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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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奴隷狩り


「ゴホ、ゴホンッ!」


「大丈夫ですか?」

「ケホッ、ケホ。だいじょうぶ、大人しくしてれば酷くならないから」


 フェニスから一杯の水を受け取り、痛むのどをゆっくりと飲む冷やす。氷が入っていないのに、冷んやりとしているのが不思議だ。


「それにしても厄介な病気ですね。メディさんと離れると再発病して動けなくなるなんて」

「うん、メディには本当に感謝してる」


 フェニスは近くの椅子に腰掛けると、ぼんやりとした目を向ける。


「エージは人間で、メディは魔族。不思議にゃ」

「不思議?」


「だって戦争しているんでしょ? 亜人と人間もしくは亜人と魔族の連れは稀に見ますが、人間と魔族の組み合わせは初めてにゃ。どういった経緯で出会ったのか気になります」


 俺が勇者でメディが魔王と素直に言ったら、どんな顔をされるだろうか。作り話だと笑うかもな。だからといって本当のことは言えない。



「ウサネンに負けた時に助けてくれたんだよ!」


 俺は親指を立てて笑顔で言い切る。最高の笑顔だと自負したのだが、フェニスの眼は氷のように冷たいものに変わった。


「ウサネンに負けた!? 甲斐性にゃしですね」



 ガシャンッ!! パリン!



 俺の心は折れた。何となく自覚していたけど、あの白猫天使のフェニスに直に言われて耐えられなかったんだ。ゆるやかに水が頬を流れたよ。



「今の音は食堂から?」


 ちなみに砕け割れた音は実際に聞こえた音であり、俺の心境を表したわけではない。ほぼ同じ音が俺の中でも鳴ったけどね。


「すいません、ちょっと様子を見に行ってきます」


 小走りで部屋を後にするフェニス。翻る時の尻尾もしっかりと見送って、俺は掛け布団に潜ぐり涙を一人拭う。




フェニスside



 今の音は何かしら。お皿を割ったにしては音が変だったにゃ。複数の皿が割れる音に加え、木が破られるような音も紛れてた。厄介ごとじゃなければいいけど。



「みんな大丈夫――ッ!?」


 私は厨房の様子を見た瞬間に、身を屈めて息を潜めた。


 そろりそろりと、足音を立てずに四つん這いで歩み寄る。厨房の床には散乱した食器や食材があるため、怪我をしないように音を鳴らさないよう慎重に一歩づつ進む。


 釜戸の陰に身を隠して様子を伺う。私の視線の先にいたのは、剣や槍に杖で武装した人間の集団と縄で捕まっている仲間達。

 パッと見ただけでも十人は超える大所帯だ。この人数なら一瞬のうちに、捕らわれたのも納得がいく。厄介なことに人間の装備品には、魔具と思われる宝石が光っている。




「テメェら大人しくしてろ! 少しでも動けば、この子猫ちゃんの首と体がバイバイしちゃうぜ」


 客の一人であった同族の女の子を人質に、人間達はみんなを一箇所に集める。おそらく空間魔法でどこかに転移させるのだろう。


 人間が狙うのは間違いなく私達亜人を奴隷にして売りさばくこと。この港町では過去にも同じ被害が続いている。海が近いせいか、少人数を拉致しては船で逃走するのだ。

 

 (監視役は何をやってるにゃ!)


 普段なら闇に紛れてやるのに、こんな白昼堂々とするなんて余程の自信があるのかしら。人間め、あまり私達亜人の実力を舐めないことね。


 どちらにせよ人数が多すぎる、まずはウルクさん達に助けを求めないと。



 ――カチャン


「誰だ!?」

「しまったにゃ!」



 相手の方ばかり気を取られて、足元を疎かにしちゃったわ。でも後悔は後、今は逃げて助けを呼ばないと!


 私は七・八メートルを跳躍し、一気に廊下に出て窓を突き破る。四つん這いに着地し、地を抉る勢いで踏み込み走る。あとは大声を上げながら走り逃げるだけ。

 ふふ、人間はこの動きに着いて来るなんて出来やしない。体のつくりが違うのよ!



「誰か――んグッ!?」

「あぶねぇあぶねぇ。やっぱりバステト族は足が速くて敵わんぜ」


 そんな、私とあいつらの間はかなり離れていたはず。ましてや人間の足で私に追いつけるはずないのに。



「ほぉ、こいつは上玉だ」


 私の二倍はある男は、太くてごつい手で私の顔全体を覆い掴む。異常な握力でギリギリと頭を締め付けられる。

 何とか抜け出そうと牙や爪を立てるが、男の肌には傷一つつかなかった。


「へっ、無駄無駄。今の俺は魔人並みの硬さと力を持っているからな。小娘程度の抵抗なんぞ赤子同然だ」



 身体強化の魔具ね。でも効果が強すぎる。通常のものなら大人の力二倍程度なのに、魔人クラスなんて禁止魔具じゃない!



「お頭! これ以上長居せずに一度撤退する事を提案するぜ」


 ごつい男は食堂の方に向かって叫ぶと、中で一人で残飯を平らげていた無精髭男が振り向いた。

 髭男は眠たそうな瞼をあげて男を睨む。その瞳を見た瞬間、重たい空気の壁をぶつけられたような圧が襲いかかる。

 それを迂闊に直視した私は、息が苦しくなり呼吸を荒げる。


「奴隷魔法は時間と魔力を大きく使うんだよ、一度に多くを運んでも追いつけねーぜ」

「・・・チッ、仕方がねぇな。おい、ボサッとするなテメェら」


 髭男の威圧にも全く動じないこの男は、やはり相当の手練れなのね。

 失敗した。私はすぐに助けを呼ばずに、まずは賊が去るのを待つべきだった。


 この男の言った通り奴隷魔法は時間がかかる。その間に確実な戦力を用意してから、みんなで助けに行くべきだった。



 悔しさと苦しさであふれ出る涙。その歪む視界にある者が見えた。




「ゴホ、ケホッ!」


「あぁん? まだいやがったのかよ・・・って男のガキか」


 男の指の隙間から見えたのは、さっきまで寝込んでいたエージさんだった。



「き、来ちゃ・・・ダメ・・・」


 私が必死に逃げてと訴えるが、聞く耳持たずに朧げな足取りで近づいてくる。顔は青白く息も途切れ途切れ。とても戦える状態じゃない。それなのに真っ直ぐに来る。



 蛇のような瞳を向けて真っ直ぐに。








ラン「あらあらメディどうしましたの?」

メディ「ラ~ン~ッ! エージがエージがあぁぁ!」

ラン「あらあっら。よしよしお姉さんに話してみなさい」

メディ「うう、ぐすん」

ウルマ「仲がよろしいようで、微笑ましいにゃ」

スフレ「です・・・にゃ」



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