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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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崩落ペルケタート

 一面の紅蓮の炎。空を舞う煤黒の塵。瓦礫下の焼け焦げた肌。


 俺たちが転移で街に戻ると、そこは火の海だった。街全体がまだ焼けていない所を見ると、火災が起きてからそれほど経っていないのかもしれない。それでも街半分は炎に呑まれている。


「いや、嘘よ・・・イヤァァァッ!!」


 俺の後ろで悲鳴をあげる亜人は、その場に崩れて嘆き泣く。それにつられて周りも泣き始める。


「胸糞悪いわね」


 メディが舌を鳴らし眉を寄せる。この光景に唖然としていた俺も、ハッと我に返りすぐさま走り出した。

向かうのは俺が泊まっていた宿屋。

 部屋にはフェニスが寝ているのだ。怪我もしていたから、もし逃げ遅れでもしたら・・・。




「あ、エージさん!」

「フェ、ケホゴホ! フェニス!」


 宿屋から離れた火の回らない場所で、身体に煤を付けたフェニスがいた。元気に手を振る様子に安堵のしつつ、そのままフェニスを抱き上げた。



「わっぷ! ダメですよ離してください、煤が付いちゃうにゃ!」

「コホッ、そんなのどうでもいい。今はフェニスが無事なのを感じていたいんだ」

「エージさん。よしよしにゃ、大丈夫ですよ」


 子供をあやすように俺の頭を撫でてくれるフェニス。ようやく呼吸の乱れも手の震えも止まり、感情も落ち着いてきた。


「ありがとうフェニス、もう大丈夫」

「それは何より、早く鎮火しないといけないからにゃ」

「わかった。メディ達も呼んで、みんなで――え?」


 振り返るとそこは氷河の景色だった。さっきまで真っ赤だった街は青く冷え固まっており、白い靄が地面を流れていた。

 よく見ると、炎も時間が停止しているかのように凍っていた。


「ふにゃ~。火が凍るなんて初めて見たよ」

「いったい何が?」


 周りの皆も、夢でも見ているのではと目をこすったり頬をつねったりしている。お互いに尻尾を引っ張っている者もいた。


「なんか街が燃やされているのが、カンに触っただけよ」


 ザクザクと霜柱を踏み鳴らしながらメディが来た。その右腕には魔印が淡く光っており、冷気による靄を纏っていた。


「まさか、メディさん一人でやったにゃ!?」


 驚愕するフェニスは何度と街とメディを交互に見ては、フニャンっと驚きの声を漏らしている。メディは大袈裟ねっと腕に纏わりついていた靄を振り払った。


「これぐらい普通よ。それよりもラン達と一緒に救助活動するわよ。そうね、街の中央にある広い道を使いましょう。重症患者を中心に私が診ていくわ。フェニス、重症患者にはこの赤い札を側に置いちょうだい。札は沢山あるから、他の人にも伝えてすぐに救助を開始して」


 フェニスは敬礼のようなポーズをして、すぐさま周りに札と説明をしていく。フェニスも怪我をしているはずなのに、一切辛い素振りは見せず、逆に皆を励ましている。



「なあメディ、こんな氷漬けされたら救助も難しいんじゃないか? それに、もし下敷きにされていた人がいたら、その人も氷漬けになってたりしてないか?」


 俺の不安を一蹴するように口を釣り上げるメディ。鼻を高々と掲げるように踏ん反り返り、ドヤ顔を見せつける。


「ククク、この私がその程度も考えずに魔法を使ったと? 私の事をもう少し、いや大いに過大評価すべきだぞ。魔力反応から、この街に下敷きになっておるはいないわよ。亜人は身体能力が高いから素早く逃げれたのでしょうね。でも、街の全体人数は減っている。おそらくは連れて行かれたのでしょうね」


 メディ曰く、この街を襲撃したのは先程の賊で間違いないとのこと。俺達が奴隷を奪還したため、新たな亜人を捕まえようと躍起になったの行動。

 街に火を放ち、飛び出してきた亜人を一網打尽。そのうち、女と使えそうな男を拉致して、再び奴隷魔法を施しすために逃走。



「ただ、亜人の抵抗もあって全員は連れて行けなかったみたいね」


 メディが道の端に目をやると、槍が体に突き刺さっている賊の屍体が転がっていた。その側には鎧を着た亜人兵士の屍体も。


「悲しむのは後よ。まずは生きている者を助けるのが大切でしょ」




 どれくらい経っただろうか。空はすっかり暗くなり月明かりが照らしている。夜になると冷えてきたため、メディが氷を溶かして今は焼け焦げた街となっている。


 救護活動も順調で、赤札の人を中心にみんなで治療をしたかいがあり、新たな死者を出すことはなかった。

 傷は癒えても精神に負った傷は難しく、ランとフェニスが暖かい料理と言葉で励ましていった。

 みんなを守るために戦った兵士の遺体は、動ける者全員で弔いをした。賊の屍体は兵士とは別の場所に俺とメディが弔うことにした。



 安定とはいかないものの落ち着き始めたため、後の事は街の人に任せて、俺たちは少しな離れた位置にテントを張る。


「連れ去られた人達はどうなってるかな」

「少なくとも奴隷魔法は終わっているでしょうね」

「そうね、連れ去られたのは三十人ほどです。その中にはウルマさんやスフレさんも居ると思いますわ」


 テントの中で俺とメディとランが今後を話し合う。とは言っても、既にランから助けたいとお願いされているため、救出作戦会議のようなものだが。


「賊は皆殺し。あいつらは二度も私の不快を買ったのだから当然よね」

「あら異論はないわよ。むしろ私もそのつもりでしたから」

「ああ、白猫天使のフェニスを傷つけた罪は海よりも重い」


 あれ、二人の視線が冷たいぞ。俺変な事言ったかな?

 何にせよ賊は野放しには出来ない。フェニスや街の人たちから聞いた話によると、賊の大半は魔具持ちである事がわかっている。

 その中でも警戒すべきはゴツい男のアーヴィンと、お頭と呼ばれていた髭男。


 二人は禁止魔具持ちだと思って間違いない。


「あの二人は私とランで対処するわね」

「それがいいでしょう」

「なら俺は――」

「私が背負うわ」

「・・・」


 さぞ当たり前のように俺はメディに背負われる事になったが、足手まといなら素直に残りたい。正直に目を見て真っ直ぐに本音を言うと、何故かランが目を輝かせて迫り寄る。


「あらあら、やはり私の背中の方がよろしいのですね! 心も体もお姉さんの方が魅力的なのですから仕方がありませんよね」


 ざまぁっとランが悪い笑みをすると、冷たい笑みを返すメディ。


「ククク、その喧嘩買ってやろうじゃない」


 二人の体から魔印が浮き上がり、周囲の空気が酷く重く乱れる。もちろん間に入り静止する。この二人の喧嘩は、特にメディのは洒落にならない。それこそ街にトドメを刺しかねない。



「チッ、奴らの居場所が判明次第すぐに向かうわよ」



 結局、メディの背ということで落ち着いた。なんでお留守番という結論が出ないのか、今でも不思議でならない。



ラン「エージ様、試しに私にも背負わせてください」

エージ「えっと、別にいいけど」

ラン「はい、どうぞ」

エージ「う、うん。・・・重くない?」

ラン「あらあら、軽すぎて驚いていますわ(うふ、うふふふ。エージ様の体が密着してるわぁ!! 体温も呼吸も鼓動も、エージ様の全てが私の背にあるのです! このまま夜のデートへ・・・)」

メディ「どこへ行こうというのかね」


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