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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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勇者決断する

「姿なんてどうでもいいわ!! どうして泣いているの!? またバカ女に悪さされたの?」


 マオさん、もとい魔王はメイド服を靡かせ、勢いよくリアン王女の頬に指を突き刺す。


「痛ッ! 爪が食い込んでる!」

「うるさい! エージに悪さをした罰だバカ女! 頭を吹き飛ばされないだけ有り難く思え」


 魔王は殺気を放って凄むと、ヒイィィィ! っと叫びが聞こえてきそうなほど震え上がるリアン王女。



 とりあえず合掌。



「リアン王女は何も悪くない。そんなことより、お前は何でメイドとして紛れ込んでいるんだ?」


 俺を殺しに来たのなら、寝ている間に出来たはず。俺は死んでいないのだから他の目的があるのだろう。


「エージを見張るために決まっているでしょ! あ、忘れるところだったわ。お粥なら食べれるのでしょう? 先に食べてしまいなさい」


 勇者の動向を探っていたということか。確かに、相手の弱点を見つけそこを攻めるのは定石だ。

 だがしかし、お粥をくれるのはよくわからんな。



 ・・・貰うけど。


「毒とか入ってないだろうな?」

「チッ。用心深いわね」

「いや、魔王から渡された物を警戒するのは当たり前だと思うぞ」


 不満な顔を全面に訴えるが、無視。仕方がないと魔王は添えてあったスプーンを手に取り、お粥を掬って口にした。



 もぐもぐ、ごくん。



「これで満足か?」

「・・・最初に言った通り食欲はあまりないんだ。少ししか食べないぞ」


 俺は魔王からスプーンを返してもらい、半信半疑でお粥を口にする。途端、舌に伝わる味覚が脳を刺激し、俺はお粥から眼が離せなくなった。

 今まで食べたことがない味だった。食べやすくて美味しいだけでなく、体の内から温まるような優しさを感じる。


 こんなお粥は初めてだ。手が自然とお粥が口に運んでいく。



 その食いっぷりに満足な魔王だが、何処と無く落ち着きがなかった。よくわからんが、俺の手を見ている気がする。


「どうした魔王。まさか食ったものを返してくれとか言わないよな?」

「そんなわけあるか! 私はそのスプーンについてだな・・・」

「このスプーンがどうかしたのか?」

「・・・なんでもないわよ」


 変に狼狽した魔王はそのまま俯いてしまった。よくわからん魔王だ。





 完食。ご馳走様。



「では話を戻すけど。二人目の勇者が召喚された場合、俺はどうなるのですか?」

「ようやく話が進みます。えっと、勇者様・・・いえ、分かりやすいようにエージ様とお呼びいたします」


 よろしいですか? と尋ねたので、俺が頷くとリアン王女は話を進めた。


「エージ様はこれからも勇者として、城に滞在が許されています。ですが、魔王討伐の任からは外されたものと考えてください」

「それって勇者とは言えないのでは?」

「魔王討伐だけが勇者の役割ではありません。各地で好き勝手暴れているモンスターの討伐や、奇襲を仕掛けてきた魔人の成敗など。前線でなくとも戦いは起こります」


 なるほど、守り手薄になったところは攻め時だし、話し合いすらできないモンスター討伐も人手が必要だ。



「それなら、鍛える必要はないって言った意味は? 警護にしろ戦闘の可能性があるならば強くならないと」


 俺が疑問に思うと、魔王が口を開く。


「勇者がいない間も人間は戦い生き残っている。そこらの魔人やモンスターになら、人間なりの対策はいくらでもあるのよ」

「ますますわからないな。対策できるなら俺の警護とやらも必要ないだろ」

「確かに必要ない。だが警護をしているという事実がほいしのだろう」


 魔王の言葉に同意するリアン王女。全て見透かされているのねっと苦笑を顔に浮かべる。


「不本意ながらその通りです。兵士達には”勇者様の後ろ盾がある”という建前の元、士気を高めて貰いたいのです。兵士達は勇者様を強く信仰している者が殆どです」


 確かにそれなら俺は鍛える必要なんてないのかもしれない。でもそれでじゃ、俺は何をすればいい?



「この様な扱い、申し開きもございません。ですが、どうか許して頂きたく思います」


 リアン王女は深く頭を下げる。おそらくリアン王女も勇者を強く信仰している者の一人なのだろう。召喚された時から、妙に視線が熱い気がするし。


 俺がこの話で懸念していることは、自由を縛られ幽閉される事だ。

 この提案はとても楽で安全で魅力的だが、常にこの城で待機するという罠がある。リアン王女もそれは把握した上で言っているだろう。


 だが断った場合どうなる? 秘密裏に殺されて、民衆には二人目の勇者を一人目の勇者だと公表するだけか。もしくは城から文無しで追い出されて、勝手に死ぬまで放置だろうか。




 俺は大した名案も浮かばないまま考え込んでいると、魔王が指を三本立てて前に突き出した。


「エージ、三つ目の選択肢だ」

「三つ目?」


 嬉々とした声で魔王は腕を組み仁王立ちする。


「ククク、私と共に来い。私ならエージの病気を抑えながら、好きな所へ連れて行ってやる。気付いてないかもしれんが、私といる間は咳も出ず体も楽だろう?」


 言われてみれば咳が出る気配がない。魔王が一時的に退室した瞬間に、気だるさがのし掛かってきたのも事実だ。


「なりませんエージ様! 勇者が魔王と手を組むなど、そんな事実が明るみに出れば指名手配をされ、その場で即死刑に処されます!」


 そうだ、俺と魔王は敵同士。この選択をするということは、人間軍に対しての反逆行為になってしまう。


「案ずるなバカ女。私は勇者を連れて行くのではない、エージという病人を看病をしてやるだけだ」

「同じことです!」


 般若の笑みでにらみ合う二人。その間に割って入ろうなど無謀はしたくないのだが、その原因が俺にあるのだから避けられないだろうな。



「さぁ選びなさいエージ! 愚王の駒にされ幽閉されるか、全てを奪われ道半ばで病死するか、私に手厚く看病されながら世界を見るか!」


「魔王に惑わされてはいけませんエージ様! どうかご賢明な判断をッ!」


 案の定、俺は取り押されるように二人に詰められて、そのままベットに倒されてしまう。

 怖い二人の顔を交互に見ながら目を閉じ考える。



 俺が求めるのは、憧れの異世界ライフ。


 だから俺は、――勇者をやめる。


エージ「おれは勇者をやめるぞ! 魔王ーーッ! 俺は病を超越するッ! 魔王おまえの、ゴホッ! ゲボォ! ゴホゴホ!」

魔王「病人が暴れるなバカモノめ。ほら、栄養ドリンクだ」

エージ「あ、ありがどう」


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