撃ち抜くは獣にあらず
目の前にはキマイラ、そして塞がれた出入り口。
「ど、どうします!」
「時間を稼ぎな」
そう言ってマッカさんは太めの杖で床を鳴らした。掃除機のような起動音と共にガラス片などがゆっくりと杖の中に吸い込まれていく。
「周りの物を合成して弾丸にする。この一撃があればここを突破出来るさ」
「つまりその間俺は……」
このキマイラと戦えと?
「他に選択肢があるなら提示しな」
「……ああもう! 無いですよ!」
*
体力を注入し、装備を硬くする。比例して重くなっていくからほどほどに……
そう、今回は倒す必要はない。ならばやりようもあるだろう。
ベースはライオン、とりあえず動けばヤツの注意はこちらに向く。
幸いにも動きは遅い。ギリギリ追いつかれない程度で俺は逃げていく。
「……あった!」
道中何かしらの動物の角を見つけて拾い上げる。先生には止められていたが……仕方ない。
「錬金開始、身体強化……!」
右腕を強化して角を投げる。目に当たることは無かったが奇跡的に尻尾の蛇がダウンする。
しかし、俺の肩は……思いっきり外れていた。
「強化しすぎたぁ!」
腕を振れないと必然的に足は遅くなる。徐々にキマイラとの差が縮んでいく。
「足を強化するか……でも」
長くはもたない。なんせ体力を糧にしているのだ。
だから、なるべく短時間の強化で……
「強化……」
「できたよ!」
「できたの!?」
マッカさんの声がする。思ったより早かったな。
「入り口まで来な! ダッシュだ!」
足を少し強化してマッカさんの元に向かう。弾丸が充填されたらしい杖はマッカさんの腕で暴れるかの如く震えている。
「来たね。じゃあ行くよ……」
「え、でもキマイラは引き離したからまだ遠い……」
「あんなもの後でいいよ」
マッカさんはキマイラとは逆を向き、弾丸を発射する。大きな音と共に扉が砕け散る。
「さ、逃げるよ」
「え、あ……はい」
……そっち!?
*
扉を抜けれたのは俺たちだけ、やけにデカイキマイラは向こう側から吠えるだけ。
「じゃ、ご就寝の時間だよ」
壁をガリガリと削るキマイラに向けてボールが投げられる。少しの間の後、キマイラの身体が一瞬硬直し、倒れて痙攣する。
「今のは?」
「スタンガンを改造したスタンボール。カリとアデルの共作らしいよ」
「なるほど……っ!?」
安堵した瞬間、左から明確な殺意を感じた。咄嗟に左手の装備を硬めて防ぐ。攻撃してきたのは……
「……テケリ!?」