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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第5部 国連の虚構
31/110

その7の3 終わりと始まり

帝國議会 貴族院本会議場

 日本時間1月20日午前11時。第221回帝國議会の開院式が執り行われることとなり、衆貴両院議員が貴族院本会議場に集まった。開院式には議員の9割が集まったが、貴族院本会議場にある席だけでは到底足りないので、議場の後ろの方には若い議員が立ったまま始まるのを待っていた。

 かつて帝國議会常会は毎年12月に開かれるのが通例であったが、正月休みを挟んでしまうことから非効率であるとし、ここ10年ほどは翌年1月に召集されるようになった。

 厳粛な空気の中、議長が集まった議員達に対して宣言した。

「これより第221回帝国議会開院式を挙行します」

 かくして第221回帝国議会が開幕した。




大韓帝国 南浦(ナムポ)

 韓国北部最大の港町に海軍の駆逐艦に護衛されて2隻の巨大な貨物船が入港していた。船の名前は<弥生丸>と<瑞穂丸>。陸軍船舶兵団が誇る巨大なRo-Ro船である。

 Ro-Ro船とはカーフェリーの貨物版で、車両用のランプを持ち、コンテナの載せたままのトラックがそのまま乗りこんでトラックごと運ぶことで積み替えの手間を省くという構想の下で建造された。軍もその利便性に着目し、戦闘用車輌や物資を積んだままの軍用トラックを素早く積み込んで輸送する船として採用した。

 <弥生丸>と<瑞穂丸>は、戦車かIFV装備の機械化歩兵部隊であれば1個大隊規模の装備を、軽歩兵部隊であれば連隊の兵器を丸ごと運ぶことができる巨船で湾岸戦争の教訓から建造されたもので、陸軍の戦略機動能力の根幹を担っている。

 運ばれてきたのは陸軍第5師団の一隊で、これが上陸することで師団の部隊全てが韓国に集結したことになる。第二次世界大戦以前から戦争に際しては常に第一陣として赴いてきた伝統のある第5師団であるが、陸軍船舶兵団の本拠地である広島周辺を衛戍地にしていることから現在は船舶機動を駆使した緊急展開部隊として機能している。

 この度の朝鮮危機でもその機動力を存分に発揮していた。9日は夜には先遣隊となる第11歩兵連隊支隊が船に乗り込み、翌10日の昼には南浦に上陸を開始していた。そして今日、最後の連隊である第42歩兵連隊支隊が朝鮮に上陸したのである。


 連隊支隊は聞きなれない言葉であるが、これは第5師団が緊急展開部隊として任務を達成するために特殊な編制を採用している為にそのように呼ばれている。

 一般的に連隊は単一の兵科で編制される。歩兵連隊であれば歩兵のみ、砲兵連隊であれば砲兵のみというように。そして必要に応じて他兵科の部隊を配属されて諸兵科連合の戦闘団―日本軍では支隊と呼称されるのが一般的―が編成されるのが普通である。

 しかし第5師団の基幹部隊である3個の歩兵連隊の場合、2個歩兵大隊及び1個砲兵大隊、1個戦車中隊、そしてもろもろの支援部隊で編制される。つまり平時より常時、戦闘団となっているのだ。臨時に編成されるのではなく、編制として。それが連隊支隊と呼ばれる所以である。そうした編制を採用することで出撃のたびに部隊編成を行なう手間を省き、素早い部隊展開が可能なのだ。

 他の連隊と異なり歩兵大隊を1個欠いているのも戦闘力よりも迅速な部隊展開を追及した結果である。事実、連隊支隊は<弥生丸>と<瑞穂丸>の2隻で丸ごと運ぶことができる。


 2隻の輸送船からランプを埠頭に下ろして、そこから車輌が次々と降ろされていった。中心になるのはフランスが開発し、国内でライセンス生産されているVAB装甲車だ。タイヤで装甲する装輪型装甲車で、四八式歩兵戦闘車や二六式装甲兵車改に比べて火力や防御力では劣っているが、軽量で手軽に輸送でき、また路上では高速で移動できる。戦略機動能力を重視しての採用だ。第5師団の歩兵部隊は全てVAB装甲車で機械化されている。

 降ろされた車輌は港の近くの広場に並べられ、そこで民間旅客機で運ばれてきて将兵達と合流する。飛行機とRo-Ro船を駆使することで素早く戦場に赴けるのが第5師団の特徴なのだ。

 将兵達は自分達の車輌に乗り込み、準備を整えて、目的地に出発した。第42連隊支隊は韓国と中国の国境線の街である江界(カンゲ)市に配置されている。第5師団の3個連隊はそれぞれ別の街に配置されることになっていて、それは中国軍と戦うというより中国軍に日本軍の存在を見せつけるための配置であった。ようするに“今、韓国に手を出せば日本と戦うことにもなる”というメッセージであり、実戦を想定するなら些か無理のある配置だった。それは日本が国境線は一応は安定状態にあると見ている証であった。

 しかしながら、そのようなことは実際に戦場へと向かう将兵にとっては慰めにはならなかった。政治家がどう思っていようと、彼らが向かうのは一触即発の火薬庫であり、いつ戦場になるか分からない場所なのだ。だから多くの下級兵士は装甲車の中でそわそわして落ち着きが無くなっていた。

 そんな中、1人の兵士が降ろされた兵器類の中に見慣れるものが混じっていることに気がついた。

「少尉殿!あれはなんでしょうか?」

 兵士が指差したほうには、帝國陸軍の主力牽引式野砲である三九式155ミリ榴弾砲に混じって、6両のトラック車載式榴弾砲が紛れこんでいた。その砲身は三九式と太さこそ同じだがずっと長く、強力な大砲であることを示していた。

「あぁ、あれが我が師団砲兵隊が試験中の新型兵器だ」

 それこそが神楽美香が言っていた新型自走砲である試製特殊機動砲であった。1個中隊が第42連隊支隊砲兵大隊に配属されていた。




ニューヨーク 国連安全保障理事会

 アメリカ東部標準時1月20日の午後4時。結局、日本案を巡る議論は決着がつかぬまま採決まで持ち込まれた。中国における愛国デモと虐殺報道により各国は大衆が過熱したこともあり態度を硬直させてしまった。というわけで日米韓は採決を強行することに決めたのである。

 日米大使の工作によりアメリカとの関係もあってアルゼンチンは日本案に賛成することとなった。当初、予想されていた東ドイツの裏工作もなかったようだ。これで日本案が通ると思われた。

 そして採決が始まる。日本、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、オーストラリア、メキシコ、アルゼンチンは賛成票を投じた。一方でソ連、アルバニア、ベトナム、リビア、セイシェルは予想通りに反対票を投じた。ここで意外な行動に出た国があった。エジプトである。

 エジプトはかつてアラブ世界の盟主として君臨し、アメリカの支援を受けたイスラエルに対抗してソ連の援助を受けていた。しかし第4次中東戦争での敗北以降はイスラエルとの宥和路線に転換して西側寄りの国家となったのである。それがここにきて突然の行動。第3世界の一国として総会を無視できなかったか、湾岸戦争以降も聖地に居座るアメリカに対する感情を悪化させているムスリム世界への配慮か、デタントから再び冷戦に突入した中での外交方針転換か。ともかくとして日本案は否決された。

途中に追加です。未改訂の次話以降の部分と重複する内容がありますが、ご容赦ください。後日、重複部分を改訂する予定です。


(2015/5/12)

 内容を一部改訂

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