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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第11部 内陸侵攻
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その7 夜戦

 鳳城市最後の陣地の突破はやはり手間取った。森林の中に構築された陣地を装甲車両の力に頼らず攻略するのは難儀で、一進一退の攻防を続けながら日本軍はゆっくりと占領地を広げていた。

 しかし北へ、通遠堡へと通じる街道には迫撃砲弾やら榴弾砲やらが撃ちこまれ、安全に行動できる状態ではなかった。街道に部隊を進撃させるには占領地をさらに広げる必要があった。

 そうこうしている間に日が沈んで、夜が訪れた。夜間になれば中国側がますます勢いを増し、日本軍の攻略の速度が鈍る。



 一方、陣地の北では集結を終えた中国軍の1個連隊が戦車中隊を先頭にして北へ向けて進軍を始めた。なけなしのトラックが集められ、そこに将兵や装備が積み込まれて、一定の間隔を開けて通遠堡へ向けて出発してゆく。

 勿論、ヘッドライトを照らすなどというマネはしない。憲兵の誘導を頼りに、運転手達は暗い夜道を日本空軍の攻撃に怯えながら北へと進んでいった。



 その頃、攻略を進める第80旅団の背後で出番を待っている第78旅団と捜索第20連隊にも動きがあった。

 山口大尉は砲塔の中で赤外線熱線映像装置の捉えた映像を通して戦場を見守っていた。画面には時折、立ち上る煙と閃光が見えるくらいで戦闘の詳細は不明だった。そんな光景を見ながら山口はしだいに意識がおぼろげになっていた。

 そんな彼を現実に引き戻したのは傍受していた友軍の通信だった。

『奇襲だ!』

 その言葉は聞いた山口は瞬時に反応し、通信機の発進ボタンを押した。

「何事だ。状況を報告せよ」

『北の山から中国軍が突如、現れた!側面攻撃だ!第78旅団を側面から襲っている!』

 それを聞いて山口は舌打ちした。中国軍は1個連隊をもって街道周辺の守りを固める一方で、残る1個連隊を山中に迂回させ、後方で待機する第78旅団を側面から襲ったのである。

「中隊全車へ。警戒態勢をとれ!斥候班は車外に出て奇襲に備えよ!」

 進撃の為に整列していた山口中隊の四八式重装甲車は中隊長の命令と同時に、一斉に動き出した。瞬く間に防御の為の円陣形に配置を組みなおされ、それぞれの砲塔が円陣の外側へ向けられた。車中からは斥候兵が車外に飛び出て、装甲車の前に出て防御態勢をとった。

 その間も山口は通信を傍受して状況の把握に努めたが、奇襲を受けて第78旅団はかなり混乱しているようだった。救援に向かいたいところであったが、この混乱状態では友軍相撃の危険があり、動けなかった。

『敵だ!中隊長車の前だ!』

 前に出て警戒をしている斥候兵の発したであろう通信を傍受した山口は車外の様子を映す熱線映像装置に神経を集中した。確かに、そこには銃を構え、背中に対戦車火器らしきものを背負った数人の兵士がこちらへ向かってくる姿が確認できた。

「敵か?」

 砲塔の中で同じ様子を見ている砲手に山口は尋ねた。

「おそらく」

 砲手の回答は曖昧なものであった。山口はよく観察することにした。兵士が近づいてくると、その輪郭が鮮明になってくる。着ている軍服は中国軍のものだった。

「敵だ!撃て!」

 すぐに砲手が発射ボタンを押し、砲塔の機関砲同軸7.7ミリ機関銃が火を噴いた。こちらに向かってくる兵士は機関銃の斉射でなぎ倒された。

 山口は倒した兵士がもしかしたら友軍の見間違いではないかという不安に襲われた。が、すぐに振り払った。

「警戒を続けるんだ!」

 その後、捜索第20連隊の周辺には砲弾がいくらか落下したが、戦闘はそれだけであった。



 だが、第78旅団の方ではしばし混乱が続いた。

 攻撃に参加したのは、主に鳳城市の入り口の隘路を守っていて突入してきた第78旅団にたたき出された部隊であり、その時と同じ部隊が相手ということで名誉挽回と意気込んでいたが、緒戦の損害は大きく不十分な戦力で奇襲を仕掛けることになった。

 しかし、夜間の奇襲ということで日本側は相手の実態をなかなか掴めず、同士撃ちも発生し、相手を過大評価して混乱状態に陥っていて、自分達の損害をも正確には把握していなかった。

 結局、相手の実力の割には態勢を立て直して事態を収拾するまで時間がかかった。最終的には日付が変わった頃に、敵は砲兵隊の激しい射撃を浴びながら山中に敗走した。第78旅団の方は、最初はかなり大きな損害を負ったと考えられたが、戦闘後に調べて見ると思っていた以上に損害が小さいことが分かった。戦死者は8名、負傷者は38名で、兵器の損失は四八式歩兵戦闘車1輌が全損した他には、戦車2輌と歩兵戦闘車2輌が修理可能な損傷を負った程度だった。犠牲が出たには違いないが、今後の戦闘に支障は無かった。

 実際のところ、一番大きな損害は混乱そのものだった。陣形が崩れ、部隊がばらばらになり、立て直すのに時間が必要だった。その結果、第80旅団の戦果に関係なく第78旅団は翌日―既に24時を過ぎていたので正確には今日―の朝までは進撃はできなくなった。

 その報告を受けた第80旅団は占領地拡大を一度、停止することを決めた。できれば夜戦を避けたいのはどこも同じで、第78旅団の準備が整わないなら無理に推し進める必要は無い、というわけだ。第20師団司令部は未明に第80旅団が鳳城市の盆地の出口を守る中国軍に総攻撃を仕掛けて、安全を確保した後に第78旅団を前進させるという命令を下した。

 その間にも中国軍は通遠堡攻撃の準備を着々と進めていた。




通遠堡鎮の南2キロの地点

 午前4時、中国軍連隊の攻撃の準備は整った。連隊長はただちに攻撃を命じた。

 攻撃は師団砲兵の152ミリ榴弾砲による砲撃から始まった。152ミリ榴弾砲は通遠堡鎮に配置された日本陸軍の三六式105ミリ榴弾砲と射程はほぼ同等だったが、中国側は通遠堡鎮を見下ろせる山の頂に観測員を送り込むことに成功したのに対し、日本側は中国の砲兵を目視観測できる陣地は無く、しかも嵩張る対砲兵レーダーを持ち込めなかったこともあり、挺身連隊は対砲兵戦において圧倒的に不利であった。

 一方、中国砲兵は鳳城市の南に展開している日本陸軍主力部隊の砲兵の射程外にあり、この事変において初めて日本の反撃を恐れることなく威力を発揮できる場面にあった。中国砲兵はこれまでの鬱憤を晴らすかのように、挺身連隊に向けて激しい砲撃を浴びせた。

 砲撃は最初は通遠堡鎮の外縁から始まり、じょじょに集落の中心部へと向けられた。それに呼応して中国軍部隊が前進を開始した。

 街道沿いでは戦車中隊と少数の随伴歩兵が進み、その他の歩兵隊は山中を迂回して襲来へと攻撃を開始した。

 対する挺身連隊には戦車のような機甲兵力は持たず、また広く分散していたので局所的には中国側が優勢だった。日本陸軍の頼りは急造の陣地と砲兵、空軍の支援だけであった。しかし、夜間では空軍の援護も限定的だ。特に山中の戦いにおいては夜間には敵味方の識別が難しくなるので、空軍の攻撃は誤爆を避ける為に前線の背後への爆撃に終始した。結局、挺身連隊の将兵にとって一番頼りになるのは、同じ連隊内の81ミリ迫撃砲か、105ミリ山砲ということになる。

 山中の中国軍は一塊になって薄い防衛線に突撃してきた。挺身連隊は機関銃の十字砲火と迫撃砲、榴弾砲のつるべ撃ちで対応した。中国軍は突撃をする度に死傷者を増やしたが、攻撃を諦めることはしなかった。

 一方、街道では59式戦車を先頭にたてて突撃してくる。対抗する日本軍は戦車隊を十字砲火の中に誘い込むことにした。陣地の前を中国戦車が通っても、先へと行かせて、十分に誘い込んでから前後左右からの対戦車ミサイルの包囲攻撃を加えるのである。

 最初の4輌はそれで撃破された。しかし残る戦車は先遣隊と同じ轍を踏まなかった。早速、作戦を変更した。戦車を先頭にして力任せに突破するのを諦め、戦車は距離をとって支援砲撃に徹して、その間に歩兵隊が日本軍の対戦車陣地へと襲い掛かったのである。

 歩兵同士の兵力は均衡してたが、中国側には戦車の支援があった。その攻撃は守備する日本兵を圧倒しつつあった。

 しかし戦車が後方に下がったということは、日本軍の陣地から十分に距離が開いたということである。つまりは空からの敵味方識別が楽になり、誤爆の危険が減るということだ。日本軍守備隊の指揮官はただちに近接航空支援を要請した。




上空

 要請に応じたのは初日のハマタン鎮戦でも活躍した飛行第4戦隊であった。4機が翼の下に爆弾を、機体下に赤外線センサー兼用のターゲティングポッドをそれぞれ吊るして、それぞれ発進した。

 戦場の上空に達すると、まず赤外線センサーで地上の様子を探った。気温が下がった夜間の山中で、エンジンを回して砲撃を続けている戦車はひどく目立った。

 旋風編隊は一度、目標である戦車の上空を通り過ぎて、挺身連隊が確保している通遠堡鎮上空を旋回して、北側から攻撃に入った。これは誤爆を防ぐ為の措置だ。味方の側から爆弾を投下すれば、爆弾が誤って目標を飛び越してしまっても敵の中で爆発することになる。

 攻撃は2機1組で行われた。1機が照準役となり、目標となる戦車に向けて機体下のターゲティングポッドでレーザーを照射し、もう1機がその目標に向けてレーザー誘導爆弾を投下するのである。

 投下されたレーザー誘導500ポンド爆弾GBU-12は照準役の旋風のレーザー誘導に従って、目標の戦車へと正確に降下した。

 爆弾が命中したのは戦車の砲塔上面、もっとも装甲の薄い部分だった。そこに、そこらの対戦車ミサイルよりはるかに威力がある500ポンド爆弾が命中したのだ。旧式の59式戦車はひとたまりも無かった。

 最初の攻撃で2輌の戦車が撃破された。それを見て驚いた戦車隊の指揮官が戦車を下がらせ、森の木々の間に隠してしまった。それで旋風編隊の再度の攻撃を恐れなくてもよくなったが、戦車は挺身連隊との戦いに参加できなくなってしまった。

 戦車の援護を失った歩兵隊の攻撃は尻つぼみになり、街道の戦いは日本軍が制することになった。そして、その勝利がきっかけとなり、勢いを得た挺身連隊は各地の戦場で次第に中国軍を圧倒するようになった。

 そして、夜が明けた。

・第3部その6の内容を改訂しました。

・次回でいよいよ第100部!

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