それは、始まりの物語
それは、繰り返すこの世界において永遠に思えるような昔のお話。
男は、とある王国のしたっぱの兵士だった。
兵士の守る王国の王子が乗った船が台風で沈み、その王子だけが奇跡的に浜辺に打ち上げられた事件の後、その王子は件の浜辺で一人の女性を拾ってくる。
海のように透き通った青色の瞳、煌めく水面のような輝きを放つ金髪、そして光を透過しているかのような白い肌。
その兵士はその女性に一目惚れをした。
女性は声をだす事ができず、唯一感情を映す瞳は王子に熱い視線を向けるのみ。
女性の心が王子に向いていると知っていてもなお、兵士は女性に思いを向ける。
兵士は思う。
彼女が幸せになればそれでいいと。
やがて、王子は、彼を救ったという町娘との婚約を発表する。
兵士はその事を知った女性の目が悲しげに沈んでいたのを見た。
そして、王子が結婚式を挙げたその日以降、女性は姿を消した。
兵士は、出来る限りの伝を使って女性を探した。
しかし、女性が見つかる事はない。手がかりすら現れない。
やがて老成し、妻もめとらず独り身を貫いた元兵士は、初めて恋をした女性を思いながら、静かに息を引き取った。