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錬金薬学のすすめ  作者: ナガカタサンゴウ
森に潜みし錬金の欠片
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薬剤師資格に向けて

「薬剤においてマンドレイクは自己回復力の高める汎用性の高い植物です。しかしそれは毒を抜いたモノのみです」

 シャーリィさんが籠からマンドレイクを取り出す。

「薬剤初期のマンドレイクの使い方はその毒を活かした鎮痛剤、鎮静剤などでした。ただ、幻覚や嘔吐などの副作用が強く現代医療では使われていません。毒抜きの際には手の保護を忘れずに」

 シャーリィさんが着けていた手袋の上からビニール手袋を着ける。

 取ってきたばかりのマンドレイクの根が切られ、中から黒い液体が滲み出る。

「このマンドレイクの毒抜き作業は資格試験、技能段階の項目の一つです」

 シャーリィさんによる資格授業は座学というより実践的な授業だった。

 ビニール手袋を外し、手袋が汚れていない事を確認したシャーリィさんは教科書をとじる。

「今日はこの毒抜きをしたら終わり。次までに予習を忘れないように」

「ラジャー」


 *


 シャーリィさんは帰った後、コカナシがカップを差し出してくれた。

「ありがと……お、カフェオレ」

「はい、タカは甘い方が好きなようなので」

 出されるコーヒーにこっそり砂糖を入れていたのがバレていたらしい。

「格好をつける必要は無いかと。出会いからして格好が悪かったので手遅れですよ」

「……それを言うなよ」

 カフェオレを一口飲む。丁度いい甘さだ。

「シャーリィさんの授業はどうですか? 週に二回でしたっけ?」

「ああ、実際にやるからわかりやすいよ」

 コカナシはシャーリィさんが貼った付箋を元に教科書を開く。

「次は火傷薬の調合ですか。錬金を使わない薬物の調合は初めてですね」

「ああ、今から予習しとかなきゃな」

 コカナシから教科書を受け取って机に向かう。

「あまり急ぎすぎてはいけません。時間制限があるわけでも無いのですし」

「いや、時間制限はあるだろ。智乃が冷凍室で保存出来るのは一年くらいなんだろ?」

 俺の発言にコカナシは目を丸くする。

「あれ? 聞いてませんでした?」

「え? 何を?」

「あのポッドの電源、どうにか出来るみたいですよ」

「そうなの?」

 コカナシが頷く。

「すぐにとはいきませんが一か月くらいしたらアデルの知り合いが来るそうです」

「そうなのか。アデルに礼を言っておかないとな」

 腕まくりをして再度机に向かう。

「じゃ、もうひと頑張りするわ」

「では、夕食が出来たら呼びにきますね」

 コカナシが頭を下げて部屋を出る。

 やっぱりコカナシって……所々メイドっぽいよなぁ。


 *


「この作用が火傷の痛みを抑え、こっちが悪化を防ぐのです」

 シャーリィさんが教科書を閉じる。これは座学終わりの合図だ。

 次はシャーリィさんの手本の後に実践……

「では、今日はここまで」

「え?」

「次は……怪我などの外では無く中に関する授業になります」

「あの、シャーリィさん」

「予習を……なんでしょう?」

「火傷薬は作らないんですか?」

 シャーリィさんはいつもの爽やかな笑顔を浮かべる。

「薬を作るのは後にしましょう。まずは素材の下処理や効能を知り尽くしてからです」

 なんだか少し気になるが、まあ理にはかなっているの……かな?

「じゃあ、次も予習を忘れないように」

 シャーリィさんが教科書をカバンに入れたところでコカナシが扉を開けて顔を覗かせた。

「終わりましたか?」

「うん、今ちょうど終わった」

「クッキーを焼いたのですが……食べます?」

「いいね、シャーリィさんも食べましょう」

「頂いていいのなら」

 シャーリィさんの窺うような視線にコカナシが頷き、俺たちはリビングに向かった。


 *


「キミア様、クッキー焼けましたよ」

「んー? これが終わったら行く」

「それ、どれくらいかかりますか」

「後三十分くらいかなー」

「……そうですか」

 先生の錬金室の扉を閉めたコカナシはふくれっ面で戻ってきた。

「キミア様が食べたいと言ったから焼いたのに……」

「まあまあ、美味しいぞこれ」

 機嫌の悪いコカナシを宥めていると玄関の扉が数回叩かれた。

「はい、どなたで……」

 覗き窓から来客を見たコカナシが飛び上がって俺の後ろに隠れる。

「タカが出て……いや、出ないでください」

「ちょっとコカナシちゃーん! 顔見た瞬間逃げるとか酷くなーい」

 鍵を開けると入って来たのはセルロースさんだった。

「キミアいるー?」

「なんだ騒々しい……」

 セルロースさんの大声に先生が錬金室から出てくる。

「コカナシちゃんかーして」

「嫌です」

 拒否したのは先生ではなくコカナシ。

「だってさ」

「じゃあ……そこの男二人でいーや」

 まさか来るとは思わなかったシャーリィさんと顔を見合わせる。

「えっと……何をしに行くんですか?」

「アンゴラとモヘア狩り」

「へえ、ここはアンゴラとモヘアも取れるんですか」

「遺伝子組換えだけどね」

 訳のわからない俺とは対象的にシャーリィさんは納得した様子だ。

「アンゴラウサギとアンゴラヤギから取れる洋服の素材ですね」

 コカナシが先生の後ろから説明をしてくれる。

「じゃあその素材を運ぶのに俺たちが?」

「いいや? 違うよ」

 セルロースさんはかぶりを振る。

「ここらへんのは遺伝子組換えで大抵の環境で生きられるようになったんだけどその影響で少し凶暴になってるから……お願いね」

「……は?」

 嫌な予感しかしないぞ……

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