外で待機していた。第三軍司令官の小牧春雄(こまき はるお)中将は隷下の師団長及び旅団長を集めて、最後の作戦会議を開いた。

 中心になるのは3人の師団長、つまり第二〇師団長の姶良彰彦中将に第六師団長松永武雄(まつなが たけお)中将、そして近衛師団長の如月一二三(きさらぎ ひふみ)中将である。近衛師団第三旅団の指揮官で、北海道で“旅団長殿下”こと成仁王に演習で敗れた佐賀大佐も如月中将に付き添って会議に参加していた。

「作戦は以前の打ち合わせどおりで大きな変更点は無い。敵軍に関する最新情報であるが、やはり増援部隊の到着とともに第39集団は後方に下がったのは事実のようだ。国境を守っているのは済南軍区から増援と駆けつけた第20集団軍と南京軍区の第31集団軍と思われる。第39集団軍は瀋陽周辺に布陣して、最終防衛線を形成している」

 第39集団軍は瀋陽軍区の切り札とも言うべき集団軍である。配下の部隊には韓国へ進撃すべく江界を目指して南下していたが、到着前に日韓軍に進撃路となる橋を奪われて作戦に失敗した第三装甲師団など完全に機械化された部隊が配属されている。

 中国軍は増援として駆けつけた2個集団軍を駆使して瀋陽と国境の街である丹東の間を隔てる千山(チェンシャン)山脈で遅滞戦を行なって日韓軍を疲弊させ、瀋陽手前の平原で精鋭第39集団軍を投入して決戦を挑むつもりのようである。

 これらの情報は通信傍受と衛星偵察によってもたらされたものであるが、それは小牧にも伝えられなかった。

「質問はあるかな?」

 小牧の言葉に手を挙げる者はいなかった。

「よろしい。各部隊の状態はどうなのだね?」

 その質問にまず松永第六師団長が答えた。

「我が師団の士気は高いです。ただ近代化が他の師団ほど進んでいませんので、その点がどのように影響するかが心配です」

「なるほど。それではその分、近衛と第二〇師団には頑張ってもらわないとな。姶良中将、君たちが先鋒を務めてもらうことになるが大丈夫かな?」

 小牧に指名された姶良は緊張した面持ちで答えた。姶良の指揮する第二〇師団は地元の部隊であるためか第三軍の先頭を進むことになっている。

「えぇ。これまで訓練に訓練を積んできました。彼らならやってくれると確信しております」

「よろしい。如月中将、そちらはどうかな?」

 如月も厳しい面持ちである。彼の指揮するのは近衛師団だ。天皇の警護部隊と設立された近衛師団は陸軍のエリート中のエリート部隊であり、それ故に戦果への期待も他の部隊とは桁が違う。今、如月の肩の上には1万5000人の将兵の命だけではなく“近衛”という名も重みとして圧し掛かっているのだ。

「大丈夫です。かならずやり遂げます」

「君たちは瀋陽郊外で決戦となった場合、敵の第39集団軍を包囲する役割が与えられることになるが、その方は大丈夫かね?」

「右翼を担うのは佐賀大佐の第三旅団であります。北海道では“旅団長殿下”の部隊と交戦して大いに鍛えられたようですから大丈夫でしょう。だよな?」

 如月に促された佐賀は一歩前に出ると言った。

「はい。必ず敵を倒します」

 小牧は配下の指揮官達の言葉に満足した。

「よろしい。徹底的にやろう」




 第二〇師団捜索連隊の樋口軍曹は四八式重装甲車のもたれて、タバコを吸っていた。

「調子はどうだ?」

 山口大尉がやってきた。彼は中隊の兵士たちの様子を見回っているのだ。樋口は敬礼をして、手に持ったタバコの火を消そうとしたが、山口は手を振って止めた。

「別に構わないよ」

 樋口は火のついたタバコを手に持ったまま山口の問いに答えた。

「覚悟を決めましたよ」

「そうか。よし中国人どもをやっつけような」

 山口は樋口の肩を叩いてからその場を去った。



 指揮車輌の停まるところに戻ると、そこには連隊長の椿大佐が待っていた。山口は敬礼をしてから、椿の前に立った。

「部下の様子を身に来たんですかな?」

 山口が尋ねると椿は頷いた。

「その通りだよ。君と同じだ」

 椿はまわりに停まるの装甲車を1輌1輌、眺めた。どの車輌も敵空軍に狙われるのを防ぐ為か偽装を行なっていて、戦場であるという空気を醸し出しているが、その周りの兵士たちは落ち着いているようであった。

「やはり一度、実戦を経験したというのは良かったな」

「えぇ。みんな実に落ち着いていますよ。他の部隊の連中はどうなんですか?」

 椿は首を横に振った。

「緊張している兵士がかなり居るよ。経験というのは本当に大事だものだ。まぁ慣れたくはないがね」

「えぇ。ところで兵士たちを乗車させますか?」

 山口は装甲車から降りている兵士たちを見ながら言った。

「まだいい。どうせ渡河できるようになるのは昼過ぎだ。もう少し休ませよう」




午前5時 宣川飛行場

 国境線から50kmばかり離れた宣川飛行場には数十機にも達するヘリの大群が待機していた。そしてヘリに乗り込む日韓の空挺部隊の兵士達も最後の準備をしている。彼らの任務は陸上部隊の第一陣として中国領に乗り込み、機甲部隊の進撃路を確保することになる。

 彼らだけではない。鴨緑江(アムノッカン)という自然の障害を突破するために日韓の特殊部隊、コマンド部隊が様々な手段で中国領への侵入している。それは既に始まっているのだ。



 時間が着た。兵士達は次々とヘリコプターに乗り込んでいく。中心となるのは大型で最大50名ほどの兵士を載せることができるCH-47チヌークである。さらにUH-1イロコイやUH-60ブラックホークのように小型の機体も見える。さらに彼らを護衛するAH-1コブラ攻撃ヘリの姿も見える。

 ローターが回転し始め、兵士や武器を載せたヘリコプターが次々と飛び立っていった。




午前6時 空母<大鷲>

 帝國海軍の通常動力航空母艦<大鷲>は直属の護衛艦とともに大連を目指していた。日本時間では午前6時であるが中国時間では午前5時。ちょうど夜が明けようという時間である。

 普段は戦闘機が並ぶ飛行甲板には帝國海軍ではT3Beの形式番号が与えられているUH-1イロコイの日本バージョンが並んでいる。嶋信之助大尉率いる第1大隊第2中隊の面々はこのヘリコプターに乗って空中機動(ヘリボーン)で、大連上陸部隊第一陣として乗り込む手筈になっている。

 元々、この手の任務は第二次世界大戦中に建造された雲龍型航空母艦を改造したコマンド空母の役割であったが、1970年代から80年代にかけて相次いで退役し後継艦が予算上の理由で対潜巡洋艦―現在の<芙蓉>型―に化けてしまったので、コマンド空母の役割は正規空母が引き継いでいる。

 ただ、この措置は海軍上層部にはまさに光明であったに違いない。ヘリボーン作戦支援を理由に空母保有を正当化できるのだから。

 1965年に日米相互防衛条約が締結されて以来、海軍の空母はその存在意義が常に疑問視されていた。陸海空軍の各省の兵部省への統合と日米同盟の締結により帝國軍の仮想敵国はソビエト連邦と中華人民共和国に統一されたわけであるが、それは空軍の足の届かない洋上を行動する艦隊に空の傘を提供するという空母の必要性が失われた事を意味する。“目の前の敵と戦うのに空母は必要ない。それより陸上航空に力を注ぐべきである”という意見が幅を利かせていたのである。それに対して海軍艦隊航空派は水陸両用作戦支援を理由にして空母保有の正当性を訴えているのだ。

 だが艦載機部隊が空中戦と対艦攻撃の訓練が中心に行なわれ水陸両用作戦支援に不可欠な対地攻撃がお座なりにされている現状を見れば本心からの主張では無いのは明らかである。

 その点は嶋や神楽らも十分に承知している。艦隊の連中が海軍陸戦隊に敬意を示す場面など見たこと無かった。陸戦隊の兵士たちはただただ自分の任務を完遂するのみである。



 兵士たちは1個分隊ごとに乗り込むヘリコプターの前に並んだ。みんなが緊張をしていた。神楽小隊長をはじめ陽気さで知られる第1小隊の面々も同様である。見かねた嶋大尉は神楽三門に声をかけた。

「神楽。戦闘の経験は?」

「ありません」

 あたりまえでしょう、と神楽は言いたかった。すると意外な答えが返ってきた。

「実は俺も無い」

 周りの兵士はみんな目を丸くした。湾岸戦争帰りの経験豊かな士官というのが嶋の評判であった筈である。

 すると第2小隊の指揮官がなにかに気づいた。

「そういえば、ずっと待機状態だったんでしたっけ」

 神楽も湾岸戦争の戦史を思い出した。湾岸戦争時に日本海軍陸戦隊は一部のアメリカ海兵隊部隊とともにイラク沿岸への上陸作戦の準備をして待機をしていたのだ。これはイラク軍に沿岸防衛のために戦力を割かせて陸軍部隊の攻勢を支援することを目的としており、上陸作戦自体は得られる戦果が想定される損失と割に合わないということで実行されなかった。その結果、日本海軍陸戦隊はカフジの戦いにも、サダムラインの突破にも参加できず、実戦らしいことを1つも経験しなかったのだ。

「つまり俺もお前らと同じで戦闘処女ってわけだ。だがよ。俺達は海軍陸戦隊だ。選りすぐりの、男の中の男なんだ!だからよ。何時までも初体験を目の前にしてベットのなかでブルブル震えている処女みたいな顔をしてんじゃないぞ」

 嶋の叱責。それを聞いた第1小隊の古参兵である小田上等水兵が隣に立つ兵士にむかって言った。

「岡野!お前のことを言っているんだぞ」

 それを聞いた兵士たちがどっと笑い出した。

「俺は処女じゃないっすよ!」

 必死に弁明する岡野。それがまた笑いを誘う。

「でも童貞だろ」

 別の兵士がそう指摘したことで兵士たちの笑い声は最高潮に達した。その様子を見て嶋は安堵した。

「よし。乗り込め!」

 100人ほどの兵士たちはそれぞれ割り当てられたヘリのキャビンに乗り込んだ。嶋は一番機に、神楽は2番機に乗り込んだ。全員が乗り込んだのを確認すると嶋はパイロットにGOサインを出した。

 10機のヘリコプターが嶋の乗った一番機を先頭に順に飛び立っていった。目標は大連である。




午前6時半 韓国 慈江道

 オ・チャンソク曹長は自分の分隊を率いて布を外され骨組みだけの幌があるトラックに乗り込んでいた。

 彼らの属する第15歩兵師団のトラックが縦隊となって街道を北に進んでいる。兵士たちは特設の座席に座り、命令が下るのを待っている。夜が明けつつある空には雲ひとつなく普段なら良い演習日和であると喜ぶところであるが、今の兵士たちは戦場に向かっているのである。戦争日和をうれしいと思うものはいない。

「おい。あれを見ろ!」

 誰かが進行方向を指差し、兵士たちが立ち上がって示された方向を見た。

 黒煙が見えた。1つではなくいくつも。爆発音も聞こえる。

「戦場だ!」

 誰かが叫んだ。いよいよ戦争が始まったのである。

 ようやく開戦です。読者のみなさま、長らくお待たせいたしました。次回より日中開戦となります。というわけで次回予告です。


予告編 第8部『連合軍北進』

 いよいよ中国と日本・韓国との間で戦争が勃発した。大連を目指す海軍。鴨緑江(アムノッカン)を渡る陸軍。中国は如何なる迎撃作戦を行なうのか?そして日韓連合軍はそれを突破できるのか?

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