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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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亜人奪還



 賊のアジトであり足でもある船は、突然の奇襲を受け慌ただしく動いている。大砲のような轟音が船内に右左と交互に衝撃と共に襲い、その度に大型船が転覆しそうに傾く。


 こんな化物染みた猛攻を繰り広げているのは、もちろんメディである。ツバメのように素早く空を旋回し、紅いツインテールを靡かせながら船の側面を蹴り込んでいるのだ。


 巣穴を攻撃された蜂のように慌てて甲板へ飛び出してくる賊達。そのうちの一人に、アーヴィンとか呼ばれていたゴツい男が見えた。



「アーヴィンの兄貴! 俺たちはどうすれば!?」

「狼狽えるなテメェら! さっさと矢で撃ち落とせ!」


 アーヴィンが空を飛んでいる赤い星を指差すと、子分達はバリスタのような機械に跨り狙いを定める。


「振り落とされないでねエージ!」

「お、お手柔らかに」


 笑い楽しんでいるメディの背中には、恐怖で真っ青の俺がいる。縦横無尽に飛び回るメディに振り落とされないように、何重にもベルトを巻いて固定しているが、それでも落ちそうになる。


 ちょうど船の上空で止まると、メディは両手から黒粒子を生成し、黒いファンネルのような飛行銃器を大量に生成する。

 一つ一つが生きているように細かく動き、動作確認をしているようである。

 いけ! っとメディの号令と共に、黒ファンネルが隕石のように降り始める。それを追うようにメディも降下を始めた。黒の大軍を迎撃しようと、甲板から色とりどりの矢が放たれた。


 先行して降下していた黒ファンネルに矢に当たると、小規模な爆発を起こし粒子を四散させ塵となって消えた。


「属性付きの魔法矢ね。なかなかいい装備をしているじゃない。船も頑丈だったし、もしかしたら船自体が魔具なのかしら」


 余裕の笑みで矢の嵐を進むメディ。風を切って過る矢を、何回も旋回しては器用に避ける。背中に抱きついている俺は、恐ジェットコースターに乗っている気分で周りを見る余裕などない。



「エージ、舌を噛まないように食いしばって!」


 ギュッと目と口を紡ぐと、爆発音と物凄い重力がのし掛かってきた。足元からはバキバキと豪快な音がたち、甲板が陥没しながらも抵抗する。



 静まり返った所で目を開けると、大きなクレーターは出来たものの耐え切った甲板。正直、とある大型客船のように真っ二つになって沈むかと思った。



「な、何言ってるのよエージ。私達はフェニスちゃんの仲間を助けに来たのよ? 船を割るわけないでしょ」


 メディはそう言うが、視線を逸らし完全に目が泳いでいた。よもや本当に壊す気だったのか?



「何もんだテメェら!」


 俺たちを囲むように人を組むアーヴィンとその子分。バリスタを構えてこちらに狙いを定める。


「あら、私は勇者じゃないわよ?」

「そんなの見ればわかるぜ。悪魔の羽と尾を持つ勇者なんぞ居てたまるか」


 メディは誇りを祓うように髪をたくし上げると、コツコツとブーツを鳴らしてアーヴィンに近づく。


「ククク、私達の事なんかどうでもいい。お前等が拉致した亜人を返し貰うだけ」

「ハッ! ガキ二人で何が出来るんだよ」

「襲撃が出来たわ。あと・・・」


 アーヴィンの手が届くところでメディは足を止める。メディの二倍はある巨体なため、見上げる形で微笑む。


「囮役かしらね」


 途端に俺とメディは光の粒子となって姿を消した。


「幻影だと!? ――くそがッ!」


 血眼に怒り狂うアーヴィンの後ろから、子分の一人が走ってきた。


「アーヴィンの兄貴! 捕まえた奴隷共が全員逃げやしたぁ!」

「うるせぇ!! さっさと捕まえやがれぇッ!!」






 青白い光の中、ふわっとした浮遊感の後に重力が遅れてやってきた。


 おっと、危うく尻餅をつくところをメディが支えてくれた。同じ現象を体験していた亜人達は、バランスを崩しながらも確りと足を地面につけていた。きっと亜人は運動神経がいいのだろう。


 ここは賊の船が停泊している無人島の、反対側に位置する浜辺。島の中央には、針山のように尖った岩山があり、船から死角になっているためすぐに見つかることはない。


 慣れない転移魔法に驚きを見せてる亜人達だが、すぐに安堵の表情を浮かべ仲間同士で抱き合ったりして喜んだ。



「助けてくれてありがとうにゃ!」


 何人かの亜人が俺に頭を下げてお礼を言うが、俺は首を横に振ってメディとランに視線を向ける。


「お礼ならメディとランの方に言ってください。俺は何もしていません」


 そう、俺は何もしていない。メディに背負われている間に、ランが亜人達を転送するため空間魔法の準備する。

 準備が終わったら、甲板に突撃すると同時にランの魔法で幻影と入れ代わり、亜人達と一緒に転送で逃げるという簡単な策だ。



「それでも来てくれました。私達のために危険な場に助けに来てくれました。だからお礼を言わせてください」


 にっこりと笑うその顔に、俺はぎこちない笑みをかえす。

 喜びきれない理由の一つに、ランに介護されているひどく怯えている女性亜人が目に入ったから。身体中アザだらけに加え、可愛らしい耳と尾にも切断の跡もあった。それに乱暴に犯され後が嫌でも目に入る。



 メディやランや猫耳天使のフェニスが同じ事をされたら、俺はそいつらを絶対に許さないだろう。たとえ地獄の果てだろうが、追いかけて後悔させてやる。



フェニス「あれ・・・私いつのまに寝ていたんだろう? この部屋は確か・・・エージさんの泊まっている部屋ね」

「・・・スンスン」

フェニス「この匂いエージさんのかな? 不思議ね、なんだか落ち着く」

「クンクン・・・」

フェニス「ニャッ!? みんなを助けに行かないと!!」


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