コワレタ
陽一が住むのは海の見える丘にある三階建ての青いお屋根お家。近くにはブランコとか滑り台とかある公園とか、ワンちゃんがいっぱい集まる公園とか遊ぶ場所はいっぱいあるし、幼稚園も近いので歩いて行くことができる。少し歩けばバーベキューも出来る砂浜もある。
幼稚園の友達のお母さん達は『子育てには最高の街』とか言っていた。子供の陽一には最高かどうかは良く分からないけれど、それなりにその街での生活は楽しかった。
陽一には兄弟はいないけれど、お家にはジイジとバアバがいるので寂しくなんてなかった。二人とも陽一には優しいし、甘えたらお菓子とかオモチャも直ぐ買ってくれる。だから陽一は二人の事が大好き。
パパはいつも仕事でいないけど、家にいる時は陽一と遊んでくれるから嫌いじゃないかった。
でも陽一はママにはいつもムカついていた。だってジイジとバアバがオモチャ買ってくれたのに、それをママに自慢して見せたら、何故かママはジイジとバアバを怒ったから。お陰でそれから二人はママの許可がないとオモチャを買ってくれなくなってしまった。
ママは陽一が楽しく遊んでいても今すぐ片付けてご飯食べろというし、嫌いなブロッコリーやピーマン入ったご飯でも全部食べろという。みんなはまだ起きている癖に九時過ぎたら『クジラが来ちゃったから早く寝なさい』と無理やり眠らせようとする。そして『オモチャを放りっぱなし』、『食べ物で遊んではダメよ』、『歩きながら歯みがきしたらいけません』、『ご近所の人にちゃんとアイサツしなさい』とすぐにガミガミ怒る。『なんで?』とか『後でするつもり』とか陽一が言い返すと更に目を吊り上げてくる。
「イイワケなんて聞きません。いうとおりにしなさい!」
ピシリとその言葉で話が終わってしまう。
ある日陽一が廊下に開いて放り出していたDSをトイレから出できたバアバが踏んでこわされたのに、ママはバアバでなく陽一を怒った。バキっと二つに割れた為にスイッチも入らないし遊べなくなったというのに。
「お片付けしないで、あんな所にDSを放り出していた陽一が悪い! もしバアバが怪我していたらどうするつもりだったの? バアバに謝りなさい!」
ママは陽一がバアバに謝れという。確かにお片付けしなかったのは悪いけど、どう考えても大切なオモチャこわされ、大好きなゲームで遊べなくなった陽一のほうが可哀想だと思うので、謝るはバアバの方だと思う。なんかママがいうとぜんぶ陽一が悪い事になるのがよく分からない。だから本当は悪いバアバに文句言って新しいDSを買わせようとするけど、その度にママが出てきて、『バアバは悪くない、悪いのは陽一。だからDSなくても我慢しなさい』と陽一を怒る。そんな事をくり返していた。
DSがこわれた事で、あんなに楽しかった陽一の生活は一気につまらなくなる。いつも遊んでいたあの大好きゲーム【ボンバーボンバー】もDSがないと遊べない。そのムカつきもあり、バアバにDSをこわしたことを責める。するとママは叱ってきて、陽一もさらにイライラするという毎日。しかも秋になりどんどん日が短くなり、外で遊べる時間も短くなる。陽一はお家の中での時間を持て余し、余計にバアバに当たってママに怒られる。
そういう陽一の必死な訴えが通じたのか、DSがまた手に入る事になった。ママの弟のタカユキが、使わなくなったDSを貸してくれることになった。新品が手に入らなかった事は、少し残念だけど、また自分の手元にDSが戻って来ることは嬉しかった。それに『借りる』と言ってもタカユキは他に色々ゲーム機をもっているし、DSも最新のをもっているので、『直ぐに返せ』なんて言わないだろう。お古のDSでも、大好きな【ボンバーボンバー】で遊べる事の方が嬉かったから満足だった。
そう決まってから、『悪い子だと、DS借りるのをやめちゃうよ!』とママが威かすので、呼ばれたら、ちゃんとお返事するし、頑張って嫌いなおかずも残さず食べ、しばらく良い子でいることにした。そうやって頑張ること一週間。タカユキはやって来た。
「タカユキ、来たんだ! 上がっていいぞ」
そう陽一が出迎えると、『タカユキオジサンでしょ!』またママの怒る声が後から聞こえた。タカユキは怒った様子もなく陽一を見てニヤリと笑う。ママと違ってタカユキはガミガミしない。
「おお、来てやったぞ」
そう言って陽一の頭をガシガシ撫でてくれる。そして視線を下げた陽一の目にタカユキの下げていた手提げに入ったDSが入る。手を伸ばして陽一は手を突っ込み、DSを取ろうとしたら怒られた。
「そのDSオレのだよな?」
そう陽一が聞くとタカユキは顔を顰める。
「いや、どうしようかな~? 止めようかな~?」
ニヤニヤしながらタカユキはそんな事言ってくる。
「なんで!」
「だって、陽一。前のDSお片付けをちゃんとしないから、こわしたんだろ? そういう子供に貸しちゃうとあげると俺のDSをこわしそうだろ? それはイヤだな~と思って」
そう言われて陽一は困る。壊したのはバアバなのだが、それをココで言うとまずいのは陽一には何となく分かった。
「しかも、お前ってゲーム始めたら夢中になって、ご飯に呼ばれても全然止めないんだってな」
タカユキにママは色々言いつけていたようで、そんな言葉を続けてくる。確かに、ご飯やお風呂時間になったらすぐやめること、玩具を散らかしたままゲームしない、お布団ではゲームをしないでちゃんと寝る。そう約束したのにどれも守ってきていない。
「これからは……いい子にしますから」
陽一はタカユキにもそう必死で約束してやっとDSを手にすることができた。
嬉しくて早速、電源を入れて遊んでいたら、自分の隣にいつのまにか知らない子が座ってDSを覗き込んでいるのに気が付いた。陽一と同じくらいの年齢の男の子でダボッとして少し大きめの半そでのTシャツと穴だらけのジーンズをはいていて何故か裸足。今の季節は秋。『寒そうだな』というのが最初に思ったこと。そして次にこの子は誰なのだろうか? と考える。その少年も陽一に見つめられて最初驚き、そして困ったような顔をしている。
「お前だれ?」
そう聞くとその子は目を丸くする。
「ボクはリュウキ」
リュウキはタカユキと一緒に来たらしい。お母さんがいつのまにか帰ってこなくなり、気が付くとその部屋にタカユキが住むようになり、そのまま一緒に暮らしていたという。どうしてそんな事が出来るかというと、リュウキはタカユキの目には見えないらしい。驚くことに、今も陽一にしか見えていないようだ。それだけでなくママもタカユキニイチャンもリュウキがいても避けることなく歩き通り抜けていく。驚いた顔をしている陽一にリュウキは哀しそうに笑う。
「なんかね、いつのまにかこんな身体になっていたんだ。こんなボクのことやっぱり怖い?」
泣きそうな顔で陽一を見上げてくるので陽一は頭を横にふる。
「全然! むしろスゲエじゃん! カッコいい!」
陽一の言葉にリュウキはビックリしたように目を丸くする。そして泣きそうな顔になる。それで陽一は慌てて、本当に怖がっていない事を一生懸命伝えると、リュウキはやっと笑ってくれた。
「嬉しいよ! キミがボクを怖がらずにいてくれて」
「あたりまえじゃん! オレ陽一! 友達になろうぜ!」
そうして二人はお友達になり、リュウキは陽一の家に一緒に住むことになった。