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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第3部 危機の始まり
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その4 零下の戦い

 何時の間にやら雪が降り始めていた。

 中国軍歩兵部隊は三脚に載せたソ連のPK機関銃のコピーである80式汎用機関銃とSDVドラグノフ狙撃銃のコピーである79式狙撃銃を持った狙撃手の援護の下で、韓国軍陣地に向かって次々と浸透していった。この2つの火器はともに7.62ミリ×54R弾を使用する強力な支援火器である。

韓国側は中国側の支援射撃を阻止しようとしていたが、その試みはなかなか成功しない。韓国軍の持つ機関銃はK6と呼ばれる5.56ミリ機関銃ミニミのライセンス生産型で射程、威力ともに中国軍の機関銃に劣り、圧倒されている状況である。対戦車火器で粉砕しようにも、筒を構えようとすると狙撃手の標的になる有様だ。ただ歩兵の基本装備たる自動小銃の面においてはK2小銃の5.56ミリNATO弾が中国側のAK47のコピーである81式小銃が使う7.62ミリ×39弾に対して射程で勝るため、中国軍浸透部隊をなんとか阻止できている状態であった。

「砲撃要請。座標はAの12からBの7だ。ありったけの弾を…」

 無線士が迫撃砲部隊に支援を要請したが、流れ弾か、それとも狙撃手の銃撃か、ともかく首に一撃を喰らい、その場で倒れてしまった。だが、要請は伝わった。

 一分後、友軍の81ミリ軽迫撃砲部隊が射撃を開始した。韓国軍陣地に接近してくる中国軍兵士たちはその猛烈な砲撃の前、吹き飛ばされ、進撃を停止せざるをえなかった。突撃支援を続ける機関銃と狙撃銃も射撃を止めてしまった。

「今だ!手榴弾!」

 陣地のすぐ傍まで接近している中国軍兵士は攻撃を受けていなかった。味方の韓国軍を巻き込んでしまう可能性があり、軽迫撃砲部隊は陣地のすぐ傍に弾を撃ちこむことを控えたからだ。それを一掃するには手榴弾で制圧するしかない。

 チャンソク曹長は部下数名とともに立ち上がり、ピンを抜いた手榴弾を投げつけると、そのまま陣地の中に隠れた。数秒後、手榴弾が一斉に爆発し、轟音とともに悲鳴が聞こえてきた。爆発は見た目こそ派手だが、さすがに映画用のように何人も吹き飛ばしてしまうような威力は無い。だが、鋭利な金属の破片を撒き散らし戦闘力を奪うには十分だった。爆発が終わると、そこには絶命したか、傷を負ってうめき声をあげる中国兵たちしかいなかった。



 一方、韓国軍戦車隊のM48A5Kは脇道から中国軍の後方へ向かっていた。歩兵部隊で中国軍を足止めしている間に、後方へ回りこんで包囲殲滅するという作戦である。だが、次の瞬間に韓国の戦車乗りたちは驚くべき光景と遭遇することとなった。目の前に中国の戦車隊が現われたのだ。

 結局、どこの人間も考えることは同じというわけだろう。韓国軍守備陣地に思わぬ足止めを喰らった中国軍は、事態を打開するために戦車隊を迂回させ韓国軍を包囲しようと企んだのである。そこへ同じく迂回、包囲を企図した韓国軍戦車隊と遭遇してしまったというわけだ。

「撃て!」

 両軍の指揮官がそう命令を発したのはほぼ同時のことだった。

 しかし、なにぶん狭い山の中の道での遭遇戦である。かつての第二次大戦におけるアフリカや欧州、中国のような広い戦場における大規模な戦車戦など望めるわけもなく、発砲はそれぞれの縦隊の先頭を務める2輌ずつしかしなかった。中国軍の先頭2輌と韓国側の1輌が沈黙した。韓国側は破壊された1輌を避けて前進した。乱戦の始まりだった。



 韓国軍陣地も乱戦模様であった。中国軍歩兵隊がいよいよ突入してきたのである。

「銃剣付け!」

 チャンソクは部下に命じるとともに自らのK2小銃に銃剣を装着した。白兵戦への突入である。チャンソクは目の前に銃剣付きの小銃を構えて突っ込んでくる中国兵を認めた。すぐ近くにおり射撃が間に合わないと判断したチャンソクは、K2小銃を振り上げて銃床を中国兵の顔面に叩きつけた。中国兵はその場に倒れ、チャンソクは銃を持ち直して銃剣で突き刺して止めを刺した。

 さらに別の兵士がチェンソクに襲いかかろうとしたが、その男はそのまま倒れてしまった。後頭部に銃創がある。チャンソクが何事かと思って中国軍部隊の後方に目を向けると、そこには監視任務に就いていた偵察部隊が居た。その1人、狙撃手が九九式狙撃銃の銃口をこちらに向けている。その狙撃手はチャンソクに向かってサムズアップをして見せた。彼がチャンソクを危機から救ったのだ。

 そんな光景があちらこちらで繰り広げられ、多くの血が流されたが、それは降りつづける雪のためにすぐに隠されてしまった。




日本 首相官邸

 宮川首相は会議の合間の小休止に官邸屋上へと上がっていた。東京も雪が降っていたが空はすっかり明るくなっていて、東からは雲の合間より朝日が昇りかけていた。

 宮川は午前2時の第一報以来、官邸に詰めて対策を練っていた。第一報から2時間後には呼び出した閣僚や官僚が揃い、対策会議が開かれたが、あまり情報が揃わない状況では具体的な行動を起こせるわけでもなく、官邸に特別対策室を設置して情報収集を行なうということが決まっただけであった。

 ともかく午前5時半には官邸内の食堂に特別対策室が立ち上がり、一応の態勢は整ったというわけである。

「6時20分か」

 腕時計で今の時刻を確かめた宮川は対策室に戻ろうと、階段に身体を向けた。そこには蛭田が立っていた。

「ソ連の梅宮大使から連絡がありまして。朝鮮の問題に関して2国間で協力したいとニキーチン書記長がおっしゃったそうです」

「向こうにとっても頭痛の種だからね。ソ連大使とは緊密に連絡をとる必要があるな」

「それと兵部省から、偵察に向かった部隊がまもなく現地に到着しますので、新たな情報が入るかと」

「そうか。続きは下で聞こう」

 そう言って階段を下りようとする宮川を蛭田は止めた。

「総理。我々は軍を介入させるのですか?」

 それを聞いた蛭田は渋い顔をしている。

「場合によってはね。蛭田君。君はいつも軍事力の行使には否定的だよね。特に中国方面に関しては」

「確かに。まぁ私が根っからの外交官だからでしょうかね?」

 蛭田は元外務官僚である。外交官なら軍事力よりも交渉による解決を特別に重んじるのも分かる。

「勿論、交渉で全てが解決できる、とか夢想しているわけじゃないんですが。大陸に深入りするのはね…」

 そう言うと蛭田は口篭もってしまった。

「どうしたんだ?」

「すみません。実は昔のことを思い出してしまって。私は“あの30年”の頃に兵卒として大陸に派遣されまして」

 あの30年とは、大戦中から1962年までの日本軍による中国国共内戦への介入を意味する。

「なるほど。あの泥沼を知っているから、君は大陸に軍を派遣することを躊躇うのだね」

「はい。あんな酷い有様を再現したくはありません」

「君の意見はよく分かったよ。さて、そろそろ下に下りようじゃないか?寒くて仕方がない」

 宮川は蛭田に先に下りるように手で促した。

「ところで蛭田君。君は従軍していた時になにをしていたのかね?兵卒ということは法務将校というわけではないんだろ?」

「装甲車乗りです。九式重装甲車。当時は“三種の神器”なんて言われて親しまれていたのですが」

 九式重装甲車はイギリスのカンガルー装甲兵員輸送車―戦車の車体を流用した重装甲車両―を参考に製作されたある種の移動トーチカで、陳腐化して前線から下げられた九七式中戦車の車体を流用して作られている。砲塔の部分に機関銃4丁を備える装甲で覆われた箱型戦闘室を設けていて、市街地における掃討作戦で活躍したものである。




慈江道

 日が昇り戦闘は一応のところ終息していた。昨晩の大激戦で中国軍の装甲連隊は粉砕されて撤退していった。しかし、後続の部隊が国境線の橋の周辺に頑固な防衛線を築いていて、韓国の領内にまだ居座るつもりのようであった。

 第二〇師団捜索連隊第一装甲車中隊に所属する樋口軍曹は自らが車長を務める四八式重装甲車の砲塔に立ち、激戦の痕跡と後片付けをしている韓国兵を眺めていた。道の上には数多くの戦車の残骸が残っていて、まだ煙が噴出しているものもあった。戦車は韓国軍のM48と中国軍の79式の両方があったが、後者の残骸の方が若干多いようである。

「前進しろ。韓国軍の指揮所がある筈だ」

 四八式重装甲車は残骸を避けながら前進した。

 四八式重装甲車は主に機械化部隊に配備されている最新の偵察用装甲車であった。原型は歩兵戦闘車として開発された四八式歩兵戦闘車で、搭乗できる兵員数を減らして代わりに偵察用の各種器材を載せたものであり、次世代の捜索部隊の主力である。主兵装は90口径35ミリ機関砲でソ連の歩兵戦闘車であるBMPシリーズを撃破するに十分な威力を持っている。また自衛用に三九式対戦車誘導弾(ミサイル)を装備していて、列国の主力戦車を撃破することも可能だ。韓国軍はまだこの手の装備を保有していないので、周りの韓国兵たちは物珍しげに四八式を観察していた。

 やがて森の中に指揮所のテントを発見した。そこには既に中隊長の車両があった。

「よく来てくれた。あなた方は先遣隊かな?」

 韓国軍の大佐が韓国語で中隊長の山口大尉に状況を説明していた。山口は韓国語を本物の韓国人のように使いこなすことができた。中隊長付下士官の樋口は山口の横に並んだ。

「中国軍は橋の周りに防衛線を築いている。どうやっても橋頭堡を守るつもりだろう」

「となると、また攻勢に出てくるかもしれませんね」

「おそらく確実に来るだろう。今回は撃破できたが、次は精鋭部隊が来るかもしれん。そうなれば、こちらも虎の子の機械化師団を投入することになる。大激戦だ。できればそうなる前に橋頭堡を粉砕したいのだが、君たちの派遣部隊が揃うとどれほどの規模になるのかね?」

「我が第二〇捜索連隊の全力です。2個装甲車中隊と2個歩兵中隊、それに1個戦車中隊です。装甲車は全部が四八式、戦車は四四式。優良部隊ですよ。ですが、大佐殿。敵橋頭堡を粉砕すると申されましたが、我々に与えられた任務はあくまで情報収拾です。それ以上のことになりますと、上の命令が必要になります」

 それを聞くと韓国軍の大佐は本当に残念そうな顔をした。

「ところで、我々はこの事変の詳細な情報を集めるように命令されたのです」

「あぁ、そうだったね。我々はできる限りの協力をするつもりだ」

「ありがとうございます。まず、最初に撃ったのはどちら側ですが」

 韓国軍の大佐は少し考えてから口を開いた。

「撃ったのは中国側だ」

 しかし、大佐は妙に動揺しているようだった。山口は不審に思った。

「できれば現場に居合わせた兵士と話をしたいのですが、できますか?」

「それはちょっと…できない」

 山口は大佐が嘘をついていると確信した。

「大佐殿。ここで我々が得た情報をどのように使うかは、もっと上の人間、つまり本土の政治家たちが韓国の政治家の皆さんと話し合って決めることです。真実をどのように扱うかは我々には関係のないことです。ですから、我々の間では真実を共有しませんか?」

「わかった」

 韓国軍の大佐は決心したようだ。

・九式重装甲車

 日の丸<ナグマホン>(笑)。この世界のAFV史を妄想中に思いつき、気に入ったので、本編には登場しません(そりゃ50年前の車両ですから)が名前だけ使ってみました。

 ちなみに三種の神器のうち、残りの2つは

史実の四式十五糎自走砲…立て篭もった敵を建物ごと吹き飛ばすのに便利。年式や細かいメカニックは変わるかもしれませんが

対空戦車…ミートチョッパー。ベトナム戦争での米軍のM42ダスター、アフガニスタン紛争時のソ連軍のシルカのように便利でしょうなぁ、と。

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