この世界にはなき逸話
「機械による神話、逸話ノ再現。それガワタシノ趣味なの」
「それは素敵だね、さっきの槍はグングニルといったところかい」
「そう、必中ノ槍なの」
「知ってるかい? その槍は向けた軍勢に勝利をもたらすらしいよ」
「よく知ってるわネ、世界共通ノ神話武器ハ対策されそう」
お互いの武器が金属音を鳴らし間合いが開く。
「でも逸話武器ハどうかしら?」
「僕はそういうのも好きだよ」
「逸話ハ世界共通じゃないの、だからコレが何かは知らない筈」
三女の義眼が白く濁って光る。壁の中から取り出されたのは一本の刀。
黒い鞘から出てきた刀身が光に反射する。
「これハ黒い牛ヲ切り、素早い猿ヲ切り、馬ト鞍ヲ切りし刀」
「……確かにその逸話に覚えはないね」
アデルが取り出したのはカリが使っていたコンパクトガードナー。
「…………」
俺には覚えがあった。それは有名な逸話を持つ刀だ。
その逸話を再現するなら……
「アデル! それを受け止めるのはダメだ!」
「うむ? そうなのかい?」
疑問符を浮かべるアデルとは対照的に三女は目を見開く。
「知っているのネ、貴方モそうなのね」
刀を構え、義眼の少女はその名を告げる。
「黒坊切景秀……いくよ!」