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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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天災は災厄と共に

 まだ日の登りきっていない早朝、部屋の窓を覗くと大粒の雨粒が激しく衝突している。ガタガタと建物全体を揺らすほどの暴風が吹き荒れている。

 

「おや、お早い起床ですね。それともこの嵐で起こされてしまいましたか?」


 一階フロアに顔を覗かせると、受付でペンを走らせていたハーピーのお爺さんが、落ち着いた口調で話しかけてくれた。昨日寝る前にも顔を見たが、お爺さんはちゃんと寝ているのだろうか。


「おはゴホン! 失礼。おはようございます。凄い嵐ですね。何だか家ごと吹き飛ばされそうな感じです」

「ハハハ、ご安心ください。この宿も含め、村の家は頑丈ですよ。それに花達も守ってくれています」



 この一面花畑の平野は、結構な頻度で悪天候に見舞われるそうだ。しかし、天敵である猛鳥種やドラゴン種のモンスターが寄り付かないため、そこに目をつけた先祖ハーピーがこの地に移り住んだそうだ。


「もちろん、初めはかなり苦闘したそうです。せっかく建てた家が、ことごとく吹き飛ばされてしまったと聞いています」


 ロビーにある椅子に座りながら、お爺さんの入れてくれた花茶を飲む。ほんのりと甘い香りがするお茶で、嵐を忘れてしまうほど心を落ち着かせてくれる。


「そして、諦めかけていた私たちご先祖様の前に、一輪の花が歩み寄ってきたそうです」

「花が歩み寄る?」

「不思議でしょう。その花は知性を持ったモンスター、つまり魔族だったのです」


 俺が驚きの顔を見せると、悪戯が成功したような笑みを見せるお爺さん。驚いたことに、この村にとその周辺に生えている花は全て魔族だった。とは言え、花の一つ一つが意思を持つ魔族というわけではなく、コアとなる魔族がおり、その眷属のようなものが花の正体だった。


「それで、その花の魔族は何故この村に?」

「その花の魔族も、私たちと同じ目的でモンスターから逃げてきたのです。花の魔族は生命力と再生力は高くても、自身で戦う術がほとんどなかったのです」


 意気投合した花の魔族は、ハーピーと共存の道を歩むことにした。花魔族は自慢の眷属を使い、村ごと花で包み込み雨風を防いだ。ハーピーは稀にやってくるモンスターを撃退し、己と花の魔族を守ったのだ。



「これで安心して頂けたかな。ずっと昔から、この村は嵐に耐えて生きています。今回も例外になく次の青空を迎える事が出来るでしょう」

「はい、ありがとうございます。ケホッ、とても楽しい話でした」


 お爺さんとの話を終えて、俺は部屋に戻ることにした。まぁ、この嵐では外に出ることは難しいため、行く所が部屋しかないのだけど。




「どこ行ってたの?」


 階段を上った先にはベルヨネアが仁王立ちしていた。いつもよりクマの瞳が鋭く睨んでいる気がする。階段でクマに見下ろされるウサギ。何かの子供劇にも見えるかもしれない。


「受付のお爺さんと話をしていただけだよ。外はあんな嵐だからね、出たくても出れないよ」

「そう」


 ベルヨネアは俺の手を握ると、ぐいぐいと連行して部屋へと案内された。ガチャっとご丁寧に鍵まで掛けておられる。


「コホン、俺の部屋は隣なんだけど」

「エージを見張るのが、私の役目」


 途端にレスラーの如く構えるベルヨネア。予想外の行動に、俺までも身構えてしまった。ジリジリと距離を詰められている。間違いない、あのクマは獲物を狩ろうとしている。


「そう、大人しくしていれば痛くない」

「ふ、窮鼠猫を噛むって知ってるか?」

「甘噛みも愛情の一つ。大丈夫、今日一日中、私の縫いぐるみになってもらうだけ」

「俺で暇つぶしをする気だな。まさか安全な家内に、とんだ災厄が潜んでいるとは」



 ドタバタとウサギとクマが子供のじゃれ合いで暴れていると、隣の部屋から力強い壁ドンが打たれた。この宿には俺たちしか客が居らず、苦情主は明らかだった。

 取るに足らないと無視してクマと戦っていると、ドラムのように壁ドンが鳴り続けた。




 嵐が来てから二日目。今だに空は黒く厚い雲に覆われており、風も止む気配がなかった。俺を弄る事にも飽きたベルヨネアは、大人しく座り込んで編み物をしている。

 俺も暇だったためベルヨネアの隣で作業を見ているが、これがなかなか面白い。呪具で編まれいく人形たちが自立稼働しているのだ。

 ベルヨネアが編んでいく人形は、毛糸で出来た簡易な人型の見た目をしている。編み終えて完成したものから、ベルヨネアの手を離れて一人でに歩いている。

 はじめは歩く事に慣れてないのか、一歩進んでは転んでいた。それでも学習して、すぐに安定して歩けるようになっていった。すでに五体は動き回っており、中には組手をしている人形もいた。


「この人形たちには自我があるのか?」

「ない。単純な命令で動くの」


 よく見ると、人形たちは自分の体を確かめるように動いている。今は稼働テストみたいなものなのだろうか。




 昼食時になり、俺は集中していたベルヨネアを止めて食堂に向かう事にした。一人で向かっても良かったのだが、ドアに糸が張り巡らせており、実質ベルヨネアに閉じ込められていたから仕方がない。


「ムトウは?」


 食堂には俺とベルヨネアしか席に座っておらず、食事を運んでくれたお爺さんに尋ねてみた。


「部屋から出ていないようです。まぁ、一日程度なら食事を摂らずとも平気でしょう。こちらとしても有難い」


 やはりというか、お爺さんも含めた全員がムトウに対して良い顔をしない。人間がどれほど亜人たちを傷付けたかが、はっきりと伝わるようだ。

 俺もこの姿じゃなかったら、同じ扱いだったんだろうな。まさかベルヨネアはこれを見越していたのか?


「それにしても、本当に長い嵐ですね。弱まる気配が感じられません」

「そうですな。長い時は一週間ほど続いたこともあります」

「ケホッ、それは滅入るな」


 心底思った事をつぶやいたら、お爺さんは笑いながら頭を撫でてくれた。鉤爪に引っ掻かれるのではと目を瞑ってしまったが、そんな事はなくとても優しい手だった。



 お爺さんと他愛もない話をしながら食事を終えようとした時、ムトウが頭を掻きながら食堂に入ってきた。途端にお爺さんの顔から笑顔が消えると、席を離れて厨房に向かおうとする。


「悪りぃなジジイ。ちょいと消える前に確認させてくれ」

「・・・なんだ?」

「羽と無数の尾を持つ、獣型モンスターに心当たりはないか?」

「ッ!?」


 無表情だったお爺さんの顔が、蒼白に包まれ震えるように口が閉じない。


「ありか、面倒クセェな」

「急に何なんだよムトウ」

「・・・ヨザクラからの報告だ。一匹の獣型モンスターが、嵐の中接近しているだとよ」


「そ、村長に伝えてきます!」


 お爺さんは羽毛を散らしながら、嵐の中飛び出して行ってしまった。




ウサギ「この人形達は戦えるのか?」

クマ「むり、これは呪具の操作練習」

ウサギ「操作練習?」

クマ「そう、操る大切な練習」





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