猫耳は最高
フェニスに呼ばれて食堂に向かうと、昼食とは思えない豪華な料理が並べられていた。
色とりどりの野菜から、魚をメインにしたムニエルやあんかけ、刺身に鍋なんかもある。量も多くて、豪華というよりは豪快かもしれない。
その華やかさに俺もメディも目を丸くする。他のお客も何事かと見ている。(ちなみにランは、ウルマさんの所で今後の旅路を相談している)
「さぁエージさん。これが食べ物の真骨頂ですよ! 悲しい過去なんか忘れるぐらい美味しいにゃん!」
何か勘違いされている気もするけど、せっかくの料理なので冷めないうちに食べることにした。
「いただきます」
パク。もぐもぐ。ごくん。
ぐすん。
美味しすぎて涙が出てきたよ。味加減も抜群でどれを口に運んでも舌がとろける。噛むごとに個々の味がしっかりと感じ取れて、それでいてお互いの甘みを邪魔しない。
何よりも、猫耳天使ことフェニスが作ってくれた事が最高のスパイスである。
「やばい、やばいわ。私の立ち位置が脅かされている?」
メディは何かブツブツと独り言を言いながら、次々と料理を口に運ぶ。
「すっごく美味しいよフェニス。本当にありがとう!」
「ッ!?」
フェニスは手に持っていたおぼんで口を隠し顔を赤らめる。そのまま火照った目でじっと見つめてくるけど、俺何かしたかな?
なにかしたな、反省。
かなりの量だったけど、あまりの美味しさに手が止まらずほぼ完食した。満腹のお腹をさすっていると、フェニスがお茶を持って来てくれた。
「ご馳走様ですフェニスちゃん」
「お粗末様でした」
「悔しいけど本当に美味しかったわ」
「ふふ、ありがとうございます」
渡されたお茶を仲良く飲んでいると、フェニスがじっと見てから口を開く。
「お二人は姉弟なのですか?」
「いや、恋人」
ぶはっ!?
漫画のように盛大にお茶を吹くメディ。
「こ! こここっここ、こ、ここ、ここ!」
「ニワトリ?」
俺のツッコミにメディのチョップが返された。
「いきなり何を言ってるのよエージ!?」
「ごめん、嫌だった?」
「嫌とかじゃなくて! 恋人って言ったら、その、手を、つないで、街でデ、デー、トしたり、ご飯、食べさせあったり。キ、キ、キ、キスを、する関係の事でしょ!? 恥ずかしいというか、こ、こんな所で堂々と言わなくても。・・・それでも、エージが望むなら、早いけど、こ、こ、恋人以上の、事をして、も」
自身の髪に負けないほど赤くなるメディ。わなわなと震える手に持っている湯呑みにヒビが入っていく。
「フェニスちゃん、さっき食べた刺身はなんて魚なの?」
「あれはアゴネンの刺身にゃ」
俺がフェニスの頭を撫でつつ猫耳をもふるっていると、メディが胸ぐらをつかんで揺らす。
「ねぇ、なんで話題変えたの? さりげなく猫耳触ってるよね? 私なんかより猫耳が良いのね、そうなのね!?」
「メディ、愛してる」
「んな!? 急に何を言いだすの! この街に来てから性格変わってない!?」
俺はメディの手を掴み、ガーネットの瞳を覗き込む。ぴくっとメディが反応して静止する。
「メディ」
「な、なによ」
ゆっくりと顔を近づけていく。隣にいるフェニスは、手で顔を覆いながら顔を真っ赤にする。だが指の隙間からしっかりと見ている。
「猫耳は最高」
「~~~~~~ッ!!」
ぐんっっと腕を引かれると、俺の体は宙を浮いていた。フェニスの顔が驚愕に変わるのを見送りながら、俺はメディに背負い投げをされた。
「エージのバカァ! もう知らない! うわぁああぁん!」
メディが泣きながら宿から飛び去っていくのを、割れたテーブルの上から見送る。
「い、痛い・・・ケホッ」
フェニス「大丈夫ですか?」
エージ「ゴホゴホ。少し辛いや」
フェニス「ではランさんに弁償してもらうにゃ」
エージ「俺の心配じゃない!?」