表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

全ての始まり

ゴオオオォォォォォォン。


現在より遥か昔


神と悪魔たちの激しい戦いがあった。


その戦いは世界の存在自体を揺るがすほど


大きなものだった。


神は2体の神獣と共に


悪魔たちを次々に封印していった。


しかし、悪魔たちも反撃を繰り返していたため


決して一方的な戦況ではなかった。


やがて、長らく続いた戦いは終わりの時を迎えた。


悪魔は最期に不吉な言葉を残した。


「1500年後に必ず蘇る」


対して神は最後の力を振り絞り


自らの力の欠片を2つに分けて世界に残した。


そして神と悪魔は相討ちとなり


互いに封印された。


神の残した力の欠片の1つは


人間となった。


もう1つは紋章の力となって


777年後の現世に舞い降りた。


人々はその紋章の力で争いを始めた。


その戦争は122年間続いた。


戦争が終わった99年後


最初の紋章が現世に現れてからは221年後の現在


人々の争いは収まり


平和な日々が続いていた。


戦争の歴史は繰り返してはならないものとして


現在は原則として民間での紋章の使用は禁止されている。


そして神と悪魔の戦いは神話となり


現世に語り継がれてきた。



《0998年》


【ムラクモ王国 ムラクモ城 王の間】


ーヤマトー


「失礼します」


俺は幼馴染みのタケルと共に緊張しながら女王カグヤ様のいる王の間に入った。


「二人ともわざわざすまなかったな」


カグヤ様はそう言うと落ち着いた口調で話を始めた。


「単刀直入に話そう」


「お前たち二人に幽霊屋敷の調査を頼みたい」


俺とタケルは驚きながら目を合わせた。


「既に聞き及んでいると思うが、最近あの屋敷に人がいるという情報がある」


カグヤ様が一呼吸置くと、タケルは「人…ですか」と呟いた。


カグヤ様は「そうだ」と言い、話を続けた。


「あそこは随分昔に立ち入り禁止にした場所だ」


「管理は国で行っている」


「国民であるにせよ、そうではないにせよ国のルールに背く者がいる可能性がある」


「だからその調査をお前たちに頼みたい」


「受けてくれるな」


突然のことだが、カグヤ様の命令を拒否する理由はない。


俺とタケルは再び目を合わせ、お互いの意思を確認した後「はい」と返事をした。


「では、頼んだぞ」


カグヤ様がそう言うと俺たちは一礼をして王の間を後にした。



【ムラクモ城 廊下】


「何で俺たちだと思う?」


俺は隣を歩くタケルに聞いてみた。


「俺も今考えていたところだ」


タケルはそう答えると立ち止まって話し始めた。


「俺たちは所属している隊が違う」


「組織として動くなら同じ隊の者同士を組ませるはずだ」


確かにタケルの言う通り、俺は白虎隊でタケルは青龍隊に所属しているため今まで同じ任務に当たったことは無かった。


「それにもう一つ気になるのはカグヤ様から直接言われたことについてだ」


タケルは少し何かを考えた後さらに話を続けた。


「普段なら各隊の隊長か副隊長を通して話が来るはずだろ」


「なのに今回は隊長たちからは何の話も無かったよな?」


俺はそういえばそうだなと思いながら返事をした。


「あぁ、そうだな」


タケルの話を聞いて俺の中での疑問も膨らんでいった。


「俺たちの共通点って言うと幽霊屋敷周辺の育ちってことくらいか?」


俺がそう言うとタケルは悩みながら答えた。


「うーん、でも、ただそれだけの理由じゃない気がするんだよな」


「むしろそんな理由は理由にならないはずだ」


しばらく考えたが答えは出そうになかった。


「まぁ、今はとりあえず調査の方法を考えよう」


俺がそう切り出すとタケルは「そうだな、じゃあまた後で」と言って自分の持ち場に戻っていった。



《翌日》


【ムラクモ王国 城下町 幽霊屋敷】


「よし、じゃあ打ち合わせ通りにやろう」


俺がそう言うとタケルは「あぁ」と言って頷いた。


調査はまず俺が紋章の力を使って2つある裏口を塞ぐことから始める。


1つ目の裏口に到着した俺は扉の前に立って呼吸を整えた。


そして扉に向けて手をかざし紋章の力を使った。


ピキピキピキと音を立てながら扉が凍り付いていく。


紋章の力は戦争の悲劇を繰り返さないために民間での使用を禁止しているが、国からの任務中に使用することは可能だ。


1つ目の裏口を塞いだ俺は同じ要領で2つ目の裏口も塞ぎ、正面入り口でタケルと合流した。


「うまくいったか?」


そう聞いてきたタケルに俺は「大丈夫だ」と頷いた。


俺たちが正面入り口の扉に手をかけた瞬間、背後から子供たちのはしゃぎ声が聞こえた。


反射的に刀に手を当てながら振り返ったが、そこにいたのは普通に遊んでいる数人の子供だった。


俺たちに気付いた子供たちは少し驚いた表情を見せた後に話し掛けてきた。


「お城の兵士さん?」


「どうしてここにいるの?」


タケルは小声で俺に「ビビってただろ」と言ってから子供たちに近付いた。


「お兄さんたちはお城のお仕事でこの建物を調べに来たんだ」


「君たちはいつもここで遊んでるの?」


優しい口調でタケルが聞くと子供たちは素直に答え始めた。


「うん!時々遊ぶよ!」


「ここはね、誰もいないから楽しいんだ!」


全く悪びれる様子の無い子供たちに俺もタケルも思わず笑ってしまった。


タケルは一つ一つ言葉を選びながら先程と同じ優しい口調で子供たちに話し始めた。


「みんな、ここはね本当は入ってはダメな所なんだ」


「もしここに入ってることがお父さんやお母さんに見つかったら怒られちゃうんだ」


すると一人の子供がタケルの話を遮った。


「どうして入っちゃいけないの?」


タケルはまた丁寧に話し始めた。


「この建物はとっても古くて壊れちゃうかもしれないからだよ」


「ここでみんなが遊んでる時に壊れたら危ないからここに入っちゃダメなんだよ」


タケルが話し終わると子供たちは声を揃えて「はーい」と返事をした。


「わかってくれてありがとう」と言ったタケルはさらに話を続けた。


「みんなはここで遊んでる時に他に人がいるのを見たことはある?」


子供たちはすぐに「ないよー」と口々に答えた。


「わかった、ありがとう」


「じゃあみんな他の所で遊びましょう!」


タケルがそう言った直後に一人の子供が「あ!」と言って建物の2階を指差した。


俺とタケルは指先の方向を見るが何の変化もなかった。


タケルは落ち着いた様子で「どうしたの?」と聞いた。


「今あそこに誰かいた!」


そう言うと、別の子供が「オバケだぁ!」と叫んだ。


その言葉を聞くと子供たちは叫びながら一目散に敷地の外に逃げていった。


「何か見えたか」


俺はすぐにタケルに確認をした。


「いや何も」


タケルはそう言って首を横に振った。


「でも、やっぱり誰かいるみたいだな」


タケルは建物の入り口を見つめながら呟いた。


「ビビってるのか」


俺がそう言うとタケルは自信を持って答えた。


「大丈夫だろ、俺たちなら」


俺は「それもそうだな」と言いながら屋敷に足を踏み入れた。


屋敷の中は思ったより薄暗く、外よりも気温が低いのでひんやりした感じだった。


「まずはさっきの2階の部屋だな」


タケルは俺の数歩先を歩きながら2階を目指した。


俺は後方に注意を払いながらタケルの背中を追った。


特に何事もなく目的の部屋の前に到着し、ドアノブに手を掛けようとしたその時だった。


バタン!!!


突如奥の方にある別の部屋から大きな物音がした。


驚いた俺たちは一瞬硬直し、少し沈黙が続いた。


「今の音を確かめるのは後回しだ」


「とりあえず開けるぞ」


タケルが小声でそう言った。


俺は黙って頷き、目の前に意識を集中させた。


タケルはドアノブを回し、扉を押した。


ギィィィィィィ。


扉は嫌な音を立てながら開いた。


中は洋室になっていて暖炉や椅子、ベッド、テーブルなどが埃を被った状態で置かれていた。


しかし、肝心の人影も気配も感じられなかった。


部屋の中に入った俺たちは人が隠れられそうな場所を探したが何も見つけられなかった。


「誰もいないな」


「さっき物音がした部屋を探そう」


タケルは少し慌てながらそう言った。


一つ目の部屋を出た俺たちは真っ直ぐ物音がした部屋に向かった。


部屋の前に立つと、先程の部屋とは明らかに扉の作りが違うことに気が付いた。


「タケル、これ…」


俺がそう言いかけるとタケルは独り言のように呟いた。


「マスタールームか」


俺が考えていたのはタケルの言葉通りのことだった。


『何か』が潜んでいるとしたらマスタールームにいる可能性が高い。


「いいか、ヤマト、開けるぞ」


タケルは小声でそう言うとドアノブに手をかけた。


ガチャ


ドアノブが低く響く音を立てたが扉からは先程のような嫌な音はしなかった。


扉を開けた瞬間タケルは部屋の中に入り、周囲を確認した。


数瞬遅れて俺も部屋に入ったが、そこには先程の部屋と同様に人の気配も痕跡も何も無かった。


だが、部屋が広いから油断は禁物だ。


そう思いながら神経を集中させて『何か』の気配を探る。


しかし、いくら神経を集中させ目を凝らしても何も見つけられなかった。



「ここもハズレか」



タケルは部屋を見渡しながらそう言った。


おかしい。


さっきの子供も『何か』を見たと言っていた。


それだけじゃなく俺達も物音を聞いている。


そもそも目撃情報があったから調査をしているんだ。


痕跡はおろか気配すら感じ取れないなんて。


まさか本当に幽霊が………。


そんなことを考えている俺にタケルは声を掛けてきた。


「まだいくつか部屋がある」


「念のため全部調べてみよう」


俺は頷いて調査を続けた。


しかし、結局全ての部屋を調べ終わっても何も見つけられなかった。


正面玄関に戻ってきて、屋敷を出ようとしたその時だった。


俺は僅かな違和感を感じ、周りを見渡した。


「なぁ、タケル、何だか…」


俺がそう言いかけるとタケルは俺の感じた事と同じことを言った。


「今、空気が軽くなったよな」


二人が同じことを感じたのなら思い過ごしじゃない。


俺は確認するように「気のせいじゃないよな」と呟いた。


「あぁ、間違いない」


とタケルも同意を重ねた。


だが、それ以外の変化はなくその後しばらく待っても何も起こらなかった。


「裏口を確認して帰ろう」


俺達は二人で裏口を確認し、扉の氷を溶かして城へと帰還した。



《同時刻》


【????】


ー???ー


「ねぇ、プシティア、どうしたの?」


エイトはいつも私のことを気にかけていてくれる。


「何でもないわ」


こう答えてもきっと見抜かれてる。


「嘘ばっかり」


ほら、やっぱり見抜かれた。


「ねー、どうしたの?」


エイトに隠し事が出来ないことはわかってる。


でも、これはまだ話す必要のないこと。


「ねーってば!プシティア!」


うん、無理ね、話そう。


「しばらくムラクモ王国の情報収集が出来なくなったわ」


そう言うとエイトはつまらなそうな顔をして言葉を返してきた。


「なーんだ、そんなことか」


「見つかったわけじゃないんでしょ?」


この子は興味があるんだかないんだかわからない。


「えぇ、見つかってはいないわ」


「だから大丈夫」


「今は一刻も早く目的を達成することだけを考えましょう」


「それにもうすぐ闘技大会よ」


「世間の注目が向けられている機会を逃す手はないわ」


「こっちのことは私たちに任せてくれていいから」


「だからエイトは安心して続けて」


「世界を変えられるのはあなただけなんだから」


そう、世界を変えられるのはあなただけ。


それは紛れもない事実よ。



《昼下がり》


【ムラクモ王国 廊下】


ーヤマトー


「話すことは今日の報告と闘技大会への参加申請の件だな」


隣を歩くタケルは書類を見ながらカグヤ様に話す内容を確認している。


「参加申請通るかな」


俺の言葉に対してタケルは悩みながら答えた。


「うーん、どうだろうな」


「俺たちは特に輝かしい経歴があるわけじゃないからな」


確かにそうだ。


今回の任務だって上手くいったわけじゃない。


「まぁ、特筆すべき点と言ったらヤマト、お前の紋章くらいだな」


「あとは俺たちの若さがどっちに転がるかだな」


紋章と若さか。


どちらも貴重なものだけど貴重だからこそ大切に扱いたいという判断をされるかもしれないってわけか。


そんなことを考えているうちに王の間に着いた。


俺たちはいつも通り「失礼します」と言い中に入り、まず今回の任務の報告をした。


一通り報告を聞き終わったカグヤ様は口を開いた。


「そうか、わかった」


「では、発見こそ出来なかったものの間違いなく『何か』はいたのだな」


俺とタケルは「はい」と返事をした。


「確かに報告を受けた」


「あとはこちらで対処しよう」


「二人ともわざわざすまなかったな」


カグヤ様が話し終えるとタケルは闘技大会の話を始めた。


「カグヤ様、一つお願いがあります」


カグヤ様は表情を変えずに「なんだ?」と聞いてくる。


「私とヤマトはアイレン王国の闘技大会に参加したいと思っています」


「参加を認めていただけますか」


タケルが話し終えるとカグヤ様は「なるほどな」と呟いた。


「今すぐ許可を下ろすことは出来ない」


「確かに6年に一度の祭典に参加したい気持ちはよくわかる」


「若いうちに視野を広げておくのは良いことだ」


「実際に毎回若者の活躍も目立っている」


「だが、お前たちが技術的にも精神的にも未熟なのもまた事実だ」


「だから万が一ということも考えると快諾は出来ない」


「ただ、二人の普段の勤務態度や姿勢、人間性などは耳にしている」


「快諾は出来ないが固辞も出来ない」


「一晩だけ考える時間が欲しい」


「明日の夕方にもう一度来てくれ」


やっぱりすぐに許可は下りないか。


わかってはいたけど実際に言われると気分が下がるな。


そんなことを考えながらタケルと共に「はい」と返事をした。


王の間を出た俺たちは溜め息を吐いた。


「まぁ、仕方ないな」


タケルは半ば諦めている様子だった。


「とりあえず夜に剣道場で」


そう言ってそれぞれ見回りの仕事に向かった。



《夜》


【ムラクモ王国 城下町 剣道場】


ーヤマトー


「ヤーーー!!!」


ビシッ!


バシッ!!


懐かしいな。


威勢の良い子供たちの掛け声を聞いてるとあの頃を思い出す。


あの頃はタケルとミコとよく一緒にここで練習してたよな。


たった10年前のことなのにもっと大昔のことのように感じる。


俺が思い出に浸っていると後ろからタケルが声を掛けてきた。


「どうした?」


「入口で立ち止まって」


俺は「あぁ、悪い」と言ってタケルと一緒に中に入った。


「こんばんはー!!」


中に入ると子供たちが声を揃えて挨拶をしてくれた。


そんな中、高くて大きい声が聞こえた。


「あ!」


「ヤマトにタケルじゃん!」


「どうしたの?」


「ここに来るなんて珍しいね!」


「来るなら言ってくれれば良かったのに」


そう言ってきたのは幼馴染みのミコだった。


「ちょっとタケルと相談して久々に行ってみるかってなったんだ」


俺たちが話をしていると奥にある事務室からある人物が出てきた。


「おお!ヤマトにタケルか」


「どうした、久しぶりだな」


「ご無沙汰しております、ミロクさん」


タケルがそう言って頭を下げたので俺も同じように挨拶をした。


ミロクさんはこの剣道場の師範だ。


そして俺たちの師匠でもある。


俺たちとは言っても俺やタケルだけじゃなく城の兵士はほとんどが幼い頃にこの剣道場に通っていた。


だからミロクさんは城の剣術の礎と言っても過言じゃない。


「どうした、珍しいじゃないか」


「何かの任務か?」


そう言われたので俺たちはここに来た理由を話した。


「仕事のことで色々ありまして…」


「だからたまには初心に帰っておこうと思ったです」


事情を話すとミロクさんは深く聞こうとはせずにこう言ってくれた。


「そうか、そうか」


「それは大切なことだな」


「久しぶりに成長が見れて嬉しいぞ」


さらに俺たちとミコの顔を見回してこう続けた。


「そうだ、お前たち久しぶりに打ち合ってみないか?」


「もちろん実践形式でな」


「ヤマトとタケルは城で訓練しているだろう」


「ミコもここに頻繁に顔を出してくれてるからな」


「きっと良い勝負になるはずだ」


少し考えてから、俺たちはミロクさんの提案を飲むことにした。


「10年ぶりだな」


俺がそう言うとタケルは楽しそうに「あぁ、久しぶりだな」と言った。


ミコも笑顔で「本当久しぶりにだね!」「絶対負けないから!」と意気込んだ。


子供たちにとってはエキシビションマッチとでも言うべきか。


初戦は俺とタケルが当たることになった。


子供たちは目をキラキラ輝かせている。


仮にも城の兵士が無様な試合は出来ないな。


「ヤマト、こうして真剣に勝負するのは久しぶりだな」


タケルはそう言って竹刀を構えた。


「そうだな」


「昔と同じでどっちが勝っても恨みっこ無しだからな」


俺もタケルと同じように竹刀を構えた。


少しの静寂の後ミロクさんの声が響いた。


「始め!」


合図の直後タケルは距離を詰めてきた。


速い…!


俺はギリギリのところでタケルの攻撃を防ぎ、距離をとった。


しかし、タケルは間を置かずに再び距離を詰めて突きを放った。


寸前のところでタケルの竹刀を弾き、タケルの脇腹を目掛けて竹刀を振る。


竹刀はタケルの服を掠めただけだった。


完全に捉えたと思ったのに。


予想以上にタケルが強い。


子供たちからは互角に見えているかもしれないがタケルはまだ本気じゃない。


タケルは集中しながら竹刀を構えた。


次で決める。


そう言わんばかりの気迫だ。


中途半端なことをするわけにはいかない。


俺も覚悟を決めて次の一撃に掛ける為に竹刀を構え直した。


バシィィン!!


互いの竹刀が激しい音を立ててぶつかり合った。


しかし、力は拮抗しなかった。


俺は出せるだけの力で押し返したがそれ以上の力で押し返される。


速さだけでなく力もここまで差があるなんて…。


そう思ったのも束の間、俺の竹刀は弾き飛ばされた。


静けさの中、後方に落下した竹刀の音が響く。


「やめ!」


ミロクさんが合図を出すと子供たちは一斉に騒ぎだした。


「すっげー!」


「めっちゃかっこよかった!」


「竹刀が見えなかった!」


「やっぱり兵士さんはすごいなー!」


良かった。


みんな前向きな感想を言ってくれてる。


「ありがとうヤマト」


「久しぶりに勝負ができて楽しかった」


タケルはそう言って手を差し出してきた。


「ありがとう、俺も楽しかった」


俺も手を出して握手を交わした。


「それにしてもいつの間にこんなに強くなったんだ?」


俺の質問にタケルはこう答えた。


「普段の訓練の成果だよ」


「でも、まだまだだ」


「もっと強くならなきゃダメだ」


「守りたいものを守るためにも」


守りたいものを守るために、か。


「二人ともお疲れさま!」


「かっこよかったよ!」


ミコはそう言いながら俺とタケルにタオルを渡してくれた。


「ヤマト、タケル、二人とも本当に成長したな」


「まだ伸び代も感じられる」


「今後が楽しみだな」


ミロクさんは嬉しそうな顔をしながらそう言って、さらに話を続けた。


「次はタケルとミコの勝負だな」


「少し休憩したら始めるか」


「何だか私、ヤマトとタケルの勝負見てたら疲れちゃった」


「だから私の代わりにミロクさんお願いします!」


ミロクさんはミコの突然の提案に少し戸惑いを見せたが「そうか、わかった」と承諾した。


「タケルはそれで良いか?」


タケルは一切の戸惑いを見せずに「よろしくお願いします」と答えた。


ミロクさんとタケルの勝負か。


勝敗の話をすれば勝つのは間違いなくミロクさんだ。


いくら俺たちが成長したからと言ってまだミロクさんに勝てるはずがない。


注目するのはミロクさんにどこまで本気を出させるかだな。


タケル、期待してるぞ。


「じゃあミコ、始めとやめの合図だけ頼む」


準備運動をしながら頼むミロクさん。


「わかりました!」


「頑張ってください!」


俺はタケルに近付いて話し掛けた。


「全力でやるんだよな?」


タケルは真剣な顔で答えた。


「当たり前だ」


「勝てるとは思わない」


「でも昔のように遊ばれて終わりにはさせない」


「ヤマト、よく見ておいてくれ」


「いずれ俺たちが越えなければならない壁の高さを」


話し終わるとタケルは所定の位置についた。


ミロクさんも位置につきタケルに話し掛けた。


「全力で来い」


その言葉にタケルは無言で頷いた。


ミコは二人を見て準備が出来たかを確認してから合図を出した。


「始め!!」



ータケルー


まずは先制攻撃だ。


俺はヤマトとの勝負の時と同じように先制攻撃を仕掛けた。


しかし、ミロクさんにあっさりとそれを受け止めて弾き返される。


さすがに通用しないな。


俺はさらに速度を上げてフェイントを入れながら攻撃を仕掛ける。


だが、これもミロクさんには通用せずに全て見切られる。


「どうしたタケル」


「お前はこんなものじゃないはずだ」


当たり前だ。


これじゃ昔のままだ。


覚悟を決めろ。


いくぞ…!


俺はまた攻撃を仕掛けた。


そのまま接近戦に持ち込む。


鍔迫り合いになるが、ミロクさんにはまだまだ余裕が感じられる。


ダメだ、まだ遊ばれてる。


俺は一度距離をとって呼吸を整えた。


どうすればいい。


どう仕掛ければ隙を作れる。


………いや、隙を作るのは無理か。


相対しただけでわかる圧倒的な実力差。


だったら……。


一撃に全てを掛ける。


俺はヤマトとの勝負でやったように集中して自分の攻撃を思い描いた。


その雰囲気を察したのかミロクさんが思わぬ言葉を口にした。


「次で決める覚悟か」


「ならば私も次の一撃は本気を出そう」


ミロクさんの本気が見れる。


思ってもないチャンスだが、ミロクさんから放たれている気迫は尋常なものではなかった。


大丈夫だ。


飲み込まれるな。


自分に言い聞かせながらタイミングを計る。


そして俺は全力で床を蹴って攻撃を仕掛けた。


次の瞬間、突然体が大きく揺さぶられた。


同時に視界には天井が映し出される。


地に足がついていないのか浮遊感を感じる。


何が起きたんだ。


数瞬後に背中に衝撃を感じ、少し遅れて体中に痛みが走る。


倒されたのか。


あまりにも一瞬の出来事だったため理解するのに時間がかかった。


「やめ!!」


ミコのその声を聞いて、ようやく正常な判断を下せた。


完敗だ。


ミロクさんの本気を見ればまた成長できると思っていたが、甘かった。


次元が違う。


違いすぎて参考にならない。


そんなことを考えていると視界に映っていた天井が何かに遮られて見えなくなった。


「大丈夫か」


手を差し出してくれたのはヤマトだった。


俺は「あぁ、何とかな」と言ってヤマトの手を掴んで立ち上がった。


「大丈夫そうだな」


「いい動きだった」


ミロクさんは防具を外しながらそう言った。


「ありがとうございました」


「今はまだまだ遠く及びませんが、いずれ追い付いてみせます」


悔しさを抑えながら俺はミロクさんに宣言した。


「楽しみにしている」


ミロクさんは優しい表情でそう答えた。


俺はヤマトに最後の状況を確認した。


「最後の場面か」


ヤマトはそう呟いて少し考えながら話し始めた。


「正直、周りで見ていても一瞬のことすぎて何が起きたかわからなかった」


「ただ一つ言えることがあるとすれば…」


「ミロクさんが放ったのは一撃だけじゃなかったってことだな」


一撃じゃなかった?


どういうことだ?


「見えたのか?」


俺は先程の勝負を思い出しながら聞いた。


「おそらく3発」


「いや、はっきり見えたわけじゃないんだ」


「ただ何となく感覚的にそんな感じがしたんだ」


あの一瞬で数発か。


それも受けた俺が気付かない程の速度で、か。


本当に異次元の強さだな。


だが、あの強さに到達しなければ俺はあいつらを止めることは出来ない。


だから少しでも強くならないと。


そんなことを考えているとミコが近寄ってきた。


「お疲れさま!」


そう言って飲み物を渡してくれた。


俺はそれを一気に飲み干した。


「ありがとう」


ミコに飲み物の入れ物を返して、ミロクさんの元に向かった。


「今日は本当にありがとうございました」


「一つお聞きしたいことがあります」


「先程の動きは本気でしたか?」


ミロクさんは子供たちに練習再開の指示を出してから答えてくれた。


「そうだ、本気だ」


「もちろん全盛期より鈍ってしまったが、それでもまだまだ動ける」


「若手の兵士にはまだ負けてられないからな」


その言葉には何故か寂しさが紛れているような気がした。


「俺に本気を出させたのはタケルで二人目だ」


二人目?


今までに聞いたことのない話だった。


俺は頭の中に浮かんだ疑問をすぐにミロクさんにぶつけた。


「その一人目って誰ですか?」


ミロクさんは思い出しながら話してくれた。


「タケルたちがまだここに通う前のことだ」


「私はある子の最後の稽古をしていた」


「その子の才能は当時通っていた子供たちの中でも群を抜いていた」


「その子は最後の稽古の時に私に真剣での勝負を求めてきた」


「さすがにそれは受け入れないつもりだったが、その子の熱意に負けて一度だけという約束で勝負をした」


「真剣とだけあって油断は出来ない勝負になるだろうが、所詮相手は子供」


「私はそう思っていた」


「だがその子はその時まで本当の実力を隠していたんだ」


「真剣を手にしたその子は見たことのない表情を見せた」


「今までの稽古は稽古じゃない、そう言わんばかりの動きを見せた」


「攻撃を防ぐことに集中していた私は若干劣勢になっていた」


「止むことのない怒濤の攻撃に命の危険を感じた私は本気を出した」


「しかし、その子は私の動きを冷静に見極めて反撃を受けきった」


「私が次の攻撃に移ろうとした瞬間には既に私の首もとに刃を向けて笑っているその子がいた」


「その子はそのままこの道場を卒業した」


「その子がその後どうなったかはわからない」


子供ながらにミロクさんの動きを見極めたやつがいる。


そいつは成長した今どこでなにをしているのか。


強くなるためにいずれはそいつにも会っておく必要があるな。


話を聞き終わった俺はヤマトと共にもう一度ミロクさんにお礼を言って、ミコと少しだけ思い出話をしてから剣道場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ