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錬金薬学のすすめ  作者: ナガカタサンゴウ
キメラ・ハウスからの脱出劇
142/200

高低クロッシング

「何処に向かっているのですか?」

「何処にも」

「え?」

「隙を伺っているのさ」

 近づいてきた耳にはイヤホンが付いている。

「捕まってからいろんな場所に盗聴器をつけてきた。これでヤツの動向がわかる」

「ヤツ、というとここのボスですか?」

「そう、僕になりすましたアナグマだ。彼がここのボス、慎重派で武闘派な厄介者だよ」

 そのアナグマの隙を突いて逃げる作戦らしい。で、今はそれを待ちながら怪しまれないように色々と歩いているわけだ。

「いらっしゃいませ、何かお探しの品などございますか? 条件があればお探ししますよ?」

 接客担当なのか丁寧な人がわたしに近づいてきた。

 普通に話したのではいけない、今のわたしはお嬢様である。

 今まで読んだお話を検索し、参考にするキャラを定めて笑顔を浮かべる。

「いえ、わたしが見て決めますの」

 扇でもあれば広げていた……幸いにも違和感を感じられる事はなかったらしく、接客の男は一歩下がる。

「失礼しました。では、ごゆっくり」

 このままこのキャラを維持していれば大丈夫……なはず。

 コカナシさんの方は普段とあまり変わらずにしている。アナグマともあまり話していないし役柄にも合っている。

 最初の方こそ慣れない服に戸惑っていたが既に慣れたらしく一つ一つの仕草がさまになっている。

「この下はズボンなのですよ、いざというときは動きやすくなるのです。暗殺者みたいですね」とノリノリであった。

 デュパンさんは言うまでもなく完璧、もう初老にしか見えない。


「……む?」

 数十分後、デュパンさんが小さく声をあげて耳に集中した。

「やっべ、バレた」

「バレたってわたし達の事がですか?」

「そ、バレた」

 わたし達の代わりに監視人を牢に入れ、カーテンを閉めていたのがバレたのだろう……まあ、バレるか。

「バレるのはわかっていたが早かったな……計算が狂いまくりだ」

「どうしましょう、変装でやり過ごせますかね?」

「流石に厳重警備では難しいな……とりあえず潜伏しよう」

「どこか適した場所が?」

「ああ、今日まで僕が潜伏していたから少しは持つだろうさ」

「この施設にそんな場所が……」

 ズレたシルクハットを戻し、デュパンさんは踵を返す。

「地上とこの施設の間にある無駄な空間を有効活用した穴場……物置さ!」


 *


「……埃っぽいですね」

「贅沢言うなよ、食料とかもあるんだぜ?」

 倉庫は広かった。車椅子に座ったわたしがギリギリ通れるくらいの天井だが横の広さだけで見ればそこらへんの家の部屋と変わらない。

 更にその倉庫が種別に連なっているのだから途方もない。

「足跡が多いですね。意外と出入りが激しいのでは?」

「いや、完全に在庫さ。一月に一回ここから必要な分を補充する。因みに前回の補充は昨日、だから僕は下に降りざるを得なかったわけだ」

「痕跡とかでバレたりは?」

「もちろん無いさ、痕跡消しはお手の物。怪盗と探偵はかなり似通っていたりするものさ」

 デュパンさんは帽子を取って変装をやめる。

「……下では別の事件が起きてるみたいだね、こっそり見に行ってみよう」


 *


 何があったかはわからない。しかし客と施設側が戦闘をしているというのだけは確からしい。

 倉庫に部屋毎の仕切りは無く、フロアを無視して移動する事ができた。

 どうしても取り消せないタイヤ痕を気にしつつも戦闘が行われているフロアの上までたどり着いた。

「ここが外れそうだ。そーっと、バレないように覗こう」

 タイルの一つを剥がし、そっと下を見る。

 戦闘というから銃撃戦を予想していたが、どういうわけか銃火器どころか刃物や鈍器も使われていなかった。

 構図は多人数対一人。多人数の方は屈強な男ばかりだが、もう一人の方はそうでもない。

 銀の短髪に中性的な顔立ち、縁のないメガネの奥では物事を冷静に見通す鋭い目が頻繁に動いている。

 と、いうよりアレは……いや、どうだろう。

 もしかしたら他人の空似かとも思ったが……タイル一枚分しかない隙間を抜けて下に降りたコカナシさんの叫び声で確信へと変わる。

「キミア様!」

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