その5 アレクサちゃん 思い悩む
その4の最後の独白 ちょっと書き直したで
内に向かうよりも、外に力を向ける方がアレクサらしいと思って書き直した。
暴力と内省を兼ね備えたキャラが好きやが、力を思うが儘に振るうキャラも、また魅力的やと思う。
中途にあった城砦群を粉砕し、要害として音に知られたアラミス城塞を半月で抜き去り、東部諸侯軍は遂に王都を指呼の間に捉えつつあった。
アレクサ軍の前に最後の壁として立ちはだかるは、王家の誇る七姉妹の要塞。
王都を取り囲むように七つの小高い丘に聳え立つ要塞。その各々が複数の防塁を備え、深い堀に取り囲まれ、高い防衛力を誇りながら、他の要塞との連携をとることで鉄壁の布陣と化す最終防衛線であった。
「……大軍を展開できる地形ではないな」
馬上にて分析したアレクサに、傍らを囲む東部諸侯の一人、ザカーが厳しい顔を向けた。
「だが、盟主よ。まともに攻めては、かなりの犠牲が出よう」
「ふむ、迂回出来ぬか?」
老将のゲッツが提案するも、隻眼のドレーが不機嫌そうに一つしかない眼をぎろりと剥いた。
鉄のように引き締まった巨躯の持ち主であり、その武勇はアレクサに次ぐと言われる勇将である。
「アレクサ・バルクホルンや大ゲッツとも在ろう者が、最初から及び腰とはな。
東部騎士の武勇も堕ちたるものよ!」
「では、どうする?貴公自慢の大剣で、あの城壁も切り裂いてみせるか」
ザカーの揶揄に、巨漢ドレーが体躯に相応しい声で吼えた。
「応よ!アラミスでさえ落とした我ら東国の武者ぞ!
あのような小城のひとつやふたつ、正面から踏み潰してやればよい!」
「ならぬ」とアレクサが静かに告げた。
「臆されたか!盟主よ!」
猛り狂うドレーに向けて、アレクサが砦に向かって右手を指し伸ばした。
「見よ、ドレー。あの城は人を殺す工夫に溢れておる。
攻め昇る道は狭く、険しい。岩や丸太が降れば避ける場所とて見当たらぬ。
張り出した壁は、攻め寄せる兵に、三方より絶え間なく矢の雨を降らせよう」
道も城に近づくほど傾斜している。投石器を近づけることも出来ぬ。
王都を守護する七姉妹は、まさしく天険の要害であった。
「あのような砦を、よくぞ七つも築いたものよ」
呆れたように言ったザカーが、丘陵の麓を通る街道へと視線を移した。
「では、攻めずに通り抜けるか」
「無理だ。要塞間の間隔があまりにも狭い。退路を封じられるぞ」
渋い顔で告げた老ゲッツを皮切りに、東部の騎士や貴族たちは口々に議論を戦わせた。
「包囲して封じようにも、兵が足りぬ」
「国元から新手を呼び寄せるか」
「補給線が伸び切っている現状でか?
最短の経路で王都までの補給路を繋がねば、既に軍勢を維持できぬのだぞ」
戦えば戦うほどに、戦士の体は食事を欲する。まして、騎兵を主体とする東国諸侯の軍勢は、王国軍よりも遥かに多くの糧食と馬匹を必要としていた。代え馬を含めれば5万もの騎馬を抱える東国勢は、豊かな中原の穀倉地帯を略奪しても、なお賄いきれぬほどの糧を必要としていた。
地盤の脆弱な東国諸侯にとって、これ以上の負担は耐えかねるものであった。
既に国元では、不満の声が出始めているという。
対して、豊かな中原の城塞都市群を抑えた王家の兵に餓える様子はまるで見えない。
捕えた兵士の腹を割って胃の腑を見ても、困窮した痕跡は欠片も見つからなかった。
5万の軍勢の壊滅とは、大陸の列強諸国をして戦の趨勢を決めるほどの損耗であった。
それを三度まで打ち破られながら、尚も崩れることもなく立ち上がってくる王家の底知れぬ地力には、アレクサ・バルクホルンをして戦慄を覚えさせるものがあった。
中原の豊かさとは、此れほどのものであったか。
新鮮な驚きと共に、アレクサは王家の強さを再認識していた。
異民族を相手の戦で、王家が味方であった時には、役に立たぬ援軍や僅かの物資を送って来てなんになると侮っていた。それが敵に廻ると、此れほどに手強い。
「……そしてなにより、我らには時間がない」
天を見上げるアレクサ。空高く雲が流れていた。
遠く雁行する渡り鳥の群れが、彼方の地平を羽ばたいている。
季節は既に初秋に差し掛かっていた。すれば、二カ月もしないうちに冬が訪れるよう。
「冬の城攻めは避けたいものだな」
それが屈強の戦士であれ、勇壮な騎士であれ、頑強な武装農民であれ、東部諸侯が軍勢は、命ある人間が相手であれば無敵の猛威を振るったものの、自然現象に対してまではなす術もない。
「兵共が既に腹を空かし始めておる。略奪に頼るにしても限度があるぞ」
「最悪、引き返すことになるか」
「王都を目前としながら、中原の弱兵共相手に尻尾を巻いて撤退すると!そげん馬鹿なこつあるか!」
「だが、彼奴ら。戦うたびに手強くなってきておる。存外、侮れんぞ」
戦うたびに王国兵の練度は落ちていると感じていたが、一概に弱くなったとも言い切れないのが、戦の不可思議なゆえんであった。
確かに陣形は歪となり、装備の質は下がり、統率も乱れ、しかし、王軍の兵卒の間にかつてない粘り強さが出て来ていた。
気を抜けば、土地の農民たちは武器を構えて襲い掛かってくる。単騎の伝令や斥候が絶えず襲撃を受け、土地の豪族や王国の将校たちは巧みに地形を活用して神出鬼没に補給線を圧迫する。追い散らしたはずの敵が、短い時間で再び結集して立ち向かってくる。
蛮族や騎馬民族を相手にしての防衛戦で、アレクサも幾度となく使ってきた地の利を生かした戦術であった。
尚武の気風が強い王国である。進めば進むほどに、目に見えて敵の士気が上がっていた。東部に比べれば軟弱な中原の兵でさえ、帝国兵とは比べ物にならぬほどの圧力を感じさせる。敵地を進む東国勢は不断の緊張を強いられた。
基盤が脆弱な東国勢に対し、豊かな中原を抑えた王家の軍勢は、決して餓える事がない。
百の異民族と小国を強引に纏め上げた帝国相手ではけして味わえぬ苦しい戦いを、アレクサたちは強いられていた。
「東国勢は、既に攻勢の限界に達しつつある」
戦装束を纏った王は、文武の百官を前にして明快に断言した。
「アラミス以西の占領地では、ノースハイム家に忠誠を誓う中原の騎士や豪族たちが、今なお、郎党を率いて東国勢の支配に抵抗している」
大円卓に広げられた王国の地図に駒を配しながら、招集した群臣を見回す王の眼差しには、確かな力強さが宿っている。
「占領地を維持する為にも、バルクホルンは兵力を分散させざるを得まい」
そう結論付けた王に、廷臣たちは顔を見合わせて肯いている。
「当初、3万を数えた東国勢も、今や2万を切っています。今こそ、決戦を挑むべき時では?」
高位騎士の一人が提案するも、国王は頭を横に振った。
「ならぬ。東国勢の豪勇には、凄まじきものがある。
冬が迫るにつれて、侵略者どもの軍勢は先細ることとなるであろう。
だが、正面切って戦うのは、最後の時と心得よ。それまではひたすら敵が弱まるのを待つのだ」
国王の言葉に、若き騎士セドラン卿が肯いた。
「輜重隊に対する奇襲も、かなりの効果を上げています。
東国勢は輜重の警護と略奪にかなりの戦力を割かざるを得ないでしょう」
「傭兵の集まりは如何か?」
大臣リオタールが手元の羊皮紙を眺めた。
「西方諸国からは、数多の傭兵団が呼びかけに応えております。
鉄の鳥、大地の風、炎の剣などの大傭兵団も既に新兵を呼集し始めているとのこと」
満足げに肯いた王だが、大臣は気まずげにひとつ咳払いしてから言葉を続けた。
「しかし南方諸国の傭兵たちは、混乱に陥った帝国へと向かっております。
帝都がアレクサ・バルクホルンに焼き払われて、皇帝が戦死したとの噂は、どうやら真らしいと……」
「なんと……アレクサも、偶には良い事をするのだな」
ウーサー第一王子がぽつりとつぶやいた言葉に、列席者から笑い声が飛び出した。
中には、腹を抱えて涙を零している者もまでいる。
「南方の傭兵については、それで構わぬ。時間は我らの味方だ。
東部諸侯は精強ではあるが、その土地は貧しく長期の遠征には耐えられぬ。
そして、遠征中の主力が帰還すれば、東国勢に対しても五分以上の戦いを挑めよう」
列席の大臣や武官たちも、情勢の厳しさを認識しつつも勝利を疑ってはいなかった。
「天上の神々も照覧ある!我らが勝利は疑いやなし!」
そう宣した国王の姿には、戦乱の時代を戦い抜いた往年の気迫が蘇ったようであった。
息長くシリーズとして売れ続けた恋愛ゲーム、ハートの王子様には数多くの派生商品が生まれている。
2~18までの正式なナンバリングタイトルと、おまけをつけたパワーアップキット。
年上を対象としたロマンスグレー版や学園の外の海賊や吟遊詩人、エルフ、傭兵などとの恋を描いたワイルド版。
BLやGLを扱った物に18禁版。NTR要素も入れたコルネット、ヤンデレや暗黒面を描いたゴアやダーク。
番外編としては、格闘ゲームやRPG、SLGまで出ている。
設定集には社会情勢から宗教の教義まで書かれていたが、そちらは興味がなかったのでさほどよく覚えていなかった。
兎に角、なにが言いたいかというと、エフェメラ・グリーンは主な登場人物の能力から人格、特技や苦手なもの、過去の慕情から悩みに因縁、好みの異性から性体験まで把握していると言う事であった。
「お疲れ様でした、国王陛下」
自室に戻った国王を優しく迎え入れたのは、侍女のエフェメラ・グリーンであった。
「エフェメラか」
「お茶をお入れしますね」
いそいそと動き出す侍女に肯きながら、国王は天鵞絨の敷かれたソファへと深く腰を沈めた。
目の前の陶器のカップに茶が満たされるのを目にしながら、王は先刻とは打って変わって、疲れた表情で呟いた。
「……グラハムが死んだ。あたら勇士たちを虚しく死なせてしまった。
彼らの死は全て、アレクサが力を……そして、我が子の愚かさを見誤った余の責であろう」
思わず、内心を吐露する。その程度には、国王は新しい侍女に気を許していた。
父を戦で失った貴族の娘が、女官として城に潜り込むのは簡単だった。
元より、累代の家臣の娘。女官として働きながら、最初から把握してある国王のスケジュールに合わせて、偶然を装って幾度か顔を合わせ、落ち着いて取り入ればこんなものだった。
「お主の推挙したジークフリート。
あの若者は最後まで勇敢に戦い、敵わぬまでもアレクサに浅くない手傷を負わせたそうだ」
びくり、とエフェメラが肩を震わせた。それに気づいた国王は、巌の如き表情で言葉を続けた。
「……見事な働きであった。
それがどれ程の慰めになるかは分からぬが、彼の者に残された係累がいるのであれば、出来るだけの事はしよう」
「……親友として断言します。ジ、ジークの望みは、ただただ王国の平穏でした。
ジークフリートは……ジークの事を想うなら、どうかアレクサに勝ってください」
悲痛な表情を浮かべたエフェメラは、しれっと亡きジークフリートの胸の内まで代言してのけた。
死人に口なし。言った者勝ち。ジークフリートに必ず、と約束した老母の世話の約束など、エフェメラの脳裏ではとっくの昔に忘却の彼方にある。
しゃしゃり出て来られて褒美を願われても困るから、今のうちに始末しておこうかしらん、と思考を凝らす程度に、吐き気を催す邪悪振りであった。
「……うむ」と 肯いている国王に、友を失ったばかりで傷心なのですと言わんばかりに絶句して見せるエフェメラ。
腹の内では、あの役立たずが、などと罵っていることなど億尾にも出さない。
潤んだ瞳に痛々しい笑顔まで浮かべてみせるところなど、無駄な所で芸が細かかった。
「不安を覚えることはない。余がお前たちを守ってみせよう。
安心させるように国王が穏やかな笑顔を向けてきた。
エフェメラが俯いた。痙攣しているようだ。
「陛下……くひっ」
「ん、どうした」
「い、いえ。なんでもありません」
顔を上げたエフェメラの表情は、やや引き攣っていた。
国王は、善良であった。
本当に、救いようもないくらいに善人であった。
善良で誠実。でも、生憎と馬鹿ではないから、動かす手ごまには不向きだった。
子供を殺されたにもかかわらず、復讐心にかられてもいない。
国王の理想は、国内の平穏。
故に、平和がもたらされるのであれば、私情を殺してアレクサと和解することさえあり得るだろう。
自分一人の誇りより、庶人の生活や繁栄、幸福が王の喜びであり希望なのだ。
平和こそが生涯をかけて追い求めた彼の夢であるが為、国王はけして妥協をしない。
ハッキリと言えば、アレクサ抹殺を願うエフェメラにとって邪魔者となる可能性さえあった。
弱みのある人がいい。地位が高く、けれど、弱みを握れる都合のいい人が欲しい。
使えそうなキャラクターたちの顔と名前を思い浮かべながら、エフェメラは偽りの涙を零して見せた。
次は、誰がいいかな。
皆の衆!
今宵は待ちに待ったおっさん回じゃぞ
(読者のニーズを致命的なまでに読み間違え