その1 為政者たち
帝都 東京
新年を迎えて一週間ほど経った帝都の街は、正月の雰囲気はとっくの昔に吹き飛んで小学生から代議士まで平常運転に戻っていた。
内閣書記官長の園部由紀夫は政府専用ヘリコプターの上でその日の朝を迎えた。上空から眺める帝都東京の風景は、まさに格別であった。夜景が1番だが、東の空が明るくなり始めて今の時間帯も決して劣るものではない。男はまさに全ての支配者にでもなったかのような気分を味わっていた。
「今年で38年目か」
園部は拓務省(注1)の官僚として租借地の関東州や保護国である大韓帝國に対する政策に関わり、中国の内戦とそれに対する日本の介入の様を見てきた男だった。
「そんだけ経っても振り回されることになるとはな」
彼が朝早くから呼び出されたのは、韓国と中国に関する問題に対してのものだった。
「書記官長、まもなく到着します」
前に座る秘書が、真下を見て、眼下の首相官邸を確認して言った。
「さてと、また忙しい一日が始まるぞ」
午前6時、園部は首相官邸の敷地内のヘリポートに降り立った。
太平洋
海中を巨大な潜水艦が進んでいた。世界を滅ぼす力を内に秘めて。
艦内では水兵達が慌しく動き回っていた。顔は緊張感に溢れ、これから起こることの重大さを物語っていた。
とくに緊張していたのは帝国海軍原子力潜水艦<長良>の火器管制室の住人達だ。彼らは艦長がここを訪れるのを、腕にはめた時計を睨みつけながら待っていた。
<長良>は旧式ながら帝国海軍の中で最も強力な戦闘能力を持つ艦であった。船体に納められた16発の弾道ミサイル―米国から供与されたSLBM(潜水艦発射型弾道弾)トライデントI―の弾頭は、数百万人の命を一度に奪う事のできるだけの破壊力を秘めている。
だが、帝国海軍の重鎮達がこの恐るべき威力を理解するのはつい最近になってからである。この艦に<長良>という名前が与えられているのがその証拠だ。河川の名前からとった艦名を与えられるのが原子力潜水艦の命名規則となっているが、これは重巡洋艦と軽巡洋艦の区別を廃止され巡洋艦の命名規則が山岳名に統一されたことによって軽巡洋艦に付けられていた河川名が余り、同じ頃に急速な発展を見せ軍艦に昇格した原子力潜水艦の艦名に流用したのだ。そのようないい加減な流れは帝国海軍上層部の潜水艦軽視の現れだった。
結局、原子力潜水艦が軍艦になったのも結局は英米に追従した結果で、技術が進歩し世界を滅亡させるほどの力を秘めたとしても所詮潜水艦は潜水艦であり、水上艦隊を補佐する存在でしかないというのが海軍上層部の本音であった。1990年代になって初めて潜水艦出身の軍令部総長が誕生してから、ようやく流れが変わったのだ。
火器管制室と外部を隔てるハッチを叩く音。1人の下士官がハッチを開けると、艦長の瀬川大佐の厳めしい面が表れた。
「攻撃準備」
瀬川はそう一言言うと、部屋の主であるミサイル士官に金属製のキーを渡した。ミサイル士官はそれを壁と一体化した装置の差込口に挿入すると、視線を装置に向けたまた尋ねた。
「艦長。攻撃は確定ですか?」
「確定だ。攻撃は確定だ」
「了解。これより発射手順を開始します」
ミサイル士官は挿し込んだキーを90度右に回した。それと同時に装置が不気味な駆動音を響かせ、各種計器や作動状況を示すランプが緑色の光を発した。
「安全装置解除用意。艦長、暗号コードをお願いします」
ミサイル士官からそう求められると、瀬川は懐からカードと数字が書かれたメモを手にとった。数字は、首相官邸から暗号化されて送信されたもので核弾頭の安全装置を解除する為のコードである。
ミサイル士官はカードを装置に挿し込み、メモに書かれた数字を入力した。
「安全装置解除。トライデント攻撃はじめ、用意!」
<長良>に搭載されている弾道弾は米軍との協定で供給されたものだが、核弾頭は日本製である。
「2番発射管開放」
オペレーターの1人が装置についている数字が書かれたボタンの中から「二」と書かれたボタンを選び、押した。
油圧の力で、ミサイルを覆っていた金属の蓋が動き出した。
「発射用意よし。トライデント発射はじめ!5、4、3、2、1!てっー!」
それと同時に<長良>の船体が揺れた。
トライデントミサイルが発射管を昇っていく。ミサイルは艦を離れてもなお上昇し、海面に達すると固定燃料に点火された。白い航跡を残してミサイルは空に消えた。
「トライデント発射成功!発射訓練は成功です!」
ミサイル士官は興奮していた。
首相官邸
1929年に竣工して以来、歴代総理大臣の執務を行なう場となっている総理大臣官邸は地下1階地上3階の鉄筋コンクリートの建物で、建築時は流行のデザインを取り入れたハイカラな建物であったが、現在では旧式化が進み、去年より新官邸の建設が始まっている。
その閣議室に、帝国の閣僚達が集まり円卓を囲むように置かれた高級椅子に腰を下ろしていた。今日は朝早くから臨時の国家安全保障会議(注2)が召集されたのである。
その中心となるのは去年の夏に内閣総理大臣に就任した宮川尚である。昨年の夏に52歳の若さ―60代70代が当たり前の政治の世界では十分に若い―で衆議院第一党の立憲政友会総裁、そして内閣総理大臣の地位に就いた逸材である。
集まったのは国家安全保障会議の正規構成員の閣僚たちである。宮川を筆頭に、元拓務官僚の子爵である園部由紀夫内閣書記官長、同じく伯爵の内務大臣である大河内伸太郎、同じ立憲政友会所属の衆院議員で外務大臣の蛭田栄治、元陸軍参謀総長にして貴族院勅撰議員の八雲忠正兵部大臣、官僚から抜擢された椿玉次郎商工大臣、立憲政友会所属の衆院議員の飯沼吉雄運輸通信大臣と佐渡勝太郎大蔵大臣の8大臣が出席した。
さらにオブザーバーとして日本の情報機関の中核である内閣情報調査局から杉田太郎情報局総裁、さらに外務省から徳川奈津美外務省政務局長と今川茂同アジア大洋州局長、さらに軍からは陸軍大将吉野新吉統合常設参謀部総長、海軍中尉神楽美香統常参謀部第二部分析官も参加している。
「太平洋上で海軍の戦略潜水艦<長良>が弾道弾発射に成功しました」
海軍から派遣された連絡員が閣僚達に向かって言った。返事は拍手だった。
「よくやったぞ。これで我が国の国防は安泰だ」
宮川は賛辞を述べたがあくまで形式上のものであった。
「後の処理は海軍に任せて、安全保障会議を行なおう。報告を聞きたい」
最初の報告者は神楽であった。
「統常参謀部第二部所属、海軍中尉、神楽美香であります」
そう言って型にはまった敬礼をすると、手元の鞄の中から書類を取り出した。それは統常参謀部第二部が得た情報を簡単にまとめたもので、すでにコピーが閣僚達にも配られていた。
統合常設参謀部は第二次大戦後に設置された平時における陸海空各軍間の連絡と統率、そして奇襲攻撃への対処を行なう機関であり、戦時には大本営に再編成される。第二部は情報収集を担当する部署で、美香はそこで分析官をやっていた。
「お手元の資料をご覧下さい。これは在韓日本大使館付武官を経由して送られたもので、韓国軍の大規模演習の通告であります。全国各地で同時に行われ、中韓国境線付近にもかなりの大部隊が展開しており、そうとう大規模な演習になると思われます。陸軍のほぼ半数を動員するとか」
大韓帝國軍は常備兵力80万と日本の78万を上回っている。特に顕著なのが陸軍力であり韓国陸軍70万、これだけでも皇軍総兵力に匹敵する大兵力である。その半数と言えば35万。これだけで、そこらの中堅国の総兵力に匹敵する。
それを聞いて大河内が美香に向かって尋ねた。
「韓国は支那に戦争を仕掛けるというのかね?」
その発言に今川が食って掛かった。
「中華人民共和国、中国です。国交回復時に政府公式ではそう呼称することが決まったじゃないですか?」
外務官僚である今川は、その手の発言1つ1つが国際問題に発展しかねないということを知っていた。
「いいだろう?別に公式な場というわけじゃないのだから。わしにはこっちの方がしっくりくる。で、どうなんだね?」
「韓国軍が中国に戦争を仕掛けるか?答えはNOです。動員されている部隊のほとんどが前線戦闘部隊で、兵站部隊にあまり動きがありません。あくまでもデモンストレーションと見るべきです」
そう言い終えると、美香は腰を椅子に下ろした。それと入れ替わりに別の男が立ち上がった。今川だ。
「ご存知である事と思いますが、韓国では近頃の経済不調により右傾化が進み民族主義が盛んに叫ばれるようになりました。現首相は経済政策の失敗から支持率が急落しておりますが、その状況を打開する為に対外政策で得点稼ぎをするつもりだと思われます」
今川は一呼吸置くと、壁にかけられた極東近辺の地形図の前に立った。
「そこで注目されるのが、韓国に隣接している中国の朝鮮族自治区です。韓国はここの領有権を主張しております。現首相はここを利用してくるのではないでしょうか?」
中国吉林省東部には延辺朝鮮族自治区がある。この一帯には延吉市を中心に多数の朝鮮系の人間が住んでいる。
「この演習はおそらく民衆と軍部の支持を得るための示威行為だと思います。問題は後処理です。国内を盛り上げて、それをどう収拾するか。あの男はそれを考えて行動しているとは到底思えません」
「中国はどう対応するのかね?」
宮川はめんどくさそうに尋ねた。答えたのは美香だった。
「人民解放軍の瀋陽軍区が警戒レベルを上げ、予備役を動員しています」
予備役を動員しているということは単なる脅しでは無く、実戦に備えた行動であるということだ。宮川は続けて尋ねた。
「もし両軍が衝突したらどうなる?」
答えたのは吉野大将だった。
「瀋陽軍区はかつてはソ連軍、中ソ関係改善後は主に韓国や在韓米軍及び在韓皇軍を仮想敵として、中共軍の七大軍区の中でも特に優先して整備が進められています。まさに中共軍の精鋭中の精鋭です。装備は最新のものを配備し、兵員も優秀な人材が配置されています。衝突すれば韓国軍といえども苦戦するでしょうな」
「となれば、皇軍も軍事展開せざるえない。日中間の戦争に発展しますよ」
今まで黙っていた外相の蛭田が指摘した。
「これは軍事衝突に発展させることは絶対にしてはなりません」
「中国の上層部はどうしてそんな強硬な態度に出るんだ?」
大蔵大臣が疑問を口にした。それに対して情報総裁の杉田が立ち上がった。
「背景には政府内の派閥抗争があると思われます。天安門事件以降、中国上層部はソ連と接近して西側に対抗しようと考える派閥と西側との関係改善を目指す派閥に分かれています。今、政権を握っているのは前者ですが、ここで下手に出れば最大の支援者である軍部の支持を失うでしょう。そうなれば後者に政権が渡ることになる。ですから、張徳平をはじめとする中国の指導者としては強硬にならざるえないのです」
「まったく困ったもんだ。最近の中国や韓国の言動は」
大蔵大臣が呟いた。
「だからこその今回の弾道弾発射演習だろう」
兵部大臣の八雲だった。元軍人でタカ派として知られている。
「我が大日本帝国がアジア唯一の列強として彼らを導いてゆかねばならんのだ」
列強とは古い言葉を使うものだ。美香は八雲を嘲笑していた。彼の軍歴は頭の中に入っている。彼は所謂“さんぼう”と呼ばれる人種だ。“参謀”では無く“三暴”。横暴、凶暴、無謀を兼ね備えた人物で、現役時には現場の将校から相当嫌われていたようだ。彼が兵部大臣の地位でいられるのは、結局のところは彼が実戦を経験しておらず、“三暴”としての働きぶりを見せつけることがなかったからだ。
「とにかくだ。我々としても連中の動きを座視するわけにはいかん。必要な圧力を両国にかけろ」
八雲に続いて内務大臣である大河内伸太郎が発言した。彼は華族階級の貴族院議員で政界に大きな影響力を持っている。
「総理。すでに海軍艦艇の一部を鎮海に移動しております」
だが、八雲の報告に大河内はまだ不満のようだった。
「それだけでは不十分だ。地上戦力の増強も検討すべきだ」
「確かに」
八雲は素直に従った。彼は大河内の力で兵部大臣の地位を手に入れたようなものだった。
「ですが、それでは緊張を煽る事になりかねません」
2人で話を進める大河内と八雲の間に蛭田が異議を唱えた。
「皆さん、話を急いでもしかたがありません。現状ではっきりしているのは、韓国が演習を行って、中国が警戒レベルを上げた、それだけです。皇軍が大々的に動きには早すぎますよ」
美香が蛭田の援護に入った。
「その通りですよ総理」
同じく沈黙を保ってきた内閣書記官長の園部が、2人に賛同した。
「これは韓国の国内問題の延長です。下手に武力で圧力を加えれば、逆に加熱する危険性があります。むしろ我々が韓国政府を援護し、国内問題を解決に向かわせる方が得策かと」
「いや」
大河内が園部の言葉を遮った。
「あの連中は下手に出たらダメだ。極東において最大の指導力を持つ国は我が大日本帝國であると、奴ら教えてやらなくてはならない。今こそ、我が皇軍の能力を見せつけるときだろう」
「内務大臣。見せつけるとは?」
吉野は目を丸くして尋ねた。吉野の一言の後、みんな黙ってしまった。その様子を見て宮川がため息をつくと立ち上がった。
「参謀総長。軍は現在のところ、どういう対処をしているんだ」
「兵部相がおっしゃったように、海軍部隊の一部が鎮海に移動させます。また朝鮮駐留の第20師団の警戒レベルを上げます。現在のところはそれだけです」
「よろしい。しかし圧力、圧力というが急を要する事態ではないだろう。専門家の意見も聞いてみようじゃないか?」
宮川はいままで沈黙を守っていた外務省政務局長の徳川奈津美に発言を促した。政務局は特定の担当地域を持たず、外交政策全般に関わる実務をこなす部署で、外務省内では北米局、条約局と並ぶ重要部局とされている。各部局の中でもその職務ゆえに内閣との繋がりが強いのも特徴である。
「首相のおっしゃる通りだと思います。情勢を見極めるにはもう少し時間が必要でしょう。そうですね。韓国の駐日大使を呼び出して状況説明を求めましょう。それで我々が注目していることを彼らに教えて揺さぶるのです」
宮川は徳川の説明に納得したようだ。
「その線でいこう。蛭田君、頼むぞ。今日はこれで終わろう」
そう言うと宮川は立ち上がり、部屋唯一のドアに向かって歩き始めた。杉田がそれに続き、美香は手元の資料を片付け始めた。その様子を見て蛭田や園部は安堵の表情を浮かべたが、大河内と八雲は不満げだった。
ドイツ第三帝国 ロストック
ロストックは現在、ドイツ第三帝国有数の港の1つである。
ドイツ第三帝国は第2次世界大戦で国土の半分を失った。かつてのチェコ、オーストリア、ポーランドに相当する地域は維持しているとはいえ、その被害は甚大である。
最大の軍港キールも失い、海軍の主要戦力はここロストックやケーニヒスベルクに集結することになった。
大統領ハンス・ヴェゲナーは新型駆逐艦就役を祝う祝典に出席する為に娘とともにロストックを訪れていた。
ヴェゲナーに疲労が溜まっていることは彼を知る人物なら誰でも知っていることである。おてんばなヴェゲナーの娘でさえ父を煩わせないように努めている。なぜかと言えば国家社会主義ドイツ労働者党が政権を握って以来、最大の混乱に祖国が襲われているからに他ならない。
「大統領閣下。こちらが最新鋭駆逐艦Z91です。この艦はロシアとの共同で開発した新型防空システムを装備しており、我が艦隊の空を守るのです」
ヴェゲナーは埠頭の上、駆逐艦Z91に乗り込むためのタラップの前で立ち止まり、海軍士官の説明を聞いていた。と言っても、ヴェゲナーはその内容を聞き流していて、頭に残ったのは“ロシアとの共同開発”という一言だった。ロシアはマルクス・レーニン主義の国だ。それは我が国の最大の敵では無かったのだろうか?
「大統領、どうぞ。乗艦なさってください」
案内役の士官に言われるがまま、ヴェゲナーは娘の手をとってタラップを昇った。昇り終えると艦長が待っていた。
「艦長。乗艦を許可してくれるかな?」
「勿論です。大統領閣下。乗艦を許可します」
軍艦の上では艦長は絶対の存在なのだ。
「どうですか?大統領。この艦はすばらしいでしょう?」
「まったくだ。この艦が栄光ある海軍に配備されることは実にすばらしいことだ」
それは心の底から出た言葉ではなかった。それを知ってか知らずか、艦長は腕を組んで不満げに言った。
「唯一の問題は、この艦の建造にコミュニストが関わっているということだ」
私も同感だ、とヴェゲナーは心の中で同意した。彼だけでは無い。全ドイツ国民の心情であった。経済の不調は国民のナショナリズムを危険な域まで押し上げていたのである。
ナチズムは元々は左翼政権から多大な影響を受けていたが、次第に反社会主義、反共産主義の色彩を強くしてきた。国会議事堂放火事件を理由に共産党への弾圧を行ったのは1933年である。しかし、その後にソ連とドイツは不可侵条約を結び第二次大戦を通じて事実上の同盟国となっていった。特に1945年に連合国軍がドイツ領内に侵入すると、ソ連の力に依存せざるをえなかった。それ以降、終戦後もドイツ第3帝国はソ連の意向を無視できなくなり、事実の傀儡に成り果てたのである。
終戦直後はドイツ国民の憎しみは連合国に対して向けられていたが、やがて平和な時代になると不満はソ連に向けられるようになった。右派は“武力を使ってでも西ドイツとの統一を果たし、超大国ドイツを復活させよう”と叫ぶのである。それに対してソ連の支援を受けた共産主義者たちも運動を行い社会はますます混乱する。
1980年代よりソ連と共に経済が鈍化すると、両者の対立はさらに激しくなる。1998年に大統領に就任したヴェゲナーは難しい舵取りをしなくてはならなかった。
「この艦のシステムは信頼すべきものかね?」
ヴェゲナーは艦長に尋ねた。
「このシステムは信頼に値します。コミュニストは信頼できませんがね」
ヴェゲナーはその言葉にやはり心の中で同意した。いや、コミュニストだけでは無い。各種イデオロギーの持ち主が複雑に絡み合う今のドイツ第三帝国政界では誰も信じることはできない。同盟国だって信頼できるものではない。ソ連の触手は枢軸の同盟国にも及び、赤化革命が続いて現在では国家社会主義国はドイツ第3帝国とハンガリー、クロアチアを残すのみであった。
「お互い辛いね」
ヴェゲナーは最後に艦長に向けてそう語った。それは彼の心の底からの言葉であった。
注釈
注1―拓務省―
外地及び保護国の監督を担当した行政庁。韓国の脱保護国、樺太の内地化、台湾及び南洋群島自治政府の創設などにより年々縮小され、1997年に関東州を中国に返還すると同時に廃止された。
注2―国家安全保障会議―
かつての大本営政府連絡会議。戦後、国防会議に改編され、さらに石油危機やイラン・イラク戦争を経て総合安全保障の概念を取り入れて国家安全保障会議となる。




