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錬金薬学のすすめ  作者: ナガカタサンゴウ
錬金術のはじめ『最後の少女』
183/200

全てが詰まった最後の命

 アルスの錬金術の巨大なる光、その中心には一人の少女がいた。

 赤と黒が綺麗に交わり合った髪の少女。二人はその少女の名を知っていた。

「コカナシちゃん……?」

「何をしている! アルス!」

 詰め寄ろうとするキミアを一瞥し、アルスの瞳孔が開く。

「人命救助だ。仕上げだけだから邪魔をするな」

「は……?」

 キミアはエルフの目で状況を把握しようとする。

 アルスの言うことに間違いは無かった。各所から集められた断片は彼の錬金術によって繋ぎあわされ、コカナシの内臓を復元していた。

 常人ではあり得ざる錬金術、キミアはその失敗を案じてはいなかった。ただ、この状況が飲み込めていなかった。


 *


 錬金は終わり、コカナシはアルスの腕の中で寝息を立てている。

「アルス、お前は……何を」

 キミアは一縷の望みを込めて聞く。この惨劇を起こしたのが彼では無く、彼はたまたま近くにいた少女を助けたのだと、そう願いながら。

 しかし……

「実験結果を見に来た……恥ずべき事だが、失敗だな」

「何を」

「分解薬、錬金術による結合のみを解除する為の薬品を作っている。想定では錬金術で作った夕食のみが分解される筈だったが……強すぎたようだな」

 淡々と実験結果を報告するアルスを見てキミアは恐怖を覚えた。それと同時に疑問も沸く。

「なぜ、コカナシを助けた」

 アルスは少し考える間を置いた後、その名が腕の中にいる少女だと認識する。

「コレは凄い。小人族の身体で巨人族の力を持つ、今までの常識を覆す身体だ。実験前に気づかず惜しい事をしたが……まあ、コレで研究には使えるだろう」

 その言葉が終わると同時にキミアは走り出す。

 アレにコカナシを渡してはいけない。間髪入れず奪いに向かう。

「……ルドルフ」

 アルスの愛犬を素体としたキメラがキミアの行く手を阻む。

 キミアが止まればキメラも止まる。あくまで防衛用だと気づいたキミアは立ち止まったままアルスに話しかける。

「お前はワタシを追うためにイスカを出たのか?」

「理由の一つではある。本命は未開錬金術の調査だ、未開錬金術は定石を知らぬ素人の手で産まれる事が多い。練度の高いイスカで見つかる未開錬金術は数が少ない」

 キミアが口を開く前にアルスは続ける。

「この生涯をかけた目的は未開錬金術の根絶、この村の犠牲も必要な事だ」

「アルス……お前は……」

「逃げ出した者は黙っていろ。せめて邪魔をするな」

「…………取引だ」

 キミアはポシェットの奥から小さな瓶を取り出す。その中にあるのは紛れもなき本物のエルフの血。

「この少女の代わりにソレを渡すと? 正気か?」

「正気じゃないのはお前だよ、アルス」

 だってほら。目線を変えずとも気づいていたあの錬金を見逃している。

 薬も一種の毒である。師匠が手に持つのは強化された麻酔薬。

 だから……

「今回はワタシの勝ち逃げだ」

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