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その4 アレクサちゃん ぱわーうPするの巻

評判が良かったから、調子に乗って長編にしたで


この後、グダグダになってエタるまでがお約束なんやで


王国軍の三度に渡る迎撃を粉砕し、東部諸侯軍が遂に中原へと雪崩れ込んだ。


最初は、東部方面の辺境軍団。

バルクホルン領へ反乱鎮圧に向かった東部軍団は、進軍中の隊列の伸びたところを寡兵であったアレクサに奇襲を受けて主将を討ち取られ、其の儘、木端微塵に粉砕されてしまう。


二度目は、王家に好意的な諸侯の連合軍。

実戦経験も薄く、なによりも同格の諸侯の集まりで統率のとれぬ烏合の衆は、緒戦から東部諸侯の誇る弓騎兵の狙撃に次々と指揮官を射抜かれ、次いで距離を保って降り注ぐ矢の雨に兵が統率を乱し、留めに突撃してきた馬蹄に踏み躙られて、半日持たずに壊滅した。


最後は、王家がかき集めた傭兵と下級貴族、農民兵の寄せ集めであった。


既知世界でも最強の一角をうたわれ、辺境において騎馬民族や帝国を長きに渡って封じ込めてきた東部諸侯の重装弓騎兵と長槍騎兵12000を前に、歩兵を主とする王国軍50000は遮蔽物のない平野に布陣した。


日の出と共に始まった戦いは、昼前には終わったと言われている。

狂気じみた長槍騎兵の突撃を前に、五万の軍は見るも無残に溶け崩れた。

勇壮な旗も一瞬にして馬蹄に踏みにじられ、煌めく鎧の騎士たちも悉く壮烈な討死を遂げ、王国の兵士たちの屍で川も平野も埋め尽くされたと言われているゲーモンの戦いで、辺境諸侯の目立った損害は重症の兵卒が2名であった。


それでも、合戦には変わりない。

阿修羅の如き東国武者とて人の子であった。

戦いの後には、武具を補修し、矢を蓄え、人馬ともに心身の疲れを癒さねばならぬ。

心の安らぎを求め、戦いの後に異性の肌を求める者も少なくない。

中には、些か風変わりな性癖の持ち主もいたようだが、いずれにしても甚大な犠牲と引き換えに一定の時間を稼ぐことに成功した王家は、本命の軍勢をアラミスへと入ることに成功する。


東部諸侯の前に立ちはだかるは、古代の遺跡をそのまま流用した巨大要塞アラミスの砦。

難攻不落で知られるアラミスを前にして、此処まで破竹の勢いで進んできた東部諸侯軍も流石に足を止めた。


反抗的な豪族の村々を焼き払い、商人の籠る砦や居留地を破壊し、敵対した諸侯の町や都市を略奪し、英気を養いつつ、東部諸侯は攻略の機を待っていた。

これに対して王国も、アラミス砦にあらん限りの支援を惜しまなかった。

アラミスの砦は、中原への入り口を守る四方の関の一つ。

此処を抜かれると言う事は、すなわち、アレクサが王都に手をかけると言う事であった。


迫りくる決戦に、しかし、中原の民は比較的、平静を保っていた。

アラミスの砦は難攻不落であった。この四百年間、一度も陥落した事が無い。

故に東部からの侵攻は心配する必要が無かった。

戦乱の時代、東部の獅子として恐れられた先代のバルクホルンでさえ、抜くことが出来ず、中原への進出をあきらめたのだ。



いずれ国境から軍団が呼び戻され、遠からず蛮族相手に遠征中の大将軍の軍勢も帰還するであろう。

そうなれば、乱も収まる。或いは、東部が独立するかも知れないが、元より貧しい辺境の地。問題はない。

王都が二度と再び焼かれる事はないであろう。

王国中原が戦火に脅かされることはかつてなく、これからもあってはならぬ。

それが王都に住まう民衆の嘘偽りない気持であった。



「学園最強の剣士であるジークフリートさま。

 どうかお力をお貸しください」

下町の一角にあるささやかな住まいに押し寄せてきて、目の前で頭を下げる女学生にジークフリートは困惑した目を向けていた。


「一介の学生である僕に何が出来ましょう」

「ご謙遜を。貴方が一介の学生であれば、アレクサはたおやかな乙女ですわ」

花のように朗らかな笑顔を浮かべた女学生だが、ジークフリートは何処かわざとらしさを覚えた。


「アレクサは、かつて王都を焼き払った女です。

どうして今度も焼かないと言い切れるでしょう。

逃げることの出来ぬ貧しい者たち、抗うことできぬ力なき人々を守る為にも、どうか」

「……ですが、僕は」

断ろうとするジークフリート。彼は、大貴族同士の勢力争いに加わるつもりは微塵もなかった。

「もし、お力添えをいただけるなら、武運及ばず王国軍が敗れ、王都に敵軍が踏み込んで来ようとも、お母さまの身は必ずやお守りします」


脅しだろうか。険しい顔でエフェメラを睨み付けていた青年だが、傍らの老母が口を開いた。

「……ジークや。力を貸してお上げ」

まるでそう言えば、母を動かせることを知っているかのように、目の前の王家の使者はジークフリートの弱点を的確に突いてきた。

そう、ただ一人で息子を育ててくれた母が、ジークフリート唯一の弱点であった。

剣を学ぶ際に、母に対して弱き者、力なき者を守ると誓約を捧げていたのだ。

これは、権力争いでしかないのではないか。

そうした疑念を覚えつつも、ジークフリートは渋々と承諾した。承諾するしかなかった。

「已むを得まい」

かつて、ジークフリートはただ一人で百人の盗賊を斬り倒したこともある。

例え、如何な激戦であれ、自身が死ぬとは思わなかった。

アレクサその人を相手にしても、勝つ自信があった。

アレクサは確かに強い。

学園で見た時に、まさか、同年代に此れほどの剣士がいようとはと驚嘆したのを覚えている。

だが、純粋な剣技であれば自身の方が上だと、ジークフリートは確かな自信を持って言い切ることが出来た。

アレクサは戦士であり、騎士であり、武将であった。対するジークフリートは剣士であった。

即ち、アレクサが馬術を鍛え、弓を使い、戦術を深める間に、ジークフリートはひたすらに剣を振るう。

いかにアレクサが天分に恵まれていようとも、其処には絶対的な差が生じるのだ。

無論、戦場で兵を率いるアレクサと対決すれば、ジークフリートには勝ち目はない。

一対一でさえ、弓を持たせたら、十中八九殺される。

槍を持たせても分が悪いやも知れない。だが、剣であればアレクサを斬れる。

ジークフリートは、そう確信していた。


「……くひぃ!」奇怪な声が響いた。

「なに?」

ジークフリートが怪訝な視線をエフェメラを向ける。

「いえ、なんでも」

吊り上った口元をとっさに隠して、エフェメラは会釈した。


ついに動かした、くひ、くひひ、これでお終いよ

貴女がどんなに強くても、ジークフリートには勝てる訳ないわね。

公式で学園最強なんだもん。

彼は紛れもない最強の剣士。王国でも百年に一人の天才。

アレクサ!アレクサぁ!待っててねぇ!すぐに殺してあげるからねぇ。えひぃ。



東部諸侯連合軍。アレクサ勢は、アラミスに隣接する領域を蝗の群れがごとく荒らし廻っていた。

諸侯領や自治都市は、王国に与する者、中立を守る者を問わず、前触れもなく騎兵集団の襲来に焼き尽くされ、悉く灰燼と化した。


この時のアレクサ軍の行状については、聖職者の一人が、文明を滅ぼさんと死神の大軍が東より襲来せりと書き残している。


アラミス砦の司令官に任じられたグラハム将軍は、近隣の住人を砦に合流させ、食料を減らすのが狙いだとアレクサの策を喝破し、住民の受け入れを拒むよう部下に徹底させた。


故郷を焼かれた民衆は、難民と化してアラミスの砦をめざし、次いで受け入れられぬと知るや、豊かな中原に逃げ込もうと長蛇の列を作って王都を目指した。


アレクサ軍は、難民たちがアラミスの砦を取り囲むと同時に、砦を封じ込めるように支城の建築に着手していた。

難民の群れはカモフラージュに過ぎなかった。難民の仮設建物に紛れ込む形で素早く支城の基礎を築き上げると、直ぐに難民を蹴散らして、気づけばアラミス砦は七つもの支城に完全に封じ込められていた。


アラミスに籠った大軍を完全に封じ込めた東部諸侯軍は、悠々とその前を通って王都に軍勢を進める。

無論、砦からの出撃に備えて、反撃への備えは充分に整えているのが見て取れた。


「出撃する!」

だが、それを悟った上でもグラハムは出撃せざるを得ない。

王都に軍団が戻るまでの時間を稼ぐ。それが彼の任であった。

大軍を封じ込められ、無為の侭、時間を浪費する訳にはいかなかった。


かくなる上は、罠と悟った上でも一戦して些かなりとも東部諸侯軍に打撃を与え、その足と戦意を衰えさせねばならない。出撃するグラハム軍。その中には、士官待遇として遇されたジークフリートの姿もあった。


グラハム軍が前進を開始した。東部諸侯の長く伸びた隊列を寸断しようと駆けに駆ける。

目前では、東部諸侯軍が陣形を反転させていた。

3万からの軍勢がほんの半刻も掛からずに陣形を整えて、迎撃の備えを取っていた。

ありうべからざる光景であった。

練度が違う。そして奇襲に備えていた。俺は、此処で死ぬな。

グラハムは、そんな風に思った。


と、七つの支城から一斉に軍が出撃してくる。待ち受けていたかのようなタイミングで会った。

一番近い支城からは、かなりの数の騎兵が出ている。

「閣下!騎兵です!数は、五百!」

「抑えておけ!足りぬようなら、増援を向かわせろ!」

今は、支城を落とすよりも、本隊にいるアレクサを討つことを優先すべし!

突撃するグラハムの側面。

一応の備えとして支城へ向かった抑えの部隊が、支城から打って出た軍勢と接触した瞬間に崩れ去った。


「抑えの軍勢が!」

「増援を向かわせろ!」グラハムが叫んだ。既に要塞からはかなり突出している。

要塞にも備えは残してあるが、臨機応変に動けるだけの将がいない。

今更、要塞に戻ろうとすれば、軍勢は混乱する。

悪くすれば、撤退時に喰らい突かれて乱入されるやも知れぬ。


直属から騎兵を800割いて、支城から襲ってきた軍勢へと向けた。

鎧袖一触。触れた端から切り裂かれ、王国の騎士たちが落馬していく。

グラハムは、目を見開いて、漆黒の騎兵集団を見つめる。

動きが違う。他の軍勢も疾風のように進んでくるが、その騎馬隊だけがまるで雷鳴が地を切り裂くように進んでくる。


「アレクサ!」

果たして、アレクサ・バルクホルンであった。

抑えの軍を忽ち食い破り、グラハム軍の後背へと襲い掛かってくる。

真っ直ぐに切り裂かれ、隊列が真っ二つに分断された。

統制が乱れる。集団の意志が二つに割れ、また一つに戻ろうとした瞬間、やや遅れて他の支城から飛び出していた6つの軍勢が、ほぼ同時にグラハム軍に襲い掛かった。


この一瞬しかない、そうした瞬間を狙って合流を断ち割られた。軍勢が崩れる。

「初めから罠にかけるつもりだったのか?

 我が軍の進路も、全て予想していたとでも言うのか!」

絶句するグラハムだが、アレクサは単にあらゆる事態に備えていただけだ。

密かに精鋭を伏せて、自身はもっとも敵が通る確率の高い支城に控えていた。

グラハムが砦から出撃するのであれば、挟撃するればよし。

籠るようであれば、本隊が安全圏に脱した時点で、守勢に長けた部隊を残して主力と合流。

其の儘、アラミスに封じ込めておけばよい。


兵に常勢無く、水に常形無し。アレクサは、兵法の基本に忠実に従った。

グラハムが勝ちを欲するのであれば、砦の近隣に難民が避難した時、容赦なく蹴散らすべきであった。

難民への愛に避難所の形成を見逃した結果、勝利の女神はグラハムを見放した。


既にグラハム軍は、軍勢の態をなしていなかった。

前面、陣形を整えた東部諸侯連合軍が鬨の声を上げながら、突撃してくる。

恐慌状態に陥った軍勢は、逃げようとするもの、戦おうとするもの、踏み止まろうとするもの、ばらばらで身動きが取れなくなっている。


矢の雨が降り注いできた。東部が弓騎兵の矢は、かなりの強弓である。

密集している処を狙う曲射による面射撃。

グラハム軍でも、今だ統制を保っている部隊の将兵が次々と撃ち抜かれて大地へと崩れ落ちる。

東部武者は、敵によって鏃を変える。

革鎧の雑兵が大半の歩兵陣には、苦痛を与える抜けにくい棘付きの矢が突き刺さった。


が、此処に至っても、グラハム軍の将兵はなおも崩れぬ。百戦錬磨の百人長たちが声を張り上げ、十余年の兵役を経た歴戦の下士官と歩兵たちが隊列を組んで、盾の壁を創り上げる。



「グラハムめ。流石に手強い」

忌々しげに賞賛の言葉を吐き捨てるアレクサ・バルクホルン。

分断した筈の軍勢が、この死地にあって尚も士気を保っていた。

 もうすでに彼方此方で小集団を創り上げ、再び融合しようと動き始めている。


だが、アレクサの目は、融合の結合点となるべき位置にある幾つかの小集団を既に見抜いていた。

動きが良い。まるでほのかに空気の壁を纏っているかのように気が立ち上っている。


ふっ、ッと息を吐いて、拍車をかける。

五百が一本の槍のように陣形を整えると、統率のとれた小集団目指して突撃を行う。


「ア、アレクサが!全員、盾を……」

抵抗は一瞬。貫いた。300人からの歩兵の一団が踏みにじられ、肉塊と化していた。

ひとつ。


アレクサ軍の勢いは止まらぬ。三時の方向に曲がりつつ、円陣を敷いている小集団を蹴り潰す。

ふたつ。


即座に反転。さらに隣り合って合流を試みていた二つの小集団を、取り囲んでいる味方の兵ごと突貫して即座に踏み潰した。

これで、よっつ。


恐怖に染まった大隊長の首を斬り飛ばし、次の獲物を狙ったところで、統制を保った大規模な集団が近くの丘を登りつつ、頂に布陣しようとしているのに気付いた。


「グラハムか」

数は二千には届かぬ。千と七百ほどか。

強い気焔が立ち昇っているのがアレクサの肌には感じ取れた。


手強い。五百で飛び込むには些か躊躇わせる。

が、百戦錬磨のグラハムが体勢を立て直せば、この戦とてどう転ぶか分からぬ。

戦場は乱戦となっていた。

万を越える戦は時にそうなるが、広大な戦線に渡って敵と味方が入り混じっている。

今、討つべきか。

グラハムの千と七百。討てそうで手強そうな、実に悩ましい数字であった。

一瞬悩み、アレクサは決断した。

グラハムは精兵だが、我が兵は3倍でも抑えられよう。

手に余るようであれば、我が手で屠ればよい。200か300も斬れば、逃げ散るであろう。

指示も出さず、腕も振らず、馬首を丘陵の頂に聳え立つ青い旗へと向けた。

漆黒の五百が、声も漏らさず瞬時に付き従う。



アレクサは、苦戦していた。

目の前に立った若僧一人に、掛かりきりになっている。否、押されていた。

相手は一人。まったく驚くべきことであった。


半年、大陸随一の大国に攻め込み、彼の地で数多の英雄豪傑とあいまみえ、その悉くを斬って捨てた。

にも、関わらず、髭も生えぬ小僧に押されている。

わたしは弱くなったか?否、帝国での経験が無ければ、既に斬られていた。それ程の腕であった。


ジークフリートも驚愕していた。

アレクサは、恐ろしく強くなっていた。

半年前とはまるで別人の如き気配を称えている。

当然だ。

ジークフリートが王都で平穏と過ごしている間、アレクサは帝国という巨獣と戦い、討ち滅ぼしていた。

名だたる強敵と対峙し、その命の悉くを喰い散らかし、己が血肉としてきたのだろう。


……僕がアレクサに拮抗できるのは今だけだ。次は勝てない。

信じられないことであった。アレクサは、絶対に躱せぬ。斬られれば死ぬ。

そうした剣を体の強い部分、切られても支障のない部分で受け止めることで凌いでいた。

そして一度見せた剣は、二度と通じない。

漆黒の鎧はひび割れ、体のあちこちより出血し、それでも闘志はまるで衰えることを知らぬ。


周囲の兵は、グラハムも、黒騎兵も、固唾を呑んで一騎打ちを見守っている。

傍目からすれば四半刻にも満たぬ短時間であろう。

しかし、2人の体感では、既に七日七晩を戦っているに等しい時間が過ぎていた。

戦っている最中、アレクサの剣は明らかに鋭さを増し、技巧が磨かれ、その膂力と速度が人の身の限界に至りつつあった。


この短期間で成長している。恐ろしい資質だ。だけど、それでも……!

アレクサの技量は、急激に成長し、ジークフリートに近い領域に達しつつあった。

だが、其れでもこの戦いの最中、アレクサが差を詰める事はあっても、追い抜くことはあり得ない。

何故ならば、ジークフリートもまた比類なき天才であり、アレクサとの戦いで秘めたる才能をさらに開花させつつあったからだ。故に均衡は崩れない。


その筈であった。


アレクサが距離を取った。疲労が襲い掛かっているのだろう。

僅かに息が乱れていた。

百の兵を斬って息を乱さぬ此の魔人も、やはり人の子であることに違いはないのだ。


総帥の苦戦に黒騎兵に動揺が走り、王国の兵たちが囁きを発していた。


「……此処までだな」

アレクサがぽつりと呟いた。


剣を投げ捨てると、背中の剣を鞘より引き抜いた。瞬間、地上に太陽が降臨した。

煌めく光を放つ星の剣を振り抜いて、地面に崩れ落ちた青年を見下ろした。


「純粋な剣の技量で言えば、お主は我の上をいった」

星の剣を地面に突き刺すと、アレクサは物憂げな表情で天を仰いだ。


あっさりとついた勝負に、場は静まり返り、しかし、真っ先に動いたのはグラハムであった。

「アレクサは疲れ果てておる。討ち取るは今ぞ!」


その叫びに、王国の兵が殺到する。

アレクサは、場を一歩も動かなかった。

最初に斬りかかった王国兵の剣がいつの間にかすっぽ抜け、アレクサの手に握られている。

すっと、まるで水にでも沈み込むように鉄の鎧ごと斬られた。


斬りかかった兵が次々と崩れ落ちていく。何が起こっているのか。グラハムには理解できない。

アレクサは動いていない。ほとんど動いていない。にも拘らず、糸の切れた人形のように周囲の兵がパタパタと倒れていく。


斬りかかった兵は、初め、鎧ごと両断されていた。

次に鎧を避けて人体だけとなり、急所だけとなり、やがて一見、ほんの一刺し。

優しいほどの一撃に、まるで傷は無いように見えるのに息絶えるようになった。


アレクサが歩く。ゆっくりと、まるで散歩するかのような足取りで動いた。

歩いた周囲で王国兵が斬りかかろうとし、なにも出来ず倒れていく。まるで訳が分からない。

先刻までのアレクサであれば、強大であるが理解できた。竜の如き力を持つ魔人であった。

今は理解の範疇を越えていた。なにをしているのか、なぜ部下が死ぬのか。分からない。


静謐が訪れた。グラハムが喘ぐ音だけが耳障りに響いていた。

いつの間にか、周囲の兵は悉く死に絶えていた。

ゆっくりと歩いていたはずのアレクサに、しかし、距離を取っていたはずが間合いを詰められていた。


「……あっ、はぁ」

恐怖に喘いだグラハムが周囲を見回し、青年の体の傍らに突き立てられた星の剣に目を止めた。

アレクサ・バルクホルンの愛剣。力の源泉。地に並ぶ者なき至高の剣。

駆け寄って引き抜いた。

「おお!」細胞を燃やすような高揚感がグラハムの体に満ちた。

 裂帛の気合いと共に切りかかり、

「それは悪し」あっさりと額を切り裂かれ、グラハムは絶命した。


アレクサは、戦場を見回した。朝までの自分が百人いようとも、負けることはない。

全身に生まれもった竜の如き力を完全に制御している感覚が在った。


もはや、地上において自身に勝てる者は存在しない。

その確信と共に、アレクサは敵軍に向かって歩き出した。

昔、英国の名将ウェリントン公爵が、狭い公園で一個連隊を整列させるには、一時間掛かるとか言ったとか、言わないとか。


武田軍は、狭い三方ヶ原で行軍していた3万人がほんの3~4時間で反転し、完全に陣形を整えておる。頭おかしい。

それは家康公もうんこ洩らす。わいでも洩らす。恐い(白目



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