コンフェイト・リドゥルガール
体験会も終盤に差し掛かったところで誰かが悲鳴をあげた。
「野犬だ! 野犬が出たぞ!」
声のした方では数匹の犬が暴れまわっていた。
「え、ちょ、何が……」
「パブロフが出た!」
傭兵団員がすれ違いざまにそう叫ぶ。……パブロフ?
「今回の白狼の犬種、イワンと共存関係にある犬です」
コカナシはそれだけ言って何処かへ走っていく。子分みたいな感じかな?
てかどうしよう。戦えはしないし逃げた方がいいかな?
「何を突っ立っている!」
コカナシを連れてグラウンドに入ってきた先生に鞄を投げつけられた。
「え、と……」
「お前は錬金薬学師だろ!」
言われてようやく気づく。こんな状況なら怪我人が出ているかもしれないのだ。
「ワタシは治療に向かう。コカナシは動けない人を運べ。タカは後ろに下がって軽傷の人の応急処置をしろ!」
「了解しました」
「わ、わかりました」
偶然にもそれは白狼戦での班通りの動きである。
*
「少し沁みます……これでよし」
「こんにちは」
避難してきた人の簡単な治療をしていると一人の少女が覗き込んできた。大きな目みたいな模様で特徴的な形の帽子を被っている。
「何処を怪我しました?」
「怪我はしていないわ」
「じゃあ避難を」
「あなた錬金術師よね?」
「え……?」
少女は首を傾げて言葉を重ねる
「違う……事は無いよね?」
「そうだけど……」
「あたしも錬金術師よ!」
「えっと、今はこんな状況だし後でもいいかな?」
「そうね、わかったわ、口でのお話はまた今度ね」
少女がくるりと回る。魔女のような帽子が遅れて揺れた。
「じゃあ錬金術でお話しましょ?」
「え?」
少女は俺の困惑を気にする事なく笑顔を向けてきた。
「治療してるのね? 治療は出来ないけど薬を作ってサポートしてあげる」
答えを待つこと無く少女は錬金を始めた。素材を見る限り本当に不足しそうな傷薬を作ってくれているらしい。
ならば良しと治療を再開すると横から音程もバラバラな歌が聞こえてきた。
「ぐーるぐーるまーわるー、えーきたいまーわるー、まざってこねこねくすりになーれ!」
「…………」
凄い気になる。でも俺もご飯の歌を使う時があるしな……何か意味があるのだろう。
「まっざれ、まっざれ、くみあがれー!
じゃないとこれはごみになるー!」
即興だ! これ即興の歌だ!
何故こんな適当なリズムで錬金が出来るんだ。しかも出来がかなりいい。
「こおってかたくてとっげとげー、じゅうのようにー……ばきゅーん!」
「何その物騒な歌! 薬だよな!」
思わず顔を上げると少女が持つフラスコから透明の塊が飛び出した。
「な、何それ……」
「硬い硬い氷を爆発で飛ばしたのでーす!」
原理はわからなくもないが何だそのフラスコの強度は。傷一つないぞ。
と、いうより……
「今それ必要か!?」
「んー、だって痛いのはイヤだし」
少女が指す方向、少し遠くにパブロフと思われる犬が横たわっていた。恐らくさっきの氷の弾丸を受けたのだろう。
「なんですか今の弾、タカの方から来ましたよ」
足を怪我したらしい人を運んで来たコカナシが俺を問い詰める。
「俺じゃない、そこにいる子が……」
言葉を失う。
「……どの子ですか?」
「えっと、さっきまで……あれ?」
辺りを見渡しても、何度見てもさっきの少女はいない。
「白昼夢……?」
呟くがそれはない。足元には少女が作った完璧な薬が置かれているのだから……




