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錬金薬学のすすめ  作者: ナガカタサンゴウ
キメラ・ハウスからの脱出劇
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キメラ・ハウスからの脱出

「動くなよ獣人、反射で風穴が開くぜ」

 アルを脅してアナグマは銃口を押し付けてくる。

「面白い芸当を見せてくれた礼だ。遺言くらいは聞いてやるぜ? あの女に言葉があるなら伝えてやるよ」

 仰向けにされ、額に銃口が向く。

 アナグマの気が変われば俺は死ぬ。アルも俺も動けない中、逆転の一手は……

「……け」

「あん? はっきりと言えよ。辞世の句だぜ」

 顔を近づけてきたアナグマ。位置関係は大丈夫なはず……最後のかけだ!

「……らけ。……開け、近くて遠い世界の扉!」

「はあ……!?」

 腰のストックボックスから火の玉が飛び出す。凄まじい反射神経で避けられたが身体が自由になった。

 咄嗟に後ろへと退く。

「猪口才なマネを!」

 僅かに燃えうつったコートを投げ捨て、銃口が俺の方を向く……が、撃たれはしない。銃口の先にアルがいるのだ。

「くそっ! 獣人風情が……」

 アルが動き出すのとアナグマが銃を捨てたのはほぼ同時。

 小細工の効かない一騎打ち。純粋な身体能力の戦い……と、なれば勝敗は明白である。

「ヒメを……返せ!」

 アナグマより先にアルのボディブローが決まる。

 少しよろけて俺たちを睨んだ後、アナグマは倒れ込んだ。

「……一応縛っておくか」

 二人分のベルトを使ってアナグマを縛る。これですぐには動けないだろう。

「ヒメ!」

 先に奥へと行ったアルが檻を壊そうとしている。中には小さく姫のような女の子が横たわっている。

 体力的に相当キツイが、俺は目を変えて確認する。

 体力、生命力共に循環は良好。特に綻びもない。

「大丈夫、少なくとも命に別状はない。睡眠薬でも飲まされたんだと思う」

「そうか……とりあえずこの鍵を開けないと」

「アナグマは持ってない見たいだ」

「そりゃあそうさ。彼は本当に大事なものは持ち歩かないからね」

 聞いたことのない声に二人で構える。声の主は慌てた様子で両手を上げる。

「僕は味方だよ!」

「味方? タカの知り合いか?」

「いや、知らん」

「君たちとは知り合いじゃない。しかし味方なのは確定している。そうだろ? タカヤ君にアルちゃん」

 名前を知られている!?

「ああ、構えないで。言い方が悪かった。トモノさんにコカナシさん、あとキミアさんの味方だよ!」

「智野の? 智野は無事なのか!」

「ああ、無事も無事。今は脱出の為の工作中さ。で、僕は君たちにコレを届けにきた」

 右ポケットからつまみ出したのは一つの鍵。

「紹介が遅れた。僕は探偵社オーギュストの探偵、デュパンだ」


 *


「さて、これで君たちの目的は果たせた。後は脱出だね」

 デュパンさんはアナグマの上に座って腕時計を見る。

「そろそろ時間だ」

「時間? なんの……うお!?」

 頭上、上の階から爆発音。少し間を置いて放送が流れる。

『責任者不在により代理として緊急連絡する。第ニ武器庫が爆発した、連絡した逃走者が仕掛けた物で他にも数カ所設置されている。全職員は現在の職務を放棄し、早急に退避を図れ。 繰り返す……』


 今の声は……

「これが脱出の為の工作ですか?」

「そう、彼らが逃げた先に待ち構えるは国営傭兵団。コレを考えたのはキミアさんだ、大胆だね」

 つまり爆発も先生が……うん、確かにやりかねない。てか前科ありだ。

「じゃ、皆が逃げた後にゆっくり逃げるとしようか」


 *


「おう智野……何ともないようで良かった」

「うん、そっちは……泥だらけだね」

「ああ……うん」

 脱出するタイミングが早すぎ、勘違いされて取り押さえられたのだ。

「あのね、わたし達一度行く所があってね」

「ああ、先生から聞いてる。俺も行く所があるんだ」

「そっか、じゃあ……また少しだけ離れちゃうんだね」

 智野が車椅子から立って倒れ込んできた。思わず抱きしめる形になる。

「ちょ、智野、いま俺汚いから!」

「いいから、少しだけ」

「お、おう」

 そのまま数秒間の沈黙。周りの音は全く気にならず、大きな鼓動の音だけが強調される。

「よし、充電完了! じゃ、またね!」

 スッと離れた智野は車椅子に戻ってコカナシの方に走っていった。後ろから僅かに見える耳は赤くなっている。

「真っ赤な顔……見れば良かったか」

「鼻の下が伸びてるし顔が気持ち悪いぞ」

「先生! 今の……見てました?」

「バッチリな。さっさと行くぞ」

 智野の方に背を向けて歩き出す。足取りは軽い、またすぐに会えるのだから……


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