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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第12部 空軍の戦争
110/110

その7 エスケープ

 というわけで、空軍の戦争は今回が最後です。

<大空>輸送機“ロメオ6”

 上空を飛ぶ<大空>輸送機の赤外線センサーは地上の中国軍歩兵隊の動きを監視していた。

「敵の動きがおかしいです!」

 センサーが捉える中国兵達の動きが明らかに変わっていた。彼らはもと来た方向へと戻り始めていた。

「諦めたのか?」

 指揮官が尋ねると、センサーを監視する兵士が首を横に振った。

「分かりません」

「地上の救難員に急ぐように伝えろ」




地上

 <大空>輸送機からの連絡を受けた八神は後ろを振り返った。敵の姿は見えないが、なにか嫌なものを感じた。

「弾は装填してあるよな」

 八神は背後の部下に尋ねた。部下は頷いて答えた。

「戦闘になるのか?」

 2人の様子を見て、脱出したパイロットの1人が尋ねた。拳銃を持つ手は震えている。八神はパイロットを安心させるように言った。

「大丈夫です。我々が食い止めます」

 それから八神はまた敵の居る方向を確かめた。まだ、なにも見えない。それから自分の首の後ろに手を伸ばす。救難員の2人は迷彩服の上からベルトを身体中に巻きつけて装着していて、首の後ろの部分にはカラピナがぶら下がっている。万が一の場合はこれが最後の砦になる。




<大空>輸送機“ロメオ6”

「やはり、要救助者と救難員を追っています」

 赤外線センサーを監視している兵士が言った。

「中国軍は丘を包囲するように前進しています。間違いなく友軍を追っています」

 その事実はすぐに八神らに伝えられた。




地上

「先に行ってくれ。我々はここで敵を食い止める」

 振り向いて、もと来た方向に銃口を向けながら、八神はパイロット2人に行った。

「しかし…」

 不安げなパイロットの言葉を遮って、八神は強い口調で言った。

「あの丘まで行けば、ヘリコプターが回収してくれる!すぐに行くんだ!」

 八神の気迫に圧倒されたパイロット2人は急いで丘に向け、駆けて行った。

 一方、八神と部下は近くの茂みに身を隠し、近づいてくる敵軍に備えた。しばらくすると、中国の歩兵隊の姿が見えた。先頭は軍用犬だった。

「あいつのせいで見つかったのか…」

 八神はそう呟きながら、四九式小銃の銃口を犬に向け、引き金を引いた。切換えレバーは三点バーストに合わせられていて、3発の銃弾が放たれた。1発は外れたが、犬とリードを持っている兵士に1発ずつ命中した。犬と兵士はその場に倒れた。

 つかさず2人は切換えレバーを連射にあわせ、中国兵の部隊に銃撃を浴びせた。突然の激しい攻撃に中国軍はその場に伏せて隠れてしまった。八神らはそれぞれ弾倉1つ分の弾丸を撃ち尽くすと、すぐに逃げ出した。




丘の頂

 パイロット2人は丘の頂まで達した。その周りだけ木が無く開けていたので、2人はヘリへの目印となる緑色の発煙筒を点火しながら不安を憶えていた。やがて緑の煙が空に向かって立ち昇った。

 万城目は赤外線センサーでパイロットの2人の周りに敵兵が隠れていないことを確かめると、ブラックホークを急降下させた。敵の攻撃を受けないように右に左にジグザグに動きながら。機上ではまるでジェットコースターに乗ってるような感覚であったが、万城目は落ち着き払って機体を操作した。そして丘の頂の地面から20センチほどの高さでピタリとホバリングして止まった。

「乗れ!」

 機付の機上整備士がキャビンの扉を開き、脱出したパイロット2人を中に引っ張り込んだ。そして扉が閉められ、ブラックホークは再び上昇した。ホバリングしていた時間は10秒にも満たなかった。

「よし。救難員を回収するぞ!」




地上

 八神ともう1人の救難員は、一方が銃撃をして敵を引きつけている間にもう一方が後退するという戦法を射撃役と後退役を交互に交代しながら、中国兵との距離を一定に保ちつつ丘を目指していた。しかし向かってくる中国兵の数は増え続けており、たった2人の防戦がいずれ破綻するのは明らかであった。

 すると上空にブラックホーク救難ヘリコプターが、先ほど丘の上に降り立ったのと同じ要領で急降下してきて八神らの上に現れた。



 赤外線センサーには八神ら救難員を包囲しようとする中国兵の動きがよく映っている。

「撃て!」

 万城目が命じると、機上整備員はM134ミニガンの引き金を引いた。6連銃身が回転をはじめ、7.62ミリNATO弾が毎分2000発の速度で発射され、応戦を続ける2人の救難員の周りにばら撒かれた。

 それをまともに喰らえば痛みも無く死ねるということでミニガンは“無痛ガン”なる異名を持っているが、今回もその異名どおりに威力を見せつけた。万城目は赤外線センサーで、地上の中国兵が文字通りバラバラになる様子を多少不鮮明ながら見ることになり、眉をつり上げて顰めた。しかし中国兵達がたまらず逃げ出したのも見ることが出来た。

「よし。ロープを落とせ」

 万城目が命じると、機上整備員はミニガンを離れ、吊り下げ用のウインチを引っ張って下に下ろした。ウインチの先端にはアタッチメントが装着され、そこからワイヤーは二股に分かれて先端にはカラピナが装着されていた。

「敵前でホイストは難しいのでは?」

 先ほど救出されたパイロットが尋ねると、機上整備員は笑顔で応えた。

「大丈夫です。彼らは特殊な装備を持っており、また特殊な訓練を受けています」



 八神は地上でウインチのワイヤーを受け取った。その分かれたワイヤーの片方を仲間の首の後ろのカラピナに装着した。つづいて残るもう片方のワイヤーの先端を仲間が持って、今度は八神の首の後ろのカラピナに装着した。

 それから2人は周りを警戒しつつ、背中合わせに立った。八神は無線の発信ボタンを押した。

「準備完了!」



 八神からの通信を聞いた万城目はコレクティブレバーを一気に引っ張った。機体が上昇し、ワイヤーで繋がれている八神ら救難員も上に吊り上げられ地面を離れた。機体から兵士を吊るして、そのまま運び去るスパイ・リギングと呼ばれる回収方法だ。機内に収容するより素早く離れられるが、機体から吊り下げられたままなので危険も伴う。

 一方、中国兵はミニガンの射撃が止んだので再び攻撃をしかけてきた。機上整備員は再びミニガンについて地上の中国兵に射撃を浴びせる。吊るされている2人の救難員も小銃を構えて地上に射撃を浴びせる。

 吊るされている救難員が森の木々の上に出ると、万城目は操縦桿を前に押して機体を前進させた。ブラックホーク救難ヘリコプターは2人の救難員を吊るしたまま戦場を離れた。



 しばらく飛んで危険地帯を離れたところでウインチが巻き上げられ、2人の救難員は機内に収容された。かくして救出作戦は終わった。




鉄山空軍基地

 脱出したパイロットが救出され、ブラックホーク救難ヘリコプターと<大空>輸送機は帰路についた。それで最後まで上空援護についていた東郷と結城の<旋風>戦闘機も基地へ帰還することができた。

 基地には既にストライクパッケージ・フジへと参加していた第四七戦隊の同僚達が帰還していて、整備を受けていた。東郷と結城の機体もそれに加わることになる。

 地上に降りると結城は機体を降りて、基地の施設に向かって走り始めた。

「トイレ!」

 爆撃の援護に救難の支援、長い任務の間、ずっと狭いコクピットに閉じ込められていたのだから溜まるものが溜まるのも仕方が無いことだ。東郷はそんな結城の後ろ姿を見送った後、自分もずっと座りっぱなしでコチコチになった身体をほぐす為にストレッチをはじめた。

 そこへ整備兵が駆けつけた。

「ご無事でなによりです。大尉殿」

「機体の整備、任せたよ。ところで地上はどうなったんだ?」

 すると整備兵がガッツポーズを東郷に見せた。

「大勝利ですよ。本渓市を占領しました。これより瀋陽への突撃らしいですよ」

「我々も忙しくなるな」

 今回は改訂はなし。

 次回より第13部<後方の戦争>が始まります。順調に戦果を広げていく日韓連合軍。しかし、その背後では中国軍の残存部隊が補給線を狙ったゲリラ戦を開始していた。

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