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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第12部 空軍の戦争
108/110

その5 メーデー

中国軍のSA-15陣地

 彼らが守る筈だった橋は無残にも崩れ落ちていた。それを守るべく配置されているSA-15地対空ミサイル中隊のうち、生き残っているのは指揮車1輌と発射機1輌のみだった。

 しかし中国の将兵達は反撃を諦めてはいなかった。攻撃を終えて帰還する日本軍機に狙いを定め、機会を窺っていた。

 中隊は更なる攻撃に備えて空軍から借りた移動式対空レーダーを使って敵を探すと共に、SA-15発射機はレーダーを使わずカメラと赤外線センサーから成る光学追尾システムを空に向けて攻撃の瞬間を待っていた。

『大型機編隊が接近!ジャミングが激しい!』

 移動式レーダーの操作員が報告をしてきた。目標の方位とおおよそ距離を伝えてきた。

『だめだ。レーダーがブラックアウトした。これ以上の追尾は不可能だ』

「分かった。すぐにレーダーを切って隠れるんだ」

 指揮車に乗る中隊長はレーダーとの通信を切ると、今度は生き残った最後の発射機に向けて発信をした。

「今のを聞いていたな?」

『はい。目標を追尾中です。夜鷹です』

 幸いにもSA-15の光学追尾システムは目標を捉えたようだ。

『攻撃を開始します』

 発射機の指揮官はなんとか冷静に答えようとしたが、喜びを中隊長に隠し切ることはできなかった。指揮官は勝利を確信していた。攻撃は奇襲になる筈だ。日本軍機はレーダー警戒装置を搭載しているが、光学追尾システムはレーダーを使用しないので彼らには気づかれない筈である。



 最初にそれに気づいたのは目標となった夜鷹の後ろを飛ぶ僚機だった。

「スピアヘッド7、こちらスピアヘッド8。ミサイルらしき物がお前にむかって向かっている!気をつけろ!」

 それを聞いた夜鷹、コールサイン“スピアヘッド7”の後席に座る兵装士官は慌てて振り向いた。しかし機体が死角となってミサイルらしきものは見えなかった。しかし、なにもしないわけにはいかない。パイロットは僚機の警告の直後に操縦桿を倒した。

 機体が傾き、夜鷹が旋回を始めると兵装士官の目にもミサイルが捉えられるようになった。

「畜生!本当だ!ミサイルだ!」

 兵装士官が叫ぶ。警告は何も無かった。レーダー警報装置は今でも沈黙している。しかしミサイルは迫っている。

「フレア!フレア!」

 レーダーの警報が無かったことから、スピアヘッド7のパイロットは敵のミサイルが赤外線追尾式であると考えて、囮の熱源であるフレアを射出して回避を図った。しかしミサイルはフレアを無視した。夜鷹を追尾しているのは地上の発射機であり、人の操作を介して目標へと誘導しているのでフレアごときで誤魔化すのは不可能だ。

 パイロットの必死の回避行動にも関わらずミサイルは瞬時に距離を詰めた。

「ダメだ!逃げ切れない!」

 後ろを振り向いた兵装士官が叫び声をあげた直後、ミサイルが夜鷹の機体後部に突っ込んだ。

 まず激しい衝撃がパイロットと兵装士官を襲った。ただミサイルが命中したのが尾部であったので、コクピットには破壊が及ばなかったのが2人には強運だった。

「畜生。機体の後ろ半分が無くなってる!」

 再び後ろを振り向いた兵装士官が叫ぶ。

「脱出するぞ!」

 パイロットも後席に負けない大声で叫んだ。2人は慌てて座席脇の脱出レバーを引いた。まずコクピットのキャノピーが火薬の力で吹き飛ばされた。それから今度は2人の座る座席が小型のロケットモーターの推進力を使って空中に射出される。

 空中に射出された2人は自分達が凄まじい勢いで機体から引き離されていく様を目撃することになった。2人の座る射出座席は高度0、速度0の機体からも安全に脱出できる性能を有するゼロ・ゼロ射出座席で、パラシュートを安全に開ける高い高度まで押し上げることができる。だから脱出した2人もかなり上がった後に、パラシュートを開くことになった。パラシュートが開いた頃には、脱出した2人は無人になって落下していく夜鷹の機首をかなり上から見下ろすことになった。

 ようやくパイロットと兵装士官は冷静に物事を考えられるようになった。とりあえず生きて地上にたどり着けそうだ。ゆっくりと降下しながら2人は思った。

 一方、無人になった機首はどんどん高度を落とし、山の中腹に激突して爆発した。




鉄山空軍基地

『メーデー!メーデー!スピアヘッド7が撃墜された!』

 その悲鳴がスピーカーから聞こえると同時にハンガーに停められた航空機に飛び込む男達が居た。彼らの乗り込むのはアメリカ製のブラックホーク輸送ヘリコプターの日本空軍版であるT6Sや、国産輸送機L14J<大空>であった。それらの機体は一般部隊に配備される機体と異なり特殊作戦に適合するように改造が行われていた。そして、すぐさまブラックホークと<大空>が1機ずつ、空中へと上がった。

 彼らが所属するのは空軍の飛行救難団の配下にある特殊機動救難隊であった。墜落した飛行機から脱出したパイロットの救出や災害時の救助活動への参加を主要な任務の飛行救難団の中で、特殊機動救難隊は専ら国外で敵地に潜入して活動をする部隊として編制された。救難団でも最精鋭のパイロットが集められ、暗闇の中でも暗視装置の視野の狭い不鮮明な映像だけを頼りに昼間と同じように飛ぶことができるという。そうした高い技量故に彼らは救助任務だけでなく特殊部隊の輸送、潜入にも使われる。

 鉄山基地にはブラックホーク3機とスーパースタリオン1機、大空2機の合計6機が派遣されていて非常時に備えていたが、遂に彼らの出番が来たのである。




中国の山間部

 その頃、撃墜されたパイロットと兵装士官は着地していた。パラシュートが木の枝に引っ掛り、脱出の為に自分でパラシュートの帯をナイフで切り、2メートルほど下の地面に飛び降りることになったが、2人とも大きな怪我を負うことなく地面に降り立っていた。

 2人は着地すると、まず手持ちの物資の点検を始めた。救難信号を発するビーコンは正常に作動している。四〇式拳銃には9ミリパラペラム弾8発入りの弾倉が装填済み。僅かばかりの非常食と携帯無線機も無事だった。とりあえず仲間の救難機が駆けつけるまで、生きていられそうだ。

 装備を確認すると2人はビーコンや無線機の電波が味方に届くように丘の上に向かった。

「連絡を取ってみよう」

 丘の上に到着すると、パイロットがそう言って無線機の電源を入れ、発信ボタンを押した。

「メーデー!メーデー!こちらスピアヘッド7。パイロット、兵装士官ともに脱出に成功。誰か応答してくれ!」

 するとすぐに返事が返って来た。

『スピアヘッド7、こちらヴェスパ1。通信を受信した。AWACSに中継する』

 しばらくするとAWACSに乗り込む管制官が呼びかけてきた。

『スピアヘッド7、こちらイーグルアイ5。2人とも無事か?移動可能か?』

「2人とも命に別状はありません。怪我も軽傷で、移動に支障はありません」

『よし。お前らの位置はヴェスパ1が捉えている』

 ヴェスパ1はストライクパッケージを支援している電子戦仕様の夜鷹のコールサインであり、優れた受信アンテナと逆探知装置が備えられていてビーコンと無線の電波を双方を捉えていた。

『すぐに救出チームが到着するから、待機をしているんだ』

「了解!」

 パイロットが通信を切ろうとしたとき兵装士官が叫んだ。

「大変だ!」

「どうした?」

「あれを見ろ!」

 兵装士官が指さした方を見ると、中国軍の兵士がこちらへ向かって来るのが見えた。パイロットの口から思わず汚い言葉が漏れた。




空中

 輸送機<大空>特殊作戦仕様は様々な任務を与えられていて、それに必要な装備を搭載している。この機体は特殊作戦に必要な器材と人員を一括で運ぶ輸送機であり、配下のヘリコプターに燃料補給を行う空中給油機であり、要救助者や潜入した特殊作戦員を発見するための捜索機であり、特殊作戦指揮官が乗る空中指揮機でもある。

 作戦指揮官は幕僚達と共に電子戦仕様の夜鷹、コールサイン“ヴェスパ1”の送ってくる電波方位探知の報告から脱出した2人の位置を割り出し、地図を見て飛行ルートを組み立てていた。そこへ<大空>の通信士が割り込んできた。

「敵地上部隊が脱出した2人を追跡しています。救出時に戦闘が発生する可能性があります」

 作戦指揮官は黙って頷いた。別段、驚くほどの事態ではない。“特機救(とっききゅう)”こと特殊機動救難隊は戦いの準備もすっかり整えていたのである。

 第5部その8を改訂しました。

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