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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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病人質

 土と根が独りでに避けていく。俺はヨザクラに捕まれ、どんどん地中深くへ連れ去られている。

 灯がないのに避けていく土が、はっきりと見える不思議な光景。モグラの見ている世界のようで、俺は興味津々に眺めていた。


「おいガキ、人質にされていると理解しているか?」


 俺とは逆の手に掴まれているムトウが言う。


「ケホッ 理解しているよ。でも、こんな景色見せられたら、誰でも不思議に思うだろ」



 フンっと鼻で一蹴するムトウに対し、ヨザクラはケラケラと笑った。


「あはは! そうでしょうね~。どこぞの阿呆な男も、似た状況で似た反応をしたからね~。ぷぷっ!」

「そんな男は知らんな。変なもの喰って狂ったか疫病人形」

「ええそうね。変なもの喰べてハイに狂っているわ! 魔王の血なんて極上の甘味よ」



 笑い続けるヨザクラに気を取られていたが、周りの土の色と根が変わっていた。土は赤茶色から砂の様な薄茶色に、根は細く入り乱れていたのが太くなっている。


 俺は今どこに向かっているのだろうか。まぁ場所がわかっても、メディ達に連絡する手段がないんだけどね。





 暫くしてヨザクラが辺りをキョロキョロとする。俺もつられて見渡すが、土と根ばかりで変わり映えがない。


「ここらへんかしら?」

「あ? 知らねーよ。出てみればわかるだろ」


 ムトウの適当な返事に片眉を上げながら、ヨザクラは土中の進行方向を変える。

 ぐんぐんと加速していき上昇するヨザクラ。すると、進む先に桜色の魔印が見え、それを潜るように飛び込んだ。


 水の膜を潜るような感じが通過すると、土色と根の景色から一変し、白銀の巨大な月が出迎えてくれた。



「夜!? さっきまで昼前だったのに、体感だと一時間も経ってないぞ」

「あちゃー、随分と時間が掛かっちゃったね」

「のろま」


 ムトウがボソッと言うと、ヨザクラは頬を膨らませて可愛く怒る。鼻で笑いながらヨザクラを弄るムトウは、どこか懐かしいものを見るような穏やかな眼差しを向けていた。


 なんか似合わないなと二人を横目で見ていると、冷たい夜風が頬を撫でよぎっていった。


「ッゴホゲホ!」


 なんかすごく寒い。夜だから冷えてきたという感じじゃない。骨から血、筋肉と凍え固まるように冷たくなっていく。体が・・・氷っていく。


「ゥエ、オエェ! ゴホゲホ、ゴホゴホッ!」


「え、ちょっと! 急にどうしたのよ!?」

「おいおいおいおい、ヨザクラ急げ! ガキの顔が普通じゃねぇぞ!」

「やめて、マジやめて。あんたが死んだら、あの魔王に地獄の果てまで追い殺されるわ」




 寒い。痛い。苦しい。辛い。凍える。甚い。重たい。気持ち悪い。




 助けて――






 ムトウside



 森の一角にポツンとある草原。小さな白銀の鈴花が連なる草花が群衆をなして陣取っている。

その草原の真ん中にある、木造りの簡易的で素朴な家。


 家の中は、家具類は必要最低限の物しかなく、見ていてもつまらん室内。唯一、マシなのが暖炉。

そこ暖炉には火が灯されていないが、熱を維持したままの炭がまだ赤い。


 暖炉の前にはガキが寝かせられている。炭の光でほんのりと赤く染まっているが、本人の顔は蒼白の瀕死だ。


 そのカギをジッと見つめて微動だにしない人と、その近くで鬱陶しい動きをする石人形。


「・・・」

「・・・?」

「・・・??」

「この子、魔力循環に異常がある」

「・・・?」

「そう、魔力を扱う器官が壊れているの。壊れ方が異常で異様」

「・・・? ・・・? ・・・!」


 身体全身を使って奇妙で器用で愉快な動きをする石人形。それを悲しい目で見守るのは、白を基調とした神官服を着るクマだ。


 いや、クマじゃないな。デフォルメされた可愛らしいクマの顔を被った女だ。被り物からは茶色の髪が流れるように垂れている。

 静かで落ち着きのある声からは、お淑やかで優しやが滲み出ているようにも感じる。


「・・・そう、この子に血を少しあげて。残念なジェスチャーを解読するの大変」

「あぁ? その被り物を脱げばいいだろうが」


 クマは首を横に振り拒否の意を示す。そして自分で自分の被り物を撫でながら、眼をこちらに向ける。作り物のくせに生気のこもったつぶらな瞳だ。



「この子、寂しがり屋なの」


「・・・」



 俺よりも身長がかなり低く、見上げる姿勢ではっきりと言うクマ。首を少し傾げ可愛さアピールも忘れていない。

 だが俺には通じない。動じない。俺に可愛いものなんて合わないんだよ。


「・・・ッ!!」


 石人形にクマの頭を撫でていた手を掴まれ、石の頭に乗せられた。


「お前の頭は冷たいんだよ」

「ッ! ・・・!!」


 何やら荒ぶる鷹のポーズでジェスチャーしている。怒っているのだろうが、荒ぶり過ぎて訳が分からなくなっている。


 はぁ、そろそろ本題に戻すか。



「おいクマ。結局、そのガキは何なんだ?」

「重病勇者」


「は? 勇者?」


 重病は見てわかるが、その後の単語は聞き捨てならなかった。


「そう。異世界から無理やり魂を拉致され、再構成された形跡があるの。しかもまだ新しい」

「そういやぁ、エリアガーデンで勇者を召喚したって話も新しいな」


 クマは軽く頷き肯定する。青い顔をして虫の息のガキに手を翳す。全身から翡翠の魔印を輝かせ、無数の翡翠糸を絡ませるようにガキを包む。

 糸はガキの身体に潜り込むように入っていき、クマとガキを繋げた。


「勇者召喚の魔印痕跡はエリアガーデンのものと同じ。だからこの子は勇者。もしくは勇者だった子」

「ふん、ガキの事情なんか俺には関係ない。あの紅い魔王と交渉するまで、死ななければ何でもいいんだよ」


「そう。ヨザクラが一撃、それも不意打ちでしか傷を付けれないなんて、魔王を侮っていた」

「そう言うことだ。気に喰わないが、ガキの死は俺たちの死でもあるんだ。治せとまでは言わない。死なない程度に保てるか?」


 クマは目を閉じて・・・いや、被り物は目を閉じちゃいねーが、雰囲気的に中では閉じていそうだった。翡翠糸に意識を集中させ、ガキの身体を紡ぐように診断する。


「そう、死なない程度に維持は出来る。完治なんかは到底無理」


「ふん、十分だ」






クマ「前の職はどうしたの?」

ムトウ「あ? 思わぬ収穫があったから止めた」

クマ「何の職だったの?」

ムトウ「・・・石人形に聞いてくれ」

クマ「口が無いの」

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