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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第4部 国境会戦
18/110

その1 突撃部隊

平壌 日本陸軍飛行場

 大日本帝國陸軍が朝鮮に派遣している部隊の基幹となるのは、第二〇師団という僅かに1個の機械化歩兵師団に過ぎないが、戦時には内地から増援部隊が駆けつけることも考慮して支援部隊がかなり充実している。例えば朝鮮軍直轄の飛行旅団には1個の襲撃機大隊―現在では攻撃用ヘリコプターを配備している―は、内地のそれが2個中隊編制なのに対して3個中隊編制となっていて、陸軍内では四二式観測機乙型と呼ばれるOH-58Dカイオワウォリアーの日本版が4機、それに三五式襲撃機ことAH-1Sコブラ攻撃ヘリが24機ほど配備されている。

 現地に地上支援部隊が到着したという連絡が届いたので、早速に8機のコブラと1機のカイオワウォリアーから成る中隊が北を目指して発進した。彼らは捜索第二〇連隊の指揮下に入り、橋の奪還を支援するのが任務である。




慈江道

 ようやく捜索第二〇連隊の全力が集結し、橋の奪還のために韓国軍と最後の調整をしていた。捜索連隊は戦車や装甲車を保有しているが、大砲は持っていないのでそこは韓国軍に頼むしかない。

 椿日向(つばき ひなた)大佐が率いる捜索第二〇連隊は帝國陸軍の中でも優良な捜索連隊である。14両の戦車は全てが四四式戦車だ。1984年に正式採用されたこの戦車は日本の誇る戦後第3世代型戦車で、西ドイツのラインメタル社が開発した44口径120ミリ主砲が装備されている。ただし捜索第二〇連隊に配備されている車両は初期型で複合装甲ではなく中空装甲のままであったり、射撃統制装置が旧式だったり―その分、信頼性はある―と新型と劣る部分もあるが、中国の戦車に対しては十分だ。また2個ずつ配属されている装甲車中隊と歩兵中隊は四八式歩兵戦闘車とその偵察仕様である四八式重装甲車で占められている。

「椿大佐。中国軍は橋から4kmほど内陸に進み、半円陣を組んで防御しています。こちら側に渡ってきているのは歩兵1個連隊ほどで若干の戦車も含んでいます」

 山口が状況を説明している。

「砲兵はまだ向こう岸かな?」

「はい。命令では中国領内への侵攻は許可できない、でしたっけ?」

「あぁ。それでは橋のこちら側までしか確保できないわけだ。それじゃあ中国の砲兵の的になるだけだと言うのに」

 厄介な問題である。本当ならば向こう岸まで渡って、せめて橋が戦車砲のような直射兵器の射程の外に出るまで中国軍を追いやりたいのであるが。

「敵軍の占領地域を狭めて、機甲部隊が展開する余地を無くしましょう。そして橋頭堡に火力を集中すれば中国側は自ら自分達の領土に撤退していくのではないでしょうか?」

 渡河作戦の場合、川を渡り終えた時が最も脆弱である。渡河地点周辺に部隊が固まって混雑し身動きができないので、敵の攻撃に簡単にやられてしまうからである。であるから、渡った部隊をすぐに送り込んで身動きがとれるような余地が必要になる。それを狭めれば、必然的に多くの部隊を川のこちら側に配備することが不可能になる。

「その方向で進めよう」

 それを通訳を通して聞いた韓国軍の大佐は不満げであった。彼は一刻も早く自分達の国から中国人を追い出したかった。しかし、大佐は無能ではないし理屈を理解できた。

「分かりました。必要な砲兵部隊の主力が待機状態ですので十分な支援が可能な筈です」

「ありがとう。さて、目標までの進行ルートは?」

 椿が尋ねた。山口は地図を出して示した。

「川に沿った土手に並行した道路があります。川から500メートルほど南ですね。この道はやがて橋を通ってここまで繋がっている道路にぶつかり、十字路の交差点になっています」

「ようするに3方向から攻め込めるわけだな」

 ここを真っ直ぐ進んで真正面から突っ込むか、それとも左右の土手に沿った道から攻め込むか。




北京 中南海 共産党中央政治局常務委員会会議室

「師団規模の部隊が韓国を侵攻しようとしている?」

 張は自分の革張りの椅子に座って委員会を構成するメンバーを集めて対策を練っていた。

「宮川首相は本当にそう言ったのか?」

「はい」

 報告のために訪れた外交部長が報告した。

「韓国軍に侵攻の気配があるので増援を送ったということではないのかね?」

「詳しいことは不明です。ですが大使の報告では宮川はかなり強気だったと」

 外交部長の報告を聞いて、委員会のメンバーはそれを見合わせた。

「同志張主席、君は軍になんと命じたのかね?」

 2人の会話を聞いて常務委員会のメンバーで全国人民代表大会の常務委員長である温近平(ウェン ジンピン)が尋ねた。

「私は国境線を防衛し必要なら越境もかまわない、と命じた」

「1個師団を韓国に送り込むというのは、どうなのだろうな?軍事的な必要性があってのことなのであろうか?」

 温の言葉に張が首を横に振った。

「分からない。同志夏永貴中央軍事委副主席を呼んで説明を求めよう」




慈江道

 作戦は決まった。まず1個の装甲中隊から成る牽制部隊が橋の東側の道から進撃して中国軍側面を攻撃し敵を炙り出す。そして中国軍が浮き足立ったところへ橋の西側から戦車中隊を中心とする主力が突進して十字路を確保し中国軍を分断。最後に正面から韓国軍が正面から突入して十字路より内側の敵部隊を殲滅する。橋を奪還できるかは未知数だが、中国軍を押し込めて活動を制限することはできる筈である。



 牽制部隊は山口の中隊であった。先頭を行くのは樋口の装甲車である。14輌の装甲車は道の脇に隠れて合図を待っていた。

 やがて砲声が聞こえてきた。韓国軍の砲兵部隊である。彼らは煙幕弾を中国軍陣地周辺に撃ち込んで、捜索第二〇連隊を隠した。

「赤外線暗視装置を作動させる」

 樋口が暗視装置の電源を入れると、車長用独立照準サイト―いろいろと詰め込んだペリスコープ―から覗く外の景色が緑に染まり、視界から煙が消えた。赤外線暗視装置は物体の発する赤外線を捉えるもので、夜間はもとより昼間でも煙などで視界が利かない時に有用である。

「前進!」

 四八式重装甲車の隊列が進むと、中国軍の防御陣地が見えた。簡易な塹壕や装甲車を盾として使ったものであった。

<我々の任務は敵に主力はこっちだと思わせることだ。派手にやれ!>

 山口大尉の指示が無線機から聞こえてきた。

「よし。攻撃だ。目標、前方装甲車!」

「距離1000。主砲用意良し」

「撃ち方はじめ!」

 樋口と号令と同時に四八式の主砲である35ミリ機関砲の射撃が始まった。それは中国軍の85式装甲兵員輸送車の装甲をいとも簡単に撃ち抜いた。85式装甲車は12.7ミリ重機関銃が装備されていて、それを撃ち返してくる者もいたが、ソ連軍のBMP戦闘車両に備えられた30ミリ機関砲に耐えられるよう装甲を施された四八式の前には無力であった。

 砲手が1輌の装甲車に機関砲を当てて破壊している間、樋口は自分の照準サイトを動かして新たな敵を探した。戦車が見えた。樋口は咄嗟に照準用の十字線を戦車に合わせた。

「2時方向に戦車!砲手!照準回せ」

 砲手は直ちに照準を砲手から車長にオーバーライドした。これにより射撃統制装置は車長用の照準サイトに接続され、砲塔が車長の指示により直接動くようになる。その為、35ミリ機関砲が戦車の方向を向いた。だが、戦車が相手ではさすがの35ミリ砲も無力である。

「誘導弾!発射!」

 だが、四八式重装甲車には砲塔の左右に1基ずつ三九式対戦車誘導弾が装備されている。砲手が発射ボタンを押し、そのうち1発が中国軍の79式戦車まで一直線に飛んでいった。見事に車体に命中した。だが砲塔が動き、こちらに主砲を向けた。

「やばい!」

 だがどこからともかく現われた三九式対戦車誘導弾が砲塔側面を貫き、戦車が吹き飛んだ。弾薬に誘爆したのであろう。

 樋口が、ミサイルが飛んできた方向にサイトを向けるとそこには山口の中隊長車がいた。

<危なかったな。樋口軍曹>

「ありがとうございます。中隊長」

 礼を述べると、サイトをすぐに前に向けた。歩兵が迫っていた。

「同軸機銃、撃ち方はじめ!」

 主砲横に並んで備えられた二八式7.7ミリ車載重機関銃が射撃をして中国軍の歩兵が次々となぎ倒されてしまった。1人の歩兵が肩に筒状のものを載せてこちらに向けている。

「対戦車火器だ!」

 それは中国軍の70式62ミリ対戦車ロケット砲であった。アメリカのM72対戦車ロケット砲の影響を受けた70式は、戦車に対しては無力ながら装甲車相手なら十分として大量に配備されていた。

 砲手が咄嗟にその歩兵に照準を合わせて同軸機銃を撃ちこんだ。中国の歩兵がロケット砲の引き金を引いたのとほぼ同時であった。ロケット弾が樋口の装甲車に向けて発射されたが7.7ミリ弾が歩兵を倒したので発射時にランチャーが僅かに上を向き、ロケット弾は装甲車の僅かに上を掠めてどこかへ飛んでいった。

「怖い、怖い」

 そろそろ潮時であるかな?



 一方、橋の西側から捜索第二〇連隊の主力が進んでいた。1個小隊の四四式戦車4輌を先頭に、その後ろに装甲車中隊が進み戦車中隊主力を挟んで2個の機械化歩兵―帝國陸軍の正式な呼称では機動歩兵―中隊が続く。

 椿は自分の装甲兵員輸送車を改造した指揮車両の中に居た。

「山口の中隊は良くやっているようだな。よろしい、我々も突入するぞ!」

 先頭の戦車小隊がいよいよ中国軍を捕捉した。先頭の戦車小隊長は各車に散開し、道の左右から包囲することを命じた。一方、砲手は自ら目標を探して早速に砲撃を開始した。

 四四式戦車の120ミリ砲から対戦車榴弾が放たれ続けて2輌の85式装甲車が撃破した。四四式戦車は自動装填装置を装備しているので、短時間での連続射撃が可能である。一方、小隊長でもある車長はペリスコープを使い新たな目標を探した。

「1時方向!中国軍の戦車だ!」

 初期型の四四式は四八式重装甲車のように車長用のサイトが射撃統制装置と連動していないので、砲手が自ら照準をしなくてはならない。

「目標捕捉。弾種、徹甲弾、装填。射撃準備よし」

「撃て!」

「てっぇー」

 中国軍の79式と日本の四四式が同時に発砲した。弾は空中で交差して、それぞれの目標に命中した。

「ぐは!」

 車長はその衝撃で、ペリスコープから離され背中を座席の背に叩きつけた。

「目標撃破!」

 砲手が報告した。

「こちらは?」

「敵弾が命中しました。射撃装置が不調で、砲塔が旋回しません」

 車長は別の車両に小隊の指揮を引き継ぐように命じると、その場に停車した。車長は自分の幸運について神に感謝するとともに、早く自分たちの戦車の装甲が最新型の四四式と同様に複合装甲に換装されることを願った。

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