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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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旅立つ勇者

 夜を明るく染めて、山々の間から顔を覗かせる太陽。その暖かい光は、自然の緑を山吹色に染め上げていき朝を伝える。

 ときおり冷たい風が流れて肌を軽く突くが、これが意外にも心地いい。


 空には余計なビルも壁もなく、どこまでも見渡せる。風に流される雲もどこか楽しそうに形を変えていく。


「この世界の空って、とても綺麗で見てて飽きないんだよなぁ。特に自然に囲まれてて空気が澄んでて美味しい・・・ハックションッ!」

「そんな薄着で出歩くなバカモンが! いいから大人しくしてろ!」


 景色を堪能していると、野営テントの中からバッと手が伸びてきて引き戻された。


 ああ、もっと見ていたいのに。



「チッ、まさかここまで体か弱いとは思わなかったわ。ほら、この服に着替えてこのマントも羽織って。あとミルクも温めてあるからゆっくりと飲みなさい」


 寝袋をクッション代わりに座り、服とマントを投げ渡された。俺が着終わると、湯気が立つコップを渡してくれる。


「今更だが、お前って本当に魔王なのか?」

「ほう。疑うのなら、先ほどエージの見惚れていた山を吹き飛ばしてやろう」


 満面の笑みで山に手をかざす魔王。腕から手にかけて魔印を淡く光る。すかさずその手を握り止める俺。今の目は本気だった。

 あの神々しい景色を壊すなんてやめてくれよ!



「ゴホ! ゲホケホ、・・・ハックシュン! ・・・ズルズル」

「はぁ。やらない、やらないから大人しくしてなさい」


 呆れながら俺の額に手を当てる魔王。俺は邪魔をしないように、ミルクをちびちびと飲む。


「少し街を歩いただけで息切れを起こす。山を歩かせてみれば咳込み微熱。弱肉モンスターのウサネンと戦わせてみれば、すぐに発熱して風邪。・・・エージ、勇者止めて良かったわね」

「クシュン! あー、俺もそう思うよ」



 魔王の手は程よく額を冷やしてくれている。だが魔王の手はただ冷やすだけでなく、手を通じて魔力を流して俺の魔力循環を補佐してくれているのだ。


 魔王は容易く魔力を送り込んでいるが、他人に自分の魔力を送るのは、かなり高度な技で難しい。下手をすれば魔力循環を阻害し、異常を起こしてしまう。(そういう攻撃魔法もあるらしい)

 この方法が出来るのは一握りの者だけだと魔王は言っていた。


「よし、これで暫くしたら落ち着くわね。それまで安静にしてなさい」


 魔王は優しく微笑みを見せるが、俺はこの笑みに弱い。なんか変に恥ずかしくなって、すぐに目を逸らしてしまう。

 きっと悪魔の誘惑のような危険な魔法類いなのだろう。


「魔王、次はどこに向かうんだ?」

「こないだは一般的な村を見せてあげたから、今度は大商業都市ね。名前の通り商業に盛んな所よ。露天とか多くて飽きないと思うわ」


 王都とは違って面白いらしいが、俺は王都をちゃんとは見ていない。魔王に誘われた日に夜逃げついでに見ただけである。

 当然店なんか閉まっているし、人は寝ていて静かだった。


「なぁ、魔王は――」

「エージ、いい加減その魔王って呼び方を止めない? 前の村でも怪訝な顔をされていたわよ」

「ケホ、そうだね。でも魔王の名前知らないし」


 顔を手で覆い、そうだったと項垂れる魔王。メイドに変装している時に名乗った気でいたそうだ。

 当然あれは偽名だった。魔王だからマオ、安直すぎるよな。


「メディよ。メディ・ランスリー」

「メディ・・・さん?」

「呼び捨てでいいわよ。私もエージって呼んでるし」

「わかったよ、メディ」

「うむ、よろしい」


 目を細めて、嬉しそうにするメディ。思わずその愛らしさに見惚れるが、すぐに誤魔化すように地図を広げた。


「い、今俺達がいるのはどの辺だっけ?」

「この辺ね。ここにあるのが、王都エリアガーデンよ」


 地図の左側にある大陸、その中心を指差すメディ。そこから少し上がったところが現在地だ。


 この地図によると、世界には大きく分けて三つの大陸がある。左右の大陸は、翼を広げたような形をしており、中央下に菱形の大陸がある。各大陸の中心点を結ぶと逆三角形になる構図だ。

 地図の中心には広大な海。星のように小さな孤島が散らばっているが、ほとんど無人島だそうだ。

 多くの人間は左側の大陸に住み着き、右側は魔族が支配している。メディも右側の大陸にある、魔王城に住んでいるらしい。

 下の大陸にはエルフやドワーフなどの亜人が多くいる。



「なぁ、亜人と魔族の違いは何なんだ?」

「簡単に言えば、亜人は自然から生まれた種族の事。魔族はモンスターが知性を持った者ね。ちなみに魔人は魔族の上位種にあたるけど、総称して魔族で構わないわ」

「メディは魔族でいいんだよな?」

「ククク、私は魔王種だ! エージは勇者種だな」

「そんな種もあるのかよ」

「一応はそう分けられているだけで、普通に人間と魔族でいいわ」




 太陽が真上を過ぎたころに病状が安定したため、野営テントの片付けにはいる。

 とりあえず、今日の目標は下山することだ。下山をした後は平野をひたすら進むらしい。

 平野は一週間近く歩かないといけないらしく、山と同じで大変だろう。それでも俺は楽しみで仕方がない。

 なんせ、見るもの全てが初めてといっても過言ではないのだから。





「なあメディ、あの木はなんだ?」


 山を降り始めてから五分もせずに、気になるものを発見した。木なだけに・・・何でもないです。


「私から見ればどれも同じ木なんだけど、何か特徴はないかしら?」

「ほら、あの赤茶色で菱形の実を付けているクネクネした木」


 俺はメディの側に寄り、木々の隙間を指で示す。ちょうど、山崩れしたような崖に生えている木だ。


「んー? 私の角度からだとよく見えんな。えーっと」


 メディは密着する程体を寄せて、俺の指と目線を合わせる。触れた時に、俺はピクリと反応してしまったが、メディには気付かれなかった。

 メディの紅い髪が腕に触れてくすぐったい。それに、ほんのりと良い香りもする。


「あぁ、あれは・・・って。エージ、顔が赤いわよ。もう体力の限界なの?」

「いや大丈夫。見るもの全てが楽しくて高ぶっているだけだよ」


 そう、っと片眉を上げるが納得してくれた。


「あれはね、オニヒメの木よ」

「鬼姫?」

「茹でるか蒸すかすると、甘くなって美味しいのよ。また、お酒の原料にもなっているわね。折角だから今夜にでも食べましょうか」


 メディは木々をすり抜けながらオニヒメの木へ近づく。俺も付いて行こうとすると制止された。


「雑草や細かな枝で切ったら危ないでしょ。待っていなさい。それに崖の近くだし、万が一足を滑らせたら目も当てられないわ」


 旅しているんだから、あの程度の傷を一々心配するのはどうかと思う。まぁ、崖は怖いけど。

 メディは嬉しそうにオニヒメの実をもいでいく。そんなに美味しいのかな、楽しみだ。



 ガサガサ


「ん?」


 後ろから葉をかき分けるような音が鳴る。俺は少し距離をとって、ベルトに挟んであるナイフの柄に手をかける。


 ガサ!


 現れたのは白い毛玉。小さな赤い目をパチパチと動かし長い耳を立てながら、兎ことウサネンが俺の前に対峙した。大きさは成人の顔ほどだろう。可愛い、が危険だ。

 バカな男が抱き付こうとした時に見事なカウンタービンタを頬に受けて、倒れた話がある。


「ククク、大量大量! 人の手が入ってないから、こんなに大きな実もあったぞ! ほら、二つの実がくっついた実も・・・なにしているんだ?」

「モンスターだ。メディ、離れていてくれ」

「いや、モンスター? うん、確かにモンスターに類されるが、人間共はそいつを歩く肉と言っているぞ。それに前に対峙した時、カウンターを――」


「戦闘中だ、静かに頼む」

「はぁ、好きにしろ」


 メディは近くの岩に腰掛けた。ちなみに目も座っていた。


 俺とウサネンは短くも長い緊張の睨み合いを続ける。その間に一枚の葉がひらひらと落ちてくる。

 葉が地面に着地した瞬間に俺は踏み込んだ。


「はあぁぁっ!」


 ナイフを大きく振りかぶり、モコモコ毛に隠れた喉を狙う。


「キュウ!?」


 ウサネンは驚き目を見開く。その硬直した隙にナイフは喉まで迫っていた。


「勝った!」

「負けだバカモノ」


 ウサネンの目は鋭く光らせて仰け反ると、ナイフを皮一枚で避けた。上半身を捻りながら、両後足で地面をしっかり踏み込み、細く柔らかい前足を突き出す。

 本来ならその前足は、圧倒的な身長差で届かないのだがウサネンには関係なかった。山で鍛えられた脚をバネに、ロケット花火の様に跳んでいく。



 ドコッ!! ぐはっ!?


 ウサネンは締めに俺の顔を蹴り、くるくると華麗に着地を決める。俺が完全に倒れたのを見届けて、礼儀正しく一礼をして去っていった。


「・・・ゲホゲホ、ハックシュンっ!」

「凄いわエージ。ウサネンに負ける姿を二度も拝めるなんて夢にも思わなかった」

「そ、それほどでも。ゴホン」

「褒めてないし。はぁ、野営の準備をした方が良さそうね。一時間もせずに今日の旅が終るなんて最短記録更新よ。本当に凄いわエージ」


 メディはチクチクと、寝込んでいる俺に言葉を刺しながら、片づけたばかりのテントを張る。

 言葉は痛かったが、俺の咳が酷くなるたびに手を止めて、額に手を当ててくれたのは嬉しかった。



「ありがとう、メディ」

「はいはい、幾らでも感謝しなさい。全部漏らさず受け取ってあげるから」

「ああ、ありがとう」



「落ち着いたらオニヒメの実を食べましょう。甘くて栄養価も良いのよ。それに、私も食べるのは久しぶりで楽しみだわ」


 そう言いながら、メディは空いた手で俺の髪をいじる。コトコトと実が茹でられている音が心地よく耳に入る。


 俺は静かに目を閉じ、次に備えて養生することにした。




エージ「モンスターと魔族の違いは何だ?」

メディ「言葉を理解できるなら魔族になるわ」

エージ「魔族と魔人は?」

メディ「人型で二本足で立てる者かしら」

エージ「最後に、魔人と魔王の違いは?」

メディ「圧倒的な力の差ね。魔人を何人も使役できる力があれば王を名乗れるわ」


――――――――――――


エージ・メディ「脱字の指摘ありがとうございます!」


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