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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第12部 空軍の戦争
106/110

その3 シュート

 SEAD機により敵防空網に穴が開けられると、いよいよ攻撃部隊が突入する。攻撃の主力となるのは20機の夜鷹爆撃機だ。20機の夜鷹はそれぞれ割り当てられた目標に向かって分かれていった。

 4機の夜鷹はある橋の破壊を命じられていた。可変翼を閉じて低空を高速で攻撃目標に向かい飛行していた。目標に近づくと、さらに2機ずつに分かれて異なる方向から目標に接近していく。

 夜鷹は日本空軍が誇る大型長距離攻撃機であり、高速性能と短距離離着陸性能を両立する為に可変翼を採用しているのが特徴だ。主翼のうち外側の3分の2が可変翼で、内側の3分の1が固定翼になっていて、左右の固定翼部分には2箇所ずつ、合計4箇所のハードポイントがあって大型兵器を携行可能である。

 攻撃に参加した夜鷹はレーザー誘導装置を装着した2000ポンド爆弾を4発ずつ搭載し、胴体の兵装庫には赤外線センサー、レーザー照準装置を一体化したセンサーポッドを格納庫に設置して作戦に臨んでいる。

 さらに左右の可変翼部分にも1つずつ、2箇所のハードポイントがある。これは重量のある大型兵器を搭載できないが、可変翼の動きにあわせて回って搭載兵器の弾頭を常に前方に向けるという優れもので、そこには自衛用に赤外線追尾式ミサイル<江戸彼岸>を搭載していたが、それを使う機会はおそらく無いと思われた。

「目標を視認!」

 夜鷹の後席に座る兵装士官が赤外線センサーの捉えた画像を見て言った。

「攻撃準備!」

 前席の指揮官でもあるパイロットが叫んだ。

 攻撃は2機1組で行われる。1機が照準役となり、もう1機が爆弾を投下する。照準を行うのは後席に座る兵装士官はレーザー照準器を作動させた。兵装士官は照準システムを操作して十字線を目標に合わせた。目標は橋桁を支える川の上に立つコンクリートの柱、橋脚である。



 目標となる橋は四車線の自動車道路が通っていて、橋脚が全部で4つある。それと橋の両端で橋桁を受け止める橋台も目標となる。もっとも狙いやすいのは当然ながら橋台、橋脚の上に載せられている、道路が通っている長い橋桁であるが、橋桁を破壊しただけでは新たに板を渡してすぐに復旧することできてしまう。橋を完全に破壊する為には橋を支える柱を粉砕しなくてはいけない。

 兵装士官が最初の目標に十字線を合わせた。川の真ん中近くの橋脚だ。

「照準良し!」

 照準役の夜鷹の兵装士官が報告すると、攻撃役の夜鷹が突入した。一度、上昇して高度をとってから機首を目標の橋脚を向ける。

投下(シュート)!」

 攻撃役の夜鷹のパイロンから1発の2000ポンド爆弾が投下された。慣性の法則に従って爆弾は真下に落下することなく、橋脚に向かっていく。

 一方、照準役の兵装士官はレーザー照準装置の電源を入れたが、まだレーザーを照射していなかった。すぐにレーザーを照射して誘導を行うと、爆弾の方が小刻みに軌道修正を繰り返して失速し、目標の手前に落下してしまう可能性があるからだ。レーザー照射は直前に行う。

 爆弾と橋の間の距離はぐんぐん縮まり、いよいよ目の前に迫った。

「今だ!」

 兵装士官がレーザーを照射し、爆弾の弾頭に装着されたシーカーがそれを捉えた。その誘導を基にして爆弾の尾部に備えられた小さな翼を動かして、爆弾が照準レーザーの示す地点に命中するように針路を修正した。その直後、爆弾が橋脚のコンクリートに突入した。

 爆弾に取り付けられた信管は延期信管で、当たった瞬間には爆発せず、爆弾はそのままコンクリートの柱の中にめり込んだ。そして橋脚の中で爆発した。内部からの爆発でコンクリートが吹き飛び、構造が歪み、橋の重量を支えられなくなった橋脚は瞬く間に崩壊した。上に載る橋桁も巻き込まれ、川に落下する。

「命中だ!」

 夜鷹のパイロット達は自らが投下した爆弾の威力に驚いていた。理屈の上ではその威力を理解していても、その威力が実際に発揮された瞬間の衝撃は相当のものであった。

 最初の攻撃を行った2機の夜鷹が橋の上を飛び越した。代わって他の2機が第2次攻撃を行う。そうやって交代を繰り返しながら橋の橋脚と橋台を完全に破壊する予定であった。



 各地で夜鷹が目標に攻撃を行っている頃、その上空では第四七戦隊の旋風が夜鷹を空の脅威から守るべく警戒をしていた。夜鷹は自衛用のミサイルを携行しているものの、対地攻撃の為の機体であり敵の戦闘機とまともに交戦する能力は無いので、旋風隊の責任は重かった。

 その時、護衛部隊の指揮官である東郷大尉にAWACSから緊急の通信が入った。

『カワセミ1、こちらイーグルアイ。敵機(ボギー)が4機、接近中』

「イーグルアイ、こちらカワセミ1。了解。迎撃する」

 それから東郷は僚機である結城中尉に命じた。

「カワセミ2、こちらカワセミ1!ついて来い!」

 その言葉と共に東郷機は上空警戒を続ける編隊から離れた。すぐに結城機も続く。



 旋風戦闘機は左右の翼端に1箇所ずつ、翼下に2箇所ずつ、胴体の左右に1箇所ずつ、そして胴体下の機体中心線上に1箇所、合計9箇所のハードポイントを持つ。

 ストライクパッケージ・フジの護衛を命じられた第四七戦隊の旋風の場合、翼端のステーションに赤外線追尾式空対空ミサイルAAM-4<江戸彼岸>を、翼下のパイロンのうち翼端側のものと胴体側面のハードポイントにセミアクティブレーダー誘導空対空ミサイルAAM-3<桜花>を、そして胴体側の翼下パイロンと胴体下に増槽をそれぞれ搭載して任務に臨んでいた。つまりミサイルは<桜花>を4発、<江戸彼岸>を2発、合計6発を装備していることになる。そしてコクピットの左脇に650発の弾丸を装填したM61バルカン砲。これが東郷と結城の機体が持つ武装のすべてであった。

 東郷と結城はAWACSの誘導を受けて、接近してきた4機の敵機の背後にまわりこんだ。敵よりも低い高度を飛び、戦闘機の死角である後方下に入り込んでいるので敵は気づいていないようだ。

「イーグルアイ、こちらカワセミ1。目標を目視確認した。フィッシュヘッドだ」

 東郷はその目で、接近してくる機体が中国版ミグ21である殲撃7型であることを確認した。

『カワセミ1、こちらイーグルアイ。了解した。ただちに撃墜せよ!』

「イーグルアイ、こちらカワセミ1。了解。交信終わり。カワセミ2、行くぞ!」

 東郷はまず増槽を投下した。これまでの飛行でだいぶ燃料を消費し、かなり軽くなっていたとは言え、その空気抵抗は空中戦闘をするのに障害であった。結城機も東郷に続いて増槽を投下する。

「カワセミ2、こちらカワセミ1。これより攻撃を開始する。援護せよ!」

『カワセミ1、こちらカワセミ2。了解。援護する』

「カワセミ1、エンゲージ!」

 旋風の火器管制装置が作動し、機首に備えられたレーダーが殲撃7に向けられる。それをレーダー警報装置で感知したらしく、殲撃7は一斉に散開し、回避運動を始めた。

「逃がさない」

 東郷は編隊の先頭を飛んでいた1機を目標に定めた。指揮官機の可能性が高いからだ。使用兵装に<桜花>を選択し、レーダーを広域捜索モードから単一目標追跡モードへと切り換えた。これによりレーダーは目標となる敵機にのみレーダー波を浴びせて追跡に専念する。この状態が俗に言う“ロックオン”である。

「ターゲット、ロック。カワセミ1、フォックス1!」

 操縦桿の発射ボタンを押すと、左翼下のAAM-3<桜花>がパイロンから投下された。<桜花>は1秒ほど自由落下した後、ロケットモーターに点火された。そして一気に加速し、目標へと向かっていく。

 AAM-3はセミアクティブレーダー誘導ミサイルなので、発射母機である東郷の旋風がレーダーを目標に照射し続けなくてはいけない。その間、東郷は回避運動ができないのだ。だから結城が東郷機のすぐ後ろについて、敵機の襲撃を警戒して援護をしている。

 幸い目標となった4機の殲撃7型はそれぞれ別の方向へと逃亡し、東郷に襲い掛かる様子は無い。東郷は目標への攻撃に専念することができた。

 AAM-3は瞬く間に目標との距離を縮めた。殲撃7のパイロットはミサイルが命中する直前に急旋回して回避しようと企んだ。ミサイルのロケットモーターは燃料を使い果たしていて、機動力はかなり落ちている。回避できる可能性はかなり高い。

 実際、右に急旋回した殲撃7にAAM‐3は追従できなかった。しかし現在のミサイルには近接信管が備えられている。近接信管は可変時間(VT)信管とも呼ばれ、レーダーやレーザーセンサーで目標との距離を計測し、再接近したタイミングで炸薬を爆発させるのだ。これにより目標に直撃しなくてもダメージを与えることができる。

 AAM-3は弾頭に備えたレーザーセンサーで目標との距離を計り、弾頭炸薬の加害範囲内のかなり至近距離まで接近した後、再び距離が離れ始めた瞬間に近接信管が作動した。殲撃7型を瞬時に撃墜することは叶わなかったが、エンジンが損傷して停止し、左主翼も半分吹き飛んでいて、高度もどんどん下がっていた。中国空軍のパイロットは脱出を決断した。

「目標からパイロットが脱出した。目標を撃破した」

 2発目のミサイルを発射する直前だった東郷は、目標の殲撃7からパイロットが射出されるのを見て攻撃を中止した。

「次の目標を攻撃する。カワセミ2、行け!援護する」

『カワセミ1、こちらカワセミ2。了解した。これより新たな目標に攻撃を開始する』

 事前のブリーフィングで、敵機への攻撃は僚機と交代で交互に行うと決めていた。結城は東郷を援護しつつも次の目標にめぼしをつけており、もっとも近い1機に絞っていた。

『ターゲットを確認!』

 いよいよ結城が攻撃に移ろうとした時、AWACSから緊急の通信が入った。

『新たな敵機が接近!方位0-4-0!注意せよ!』

 東郷はAWACSに指示された方角に目を向けると、新たな殲撃7の一群を発見した。低空からこちらに向けて上昇して向かってきており、まだ小粒のように小さく見えたが、超音速で飛ぶ戦闘機の世界では驚くほどの至近距離である。

「ここまで接近されるとは…低空を飛んでクラッターに紛れてAWACSをやり過ごしたか」

 敵の数は全部で12機、それがそこまで迫っている。

『カワセミ1、こちらカワセミ2。攻撃を中止します』

「カワセミ2、こちらカワセミ1。よし、迎え撃つぞ!ドッグファイトだ!」

 とりあえず今年中に日中戦争編は終わらせたいです。

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