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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第12部 空軍の戦争
109/110

その6 レスキュー

空軍特殊機動救難隊ブラックホーク救難ヘリコプター“シーサー4”

 T6Sは国内でライセンス生産されたUH-60ブラックホークに与えられる独自の形式番号であるが、特機救の使うのはその中でも救難、特殊作戦用に改造されたT6S-S型である。給油用プローブや電子警戒装置、それにガトリング方式の7.62ミリ機関銃M134ミニガンなどが装備されている。

 それを操るのは特機救の精鋭パイロット達だ。シーサー4を操るのは万城目士郎(まきめ しろう)大佐で、彼の下には副操縦手と銃手も兼ねる機上整備員の2人がいる。万城目は湾岸戦争にも出征したベテランパイロットであり、皆の尊敬を集めていた。

 しかし、そんな彼でさえも空中給油の際には緊張を隠せなかった。その要領は固定翼機と大差ないが、ヘリコプターの場合は回転ローターの存在がネックになる。もしローターに給油ホースが接触すれば大惨事は免れない。だから給油が終わり、機体の前方に突き出た給油プローブから給油ホースが離れると、万城目は安堵の表情を浮かべた。

「とりあえず難関を1つ突破したな」

 万城目は隣の副操縦手に呟いた。

「でも、これから戦闘が待っていますよ」

 副操縦手の指摘に万城目は首を横に振った。

「それは後ろの2人の管轄だ」

 シーサー4には本来のクルーである3人の他に客人が2人乗っている。その2人こそ実際に地上に降りて、要救助者を救出する救難員だ。特機救とともに行動する救難員は特に挺身救難員と呼ばれ、一般の救難員よりも高度な技術と高い戦闘能力を誇っている。それ故に空軍の特殊部隊として救難任務以外にも様々な特殊作戦に投入される。

 2人の挺身救難員は戦闘になる可能性が高いという報告を<大空>輸送機の指揮官から受けていて、武器の準備を整え、開いたままのドアから下を覗き込んで警戒をしていた。

「機長。目標までは?」

 2人の救難員のうち、階級の高い先任の八神(やがみ)曹長が万城目に訪ねた。

「あと5分だ」




脱出パイロットの着地した上空

 この時、2人のパイロットが降り立った上空には3機の日本空軍機が飛んでいた。1機は地上の2人から発せられるビーコンを受信し、通信を中継する電子戦用夜鷹のヴェスパ1。それに上空援護を引き受けた2機の旋風、パイロットは東郷大尉と結城中尉だった。

 2機の旋風は万全とは言えなかった。既に空中戦を行い、ミサイルを使っている。残る兵器は東郷機はAAM-3が3発、結城機はAAM-3が4発で、近接戦で威力を発揮する赤外線追尾式ミサイルのAAM-4は残っていない。

 それでも、その2機が選ばれたのは、結局のところ空軍にとっては脱出した2人のパイロットよりも残る夜鷹を守るほうが重要であるという事だ。だが悪い話ばかりではなかった。AWACSがより前線に近づいて警戒をすることになったので、先ほどのように低空からの接近で奇襲を受けるという可能性が著しく低くなった。

「それにいざとなれば」

 東郷はHUD上の兵装選択の表示を見て呟いた。そこには“GUN”の文字が出ている。20ミリバルカン砲はまだ1発も撃っていない。

「ヴェスパ1、こちらカワセミ1。地上の2人はどうなっている?」

 それから東郷は地上の2人の通信を中継して、通信の内容をモニターしているであろう電子戦型の夜鷹のパイロットに尋ねた。

『まだ敵に見つかっていないが、見つかるのは時間の問題のようだ。包囲が狭まっている』

「畜生。救助部隊はまだ来ないのか?」

 すると結城が通信に割り込んできた。

『いざとなったら機関砲で掃射してやりましょう!』

 東郷もその可能性を考えていたが、あまり現実的とは言えなかった。東郷も結城も対地攻撃の訓練を受けてはいたが、森林の中で入り乱れている敵味方を確実に識別できる自信が無かった。それに2人の任務はあくまでも上空援護だ。対地攻撃に向かって敵空軍に介入する隙を与えるわけにはいかない。

 東郷は気がついたら、先ほどの言葉を繰り返していた。

「救助部隊はまだ来ないのか?」

 すると新たな相手から通信が入った。

『こちらロメオ6。これより救助作戦を開始する』

 ロメオ6は特機救の<大空>のコールサインだ。




<大空>輸送機“ロメオ6”

 ロメオ6の機長は上空で旋回を開始すると、まず機首に取り付けられた赤外線監視装置を作動させた。それから地上に向けて通信を発した。

「スピアヘッド7、こちらロメオ6。応答せよ」

『こちらスピアヘッド7。敵が迫っている。早く助けてくれ』

「こちらロメオ6。分かった、アピアヘッド7。位置を確認したい。赤外線ライトを点灯するんだ」

『了解』

 赤外線暗視装置には森の中をうごめく無数の影を捉えていた。その中でなにか点滅するものを身につけている2人組を見つけた。目には見えない赤外線を発する赤外線ライトの光をセンサーは見事に捉えていたのだ。

「よし、スピアヘッド7、こちらロメオ6。これより安全なルートを教える。誘導にしたがって離脱するんだ」

 機長はそれだけ言うと、貨物室に乗る特殊部隊員に通信を繋いで誘導を任せた。それから通信の中継と言う役目を終えた夜鷹に退避を命じた。

「ヴェスパ1、こちらロメオ6。作戦は我々が引き継いだ。通信はこちらで受信できる。退避しろ」

『ロメオ6、こちらヴェスパ1。了解した』

 ヴェスパ1のパイロットは危険地帯から離れることができて嬉しそうであった。

 ヴェスパ1との通信が終わると同時に部隊指揮官がコクピットに入ってきた。

「機長。この一帯は救出には適さない。木が生い茂っていてヘリが着陸できる場所はないし、敵前で吊り上げ(ホイスト)は危険すぎる」

「そうですね。挺身救難員を降下させて、ピックアップポイントまで連れて行かせましょう」

「それでは機長。一緒にピックアップポイントを探そう」




ブラックホーク救難ヘリコプター“シーサー4”

 部隊長の決定はすぐにシーサー4に知らされた。

「現地は木が生い茂っていて、ヘリが着地できない。救難員は単独で降下し、要救助者を援護しつつピックアップポイントまで誘導するんだ」

 万城目はプロとして出来る限り冷静な口調で決定を後ろの救難員に伝えた。2人の救難員も万城目と同じようにプロの態度に徹しようとしていたが、完全には徹しきれていなかった。2人とも状況が悪い方向に傾いていることに不愉快になっている。

「分かりました」

 八神は早速、降下用のロープを準備し始めた。

「目標まで5分だ!」

 万城目が後ろの2人に向かって叫んだ。




地上

 脱出した夜鷹のパイロット2人は上空の<大空>輸送機の誘導にしたがって森の中を逃げ回っていた。

『茂みの中に隠れて、息を潜めるんだ!』

 上空からの警告を聞いて2人はすぐに実行した。茂みの中に隠れると、その直後に目の前を中国兵の一群が歩いていった。

『そいつらの後には中国兵は見当たらない。方位3-4-0の丘を目指すんだ』

 2人は<大空>の特殊部隊員の言葉に従うことにし、立ち上がって丘へと向かった。




ブラックホーク救難ヘリコプター“シーサー4”

 シーサー4は脱出したパイロットを捜索する中国兵の一群を迂回して背後にまわりこんでいた。それから<大空>の特殊部隊員がパイロットに向かうように指示した丘の上空までやって来た。

「あの丘がピックアップポイントだ。これから脱出したパイロットの針路上に降ろす。2人の後退を援護するんだ」

 万城目の指示を聞いて2人の救難員は頷いた。シーサー4は丘の上を越えて2人のパイロットのもとへと急いだ。

「そろそろだ。降下用意!」

 八神ともう1人の救難員はキャビンの縁に腰を下ろし、脚を外に出した。その手には機体と繋げられた降下用ロープが握られている。

「降下!」

 万城目は叫ぶと同時に機体をホバリングされた。その直後、八神ら救難員は地面に向けてロープを投げ落とし、そのままロープを伝って地上に降りた。




地上

 地上に降りた八神ともう1人の救難員は早速、脱出したパイロットのもとへと急いだ。

 上空のヘリは降下用ロープを外して地面に落とすと、一足先にピックアップポイントの丘へと急いだ。

 救難員はすぐに2人を見つけた。八神は2人に問いかけた。

「特殊機動救難隊だ。大丈夫か?」

 突然、林の向こうから現れた友軍に2人のパイロットは驚いたが、すぐに応じた。

「あぁ。大丈夫だ。ヘリはどこに居るんだ?」

 聞かれた八神は丘の方を指した。

「すぐ近くだ」



 その頃、捜索を続ける中国軍歩兵部隊に軍用犬部隊が合流した。軍用犬は放置されていたパラシュートから脱出した日本軍パイロットの臭いを嗅ぎ取り、すぐに追跡を開始した。

 日本軍パイロットの臭いはしばらく着地地点から友軍の居る南へと向かっていたが、ある地点から北西方向へと針路を変えていた。しかし中国軍部隊はそれに気づかず南へと捜索を続けている。

「いかん。敵は我々の背後にもぐりこんでいるぞ。部隊を呼び戻せ!」

 軍用犬を操る下士官が叫んだ。

 今回は第7部その1を改訂。若干の表現変更ですが。

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