表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
40/50

お嬢がため



 デュラハンside



 ズンズンと、お淑やかの欠片もないズボラな歩き。紫壁に囲まれた少し暗い廊下を、鬼の形相で歩いているのはこの城の主人、メディお嬢である。



「あ、お帰りなさいお嬢」

「・・・」


 明らかに不機嫌なメディとは対照的に、気ままに微笑んでいる金髪美女エリー。はにかむ口からは吸血用の牙が見えている。

 その隣に並んで立つのは、頭の無い頭を下げているデュラハンこと私。

普段はペンと紙で意思疎通するのだが、ちょっとした挨拶や用事はジェスチャーで済ませている。



「今誰が動ける!?」


 お嬢はイライラを隠す事なく怒り任せに吼えた。その声には相当な魔力が込められており、廊下には亀裂が何本も走る。一部は崩落して、土煙を上げている。

 お嬢の側で挨拶をしていたエリーと私は、その波動を直に受けてしまい、魔力の刃でが切り刻まれてしまった。


 エリーは目を丸めて血塗れになり、私は鎧が傷だらけの見窄らしい姿に。



「えっと・・・私とデュラは目の前におります。ドラゴとシエルは、休戦中の人間軍に不審な動きがありましたので、捜査に行っております」


 エリーは血を拭うこともせず、傷など気にせず報告をする。


「ジークは!?」



 また波動が迫る。私のボロマントは千切れ飛ばされ、エリーは右腕が皮一枚で繋がっている状態だ。


「ジーちゃんは、トキシーン様とイーヴ様から、呪具に関しての報告書を受け取りに行きまーー」

「なら愚図愚図せずに出るぞッ! さっさと支度しろ!」


 全身体からドス黒い粒子と紅い魔力を放ち、エリーと私を怒鳴りつける。

 既に下半身の甲冑が砕けており動けない私を、骨だけの左手で掴み持ち上げるエリー。美貌など微塵も感じさせない血肉の顔で、エリーはお嬢に頭を下げる。


「私達はいつでも出れます。しかしお嬢、そのお姿では可愛らしく美しいお顔が台無しになりますわ」



 お嬢はパチパチと瞬きをした後に、悪魔羽の手鏡を取り出して自身の姿を確認する。



 頭から漆黒の捩れた角を二本生やし、その角を中心に紅い髪はシミのように黒く侵食している。ツインテールの先端は紅いを保っているが、自身から溢れる魔力により酷く傷んでしまっている。

 そして顔の含め、全身は漆黒に染まっている。それは、お嬢が普段使用する黒い粒子の集合体であり、怒りで上手く密を保てないのか、体の端がチラチラと崩れ乱れては体を成そうと密に戻る。

 そして脈動する悪魔の羽は二つから六つに増えており、尾は龍のように太く硬く長くなっている。

尾の先端には闇の炎が激しく揺らめいている。


 紅い目が静止する。まるで、今まで自分の姿を見た事のないように、ジッと鏡を見ている。



「そのお姿を見ては、エージちゃんも驚いてしまうかと思います」



「ッ! ・・・エージ」



 憑き物が祓われるように、お嬢の姿が戻っていく。目を赤く腫らして口をへの字にし、子供のような小さな手を拳にして俯いてしまった。



「ぐすっ。悪かった」


 小さな声で謝罪をする。そしてエリーと私が紅い魔印の光に包まれると、傷が全て治っていた。


「ふふ、お嬢が謝る事は一つもございませんよ」


「エージが泣いているかもしれない。エージが傷ついついるかもしれない。エージが咳き込んでいるかもしれない。エージが虐められているかもしれない。エージが寂しがっているかもしれない。エージが私を呼んでいるかもしれない。エージがエージがと考えたら、溢れる気持ちが抑え切らなくて、ジッとしていられなくて。それで、それで・・・私が守らないと、エージは危ないのよ」



 ポツリポツリ言葉を絞り出すお嬢の姿は、見ていて痛ましかった。エリーと私はお嬢の手を取り、その場に跪く。お嬢の涙が止まるまでこの手は離されない。



「すまない・・・いや、ありがとう」



 お嬢にそんな思いをさせる存在は許されない。私もエリーも、そう心に刻む。





 メディside



 夜に支配された空に、私は一人漂っていた。綿のように風に吹かれるまま、私の城上空を流れる。冷たい夜風が吹くが、頭を冷やすには丁度いい。そっと目を閉じて反省する。


 魔王失格だ。自分勝手な感情に飲み込まれて、愛おしい部下を傷付けてしまった。エリーもデュラも、全く気にしていない素振りをしていたが、私たち魔族だって傷付けば痛い。

 私は私の痛みを和らげる為に、周りに痛みを撒いた。結局、それも痛みとなって返ってきたのだから馬鹿馬鹿しい限りよね。



 自分勝手・・・か。エージを連れ出したのも、私利私欲のためだったわね。



「ねぇ、エージ。・・・私を恨んでいる?」


 夜空の星と魔晶の輝きが織り成す幻影世界。まるで光の粒子が溢れる宙に、私一人が置いていかれているように錯覚してしまいそう。そのせいだろうか。誰もいないのに、エージが隣に居ないのに、私は問いかけた。


 もちろん答えは返ってこないのだが、心の片隅では期待していた。



 ・・・変わってしまったな。エージを初めて見たあの日から、私が私ではなくなった気がする。人間なんて何百年も見てきたのに、どうしてエージだけ違って見えるのか。異世界兵士こと勇者なんて、何度も対面しては相手をしてきたのに、どうしてエージだけ特別に感じるのか。


 これが一目惚れと云うやつなのかしら? 他の誰にも渡したくない、私だけのエージであってほしい。そう、強く願った。

 はっきり言って怖い。たった一度の出会いで全てが盲目になってしまった。エージが望むのなら、世界の破壊も躊躇無く成すであろう私が怖い。


「エージは、どんな気持ちで私の隣にいてくれるのかな?」


 私の事を好いてくれているだろうか。以前に話し合いをした時は、隣にいて欲しいとハッキリ言ってくれたし、私が抱きつくと嬉し恥ずかしい顔をするから、嫌いではないのだろうと思うけど。

 けど、私と同じ「好き」という気持ちなのだろうか。姉弟のような家族的な好きなのではないだろうか。


 わからないよ。




 ククク・・・だめだ。今考えるべきことはこんな事じゃない。

 エージを助ける。これが何よりも優先すべき事。エージの気持ちは助けた後にでも確認すればいい。

 くよくよ悩んでいる暇があるなら、エージの足取りを探す! あのフザケタ石人形による影響なのか、エージの気配が消されているのが厄介だが。

 しかし、気配がないだけで実際に姿が消えているわけではない。だから、私の目と手足で見つければいいだけ。


 パーンッ! っと勢い良く両頬を強く叩き気合を入れる。


「――ッ! 待っていてエージ、今私が助けに行くわ!!」




エリー「ふふ、あんなに過激なお嬢は久しぶりね」

デュラ「コクコク」(頷き肯定)

エリー「うふふ、もっとやってくれないかしらね?」

デュラ「・・・」(後退り)

エリー「ちょっと、なんで距離を置くのよ。あ、こら! 待ちなさいよ!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ