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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第11部 内陸侵攻
101/110

その8 早朝の進撃

祝!100部達成!

3月23日早朝 鳳城市北 中国軍最後の陣地

 森の木々の中で帝國陸軍の歩兵達が横一列に並んで、口から白い息を吐きながら指揮官の号令を待っていた。東の空は白みつつあり、日の出も迫っている。

 すると彼らが向いている先で次々と爆発が起こった。友軍の迫撃砲攻撃だ。それとほぼ同時に指揮官が命じた。

「吶喊!」

 それを聞いた兵士たちは反射的に待機していた陣地を飛び出して、今まさに味方の迫撃砲弾が爆発している着弾点に向かって走り始めた。

 兵士達が戦場へと駆け出すと同時に、砲弾の着弾点も前へ前へと進んでいき歩兵隊の進路を蹂躙していく。強烈な移動弾幕射撃を浴びせて中国軍の陣地を制圧し、弾幕が去ると同時に歩兵隊が突入して、相手に対応の暇を与えることも無く占領してしまおうという算段であった。

 その作戦は成功だった。応急陣地に篭って砲撃をやり過ごしていた中国軍は、砲撃の後に間髪いれずに突入してきた日本軍に対してほとんど応戦できなかった。日本軍は街道沿いの山地を順調に占領していった。




捜索第20連隊陣地

 装甲車中隊指揮官である山口大尉は戦場4日目の朝を四八式重装甲車の中で迎えていた。砲手に肩を揺さぶられて目を覚ました彼がまっさきに感じたのは身体の違和感であった。座り心地が良いとはとても言えない装甲車の座席にもたれて、無理な姿勢で眠っていた為に身体が悲鳴をあげていた。

「大尉、大丈夫ですか?」

 心配する砲手に山口は肩を揺さぶって身体の調子を整えつつ笑顔で応じた。できれば手を上に伸ばして伸びをしたかったが、装甲車の砲塔はそれほど広くは無かった。

「司令部から通信です」

 そう言って砲手は山口にインカムを手渡した。それを耳に装着するとともに山口はカラカラに乾ききった喉を潤そうと水筒に手を伸ばしたが、掴めなかった。

「タタラ6‐0、こちらタタラ1‐6。なんでしょうか?」

 相手は連隊長の椿日向大佐であった。

『タタラ1‐6、こちらタタラ6-0。第80旅団が道をこじ開けた。作戦を決行する。出撃準備が完了次第、報告せよ』

「了解。交信終わり」

 連隊長との通信を切ると、配下の小隊長を呼び出した。山口と同じように転寝をしていた者も多く、中隊が出撃準備を終えるのにしばし時間がかかった。それはどの中隊も事情は同じようで、準備完了の報告は全中隊からほぼ同時に椿大佐に届いた。

 返信が全ての中隊に対して送られた。

『全中隊に達する。所定の作戦計画通りに行動を開始せよ!繰り返す。行動を開始せよ!』

 作戦計画では山口が指揮する第1装甲車中隊が先頭を務めることになっていた。

「中隊全車へ。行動を開始せよ!行動を開始せよ!」

 中隊内無線で配下の車輌にそう命じてから、山口は水筒の水を口に流し込んだ。すぐに中隊の装甲車が一斉に動き始めた。順番に街道を進み、縦隊になって北へと進んでいく。




通遠堡鎮

 一方、陣地を固守する挺身連隊のもとへも朝日が差し込んでいた。夜が明けたことで中国の勢いは明らかに弱まった。これまでの戦闘における損耗、そして明るくなったことで空軍が前線近くにも攻撃を行えるようになり、重厚な近接航空支援を提供できるようになったことがその要因だった。

 中国軍は攻撃を切り上げて森の中に身を隠した。鳳城市最後の陣地が突破されたという一報が届いたのはその時であった。

「どうしますか?」

 通遠堡鎮を見下ろす丘の上に新たに設けた司令部に入った第31集団軍の趙司令官は早速、第91師団の師団長に意見を求められた。道は2つに1つ、通遠堡鎮の奪還をあくまでも目指すか、もしくはルー・タオランの師団に習って山中で遊撃戦を始めるかである。

 趙は考えた。手元には損耗した1個連隊しかなく、残る2個連隊は鳳城市での戦いで散り散りになっている。部隊の集結に努めているが、無線有線どちらの通信も頼りない状況で、しかも移動路が日本の空軍に見えない山中を使わざるえない今、第91師団の全力をもってしての攻撃と言うのは事実上不可能であった。となると使えるのは手元の1個連隊だけだが、それでは分が悪い。

 そうなると山中に散らばって遊撃戦ということになる。遊撃戦も日本軍に対しては有効な手段であるが、十分な準備が整っていない現在の第91師団では長続きしないであろう。

「通遠堡鎮を奪還する」



 1時間ほどで準備が整った。部隊が整列し、号令さえあればすぐにでも盆地へ向かって駆け下りていく。残っていた砲兵隊も支援射撃の準備を整えた。後、必要なのは師団長の命令だけだ。

「それでは攻撃を開始します」

 師団長が趙司令官に最後の確認をすると、趙は黙って頷いた。それから師団長は命令を待つ伝令兵と向き合った。

「これより各部隊への命令を伝える」

 師団長が命令を伝えようとした次の瞬間、空からヒュルヒュルと何かが空気を切り裂くような音が聞こえてきた。

「砲撃だ!」

 その場に居た全員が司令部周辺に掘られた急造陣地に向けて飛び込んだ。激しい炸裂音が轟き、土が巻き上げられる。砲撃は中国軍部隊が隠れる山腹全体に向けられているようだ。

「なぜこのタイミングで砲撃を?」

 趙は塹壕の中でうつ伏せになりながら考えた。彼の上には何人もの将兵が折り重なっていて、うめき声が聞こえてくる。

「まさか、こちらの意図が日本軍にばれたのか?」

 となると、この砲撃は日本軍による攻撃を阻止する為の砲撃と言うことになるが、趙はそうは思わなかった。

「いや、まさか。いくら日本軍でも山中の我々の意図を正確に把握することはできない筈だ」

 中国の攻撃を阻止する為の射撃ではないとなると、考えられる可能性は1つ。

「突撃支援射撃だと…」



 味方の砲撃の着弾が山を登っていくのに続いて挺身連隊の歩兵達が山を登って、突撃していく。それは鳳城市街最後の中国軍陣地を巡る戦いで第80旅団の将兵が見せたのと、ほぼ同じ戦法であった。

 挺身連隊の攻撃が中国軍の攻撃の機先を制したのは、まったくの偶然であったが、攻撃の為に塹壕を出て整列をしていた中国兵にとっては完全な奇襲になり、まともに対応する術は無かった。中国軍は総崩れになった。

 麓では突撃の主力となった挺身第5連隊の指揮官が双眼鏡で戦闘の様子を眺めていた。

「無理に攻める必要は無いんじゃないですか?」

 傍らに立つ副官が怪訝な表情で連隊長に尋ねた。第20師団が防衛線を突破した今、ここであえて挺身連隊が攻勢に出る必要を彼は感じていなかった。だが連隊長は首を横に振った。

「いや。必要だ。山中に逃げられて遊撃戦でも始められたら、目を当てられない。ここで奴らを捕捉して殲滅しなければならないんだ」



 山中では激しい戦闘が続いていたが、大勢は決していた。趙司令官も師団長も自ら拳銃を手にして応戦していたが、指揮官が自衛戦闘に忙殺されている事実こそ組織的な戦闘が不可能になっている何よりの証であった。

 そして趙の目の前で、師団長が敵弾に倒れた。逃げ出す兵士も後を絶たず、趙もその目で配下の部隊が崩壊する瞬間を目撃していた。

「司令!もはやこれまでです。撤退しましょう」

「確かにな」

 趙建国は遂に退却を決断した。自分が掌握できる範囲に居る兵士達を集め、戦場から離脱していった。まだ戦いを続ける兵士も居るには居たが、これによる戦闘は峠を越えたのである。




鳳城市から通遠堡鎮に通じる街道

 山口大尉率いる捜索第20連隊第1装甲車中隊は縦隊の先頭を進み、通遠堡鎮に近づいていた。中隊の装甲車は全て違う方向に砲塔を向け、全周を警戒しながらの前進だった。

 まもなく通遠堡鎮が見えてくるという頃だった。突如、先頭の装甲車から緊急連絡が入った。

『前方に中国兵の一群が!』

 その一報を受け取った山口は反射的に命じた。

「中隊、戦闘隊形をとれ!」

 その一言で中隊の各車が一斉に動き出した。縦一列に並んでいた四八式重装甲車が横隊になって近づいてくる中国兵に相対した。

 その背後で停車した中隊長車の中で山口は戦闘が始まるのを待った。だが銃撃戦は起こらず、代わりに部下から新たな報告が入った。

『中国兵は降伏するみたいです』

 山口が装甲車を降りて、先頭小隊の装甲車の合間を抜けて前へ出た。そこには中国歩兵の一団が30人ほど、両手を挙げて並んでいた。



 捕虜にした中国兵達を先頭にして捜索第20連隊が通遠堡鎮への入った。装甲車の前を歩かされている中国兵は疲れきっているようであった。歩兵達の階級は全員が下士官以下で、所属する部隊もバラバラだった。それは中国軍部隊が崩壊状態にあることを示していた。

 挺身連隊の兵士達は捜索第20連隊を先頭に到着した第20師団第78旅団の面々を拍手喝采で迎えた。迎えられた第20師団の兵士達も顔が得意げになっていた。



 この日、中央戦線の韓国軍も通化市を守る2個旅団を突破した。中国軍の残存部隊は戦場を離脱し、次の陣地まで後退して新たな戦いに備えた。そして鳳城市を守る第91自動車化歩兵師団は壊滅し、残存する兵力は散り散りになった。

 かくして山中で日本軍に遅滞戦を行うべく展開した第31集団軍は崩壊した。

 4年半かかって、ようやく100部達成ですよ。最終回までどれだけ時間が必要なんだがorz


(改訂 2012/11/6)

 “その8”の後にタイトルを入れ忘れたぜorz

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